【完結】吾輩は犬である ~転生わんこの自由奔放異世界日記~   作:冬月之雪猫

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第二十三話『吾輩、びっくりである』

 吾輩は犬である。名前はポチという。

 

「ワン!」

「キィ」

 

 そろそろ日が暮れる。だが、中央都市はまだまだ先なのである。

 

「今日はここで野宿だな」

 

 そう言うと、カリウスは荷物を下ろした。

 

「野宿って、どうやるの?」

「え? マリアって、野宿した事ないの?」

「そりゃないだろ。相手は剣聖様だぞ」

 

 ミゼラに呆れたような視線を送りながら、ヤザンはリュックサックから次々に色々な物を取り出した。

 パイプのような物、大きな布、鉄製の針、紐などなど。

 ご主人と一緒にテレビで見たテントのパーツに似ている。

 

「これなーに?」

「冒険者の必需品、野宿キットでさ。おーい、ミゼラ! 用意は出来たか?」

「今からだよー」

 

 ミゼラは地面に向かって杖を振り下ろした。すると、地面を光が這い回った。

 

「探知魔法?」

「そうです。地下に空間が無いか調べてます。魔獣の棲み処の真上で野宿するわけにはいきませんからね」

「なるほどー」

 

 マリアは興味津々な様子だ。かく言う吾輩も興味津々である。

 

「キィ」

 

 ハバキリは我関せずだ。

 

「ワン!」

 

 お前も見ているのである!

 

「キィ」

 

 こっちに来た。それでいいのである。

 

「次はコレと……、それからー」

 

 更にいくつもの光が地面に広がっていく。

 

「今度は何をしてるの?」

「水分操作の魔法で野宿キットを広げる部分の地面だけ固めて、それ以外の場所を緩めてるんです。足元がぬかるんでるだけでも魔獣は嫌がるんでさ」

「ほうほう」

「カリウス、カマドは出来た?」

「もうすぐ出来る」

 

 ミゼラが作業している間にカリウスは石でカマドを作っていた。

 その作業を見ているとカイトくんの背中が重なって見えた。カイトくんもサバイバルの知識が豊富だったのだ。ここに居たら、きっと良いチームになっていたと思う。

 

「キィ?」

「ワゥ」

 

 こっちを見るでない。吾輩、ちょっとセンチメンタルな気分なのである。

 

「キィ……」

 

 まるで心配でもしているかのようである。けれども、声にはやはり意思が宿っていない。

 

「ワゥ……」

 

 少しくらい、自分の意思を持つのである。

 楽しいでも良い。つまらないでも良い。悲しいでも、むかつくでも良いのである。

 

「ねね、わたしも何か手伝う事ある?」

「じゃあ、一緒に薪を集めに行きましょう。ついでに食料になる物があればそれも」

「食料は買ってなかった?」

「節約出来るなら、なるべく節約するのが冒険者流なんでさ。例え距離的には十分な量があっても、道中で何が起きるか分からないんで」

「色々考えてるんだねー」

「へへっ! でも、こういうのが冒険の醍醐味って言うか、楽しい部分だったりもするんでさ」

「それ、ちょっと分かって来たかも!」

「そりゃ良かった! そんじゃ、行きますか!」

「おー!」

 

 マリアとヤザンは森へ行くようだ。

 さて、吾輩はどうしよう? ここでカリウスとミゼラの作業を見ているのも面白い。だが、マリアとヤザンについて行くのも面白そうである。

 

「そんじゃ、野宿キットを組み立てるか」

「ワン!」

 

 決めた。カリウス達と残るのである。

 

「おっ! 興味あるのか? じゃあ、一緒にやってみるか」

「え? 一緒に? 出来るの?」

「出来るだろ。オルグはオレ達の言葉が分かるみたいだし」

「そうなの!?」

「気付いてなかったのか!?」

「ワンワン!」

 

 喋ってないで、はやくやるのである!

 

「まずは支柱に紐を通して……、組み立ててと……」

 

 カリウスはいくつかのパイプに太い紐を通すと、パイプ同士を金具でくっ付けた。

 それから一番長いパイプを垂直に立てて、それよりも短いパイプを通した紐の先を吾輩に咥えさせた。

 

「そこに釘を打ってあるの分かるか? そこまで持って行ってくれ。紐の先に輪があるから、それを釘の先にあるフックに引っ掛けるんだ。出来るか?」

「ウォフ」

 

 容易い事である。紐を引っ張り、カリウスの言葉通りに輪をフックへ引っ掛けた。

 

「おお、完璧だ!」

「わお! オルグちゃん、本当にわたし達の言葉を理解してるんだ! すごいすごい!」

「相当頭がいいのか、そういうスキルを持ってるのか……。どっちにしても、助かるな」

 

 それから吾輩は四つの釘のフックにそれぞれカリウスから渡された紐の輪を引っ掛けた。

 すると、カリウスは短いパイプを折り曲げ始めた。そこに少し長めのパイプをくっつけ、あれよあれよと言う間にそれなりの大きさの骨組みが出来上がった。

 その上に大きな布を被せて、金具で留めると小さな家が完成した。

 

「後は床だな。ミゼラ、頼むぞ」

「はいはーい」

 

 ミゼラは杖の他に大きな布を持って来た。家の中でその布の一部に杖を当てると、見る間に布は大きくなっていく。

 あっという間に布は地面を覆いつくし、床が出来上がった。

 

「立派なもんだろ。素材に魔獣の皮や毛を使ってるから、こんなのでも外気をしっかり遮断してくれるんだ。それに、魔力に対する耐性と防刃性も兼ね揃えてる。しかも、面白い仕掛けがあるんだ」

 

 そう言うと、カリウスは吾輩とハバキリを家の中へ入れた。

 

「ここに紐があるだろ。これを引っ張ると……」

「ワゥ!?」

「キィ!?」

 

 いきなり、家が消滅してしまった。

 目の前にあった筈の壁や天井がなくなり、星空と暗い草原が広がっている。

 

「驚いた? 壁や天井が無くなっちゃったみたいでしょ! でも、ちゃーんとあるんだよ。ほら!」

 

 ミゼラが指で虚空を叩くと、ふわりと波紋が広がった。

 真似てみると、吾輩の手は虚空の中の何かに触れた。その触り心地はまさしく布である。

 

「外側からは中が見えないんだけど、中からは外が見えるようになるんだ」

 

 そう言うと、カリウスは虚空から吊り下がっている紐を引っ張った。すると、家が戻って来た。

 

「ワゥ……」

「キィ……」

 

 吾輩とハバキリは顔を見合わせた。

 実に面妖な体験をしたのである。

 吾輩、びっくりである。

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