TSシスターは異世界で適当に祈って生きていきたい 作:しすしす
対して面白くもない前世を、まあよくある理由で終わらせた私は、異世界で女になっていた。
物心がつくころに前世の記憶を思い出し、以来中世風ファンタジーの異世界で暮らしている。
生まれは孤児だ。
スラム街の路地裏で、死体の隣に座り込んでぼんやり空を眺めていたのが最初の記憶。
きっとあの死体は、私の母だったのだろうな。
それからすぐに気づいたのは、自分の容姿が美しいことだ。
見窄らしい上に三歳くらいの幼児であるにも関わらず、明らかに抜群の容姿をしていた。
二次元のキャラクターが現実に飛び出すことなんてあるんだ、と本気で思ったモノである。
とはいえ、そうなるとスラム街で孤児なんてしていたら、待ち受ける未来は悲惨なものしかない。
慌てて私はスラム街から逃げ出し、助けを求めた。
しかし幼い子供を助けてくれる場所なんて、果たして治安の悪い異世界にあるだろうか?
色々考えたのち、私が辿り着いた答えこそ、教会である。
その選択は正解だった。
教会の前で倒れた私をシスターたちは拾ってくれて、住む場所を与えてくれたのだ。
清貧ではあるけれど、衣食住には困らない生活。
シスターとして、小さな街で生きていく。
そんな将来設計を私は抱くようになったのだ。
そんな時だった、私に聖女の素質があると判明したのは。
聖女? 私が? ものぐさで神なんて信仰してなくて、おまけに元男の私が?
マジでゴッドは何考えてんの? としか言いようがない。
いや、転生者だから聖女に選ばれたんだろうか。
それにしたって前世の性別くらい調べて欲しいものだけど。
でまぁ、私は色々考えた。
聖女であることを周囲に明かせば、私の将来は盤石だろう。
しかし、穏やかなワンオペへの道は閉ざされる。
だったら、取るべき選択肢は一つしかない。
私は聖女であることを隠すことにした。
幸い、現在この世界は情勢が安定していて、聖女が世界を守るために粉骨砕身しないとまずい状況ではないし、聖女は当代に何名もいる。
一人くらい正体を隠しても、なんら問題はないのであった。
聖女であることを、一人でこっそり確認しておいてよかった、これなら私が明かさなければバレることはない。
聖女の素質をチェックする儀式は参加が任意だから当然欠席。
普段からそこまで真面目ではない、とばれていたので疑問に思われることはなかった。
代わりに参加したのは、戦闘訓練だ。
聖女はその特性上、身体能力が高い。
これを活かさない手はないだろう。
というわけで、聖女というあまりある素質を無駄遣いして、私は「そこそこ優秀」という成果で戦闘訓練を卒業した。
これを卒業するだけで、ワンオペシスターの道がぐっと開けるので、聖女の素質には感謝である。
まあ無駄遣いはするけど。
かくして私は、アリアというダンジョンがあること以外は特徴の薄い街にシスターとして単身で赴任した。
以来、街の人との交流を深めながらほどほどにものぐさシスターをしている。
幸いにも私の目論見はうまくいっているようで、町人からの人気は高く、ものぐさであることは
完全に隠すことは不可能だ。
それでもある程度真面目にやっていれば、あとはむしろ真面目にやることより周囲に好かれることを考えた方がいい。
幸いにも私は絶世の美貌の持ち主。
やろうと思えば、好感度を稼ぐ手段はいろいろあった。
その上で最も簡単な方法が、出勤時間の挨拶だ。
他にも色々やっていて、アリアはダンジョンがあることもあって冒険者の街。
そんな冒険者を新人の頃から指導していれば、慕ってくれる人も出てくる。
指導料も貰えて私もハッピー、いうことなしだ。
そして他にやっているシスターっぽいこと。
それが街の巡回である。
+
その日、私は街へ出かけることにした。
昨日は礼拝堂で、やってくる信者の相手をしつつ読書。
