ZZZ ―風雅探偵事務所―   作:舘向井雛壇

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薄れゆく香りを辿って(3)

 左手に握った豪迅とエリーの鉄腕がぶつかり合う。一瞬の接触でその表面を切り裂けず、かつ自分の力が押し負けると即座に感じ取った錬は手首を回して打ち合いを避けて拳をいなす行動に切り換えた。擦れる鉄腕と豪迅の間に火花が散りながら頭のすぐ横を鉄の塊が通り過ぎていくのを感じて胆が冷える。

 だがそこでは止まらない。右手の風雷も合流させてエリーの腕を掴み、右足をエリーの踏み込んだ側の足に引っ掛ける。そのままぐいと引っ張ればてこの原理の要領で彼女は地面を転がる。

 

「っでぇい!!」

「マジか……!?」

 

 しかし倒れてすぐに鉄腕で地面を叩くとその反動で起き上がりながらまた前傾姿勢でだらりと腕を垂らす戦闘態勢を取る。

 ちらりと今彼女が殴った地面を見てみれば、中心が大腕の形に、さらに衝撃の巻き添えで周囲の地面が陥没しており、その力のすさまじさがうかがい知れる。錬は内心これはデッドエンドブッチャーと正面から殴り合えるのではと思いつつも、今の彼女との打ちあいで得た感触を吟味する。

 

(もう何合か打ちあって、拾えるものは拾いたいところだが)

 

 背後に合図して手を出さないように指示しつつ、再び正面から突っ込む。

 今度は打ちあうのではなく彼女の拳の軌道を観察しながら間合いに入り込み、足を止めず彼女を翻弄しながら隙を見つけては斬撃を挿し込んでいく。一撃必倒ではなく削り目的の牽制、長期戦も覚悟の選択で彼女の出方を伺う。こちらが牽制し始めたことを悟ってか防御を固めて削らせないぞという意思を表明してきている。

 

(手堅いな。自分の強みを理解して有利を取ろうと考えている。ガードも左右それぞれでこなすんじゃなく確実に体の軸をこちらの軸に合わせて正面から受け止めてる、正統派格闘家タイプか)

 

 じゃあこれはどうだ、と少し強めに防御の間隙を狙って斬撃を振るう。

 知ったことかとエリーは拳を振るって斬撃を弾く。

 またつまらない牽制かというところで、錬は残った一刀で地面の土をいくらかさらうと彼女の目に向けて目くらましを投げつけた。

 

「っ!」

「そこだ」

 

 目くらましに意識が向いた瞬間、剣を弾くことに使った腕に組み付いて腕を捻る。人間の体の筋肉は連動するもので、肩を基軸とした回転をさせれば自然と周囲の筋肉も引っ張られる。それを利用してバランスを崩して無防備になったところを膝で脇腹を打ち付ける。

 

「――――――っ!」

 

 えぐり込むように打たれた膝うちがエリーの臓器を強かに打ち付けて強烈な衝撃が体を貫く。

 だがエリーもそれで負けるほどやわでは無かった。握り込んでいた異形の大腕の手を開くとそのまま錬の体を掴んで無理矢理持上げる。。

 

「でえええええいっ!!」

「っ! そこまでやれんのかよ!」

 

 力任せに錬を投げ飛ばす。技もへったくれもない純粋な力のみによる投げ、いや投擲に、それを喰らった錬は空中で姿勢を立て直しながら着地する。極められたとみてすぐに自傷の可能性もいとわず距離をとろうという判断だろう。

 

(うん、やっぱり悪い奴じゃなさそうだ。真面目で何事も全力で果たそうとするタイプ、かな。徒手空拳関連の修練を積んでるけど、結構粗磨きな部分もあるからまだ武闘家としては日が浅い感じか?)

