【完結】吾輩は犬である ~転生わんこの自由奔放異世界日記~   作:冬月之雪猫

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第三十五話『吾輩、怖い』

 吾輩は犬である。名前はポチという。

 

「ワン!」

「キィ!」

 

 翌朝、鋼装竜サクリファイスが資材を持って来た。

 鋼の装甲に身を包んだドラゴンにカリウスは目を輝かせている。

 

「いやぁ、かっこいいな!」

「そんなに気に入ったの? その鋼装竜のこと」

 

 マリアに問いかけられると、カリウスは気まずそうに後ろ髪を掻いた。

 

「製造工程を考えると倫理的にアウトだって事は分かってるんですけどね……」

「まあ、見た目はかっこいいよな」

「イグノス武国の戦闘用兵器だから、恐ろしい存在っていう印象があったけど、バッキーもよく見たら可愛いしね」

「分かる! メタルディザイアは正直、滅茶苦茶カッコいいのよね! 個人的には鋼装蟲タイプが好きだったんだけど、今は俄然、鋼装狼が好き!」

「オルグたんのメタルディザイア状態は確かに滅茶苦茶かっこいいもんなぁ」

「走ってる時の背中の形状がなんかすごく好きだ!」

「あと、合体ね! バッキーとの合体、また見たい!」

 

 人間達にとって、メタルディザイアのデザインはかなり好評のようだ。

 その様子にバッキーは我関せずだが、サクリファイスはやや困惑している。

 

「ワン!」

「ギャオ!」

 

 吾輩が朝食に用意しておいた肉を少し分け与えると、サクリファイスは嬉しそうに食らいついた。

 このまま、共に旅をするか?

 

「ギャオ」

「ワゥ……」

 

 残念である。どうやら、すぐに帰還しなければならないようだ。

 吾輩、デザートに取っておいた肉もサクリファイスにプレゼントした。

 

「ギャオン!」

 

 サクリファイスは嬉しそうに尾を振っている。

 

「ワンちゃんとサクリファイスも早速仲良くなってみたいね」

「おっ、資材の間にメモがあったぞ。えっと、簡易工房を広げて、その上に馬車を移動させろってさ」

「簡易工房?」

「このシートがそれっぽい。付箋がついてる」

「これが工房? とりあえず、広げてみるか」

 

 カリウスとヤザンが一枚のシートを広げた。かなり大きい。広げた状態で地面に置くと、そのシートが光り始めた。

 

「魔法陣!?」

「これ、時空系の魔法よ! 信じられないくらい高度な魔法! マリア、Dr.クラウンって、魔法も達者なの!?」

「うん。メタルディザイアもだけど、魔法と科学の融合がドクターの研究なの。だから、科学と同じくらい魔法も得意みたい」

「うわぁ、嫉妬しそう! こんな魔法、わたしには再現出来ないよ……」

「ミゼラ。相手はイグノス武国を帝国と渡り合わせている傑物だぞ。比べたって、仕方ないだろ」

「仕方なくないわよ! どんな立場の人だって、スタート地点は一緒だもの!」

 

 ミゼラは魔法使いとして、きっと大成するであろう。

 スタートが同じとて、修練を重ねた年月には明確な差がある。時間という差は埋まる事が決してない。それでも自分と相手の差を意識出来るのは、類稀な向上心の持ち主である証だ。

 

「あっ、止まった」

 

 カリウスとヤザンがミゼラを宥めている間にシートの魔法が止まったようだ。馬車を格納するスペース以外、所狭しと機械類が並んでいる。

 

「えっと、馬車を移動させるんだよね」

「よし、みんなで移動させよう」

「いいよ。わたしが運ぶから」

「え?」

 

 マリアは片手で馬車を引き摺り、格納スペースに運んだ。カリウス達はその怪力振りに目を丸くしている。

 

「どうしたの?」

「その馬車、相当重い筈ですよね?」

「わたし、剣聖だよ?」

 

 剣聖って、すごい。カリウス達の顔にはそう書いてある。

 

「それで、この後は?」

「えっと、ちょっと待ってくだせぇ」

 

 ヤザンはメモを読み込んでいる。

 

「あとはコンソールの赤いスイッチを押すだけって書いてあります」

「コンソール?」

「赤いスイッチって、これかな?」

 

 ミゼラは赤いスイッチを押した。すると、馬車を取り囲むように配置された機械類の側面が一斉に開いた。

 

「なになに!?」

「おい、ミゼラ! 何をしたんだ!?」

「どうなってんだ!?」

 

 カリウス達が騒いでいる間にどんどん馬車が解体されていく。そして、サクリファイスが持って来た資材が接続されていく。

 気が付くと、シルエットこそ似ているものの、馬車は全くの別物になっていた。

 木の板を張り合わせて、金属のホイールの上に乗せたような馬車が金属製の流線形な乗り物に変わった。

 

「……しゃ、車輪がないんだけど」

「これ、なんだろう? 鉄じゃないよな?」

「なんか、光ってるんだけど……」

「えっと、側面のスイッチを押すと起動するって書いてあるな。起動?」

 

 首を傾げながらヤザンは馬車だった物の側面に移動し、そこにあるスイッチを押した。

 すると、馬車だった物は浮き上がった。

 

「……ば、馬車?」

「これ、馬車なの?」

「まあ、そもそも馬じゃなくてオルグが引いてたから馬車じゃなくて、犬車?」

 

 人間達は困惑している。

 

「ワゥ」

 

 少なくとも、これで車輪が壊れる心配はなくなった。存在しない物は壊れようがない。

 

「ギャオ!」

 

 馬車の修復を見届けると、サクリファイスは飛び上がった。そして、馬車だった物は勝手に動き出し、シートの外に出た。その途端、シートは勝手に折り畳まれ、サクリファイス目掛けて飛んだ。それを見事にキャッチしたサクリファイスはそのまま飛び去って行った。

 

「……改めて、すごいな。Dr.クラウン」

「隣国にこんな凄い人達がいて、よく無事だな。オレ達の国」

 

 たしかに、マリアがいる帝国とDr.クラウンがいる武国と隣接している国は気が気でないだろう。

 吾輩、バッキーと合体してもマリアに勝てるビジョンが全く見えない。そして、それはDr.クラウンにも言える。

 前世の全盛期であっても、恐らくは……。

 

「キィ!」

「オルグ!?」

「ど、どうしたの!?」

「オルグたん!?」

「え? おしっこ!?」

 

 吾輩、やっぱりマリアが怖いのである。

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