TSシスターは異世界で適当に祈って生きていきたい 作:しすしす
シスターというのは、異世界で適当に生きていく上で最適な職業だと思う。
まず、立場がしっかりしている。
シスターであるというだけで、よっぽど破天荒な生活をしていなければ周りは私を慕ってくれる。
それだけでなく、教会というしっかりとした住居まで手に入るのだ。
ただ、大きな街のシスターになってはいけない、そこには他のシスターの目があるから。
孤児院を開くことにもなってしまうかもしれない。
数人の子どもの面倒を見るならともかく、何十人も一度に面倒を見るのは私にはムリだ。
そもそも大きい教会は仕事が多い。
だから、小さな町のワンオペシスターがいい。
一人であれば、多少雑な生活を送っていても、バレなければ咎められない。
何よりこれは前世においても実感したことなのだが、人の来ない小さな店をワンオペで任されるって結構気楽なのだ。
期待されていないから、毎日ある程度の仕事さえできればそれでいいし。
売上が上がらなくても、人が来ないからで言い訳できる。
だから私は、異世界にTS転生し教会に拾われた時、小さな町のワンオペシスターとして生きることを思いついたのだ。
ただ、一つ問題があった。
それは私が――聖女であるということ。
聖女とはこの世界において特別な存在で、「神」に祝福を受けた存在だと言われている。
しかし私は昔から、「適当」を信仰していた。
適当に生きられる人生こそ至高、残業も飲み会もクソ喰らえ。
そんな私が、一体どうして聖女になんてなってしまったのだろう。
正直さっぱりわからないが、私は聖女であることを
結局のところ、異世界に生まれ変わってシスターになっても、私が信仰するのは神ではない。
適当に祈りをささげて、適当を信仰しながら生きていくのだ。
+
シスターは朝早くから清廉潔白に祈りを捧げるのが普通。
……だなんて周りから思われているが、私の起床は普通に遅い。
朝九時くらいから起きてきて、まず最初にシスター服に袖を通す。
美しい白髪が少し見える程度の適当さでウィンプルを被り、清廉を謳う割にはスリットが深い上に体に結構ぴっちりなシスター服。
姿見に映るのは、シスターの姿をした小柄な女性。
身長は百四十に少しと非常に小さいものの、体は丸みを帯びていて胸は身長の割にはそこそこ。
子どもというよりは背丈の小さい女性といった感じの女が、そこにいた。
これが、今の私だ。
TS転生して、かれこれ二十年と少し付き合ってきた身体である。
で、着替えが終わったらまずは掃除だ。
食事や朝のお祈りではないのか、と思うかも知れない。
しかしそんなことをしていたら、教会の前で掃除をする時間が昼前くらいになってしまう。
それは流石に遅い。
九時過ぎに外へ出て掃除をすることで、これまでお祈りと朝の準備をしていたのだという言い訳をするのだ。
「――おはようございます」
「おはよう、シスター・アンヌ」
そして、道行く人に声を掛ける。
こうすることで、アリバイは成立だ。
この時間帯はちょうど町の人々も仕事に出勤したりする時間。
彼らにとっても、この時間は「朝のちょうどいい時間帯」になるのである。
なお、シスター・アンヌは私の名前だ。
孤児なので、苗字はない。
そうしてしばらく――十時くらいまで掃除をして、私は清廉ですよというポーズを取ってから教会に引っ込む。
掃除の行き届いた礼拝堂を抜けて、私個人の生活スペースに戻る。
そこは決して掃除がされていないわけではないが、あまりキレイとは言い難い状態だ。
言うなれば、男の一人暮らしの平均点くらいの室内。
まぁそりゃ元は男なんだから当然だが、誰にも見られないならこのくらいが生活環境として自然だと思うのは私だけだろうか。
そしてそこで、今日の予定を考える。
普段私は、主に三つの生活ルーチンがあった。
一つは礼拝堂で祈りを捧げに来る人々を待つという仕事。
ぶっちゃけて言えば、待っている間に読書をしたりして時間を潰すのが目的。
もう一つは街に出かけて、シスターとして仕事をしているんだというポーズを取る仕事。
実際には昼食で美味しいものを食べるための外出で、新しい本を買ったりもする。
そして最後に――
「……そろそろ私費も心もとないですし、行きますか――冒険者ギルド」
冒険者として活動することだ。
+
シスターが冒険者をするのは、まぁそこまで珍しいことではない。
まずシスターであるというだけで治癒魔術の使い手としてある程度実力が見込める。
加えて、困っている人を助けるという名目で、臨時パーティに誘われることがあるのだ。
教会の護衛も兼ねて、見込みのあるシスターには幼い頃から戦闘の手ほどきがされる、というのもある。
私の場合、この戦闘訓練においてそこそこ優秀な成績を残したことで、冒険者としての活動を認められているのだ。
それを悪用し、暇な時に冒険者としてお金を稼ぐのが私の日課の一つだった。