「ブースト……イグニッションッ!!」

「は?」

 

 異形の大腕がエリーの言葉と共に変形する。手首から肘までのパーツが分割され、そこから爆発的なエネルギーが放出され始める。その放出に煽られたスカートのスリットから覗く脚、それもまた機械化されたものだった。こちらもまた人間らしい脚線美が見受けられるがその色は鉄の金属色。

 その両方の装甲下を走るエネルギーラインが緋色の光を放っている。明らかに出力を上げてきたエリーに、錬は様子見をしている暇はないと判断して踏み込むことを決断。それを迎え撃たんとうなりを上げる拳を引き絞るエリー。互いに視線が交錯する一瞬、錬は足を押しとどめて勢いを殺す。

 

(――――――フェイント!)

 

 振られた拳を避けて、再び組み付こうと手を伸ばしてくる錬。しかし一度受けたらなその可能性はすでにエリーの予測の中にあった。振るった右腕を力ずくで引き戻し、左腕を次なる攻撃として繰り出す。おりしもフェイントとして避けられたことで互いの間に距離があったために次の攻撃が間に合った。

 拳が錬の胸を捉えた。今こそ好機と拳を振り切らんと力を込めて――――――。

 そして世界がひっくり返った。

 なにが、と思う間もなく地面を転がされたエリーはすぐに体勢を立て直して起き上がろうとして、しかし背中を抑えられて首に剣を当てられる。うなじに触れる金属の冷たさに、起き上がろうとしていた力をゆっくりと抜いていく。

 

「最後のは一体何だったんですか?」

「最初に聞くのがそれか。まあいいけど。投げを警戒して一度引いたんだろうけど同じところにまた来たなら同じように投げるだけの話」

「フェイントで躱そうとしたこと自体が釣りだったわけですか」

「いや、それ自体はいくつか想定してたパターンの一つなだけ。あれをやってきたらこれをやる、と事前に決めて置けばどとでも対処できる」

「……悔しいですが敗北です。主への接見を希望しておられましたか」

「そうだね」

「確認ですが、ご主人様にはいかような御用でしょうか」

「古い友人が行方不明になったから探した、そしたらよく分からん集落に居たからどういう状態か確認してほしい、それが今回のオーダーだ」

「なるほど……ではご主人様を連れ出しに来たわけでは無いと?」

「そこまでのオーダーは請けていない。ただただ友人を心配していらしたよ、サー・タイムフィールドは」

 

 そうですか、と呟いたエリーは自分の腕に装着してある大腕との接続を解除して、素の義腕の状態に戻す。

 

「刃をどけていただけますか? 皆様方をオールドタウンの手前まで案内します。そこから主と連絡を取り、皆様とお会いするかどうかを確認いたします」

「もう暴れない?」

「主、コール・スローターの名に懸けて」

「……分かった。星那、ソーマ、アリス、手合わせは終わりだ」

 

 二刀を鞘に納めて後ろに呼びかける。

 見守っていた三者が警戒しつつも近づいてくるのを見て押し当てていた刃を引く。押し当てられていた冷たい刃が引いたことで命の危機が離れたことを感じてほんの少しエリーの体が緊張を緩める。変わらずこちらを警戒していることに変わりは無いが、そこはお互い様だろう。

 

「さて、拘束を外す前にまずはお互い話し合いと行こうか」

「はい、こうなった以上は私個人の判断で話せるものはお答えいたします」

「……。じゃ、まずはなんで俺たちの素性を把握していた?」

「正確には把握していたのはアリスお嬢様だけでございます。風雅様、星那様、ソーマ様についてベオウルフ様が個人的に依頼したという概略程度でございます」

「つまりは、タイムフィールド家に網を張っていたと?」

「まさしくその通りでございます。かの家は常々人の往来がありました。その方々に"虫"を貼りつかせればおおよその経緯を把握することが出来ました」

「虫……盗聴機か何かかな。つまりはそれで依頼人との話を聞いていたのか」

「ええ」

「じゃあ次は何故俺たちを襲ったのか、だな。命の危機に晒されたんだ、納得のいく答えを期待したいところだが」

 

 命の危機、という言葉にエリーは命を奪うつもりはありませんでしたと首を横に振る。

 

