【完結】吾輩は犬である ~転生わんこの自由奔放異世界日記~   作:冬月之雪猫

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第三十六話『吾輩、何がなんだか分からない』

 吾輩は犬である。名前はポチという。

 

「グォン!」

「キィ!」

 

 新しくなった馬車はまったく重みを感じない。おまけにどれだけ加速してもビクともしない。

 おかげで吾輩はトップスピードを遠慮なく出す事が出来た。

 草原を駆け抜け、荒野を越え、山を登り、川を飛び越え、ジャングルを突き進んでいく。

 

《『武装:ロケットランチャー』発射準備完了》

 

 巨大な岩石はロケットランチャーで吹っ飛ばす。

 

《『武装:ブレード・クロー』起動。『スキル:ワイルド・レンド』から、『スキル:ワイルド・クロー』へ派生しました》

 

 邪魔な木々は鋼の爪で斬り裂いていく。

 自然破壊は爽快である。道なき道に道を作り、吾輩は一気にフィオレへ向かって駆け抜けた。

 白く山のように巨大な建造物。あれがフィオレらしい。

 

「……あ、あっという間だったな」

「こ、怖かったぁ……」

「窓の外の光景がどんどん飛んで行くんだもんな」

「そう? ちょっと楽しかったわ!」

 

 馬車から降りて来たカリウス達はマリアを除いてすっかりやつれていた。

 少々、飛ばし過ぎたらしい。

 だが、おかげで三日掛かる筈だった距離を一回のエヴォルクで走破する事が出来たのだ。お前達は吾輩を褒めるべきである。

 吾輩はカリウスの手に頭を当てた。

 

「ん? ああ……、よしよし。よく頑張ったな」

「……なんで、カリウスに?」

「オルグたん! よしよしならオレがいくらでも!」

「わたしだって!」

 

 そのまま、吾輩はカリウスに抱き着いた。

 

「抱っこして連れて行けと?」

「ワン!」

「はいはい」

「なんで、カリウスばっかり!!」

「ずるいぞ!!」

「ワンちゃん、どうして!?」

 

 どうしても何も、カリウスの傍が一番落ち着くのだ。

 なにしろ、奇声をあげたりしない。過度なスキンシップもしてこない。ゆっくり出来るのである。

 

「ワゥ……」

「ほらほら、静かにしろよ。オルグ、眠いみたいだ」

「ぐぬぬ」

 

 そして、カリウスは吾輩の意図を一番汲み取ってくれるのである。

 吾輩は眠いのだ。

 

 ◆

 

 目が覚めると、吾輩はバッキーに背負われていた。

 吾輩、カリウスを睨んだ。

 

「……いやだって、重いんだもん」

「ワン!」

 

 重くても抱っこするのである!

 

「キィ!」

 

 バッキーから抗議を受けた。自分の背中は不服なのかと。

 

「ワン!」

 

 そうではないのだ。バッキーの背中に不満はない。不満なのはカリウスがサボった事である。

 

「キィ……?」

「ワン!」

 

 本当である。疑われるのは心外である。

 

「キィ……」

「ワゥ」

 

 まあ、確かに少々硬いし冷たいのが不満と言えば不満であるが。

 

「キィキィ!!」

「ワゥ!?」

 

 バッキーに振り落とされた。酷いのである。

 

「キィ!」

「ワン!」

 

 酷いのは吾輩だと? なんという言い草であるか!

 

「キィキィ!!」

「ワンワン!!」

「おいおい、なんでいきなり言い争ってるんだ!?」

「ちょっと、バッキーもオルグちゃんも落ち着いて!」

「ほらほら、仲良く!」

 

 吾輩がバッキーと言い争っていると、大きな音が鳴った。

 

「なに!?」

「何事だ!?」

 

 何かが破裂したような音だった。辺りを見回してみると、フィオレを囲う壁の一部から煙が出ていた。

 

「なんだなんだ!?」

「火事!?」

「違うよ。あれがフィオレの入り方なの」

「え?」

 

 吾輩達が困惑する中で、マリアは剣を抜いた。フェムトという名の片刃の刃だ。

 

「フィオレには入口がないのよ。だから、壁を破壊して中に入らないといけないの」

「壁を破壊して!? いやでも、だったら煙が出てる所に行けば入れるのでは?」

「もう塞がってると思うよ」

「どういう事?」

「フィオレの壁は迷宮の一部なのよ。破損しても自動で直るの」

「自動で!?」

 

 説明をしながら、マリアは剣を振るった。すると、馬車が通れるくらいの四角形の穴が壁に開いた。

 

「ほら、もう直り始めてるでしょ」

「え? あっ!」

「ほんとだ!」

 

 穴の外周がうねうねと動いている。そして、少しずつ穴が小さくなっていく。

 

「馬車はわたしが押すから、みんなは先に入って!」

「は、はい!」

「うん!」

「りょ、了解でさ!」

「ワン!」

「キィ!」

 

 慌てて壁が塞がる前に入ると、更なる驚愕が吾輩達を待っていた。

 

「なんだぁ!?」

「え……、ええ!?」

「なんだこれ……」

「ワゥ……」

「キィ……」

 

 そこには異次元の世界が広がっていた。

 なんと、壁や天井に建物が建っている。しかも、壁や天井を人間が平然と歩いている。

 街中に縦横無尽に張り巡らされた階段は途中で捩じれたり、途中の段が繋がっていなかったりしながら街のあちこちを繋いでいる。

 更には空中で座禅を組み、奇妙な独り言を呟く老人がいたり、池の上に立ちながら格闘技の訓練に励む青年がいたり、とにかく混沌としている。

 

「な、なんなんですか、この街は!?」

「フィオレだよ。四大魔境の一つ、大迷宮の表層に存在する街。油断しちゃダメだよ。ほら、武器を抜いて!」

「え?」

「は?」

「それ、どういう……」

 

 答えはすぐに分かった。

 目の前にいきなりメガネを掛けた少年が落ちて来たのだ。

 

「それじゃあ、いくよ!」

「ええ!?」

 

 少年はミゼラに向かって、いきなり杖を向けて来た。その先から氷の刃が飛んでくる。

 慌てて割って入ろうとしたカリウスは筋骨隆々な老人に不意打ちでラリアットを喰らい、ヤザンは小さな女の子に蹴り飛ばされている。

 何が何だか分からぬが、吾輩が守るしかない。

 

《レベルアップ承認。保有経験値:300を消費。レベル10になりました》

《条件達成。エヴォルク承認。保有レベル:10を消費。『種族:バーニーズ・マウンテン・ドッグ』から、『種族:ストーム・ベルーガー』へエヴォルクします》

 

「オルグちゃん!?」

 

 エヴォルクして、氷の刃を受け止めると少年は笑みを浮かべた。

 

「お姉ちゃんより面白そうだね!」

 

 そして、爆炎を放って来た。

 

《『スキル:エアリア・ガード』発動》

 

 風で受け流すが、状況が唐突過ぎて集中が出来ぬ。

 

「なんなの!?」

「これがフィオレだよ! この世で最も強くなれる場所。強者達の修練場、大迷宮の入口!」

 

 メガネの少年が杖を振るうと、空から隕石が落ちて来た。

 

「ベルーガーに変身するオルグなんて初めて見た! ワクワクするなー!」

 

《『スキル:レガリア・ストライク』発動》

 

 隕石相手にどうすればいいのかとパニックを起こしていると口からビームが飛んだ。

 

「ガォ!?」

 

 粉砕する隕石に少年はすごく嬉しそうな笑顔を浮かべた。

 吾輩、もう何がなんだか分からない。

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