【完結】吾輩は犬である ~転生わんこの自由奔放異世界日記~   作:冬月之雪猫

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第十七話『吾輩、おねむである』

 吾輩は犬である。名前はポチという。

 

「ワン!」

 

 吾輩、寿司に齧り付く。犬用ではない、本当の寿司。

 

《『スキル:毒分解』を会得しました》

 

 美味いのである!

 ご主人が絶対に付けさせてくれなかった醤油やわざびもたっぷり乗せてみた。

 

《『スキル:痛覚抑制』を会得しました》

 

 一瞬、意識が飛びそうになった。けれど、少しすると味わえるようになった。

 

「ワゥ……」

 

 吾輩、醤油とワサビは苦手である。でも、この妙な味の米と生魚は好きである。いくらでも食べられるのである。

 

「ワンワン!」

「オルグちゃん、美味しそうに食べてるね!」

「ワゥン!」

 

 店からは追い出されたものの、剣聖達が寿司をテイクアウトして来てくれたのである。

 海辺で食べる寿司。良いものである。

 

「……それにしても、オルグは誰を探してるんだろうな?」

「どういう事?」

 

 カリウスの言葉に剣聖達はキョトンとした顔を浮かべた。

 吾輩も驚いた。

 

「ワンちゃん、誰かを探してるの?」

「多分ですけどね。オルグはオレ達だけじゃなくて、スタンピードに巻き込まれた人達の事も助けたじゃないですか?」

 

 カリウスの言葉にウンウンと頷く吾輩達。

 

「野生の魔獣が自分の意思で人間を守るなんて、あり得ない」

「それは偏見なんじゃないの?」

「オルグたんはオレ達を助けてくれたじゃないか!」

「そうだそうだ!」

 

 ブーイングの嵐である。カリウスはそれでもめげずに話を続けた。

 

「理由がないんだよ」

「理由って?」

「人間を助ける理由だよ。博愛主義の魔獣なのかとも思ったけど、オルグはスタンピードの魔獣達を炎か何かで焼き払っている。人間は守るのに、魔獣は守らない。魔獣なのにだ。だから、理由がある筈なんだ」

 

 吾輩、知ってる。今のカリウスみたいな人間を名探偵というのだ。

 真実はいつもジッちゃんの腹の中である。

 

「そう考えると、一番自然なのはテイマーの存在だと思う」

 

 テイマー? 聞き覚えのない言葉である。

 

「魔獣使いの事?」

 

 剣聖にもあまり馴染みが無いようだ。

 

「そうです。魔獣を使い魔にする『スキル:テイミング』を会得した者の事をオレ達はテイマーって呼んでます」

「……そう言えば、冒険者のパーティって、メンバーで役割分担とかしてるんだっけ? 帝国には冒険者がいないから、なんか新鮮だなー」

「そうなんですか?」

「そうなんだよー。冒険者って、楽しい?」

 

 剣聖の問い掛けに、カリウス達は大きくうなずいた。

 

「もちろん!」

「楽しいですよ!」

「じゃなきゃ、冒険者なんてやってませんよ」

 

 三人の顔はとても生き生きしている。

 

「人間だけの世界に引き籠っていたら、そこそこ安全だろうけどよ。一生見る事が出来ないものが多過ぎるんでさ」

 

 ヤザンが力強く言った。

 

「そうそう! 海辺の洞窟の神秘的な光景とか、生命力に溢れた樹海の探索とか! 溶岩や砂漠なんて、冒険者にならなかったら一生お目に掛かれませんよ!」

 

 ミゼラは目を輝かせている。

 

「もちろん、苦労はあります。命の危険だってある。でも、危険を冒して良かったと思う経験を何度も何度も経験して来ました! だから、何度だって冒険に出かけるんです! そうしたら、ほら! オルグとも出会えました!」

 

 吾輩、ちょっとビックリ。カリウスはミゼラやヤザンよりも一歩引いた感じで吾輩と接していた。だけど、その瞳には親愛の情が色濃く浮かんでいる。

 

「……本当に楽しいんだね、冒険が」

「はい!」

 

 三人は声を揃えて答えた。

 その姿を剣聖はどこか羨ましそうに見つめている。

 

「もっと聞きたいな」

 

 同感である。吾輩も興味をそそられたのである。

 

「でも、まずはワンちゃんだね」

「ワゥ?」

 

 吾輩は冒険者の話を聞きたいのだが?