「タイムフィールド家は主にとって旧友の家。その旧友の宝の命とその仲間の命を何故奪うことが出来ましょうか」

「つまりは追い払う目的ってことだったか」

「はい。主は故あってこの地に身を置かれています。しかしその故があるからこそベオウルフ様との関係を断ちきりました。そこを追ってこられては困るということです。もっともすでにいい歳になっているから隠居するのもやぶさかでは無かったというのも理由ですが」

 

 淡々と答える彼女に、なるほどなと呟いて拘束していた手を離すと、彼女に手を差し出す。それを掴んだ彼女を引っ張り起こしてちらりと地面に転がる大腕の武装を見て聞いてみる。

 

「君の義肢はコール氏の製作したものか?」

「ええ。諸般の都合で身体に不都合が起きて行き場を失っていた私を引き取り、新たな四肢をいただきました」

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「……お答えいたしかねます。主の意向を侍従の勝手な憶測で語るわけにもまいりませんので」

 

 固く口を引き結んでそう語るエリー。だがきっと彼女自身はそう思ってるのだろうという事がうかがえる。

 まだ調べなければならないことは多いようだ。コール氏の行動の意図とその理由。そこからさらに背景の深堀り。心のメモ帳に記していく。

 これは、コール氏本人への聞き取りもより一層力を入れてする必要がありそうだと内心ごちるのだった。

 

「ま、そうだね。そういった経緯は本人から聞くべきだな。オールドタウンへ向かう、構わないな?」

「敗北してしまった以上、あなた方を止める権利はすでに私にはありません」

「そうか。んじゃ、勝手に行かせてもらうか」

 

 そっちが付いてくるのは止めないけどな。

 それだけ言うとエリーから離れて仲間たちと合流する。

 

「話は聞いていたと思うが、オールドタウンへ引き続き向かうぞ」

「分かったのだわ」

「はーい」

『了解です』

 

 三者三様の回答を得つつ歩を進め始める。

 自分たちが進み始めた後に少し離れてついてくるエリーを横目で見つつ進んでいくとやがてあらかじめ想定していたオールディホロウを出る空間の裂け目が現れる。

 その裂け目を通りホロウの外にでる。裂け目を通る時特有の空間が捻じ曲がるような感覚が一瞬通り過ぎた後、一行は小高い丘の上から集落を見下ろしていた。寒村といった雰囲気で山の一角を切り崩して出来た畑で働いている人の姿が見える。

 

「ここが、オールドタウン……」

「おじいちゃんとかが多いね」

「若い人は移住を勧められた時点で街を離れましたから。今残っているのは身体的、経済的事情でこの街から離れられない人ばかりです」

『奥の方に見える屋敷がコールさんのお屋敷ですか?』

 

 ソーマの言葉に全員の視線が街の奥の方に向けられる。そこにはほかに見える家に比べて大きな邸宅が見える。さすがにタイムフィールド家の邸宅よりは小さいがそれでも普通の人から見れば十二分に大きな家だろう。

 

「はい、アレが主の邸宅になります」

「なら、まずはご挨拶に伺うか」

 

 一行が丘を下って街に入ると、周囲から奇異の視線がずぶずぶと突き刺さってくる。

 明らかによそ者だと分かる事務所一行+アリス。その彼らを先導するエリー。状況が分からず困惑している様子をちらちらと捉えつつ街の中を進んでいく。

 

「おや、エリーさん。今日もお疲れ様だね」

「こんにちは、シャンおじいさん。今日は別件ですよ」

「ああ、そちらのお客人かい?」

「ええ、コール様にお会いしたいとホロウの向こう側から」

「なるほどねぇ。先生ほどの立派な人ならそりゃホロウを越えてでも尋ねてくる人も居るだろうなぁ」

 

 さすが先生だ、と誇らしげに語る老人。シャンと呼ばれた老人に試しにコールの事を尋ねてみる。

 

「コールさんの高名は存じ上げていますが、ここでも何かをやっておられるので?」

「ああ、そうさね。耕具の修理やら家電の修理やら、機械関係の相談に乗ってはぱぱっと直してくれるのさ」

「そりゃすごい。企業の家電なら専門のサービスを頼れって話になるでしょうに」

「ルミナスクエアみたいな中心部に近い方だとそうなんだろうが、オールドタウンはそう言うのはあまり頼れないからねぇ」

 

 まあこんなとこに住み続けるって決めた時点で自業自得なんだがね、ワハハ!

