【完結】吾輩は犬である ~転生わんこの自由奔放異世界日記~   作:冬月之雪猫

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第二章『犬は少年を求めて旅をする』
第十一話『吾輩、会いたい』


 吾輩は犬である。名前はポチという。

 

「ワン!」

 

 吾輩、目を覚ました。そこはどこぞの建物の一室だった。

 起き上がり、辺りを見回してみると扉があった。

 吾輩、扉を開けるのはお手の物。以前、ご主人のカフェでお誕生日会をする子供の為に、吾輩がお出迎えするイベントを行った事がある。吾輩が扉を開けて中に招き入れた時の子供の反応はみんな大はしゃぎであった。

 後ろ足で立ち上がり、ドアノブを両手で回す。扉の向こうには人間達がいた。起きた瞬間から分かっていたのである。

 ミゼラ、ヤザン、カリオスの三人はリビングらしき場所で寛いでいた。

 

「ワン!」

「おっ! 目を覚ましたのか!」

 

 ヤザンが駆け寄ってきた。

 

「おお、よしよし! やっぱ、よく見ると可愛いな、お前!」

 

 なんだか、ご主人のカフェに二日に一回は来て、吾輩を撫で回すサラリーマンのタケダに似ているのである。

 試しにゴロンと転がって、お腹を見せてみる。すると、ヤザンは鼻の下を伸ばして吾輩の腹に頬ずりし始めた。

 

「お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛」

 

 やはり、タケダと同じ人種らしい。タケダも吾輩の腹に頬ずりする時、雄叫びを上げていた。

 

「ちょっ、ヤザン! 何を羨ましい事を!」

「っていうか、やめてやれよ! 一応、病み上がりなんだぞ、そのオルグ!」

「お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛」

 

 無駄である。タケダもそうであった。吾輩の腹に頬を埋めている時、何者の声も彼には届かないのである。

 この人間の心は吾輩の腹によって支配されている。

 

「……あと三秒で交代しなさい。じゃないと、魔法でぶっ飛ばす」

「ミゼラ!?」

「お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛」

「ヤザンもどうしたんだよ!? 狂っちゃったのか!?」

「カノモノヲフキトバセ」

「お゛お゛お゛お゛お゛あぁぁぁっ!?」

「本当にぶっ飛ばした!?」

 

 ヤザンが窓を突き破って、外に飛んでいってしまったのである。

 代わりにミゼラが吾輩の腹に飛び込んで来た。

 

「お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛」

「……怖っ。えっと、オルグのスキルか何かなのか?」

 

 純粋な吾輩の腹の魅力である。

 

「お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛」

「人語を忘れたか、ミゼラ。もはや、人間はオレだけか……!」

 

 苦悩の表情を浮かべるカリオス。

 

「テメェ、ミゼラ!! オルグたんの腹はオレのものだぞ!!」

「オルグたん!?」

「お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛」

「ミゼラはいつまでやってんだ!? っていうか、オルグもなんで抵抗しないんだ!?」

 

 ヤザンがタケダと同じ呼び方をし始めたのである。音は違うが、同じ意図である。

 抵抗しないのは、これもまた吾輩の大切な仕事だからである。

 吾輩の腹の奴隷となったタケダを含めた常連達はご主人のカフェ経営を支え続けた。

 

「いい加減、正気に戻れ! オルグが目を覚ましたのなら、ベリオスに戻るぞ」

「そんなに慌てる必要はないんじゃないか?」

「そうよそうよ! 一緒に戦った仲なんだもの! もうちょっとくらい、一緒に居てもいいでしょ!」

「オルグが起きるまでって約束だっただろ! テイマーじゃないオレ達が魔獣を連れて帰るわけにはいかないが、放っておくのもアレだからって……」

 

 そう言えば、人間の匂いがここにいる三人の分しかない。辺りには獣や草木の匂いばかりだ。

 ここはまだ人間の集落ではないようだ。

 

「ワゥ……」

 

 どうやら、集落に吾輩を連れて行く気は無いようである。

 まあ、問題はない。

 吾輩、起き上がり、ヤザンが吹っ飛ばされた時に割れた窓から外へ出た。

 

「オルグたん!?」

「オルグちゃん!?」

「オルグ!?」

 

 三者三様の呼び方。人間の言葉は他のどの生き物よりも多様である。

 とりあえず、姿を隠すである。そうすれば、三人は集落へ帰還する。その後を尾行すれば良いだけの事である。

 

「ま、待って!」

「オルグ! せめて、お礼を言わせてくれ!」

「オルグたん!!」

 

《『スキル:ハンティングモード』から、『スキル:スニーク・モード』へ派生しました》

《『スキル:疾走』発動》

 

 音を立てず、匂いも消え去り、気配となり得るすべてが透過していく。

 吾輩が居たのは林の中の小屋だったようだ。

 

《『スキル:ウォール・グリップ』発動》

 

 木の上へ登り、上から彼らを見下ろす。小屋を飛び出して、吾輩を探している。

 早々に諦め、集落へ帰還を開始してほしいものであるが、彼らは思ったよりもしつこかった。

 

「オルグたぁぁぁぁん!!」

「オルグちゃぁぁぁん!!」

「……帰りたい」

 

 カリオスだけは帰りたがっているが、ヤザンとミゼラが一向に諦めない。

 そのまま、一晩が経過した。彼らは夜も眠らずに吾輩を探し回っている。その行動は些か面妖である。

 吾輩、腹で少々魅了し過ぎたようである。

 

 ◆

 

「いい加減、諦めろ!! 帰るぞ!! 任務報告もあるんだからな!!」

「ヤダァ!!」

「イヤよ!! わたし、オルグちゃんと一緒じゃなきゃ帰らない!!」

「だから、そもそも一緒に帰れねぇって言ってんだろ!!」

 

