TSシスターは異世界で適当に祈って生きていきたい 作:しすしす
私は聖女だ。
と、何度か言っているものの、じゃあ聖女とは何ぞや、と聞かれると少し難しい。
まずこの世界の人間は、生まれたときからいくつかの適性がある。
これを”クラス”と呼んでいて、まぁファンタジーゲームによくある職業と考えればいいだろう。
剣士の適性があれば、”ソードマン”のクラスを与えられ、斥候の適性があれば”シーフ”のクラスを与えられる。
ほかにも変わったところでは、家事に適性があれば”ハウスキーパー”。シスターに適性があれば”シスター”のクラスが与えられたりと、適性とは戦闘だけにかかわるものではない。
シスターになるうえで便利な適性は、”シスター”クラスのほかに治癒魔術を得意とする”ヒーラー”クラス、ほかにも人との交渉や人前での説教を得意とする”ネゴシエーター”なんかもシスター向きか。
中でもひときわシスターとして向いているとされるのが聖女のクラス――”セイント”。
これにはシスターとして必要な”シスター”、”ヒーラー”、”ネゴシエーター”のクラスが複合しており、さらには聖女にしかできない技能である”浄化”を可能とする能力が備わっている。
とまぁ、この世界にはこういうゲーム的なあれやこれやが存在するわけだ。
私としては、結構わくわくした。
こういう自分のチートが判明しそうなタイミングが、異世界に転生したとき一番わくわくするよね。
というわけで、さっそく自分でクラス適性をはかってみることにしたのである。
結果は、アレだった。
燦然と脳裏に響く”セイント”の一言。
クラス適性を図ると、脳裏に自分の適性一覧みたいなのが浮かんでくるのだが、一番適性があるのがセイントだったのだ。
ありえない、おかしい。
ヒーラーの適性があるのはいいとしよう。
しかしシスターとネゴシエーターの適性ってなんぞ。
前者を私は正直まじめにやってなかったし、前世から私はあまり人付き合いが得意ではない。
むしろコミュ障に入る部類だったと思っている。
でなきゃオタクになんてなってないのだ。
しかし、なってしまったものは仕方がない。
むしろ、あるものは活用しないと生きていくのが難しいのが異世界の常。
私はこの有り余る才能を、無駄遣いすることに決めた。
有効活用する必要はないのだ、私の目標は適当に生きることなのだから。
聖女としての能力は活かさなくていい。
実際、”浄化”の能力を私は今まで一度もまともに活用したことはないのだ。
ただ、それぞれの適性というやつは、いろいろと有効活用させてもらっている。
ネゴシエーターは普段の巡回における相談や説教で。
ヒーラーやほかの戦闘系クラスへの適性は、冒険者として。
じゃあ、シスターの適性って私は何か有効に使っているのか?
そもそもシスターの適性ってなんだよ、という話もあるのだが。
一応これも、私はなんだかんだ有効に活用していた。
具体的には、普段の生活のために。
+
シスターというのは、基本的に朝起きたら神への祈りをささげるものだ。
しかし私はものぐさ不良シスター。
ほかのシスターが神に祈りをささげている時間、私は寝ているので祈りをささげることはない。
ただ、私だって神に祈りをささげるときはある。
そもそも祈りとは、神への感謝をささげるとともに将来の健やかな生活を願うためのものだ。
何の見返りもない神に、祈りをささげる信者は少ない。
祈りをささげていれば敬虔だと周囲に思ってもらえるから祈りをささげる、なんて人もいるだろう。
この世界において、祈りをささげる行為にはほかにも意味がある。
それは神に祈りをささげながら”自分の今後の生活を如何に良くするか”見つめなおすこと。
これはこの世界の教典にも書かれており、そもそも祈りは神に祈りをささげながら自分の悩み事を神に相談するためのものらしい。
今自分が抱えている悩みを見つめなおし、それに対する回答を考える時間を確保するためのものだそうだ。
割と合理的なお祈りなんだなぁ。
で、シスターの適性が高い人間は、祈っている間に物事を解決する方法を思いつく能力にたけているのだとか。
