【完結】吾輩は犬である ~転生わんこの自由奔放異世界日記~   作:冬月之雪猫

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第二十話『吾輩、考えたい』

 吾輩は犬である。名前はポチという。

 

「ワン!」

 

 中央都市へ向かう最中、唐突にピッピッピという電子音が鳴り響いた。

 

「何の音だろ?」

 

 ミゼラは首を傾げ、カリウスとヤザンは辺りを警戒し始めた。

 

「あっ、大丈夫! ドクターからの連絡が来ただけ」

「……それは、大丈夫なのだろうか?」

 

 カリウスは訝しんでいる。

 マリアが言う、ドクターとはDr.クラウンというイグノス武国の科学者らしい。

 イグノス武国はマリアの母国であるカルバドル帝国の敵性国家だという。

 つまり、敵国の科学者からの連絡という事だ。カリウスが訝しむのも当然と言える。

 

「もしもし、ドクター? どうしたの?」

『報告が二つと依頼が一件じゃ』

「報告って?」

『まず、一つ目はお主が逃がしたファルム・アズールについてじゃ。あやつ、ラグランジア王国に根を張りおった。しかも、魔王を一体手中に収めておる。近々、お前さんにぶつけて来る可能性が高い。注意するのじゃ』

「魔王……? それって、まさか……、アルトギア?」

『違う。ネルゼルファーじゃ』

 

 吾輩は思わず目を丸くした。

 ネルゼルファーという名には覚えがある。夢の中の話だが、その名を持つ少女と対面した。

 よく分からぬ語句ばかり故に聞き流していたが、真剣に耳を傾けてみるとする。

 

「それって、七大魔王の? 生きてたの? 七大魔王はすべてお爺ちゃんが滅ぼしたって聞いたけど……」

『お前さんの祖父が滅ぼした七大魔王は七体中五体だけじゃよ。竜姫シャロン、狂王ヴァルサーレ、炎凰アシュリー、屍叉ジュド、そして、雷帝ザイン。残りの二体は人類と敵対していないが故に見逃しておる。事実、一方は大人しく隠居しておるし、一方は陰から人類を守っておった』

「えー……、魔王が生きてるならもっと早く教えてよ!」

『教えたら斬りに行くじゃろ?』

「うん!」

『だーから、みんな黙っておったんじゃよ』

 

 マリアは頬を膨らませている。不満らしい。

 

「……これ、オレ達が聞いていい話なのかな?」

「ダメだと思う」

「オレ、貝になりたい」

 

 カリウス達は何やら囁き合っている。

 

『まあ、お前さんにとっては朗報なのかもしれんな……』

 

 やれやれといった様子だ。

 

『その内、朱天ネルゼルファーが襲って来るじゃろう。警戒しておく事じゃな』

「やった!」

『そこで喜んじゃうのはどうかと思うぞー?』

 

 吾輩はうんうんと頷いた。カリウス達もうんうんと頷いた。マリアは解せぬという表情を浮かべた。

 

「七大魔王が生きてたとか世界がひっくり返るくらいの大ニュースを聞いちゃったんだが……」

「しかも、マリアが襲われる可能性が高い」

「そして、肝心の本人は大喜び」

 

 カリウス達はどうしたもんかなーという顔をしている。

 それにしても、魔王とは一体何なのだろうか? よく分からぬ。

 

「それで、もう一つの報告は?」

『ジュラ・マウンテンにイソラ・ゼラスが棲みつきおった。おかげで、頂上の森を住処にしていた魔人達が地上に降りて来ておる。メタルディザイアをそれとなく派遣しておるが、それとなくであるが故に間に合わん。到着まで、魔人が人里に寄らぬように間引きが必要じゃ』

「それが依頼?」

『いや、依頼は別じゃよ。おそらく、ベリオスの憲兵隊や上位の冒険者ならば対処出来るじゃろうからな』

「だったら、イソラ・ゼラスの討伐?」

『そっちは手出し無用じゃ。お主ならば討伐可能かも知れぬが、取り逃がして移動されたら、それはそれで厄介なのでな』

「えー! きっちり殺し切るから行ってもいいでしょ?」

『お主とイソラ・ゼラスが戦うとなるとジュラ一帯が消滅するからダーメ』

 

 マリアは唇を尖らせている。

 

「ねね、カリウス。イソラ・ゼラスってなに?」

「第一次聖戦の時に制空権を得ようとして飛び立った三千の救世軍を全滅させた雷の魔鳥の事だと思う。『雷雲に潜むもの』とも呼ばれてるんだけど、聖戦の書にその名前があったよ」

「へー」

「ワゥー」

 

 とりあえず、相当に強いものらしい事は分かったのである。

 

「聖戦ってなに?」

「魔王との戦いの事だよ。第一次聖戦は初代魔王と救世王の軍勢が戦った時の事。少しは歴史の勉強くらいしときなよ……」

 

 ミゼラとヤザンは明後日の方向を向いた。カリウスは深い溜息を零した。

 

「じゃあ、依頼って何?」

『そこにバーニーズ・マウンテン・ドッグがおるじゃろ?』

「なにそれ?」

『……お前さん達がオルグだと思い込んでいる犬の事じゃよ』

「ワンちゃんって、犬なの? でも、魔獣だよ?」

『前にも言ったじゃろう。エヴォルクは魔力を持たない獣が後天的に魔力を得た時に会得するものじゃと。元々は普通の犬だった筈じゃ』

「そうなの?」

 

 マリアは吾輩を見た。

 

「ワン!」

 

 吾輩、確かに犬である。

 

『とにかくじゃ! 依頼の事を話すぞ』

「はーい」

『その犬のデータを取りたいのじゃ。ハバキリの改良型をそっちに送るのでな。合流して、共に行動してもらいたい』

「ハバキリって、ドクターが逃がしちゃった鳥のメタルディザイアでしょ? 今度は大丈夫なんでしょうね?」

『問題ないわい! 前回のハバキリは生体回路に加工する過程で材料の脳を一部欠損させてしまった事が原因だと分かったからのう!』

「ふーん。問題ないならいいよ」

『ほっほっほー! さすがは剣聖じゃな! 話が分かるわい! エヴォルクにはわしの研究を大きく躍進させる可能性がある。良いデータを期待しておるぞ!』

「はいはい。じゃあ、切るよ?」

『うむ! 折角の機会じゃ、斬る事以外もしっかり楽しんでくるのじゃぞ!』

「はーい。じゃあねー」

 

 マリアは端末を仕舞い込んだ。

 

「……なんか、親戚のお爺ちゃんと会話してみたいなノリだったね、マリア」

「まあ、長い付き合いだからねー」

「敵国同士の人間の会話とは思えなかったぜ」

 

 ミゼラ達はなにやら疲れた様子である。

 

「あっ、見えて来た!」

 

 丁度、人間の集落が見えて来た。グランベルという名らしい。

 今日はみんな、ゆっくりと休むといい。

 吾輩も少々考え事をしたい所である。

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