シスターは清貧を求められるけど、そんなものは結局建前。
毎日を充実させなければ、健やかな生活は送れない。
教会を維持するための予算だけじゃ、美味しいものを食べたり本を買ったりするお金が全然足りないんだよ。
で、そんなわけで私は――
「えーと、これはいい素材ですね」
街の近くにある森で素材採集のクエストを受けていた。
一般的に、新人冒険者が受けるようなあまり人気のないクエストである。
ただし、私にとっては都合のいい依頼。
この街にはダンジョンもあって、普通の冒険者ならそちらを冒険の足場とする。
けれども、いくら私が強いからって、目立つようなことをする必要はない。
たとえクエストとしては人気も報酬も微妙でも、私が一人で余暇のための資金を稼ぐには十分なのだから。
それに、こうすることの意味は他にもある。
「た、たすけてくれー!」
若い少年の声が聞こえた。
おそらく魔物に襲われているのだろう。
私は即座に採集を中断させると、そちらに向かう。
この声が
向かうと、そこには一人の少年と数匹のゴブリンがいた。
「大丈夫ですか」
なので、速度のギアを一つ上げて、私はゴブリンに膝蹴りを叩き込む。
そのまま少年とゴブリンの間に割って入って、少年に視線を向けた。
「だ、大丈夫です、シスター・アンヌ」
「ここはあまり危険の多くない森ですが、魔物の危険は常にあります。数匹に囲まれたら危ないのですから、パーティを組むよう指導したはずですよ」
片足を前に出して、何時でも攻撃に移れる姿勢を取る。
私の戦闘スタイルは蹴り技主体の徒手空拳、武器がなくても戦える方がいいと考えたのでこのスタイルに行き着いた。
足を前に出すことで、スリットから生足が覗くことだけが悩み。
「あ、あ、えっと……」
「そこから動かないでください……ね!」
そのまま、私はゴブリンに一歩で接近して脳天を蹴り砕いていく。
威力を上げれば顔をそのまま消し飛ばすこともできるが、返り血で酷いことになるため首をコキャっとやって即死させるのが基本。
そうしてすぐに、私はゴブリンを屠って戦闘を終わらせた。
「――あ、ありがとうございます、シスター・アンヌ」
「無事なら結構です。次からは気をつけるように」
――私が冒険者をするのは、この森に素材採集など新人冒険者向けのクエストが多いからだ。
だから、森にはそこそこの数の新人がいる。
中には今のように、魔物に襲われてピンチになるものも。
そういう冒険者を守ることで、シスターらしさを稼ぐ目的があった。
ついでに、新人への指導も私の仕事だ。
なぜならコレもシスターっぽいから。
私は怠惰だが、それを外に漏らさないよう外面を良くする努力を怠らないのだ。
「――何を泣きそうな顔になっているのですか」
「そ、その……シスターの手を煩わせて、申し訳なくなって……」
「まったく」
だからそのために、こういう時。
私はシスターとしての努力を怠らないことにしている。
「――冒険者として、大きな夢を叶えるのでしょう、ダン。ここで泣いていてどうするのです」
「お、俺の名前――」
「教えた者の名前は、全員覚えることにしています」
正確には、聖女スペックで忘れることがないだけなのだが。
まぁ、それはともかくとして。
私は泣きそうな少年冒険者の頭に手を載せて、彼が落ち着くまで待つのだった。
+
アリアの街には、風変わりなシスターがいる。
その見た目は、まさに天使の如き美しさ。
清廉潔白で、楚々とした見た目から男女問わず人気は高い。
しかし、一度接すると、彼女が見た目通りのシスターではないと解るだろう。
なんというか、適当なのだ。
本人は、それを表に出さないよう振る舞っているが、だからこそ逆に適当さが垣間見えることがある。
だがそれは、決して悪い意味ではない。
適切で当然という意味での適当だ。
シスター・アンヌは普段から周囲への挨拶を欠かさない。
朝、人々が仕事に向かう時間となったら必ず外に出て掃除をして、多くの人に声を掛ける。
教会の前にその時間に行けば必ずアンヌがいるということで、わざわざ遠回りをする住人も多い。
更にアンヌはシスターの中ではかなり武闘派な方だ。
教会は孤児院になっていたり、多くの女性がいることもあって護衛のシスターがいることは珍しくない。
ただ、自分から積極的に冒険者をするシスターとなると稀だ。
とはいえそれも、他のパーティに助力を乞われての臨時パーティだったり、新人冒険者の指導だったりすることが殆ど。
ただ、何と言っても特徴的なのはその戦い方。
スリットから覗く美しい生足による蹴り技を主体とした徒手空拳。
なんともこれが、”美しい”のである。
これを眼の前で披露された新人はことごとくがアンヌの魅力にやられてしまう。
風変わりで、魔性で、適当。
これは、そんなシスター・アンヌが日常を「適当」に過ごしていく物語だ。
TSシスターいいですよね……ちょっと若い子の脳を破壊したり、街の人気者になったり、聖女だったりしながら日常を送りたいですね。