 

「ワンちゃんはテイマーを探してるって事だよね?」

「恐らく、そうだと思います。だから、人間の街から街へ移動してるのかなと」

 

 大正解である。吾輩はカイトくんを探している。

 

「ワンちゃんのテイマーかー……」

 

 剣聖は唇を尖らせた。

 

「探してるって事は、会いたいって事だよね」

「……ええ、きっと」

「そっかー……」

 

 剣聖はしょげ返っている。

 

「ワン!」

 

 元気を出すのである!

 

「……じゃあ、わたしのペットには出来ないね」

 

 吾輩の頭を撫でながら、剣聖はそう呟いた。

 それはそうなのである。吾輩にはやるべき事がある。それが終わったら、ご主人の下へ行くのである。

 でも、剣聖が悲しむのはイヤである。元気を出すのである!

 

「ワンワン!」

「よし! 探そう!」

「ワゥ?」

「え? テイマーをですか?」

「そうだよ! ワンちゃんが会いたがってるなら、会わせてあげたいもの!」

「ですが、剣聖様。帝国に戻らなくても良いのですか? そこまで詳しいわけではないのですが、帝国はイグノス武国との衝突を繰り返しているのでしょう? 剣聖様が居なければ……」

「大丈夫大丈夫! 衝突してるのは基本的にわたしとドクターだから! ドクターにはしばらくワンちゃんのテイマー探しで戦えないって言っとけば、研究に没頭しててくれるよ」

「そう言えば、Dr.クラウンって……」

 

 カリウスは何やら凄い表情を浮かべている。

 

「イグノス武国の人間ですよね!? メタルディザイアの生みの親とかいう狂気のマッドサイエンティスト!! なんで、仲良さそうに連絡を取り合ってるんですか!? 敵国同士ですよね!?」

「敵と仲良くしちゃダメなんてルールは無いでしょ? あっても、斬るけど」

 

 剣聖の返答にカリウスは口をポカンと開けている。

 よく分からぬが、カリウスにとっては中々に衝撃的な話だったようだ。

 

「そもそも、イグノス武国でわたしと戦える人間なんて、ドクターだけなの。逆もまたしかりね。ドクターと戦えるのも……、今はわたしだけ。キャロはもうちょっとだけど、留学中だし、アルはまだまだだからね。お人よし過ぎる所を直せば、もうちょっと上達も早まると思うんだけど……、でもそこが良いところでもあるからなんとも……」

「えっと……、剣聖様の弟子なのですか? その、キャロやアルとは」

「そうだよ! 二人共、わたしのすっごく可愛い弟子! キャロはいずれわたしを超えて、次の剣聖になってくれると思うの! アルは……、なるとしたら勇者かなぁ?」

「勇者様!? いや、でも……」

 

 よく分からない話になって来た。

 吾輩、食べる事に集中するのである。どれも美味いのである。お腹も満ちて来た。

 カイトくんに会ったら、家に帰る前に一度連れて来てあげたいものである。

 

「あらら、オルグちゃんオネムでしゅか~?」

「オルグたんの寝顔、キュート!!」

 

 やかましいのである。吾輩、おねむである。静かにするのである。

 陽光の気持ち良さ。ほどよく満ちた腹。靡く海風。

 ああ、良い。すごく良いのである。

 

 ―――― 『君は命をなんだと思っているんだ?』

 

 その気分を台無しにする夢を見た。

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