だから私は、何か迷っているときがあると、神に祈りを捧げるようにしている。
例えばそれは――
「――この散らかった私室を、いい感じに掃除する方法を思いつけますように」
自分のものぐさをどうにかする方法を、思いつくための手段として。
ああ、なんて適当極まりない祈り方なのだろう。
こんな風にシスターの適性を悪用する人間はそういない。
なにせシスターの適性を持つことは、清貧を是とする性格をしているということ。
私みたいなものぐさが、本来はシスターの適性を持っているはずがないのだ。
やっぱり、転生によって前世の記憶がインスコされたことで、いろいろばぐってるのかなぁ。
「えーと、あれとこれをあそこにしまって、これをこう片づければいいのか……よし」
私は祈りながら考えを整理し、回答を導き出す。
祈っているときは明らかに前世より頭の回転が速く、理路整然と答えを導き出せる。
こういうところに、転生による自分の変化を感じるなぁ。
で、それから私は手をかざす。
掃除をするなら、箒を用意したりするものじゃないの? と思うが、しない。
私が使うのは――魔術だ。
「”浮き上がれ”」
起動ワードに反応して、部屋中の荷物が浮き上がる。
これは風属性魔術の一種で”浮遊魔術”。
まぁ、効果は文字通りのもの。
聖女クラスには、治癒魔術以外の魔術に対する適性もあるのだ。
そうして、しばらくモノを動かして部屋を片付ける。
祈っていい感じに考えをまとめたおかげで、片付けが終わった部屋はかなりきれいに整頓されていた。
前世だったら、もうすこし雑に片づけていたなぁ。
浮遊魔術さまさま、という話でもある。
「綺麗になった部屋で、昼寝でもしましょうか」
なんて、今日の予定を考えていると――
「すいませーん。助けてください、シスター・アンヌ」
礼拝堂のほうから声がする。
せっかくの達成感がそがれてしまって、なんだか少し気が重いものの、呼ばれたからにはいかないわけにはいかない。
見えないところでひたすら手を抜く代わりに、見えているところでは手を抜かないのが私の趣味だ。
――呼ばれていってみると、なんでも工事現場で建材が派手に倒れてしまったらしい。
めちゃくちゃになった木材を前に、大工達が途方に暮れていた。
「これを何とかできないでしょうか、シスター・アンヌ」
「難しいですが……やってみましょう」
難しい、というのは謙遜だ。
実際には、浮遊魔術でこれを元に戻すことは簡単である。
しかし闇雲に戻しても本来置かれていた場所に、そのまま木材が戻るわけではない。
大工達にどう戻すべきか聞くのが一番早いのだが、そのために面倒なコミュニケーションを発生させるのは避けたい。
私は常に受け身で行きたいのだ。
そこで――
――祈りをささげる。
神にどうか助けて下さい、と祈りつつ木材がどのように戻れば大工にとって効率がいいのかを考える。
しばらくシミュレートをしてから、答えをだす。
うん、これなら問題ないだろう。
そして、手をかざすと――
「”浮き上がれ”」
木材を浮かせて、移動させる。
周囲から歓声があがった。
それからしばらく木材を操作して、いい感じに木材を配置。
終わると、自然と歓声と拍手があがった。
「ありがとう、シスター・アンヌ! 建材が倒れる前よりも、配置がいい感じだよ!」
「それはよかったです。怪我人はいませんか?」
「ああ、大丈夫だ!」
「幸いでしたね。怪我には気を付けてください。治癒魔術で治せるとはいえ、命が失われればどうしようもないのですから」
なんてやり取りを大工としてから、その場を離れる。
あまりにも賞賛を浴びるのは恥ずかしいのだ。
正直、本来の聖女の能力を考えれば、やっていることは些事にも等しいことかもしれない。
本来の聖女は、世界すら救えるというのだから。
けれども、私にそんな大役は荷が重い。
こうして日常の様々なことを、いい感じに”適当”に解決していくのが、私の性に合っていると、そう思っていた。
本人的には些事ですし、部屋の掃除も建材の片付けも同列ですが、周囲が見ているのは後者だけだし後者は割とすごいことやっているので、勘違いが発生するやつです。