 まさかである。まさか、三日も諦めずに探し続けるとは思わなかったのである。

 面妖を通り越して、少し気味が悪いのである。

 病院の駐車場で寝起きしていた時、タケダを含めた常連がちょくちょく吾輩の様子を見に来ては餌やおもちゃを大量に置いてきたものだが、少し不安になって来た。

 吾輩がここに来た事で、吾輩に会えなくなったタケダ達は大丈夫なのであろうか? あの亡者の如き二人と同じようになっているのではないだろうか? 心配になって来たのである。

 

「また来ればいいだろ! 向こうだって、覚えててくれるさ。きっと会えるから、今はさ! 帰ろう!」

「……本当か?」

「嘘ついたら殺すよ?」

「オレ、お前達の為に囮を買って出た事を心底後悔し始めてるぜ」

 

 カリオスは苦労しているようである。兎にも角にも、ようやく帰路についてくれた。

 一晩待ってから、その痕跡を辿っていく。途中で岩山を繰り抜いたトンネルを通った。

 暗闇の中、匂いを頼りに進んでいく。襲って来るものはないかと警戒したが、何事もなく通り抜ける事が出来た。その先には再びの林があり、その先の丘から人間の集落を見下ろす事が出来た。

 あれがカリオスの言っていたベリオスという集落なのだろう。

 

《『スキル:スニッフ・サーチ』発動。対象:祠堂戒人。失敗。サーチ範囲内に祠堂戒人はいませんでした》

 

 まだ遠いのか、あの集落にはいないのか、カイトくんの匂いは嗅ぎ分ける事が出来なかった。

 けれど、人間の匂いは多い。まずは集落に忍び込むのである。

 

《『スキル:ウォール・グリップ』発動》

 

 丘を駆け下りていく。すると、彼方から何かが飛んで来た。

 

《『スキル:ガード・シェル』を習得しました》

 

 それは先に刃が付いた棒だった。ご主人が見ていた大河ドラマで見たのである。これは矢である。

 矢が眼前で止まっている。これはミゼラが使っていたもの。見えざる壁が吾輩を取り囲んでいる。

 

「ハルルルル」

 

 気配は消している。だが、攻撃が来た。どうやら、手強い対敵者が現れたようだ。

 しかも、一人ではない。匂いで分かる。十人ばかりの人間が吾輩の全速疾走に負けずとも劣らぬ速度で接近してくる。

 一回目は季節が変わるほどに長く眠ってしまった。だが、二回目は数日程度であった。慣れて来ている。故に、躊躇いはない。

 

《レベルアップ承認。保有経験値:300を消費。レベル10になりました》

《条件達成。エヴォルク承認。保有レベル:10を消費。『種族:バーニーズ・マウンテン・ドッグ』から、『種族:ストーム・ベルーガー』へエヴォルクします》

 

 体が燃える。業火の中で吾輩の肉体は死を迎え、吾輩の肉体は生を得る。

 視界が高くなり、見下ろした先にある前足の爪は透き通るような青の光を宿す。毛皮も青白く波打ち、吾輩の姿は変化した。

 

「ガオオォォォォン!!!」

 

 雄叫びをあげると、匂いが止まった。そして、無数の矢が飛来した。その矢が突然光を発し、奇妙な光の絵を空中に描いた。その絵から、炎の蛇が現れた。

 奇妙奇天烈奇々怪々。だが、戸惑っている暇などない。カイトくんの下へ辿り着く為、対敵者は倒すのみ!

 吾輩、駆け抜ける。

 

《『スキル:エアリア・ブースター』を会得しました》

 

 風が吾輩の後方から吹いてくる。炎の蛇をすり抜け、吾輩は人間達と肉薄した。

 

「ベルーガーなのか!?」

「バカな……! さっきまではオルグだった筈だ!」

「いや、ベルーガーは灰色の筈だろ! 青白いベルーガー!?」

「戸惑っている暇などない! 臨戦態勢!!」

 

 人間達は剣を抜いた。だが、吾輩は戦う気などない。

 

「ガオォォォォォォォォォォォォオオオオオオオン!!!!!」

 

《『スキル:テラー・ハウリング』発動。範囲内の生物に恐怖状態を付与しました》

 

 人間達は剣を落としていく。唯一落としていない者も必死に抗おうとしているが、体全体を震わせている。

 

「……なんだ、お前は!? こんな……、ベルーガーだとしても、こんな……」

「ク、クソッ……! こんな奴……」

「に、逃げちゃダメだ。こ、こんなの街にいれたら……」

「ガゥ」

 

 面倒である。恐怖しながらも、人間達は一人も逃げない。

 

《エヴォルク。制限時間:4分》

 

 あまり時間を掛けてもいられない。一度退くか、この人間達を皆殺しにして、集落に忍び込むか――――。

 

「へぇ! 面白そうな子がいるねぇ」

 

 空から何かが降って来た。その何かの正体を知る気も起きず、吾輩は逃げ出した。

 アレはまずいと本能が告げている。

 

「ちょいちょい! 逃げないでよ、ワンちゃん」

 

 全速力で逃げた筈である。それなのに、追いつかれた。

 全身真っ黒ながら、その瞳の色だけは赤かった。

 ウサギや鹿は吾輩を死と呼んでいたが、とんでもないのである。

 死はここにいた。

 

「ガォ……」

「可愛いねぇ。ペットにしたいかも! でも、人間を襲う魔獣はちょっと困っちゃうんだよねぇ」

 

 死は刃を握り、吾輩に向けた。

 

「だから、やろうか」

 

 吾輩、カイトくんに会いたい……。

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