【完結】吾輩は犬である ~転生わんこの自由奔放異世界日記~   作:冬月之雪猫

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第四十四話『吾輩は世界を斬り裂いた』

 吾輩は犬である。名前はポチという。

 

「ワンワン!!」

 

 駆け寄ると、すっかり大きくなったカイトくんが膝を曲げて、吾輩を抱き締めてくれた。

 

「ワゥンワゥン」

「……生きてた? ポチ……、ポチ!!」

 

 カイトくんが抱き締めてくれている。

 会いたかったのである。ずっと会いたかったのである。ようやく、約束を果たせるのである。

 

「……ワンちゃん」

「良かったなぁ……」

「ポチちゃん……」

「ポチ……」

「えっと……、あなた達は?」

 

 カイトくんはキョトンとしている。

 

「わたしはマリアよ。マリア・ミリガン」

「ヤザンだ」

「ミゼラよ」

「カリウス。ポチと一緒に旅をして来たんだ。ずっと、君を探していた」

「オレを……?」

「ポチは君を家に帰したいそうだ」

「家に……?」

 

 吾輩はカイトくんの服で涙を拭った。

 彼の顔が見えた。随分と苦労していたらしい。少年から青年に変わり、頬には大きな傷がある。

 

「ワゥン」

 

 遅くなってしまった。申し訳ないのである。吾輩はカイトくんの服の袖を引っ張った。

 

「ポ、ポチ?」

 

 外に出る。そこで、吾輩はエヴォルクした。喋れるように、アルヴァトロスへと。

 

「え? え?」

「驚かせてすまない、カイトくん。これはエヴォルクという。吾輩がこの世界に来てから得た力なのだ。この状態でなければ人間の言葉を発する事が出来なくてね」

「ポ、ポチなのか?」

「ポチである。随分と待たせてしまって、本当にすまない。だが、彼らとの旅のおかげで君を家に帰す手段が見つかった」

「……帰す手段って、帰れるのか!?」

「ああ、帰れる。旅の中で必要なピースをすべて揃える事が出来た。過ぎてしまった月日については、吾輩にも取り戻す事が出来ぬが……」

 

 人間の社会というものについて、吾輩はあまり詳しくない。だが、少年から青年へ成長する時間を異世界で費やしてしまった事は彼にとって痛手となるだろう。

 それを思うと、本当に申し訳なく思う。

 

「……帰れるのか、本当に」

 

 カイトくんは涙を零した。

 

「ああ、本当だよ。すぐに準備を始めよう。向こうに戻ったら、少し苦労すると思うけれど、君ならばきっと大丈夫だよ。見知らぬ異世界で今日まで生き延びた君ならば」

「う、うん……」

 

 さあ、準備を始めよう。これが最後の大仕事である。

 

「な、なあ、ポチ!」

「なんだい?」

「……一緒に帰るんだよな?」

 

 吾輩は大きく頷いた。

 

「ああ、もちろんだよ」

 

 今の吾輩はアイドルドッグを超えた、タレント犬である。この名演技はご主人と見たアカデミー賞の受賞者にだって負けない筈だ。

 

「なら……、なんで……」

「さあ、少し離れていてくれたまえ」

 

 これが最後のエヴォルクである。

 

《『???』へのエヴォルク要請。棄却されました。『???』は種族として登録されていません》

 

 当然であろう。まだ、この世界には存在していないものだ。だが、いずれ現れる筈だったものだ。

 

《『???』へのエヴォルク要請。失敗しました。『個体名:ポチ』が『???』へ至る可能性の算出に失敗しました》

 

 ポチではない。雷帝ザインの未来である。

 

《『???』へのエヴォルク要請。棄却されました。『個体名:ザイン』は既に死亡しています》

 

 それでも、生きていれば至れた筈である。その可能性は確かにあった筈なのだ。

 エヴォルクとは、進化を呼び起こすもの。未来の可能性を引き寄せるもの。そうなのだろう?

 

《『???』へのエヴォルク要請。拒絶されました》

 

 やれやれである。

 

「吾輩がそれを望んでいるのだ。だから、いつもみたいに吾輩を助けてくれぬか? なぁ、サラよ」

「ワンちゃん……?」

 

 語り掛けると、Dr.クラウンがシステムと呼ぶ者は長い沈黙の後、ようやく応えてくれた。

 

《『個体名:ザイン』の未来の可能性を定義開始……、成功》

 

 無機質であろうと意識していても、そこにある感情を吾輩は常に感じていた。

 システムと呼ばれているもの。それは創造神と呼ばれた少女の残滓である。

 

《神器『王者の剣』の担い手、メナス・ミリガンの技を受けた後、生き延びた場合の可能性を試算完了。種族名を『ザイン』と命名、完了》

《エヴォルク承認。全経験値を消費。『種族:アルヴァトロス』から、『種族:ザイン』へエヴォルクします》

 

 毛皮が青く染まっていく。

 

『ハバキリよ。今こそ、持ち主に神器を返却する時じゃ』

「……わかったのね、マスター」

 

 バッキーが神器『エクセリオン』を排出し、吾輩に投げ渡して来た。それは紫に輝く爪だった。

 

「ありがとう、バッキー」

「お礼なんて、聞きたくないのね……」

 

 これで準備は整った。

 

「見た。受けた。そして、理解した」

 

 エクセリオンが陽炎のように揺らぎ始める。

 

「それって……、わたしの?」

 

 ああ、そうだ。これは君と君のお爺さんから教えてもらった技だ。

 この技だけがアースへの道を切り拓く事が出来る。

 嘗て、レオ・イルティネスという少年が異界へと神獣を追放する為に編み出した技。

 勇者の奥義。

 

「ガイス・レヴァリオン」

 

 吾輩は世界を斬り裂いた。

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