一昨日は冒険者として、新人への指導を行なった。
だからここで巡回を挟むのは、至極当然のルーチンである。
といっても、アリアの街はそこまで広くないので巡回なんて数時間あれば終わってしまう。
朝の掃除と挨拶を終えて朝食を終え、二時間ほど礼拝堂で読書をしつつダラダラしてから巡回に向かった。
この巡回は昼食も兼ねているから、あんまり早く出かけてもお腹が空かないのだ。
以前も言った通り、巡回をしつつ街のレストランで美味しいものを食べるのが私にとっては至福の時間なのである。
「あ、シスター・アンヌ。こんにちは」
「こんにちは、クロワさん。今日もお元気ですね」
なんて、道ゆく人には必ず挨拶をするようにしている。
名前を呼ぶのも忘れない。
聖女スペックはこういうところで活かすのだ。
「あ、シスター・アンヌ。ちょうどいいところに、すこしいいかい?」
「はい、なんでしょう」
やがて、しばらくそうやって歩いていると、人から声をかけられることがある。
前世の頃からあまり人付き合いは好きではないが、だからと言ってこれを断ってはいけない。
住人の困りごとに耳を傾けるのもシスターの勤めだ。
それに私は、こういう声がけに対する必勝法を見つけていた。
「実はねえ、この子が旦那と喧嘩しちゃったみたいなのよ」
「それは大変ですね」
声をかけてきたのは、街の世話焼きおばちゃん。
悩みを抱いているのは少し前に結婚したばかりの新妻さん。
旦那と喧嘩してしまってどうすればいいのか、という悩みを私は聞いていく。
「これがさあ、旦那も酷いのよ。この子はいつも頑張ってるのに……」
「そうですねえ」
とか。
「実はここだけの話」
「そうなのですか?」
とか。
「そういえば話は変わるんだけど」
「なんでしょう」
とか。
私のやっていることは
決して、相手の話に割って入ったりはしない。
ただ聞いているだけ。
女性が相談をするのは悩みを解決して欲しいわけではなく、聞いて欲しいだけ、とはよくいうけれど。
私の場合、男性に相談を持ちかけられてもやることは変わらない。
常に相槌を打つだけ。
絶対に自分から意見はしないのだ。
そうすれば向こうは気兼ねなく話をして満足してくれるし、私も気を遣わなくて済む。
意見を求められたら、いい感じにどうとでも取れる返事をするだけだ。
これぞシスター流適当会話術。
そもそもシスターってのは人の告解を聞いたりするのも仕事の内だし、この戦法は礼拝堂へ祈りにくる人たちにも使える。
私がシスターになって生み出した最強会話デッキだった。
そうしてしばらく、まあ一時間くらい話をしていると、おばちゃんが満足したのか話を切り上げる。
「いやあ、色々話したらスッキリしたよ。ねえ?」
「あ、は、はい!」
「それはよかったです」
八割くらい世話焼きおばちゃんが話してるだけだったけど、新妻さんもなんとなく気持ちが晴れたみたいだ。
私は、適当におばちゃんと新妻さんに挨拶をして別れる。
時刻は十二時を回ったところ。
まだ私的には昼食には早いので、もう少し歩いて今日何を食べるか決めることにしよう。
一時間も話し込んでいたけれど、私の巡回の予定が長引くことはない。
なぜならそもそもこの巡回は必要かどうかで言えばそこまで必要な行為ではなく、私が時間潰しを兼ねてやっていることなのだから。
時間がずれ込んだら、巡回を省略したり途中で切り上げたりするだけ。
これもまた、私の適当に乗っ取った生き方の一つということだ。
さてさて、いいことを一つした後の昼食は美味しいことが多い。
ここは少し奮発して、美味しいものを食べるのもいいかもしれないな。
なんてことを考えながら、道ゆく人に挨拶をしつつ私は街を歩くのだった。
顔がいいから許されるムーブでありつつ、割とコミュニケーションの本質な気もします。