 そう冗談めかして言う老人に苦笑してしまう。終わっていく街で暗くなっているものかとも思ったが案外そうでもなかったらしい。よくよく考えてみれば終わりかけているのはこの世界もなので案外自分たちとそう変わらないのだろうと考え直した。

 

「お話聞かせていただいてありがとうございました。お引止めしてしまってすいません」

「いやいや、先に声をかけたのはこちらだ。気にせんでよい。しかし、先生に何か用事かい?」

「ええ、コールさんの古い友人が気にかけて様子を見てきてほしいと頼まれまして」

「ああ……確かに先生も最近は表に出てくる回数もめっきり減って」

「シャンおじいさん、それ以上はちょっと」

「ん? ああスマン。人が勝手にあれこれ吹き込むのもまずいわな。ま、これから先生に会うんなら直接聞く方が早いじゃろうよ」

 

 さすがにコールの情報をぺらぺらと話すのははばかられたのだろう。エリーが横から口を挟んで止めに入ってきた。シャンもそれに素直に応じて話すのをやめた。そして引き留めるのも悪いからとその場を去っていった。

 

「……体が悪いのか、コールさんは」

「不調が続いているのは確かです。元々体が弱かったのもありますが老いと共に弱ってきていて」

「なら待たせるのも悪いな。早めに行こう」

 

 止めていた足を動かし、一行は再び屋敷に向かった。

 屋敷の外周を取り巻く外壁の正門、閉じられていた門扉をエリーが開いて屋敷に招き入れる。庭は丁寧に手入れされており色とりどりの花が植えられている。

 

「綺麗な庭だわ」

「お褒めいただき、ありがとうございます」

『一人でこれを? 随分時間がかかるでしょうに』

「町の皆様にご協力いただいています。水やりと月一の剪定さえきちんとすれば一定のレベルは維持できますので」

 

 館の玄関を押し開いて入っていく。

 屋敷の中は白壁に黒い木材の梁で支えられている内壁と、それにあわせたモダン調の内装品が並べられている。

 エリ―はここでお待ちくださいと言い残して屋敷の奥へと消えていく。そしてしばらくしてから戻ってきて一行の前に立つ。

 

「主様がお会いになるそうです、どうぞこちらへ」

 

 彼女が先導して屋敷の奥へと向かっていく。大人しくその後ろをついていくと、ある一室に到着する。

 扉をノックして声をかける。

 

「コール様、お客様をお連れ致しました」

「ああ、入ってもらっていいですよ」

 

 柔和そうな老齢の男の声。

 エリーが失礼しますと部屋の中に入っていき、それに続いて探偵事務所一行とアリスも入っていく。まず気が付いたのは部屋に流れるクラシックの音楽。そして視線は部屋に置かれたベッドの上で体を起こしている一人の老人に注がれる。うなじにかかるくらいの白髪、しわのよった顔、優しそうな印象を受ける翡翠色の目。

 

「事前の断りなく、不躾な訪問をお許しいただきたい。風雅探偵事務所所長、風雅錬です」

「ええ、聞き及んでいますよ。ロウの直弟子。私はコール・スローター、一介の技術屋です」

 

 ベッド脇に近寄り握手を交わす。

 エリーがその間に椅子を用意してくれたので一同は椅子に座る。エリーは逆のベッド脇に移動して傍に控える。錬と握手を交わしたコールは視線を移すと今度はアリスに手を差し出してにこりと微笑む。

 

「こんにちは、お嬢さん。ベオのお孫さんのアリスちゃんだね? 遠いところをよく来てくれたね」

「は、はい。アリス・タイムフィールドです。よろしくお願いしますのだわ……」

 

 タイムフィールド家と関係を断とうとしている人物という事でどんな感情を向けられるか不安だったアリスは、思った以上に柔和で、嬉しそうにするコールの様子にひどく驚いていた。あわあわとするアリスの様子に楽し気に笑うコール。そっと握手をして、視線は星那とソーマに向けられる。

 

「星那さんと、ソーマくんだね。コールだ、よろしく」

「……? はあ、まあ、よろしくです」

『よろしくお願いします』

 

 全員と挨拶を交わして。さて、とコールが一旦区切る。

 流していたレコードにあてがわれている針を上げて、周囲を見回すとうんと一つ何かを確信したように頷いた。

 

「これもある種の運命というものなのだろうね。友人たちの後継がこうも一同に会するとは思わなかった」

「合縁奇縁というものですかね。師匠からは何も聞き及んでいなかったので思い出話という訳にはいきませんが」

「はは、仕方ないさ。ロウはそういう思い出話は自分の腹に納めて置く男だった。取り出すのは酒が入って浮かんできた時ぐらいさ」

「あいにく成人前に死別してしまったので、酒を飲みかわせることはありませんでしたがね」

「……そうか、ロウが逝ってから十年も経つのか」

 

 私も老いるはずだ、としわの寄った手をさするコール。

 思い出話を花開かせるのもいいが、今は仕事。錬は気を引き締めてあらためて彼に問いかける。何故、タイムフィールド家との繋がりを切ってここに移住したのか。何故エリーにホロウ内の警備をさせていたのか。何故ホロウ内の環境を整える装置を用意したのか。

 それを問いかけられたコールはそうだねえ、と一つ前置きを置いてから口を開く。

 

「長年研究していると、分かってくることがある。いわゆる職業倫理というものだが……研究者は自分がこの世に広めた解き明かした理に対して責任を負わねばならない。例えば火薬を作った者は鉱山の開発に役立てようと考えたが、それを応用して銃が作られた。利を生むための道具が人の命を奪う結果となった」

 

 使う者次第と語る人も居るが、それでも起きてしまった事象から目をそらしてはならない。技術者として守らなければならない一線はあるのだから。

 そう語るコールの姿はどこか覇気に欠けており、何かを後悔しているようにも見える。

 

「私たちは過去そう言った事例に見舞われた。それでもそれを何とか清算してどうにか生きてきて……つい先日それが清算し切れていなかったことにようやく気付いたのさ。だが私の体はとうに衰えきって病魔に蝕まれていた。清算出来るほどの力が残っていなかったのさ」

「…………」

「TOPSのごく一部の企業が裏で私たちの技術を盗用し、違法な研究を行っていた。彼らも私が調査していることに気が付いたんだろうね、逆にこちらを襲撃してきた。その時はエリーに撃退してもらって何とかなったが……エリーも居るのにこれ以上の危険は冒せないと移住を決断することにした」

 

 ちらりとエリーの方を見やると彼女の表情は変わらない。その奥にある感情がどういった物かを読み取ることは難しそうだ。

 

「正直な話、私に残された時間を全て使っても清算は難しい。ならばいっそ、私の技術を正しいを本来の形で遺すことで在り方を示す。それしか道はないと考えた。そこに別の意志が入ってはならないと、ベオとも距離を置いたのもそれが理由だ」

「なるほど」

「君が依頼された件についてはこれでいいかな。アリスくん、改めて言うが私はタイムフィールド家に対して隔意を持っているわけでは無い。むしろ好意的な感情を持っている……だからこそ、ライオネルくんを失った君たちを私の戦いに巻き込みたくはない。今日はもう遅いから泊っていくといい。だが明日には、エリーに向こう側まで案内させるから帰りなさい」

「そんな、おじい様の親友の危機を見過ごせと!?」

「ベオなら、同じ境遇なら私と同じ選択をするはずだ」

 

 親友であるがゆえの確信を抱いた言葉に、アリスは言い返すことが出来ず詰まってしまう。

 話すべきことを話し終えたと思って気が緩んだのか、コールがごほごほとせき込む。エリーが慌てて寄り添い、背中をさすって落ち着かせようとする。

 

「皆様、申し訳ございませんが主は不調の身。後程部屋までご案内いたしますので一度ロビーにてお待ちください」

 

 エリーの言葉に否とは言えず、一同は顔を見合わせた後に仕方なく部屋を辞することにした。

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