【完結】吾輩は犬である ~転生わんこの自由奔放異世界日記~   作:冬月之雪猫

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第八話『吾輩、急ぐのである』

 吾輩は犬である。名前はポチという。

 

「ワン!」

 

 吾輩、土を掘るのである。

 

《『スキル:ディグクロウ』発動》

 

 掘って、掘って、掘りまくるのである。

 そろそろの筈である。

 

《『スキル:ディープトレイル』発動》

 

 集落からの帰り際、地下水の匂いを辿ってみたのである。地下深くのそれを、そこにあると分かると吾輩の鼻は嗅ぎ分ける事が出来た。

 どうやら、単なる水溜まりではなく、地下水脈だったようだ。その匂いは拠点の傍を通っていた。

 水が飲み放題になれば、カイトくんはきっと大喜びなのである。

 

「ワフン!」

 

 カイトくんの喜ぶ顔を想像すると気合いが入る。

 寝る間も惜しみ、吾輩は更に掘り進む。

 

「ワン!」

 

 遂に辿り着いたのである。

 地下を流れる水流。その通り道は思いの外広大だった。

 

《『スキル:ウォール・グリップ』発動》

 

 壁を走り、水流の下へ向かう。中々の激流。飛び跳ねて来た水を試しに飲んでみると、冷たくて絶品であった。

 吾輩、喜び勇んで壁を駆け上がる。

 

《『スキル:疾走』発動》

 

 かなり深く掘ったものだが、あっという間に地上へ戻って来る事が出来た。息もまったく乱れておらぬ。

 ここに来る前はカイトくんが投げたボールを落ちる前に取る事が出来なくなっていたが、今ならば出来るかもしれぬ。色濃く感じていた死の気配も遠ざかって久しい。

 

「ワンワン!」

 

 吾輩、元気いっぱいなのである。

 

 ◆

 

 カイトくん、起きない。

 

「ハァハァ……、グッ……、ハァハァ……」

 

 息が荒く、汗の量も尋常ではない。恐らく、限界が訪れたのである。

 吾輩から遠ざかった死の気配がカイトくんに忍び寄ろうとしている。

 

「ワゥ……」

 

 嫌である。

 それは吾輩のものである。カイトくんのものではない。けれど、吾輩にはカイトくんを癒す術がない。

 

「ワン!」

 

 人間は人間でなければ救えない。いずれではなく、今すぐに森を抜けださなければならぬ。そして、人間にカイトくんを助けてもらわねばならぬ。

 だが、この身は犬。カイトくんを背負って動く事は出来るが、乗り心地は最悪であろう。この状態のカイトくんに無理はさせられぬ。

 どうしたらいい? どうしたら、カイトくんを救える? 人間の下にカイトくんを送り届けるには、この小さな体が恨めしい。もっと、大きな体であれば!

 

《保有経験値:238,168,236,933,896,324。レベルアップに使用しますか?》

 

 なんでもいい。カイトくんを救う手立てがあるのならば、なんでもいい。

 

《レベルアップ承認。保有経験値:300を消費。レベル10になりました》

《条件達成。エヴォルクを使用しますか?》

 

 なんでもいい。

 

《エヴォルク承認。保有レベル:10を消費。『種族:バーニーズ・マウンテン・ドッグ』から、『種族:スト-ム・ベルーガー』へエヴォルクします》

 

 途端、体が熱を怯えた。まるで、炎に焼かれているかのような痛苦。表皮だけではない。眼球や喉を焼かれ、あらゆる神経が火花を散らしている。

 そして、吾輩の肉体は死を迎え、吾輩の肉体は生を得る。

 視界が高い。見下ろした先にある前足の爪は透き通るような青の光を宿している。毛皮の色も黒が多かった筈なのに、今は青白さが目立つ。

 

《エヴォルク完了。制限時間:12分》

 

 吾輩、分かる。これは一時的なものである。

 いつものように、吾輩がやりたいと望んだ事が実現している状況なのだろう。

 吾輩がやりたい事とは、即ち――――、

 

「ガオン!!」

 

《『スキル:エアリア』を会得しました》

 

 前足ではなく、風がカイトくんを持ち上げた。そのまま、背中に降ろす。今の吾輩はカイトくんよりも大きいようだ。そして、小屋の床よりも幾分か寝心地が良さそうである。

 風は吾輩の意思のままに動いた。優しくも絶対的に吾輩とカイトくんを繋ぐ縄とする。

 

「ガオン!!」

 

《『スキル:エアリア・サーチ』を会得しました》

 

 風が匂いを運んでくる。森の彼方の匂い。

 

「ガゥ」

 

 カイトくん、待っていて欲しいのである。すぐに人間の下へ連れて行くのである。

 

《エヴォルク。制限時間:11分》

 

 吾輩は駆け出した。

 カイトくんに負担を掛けないように慎重に、されども最速で森を駆け抜けていく。

 

《エヴォルク。制限時間:10分》

 

 ウサギや鹿の集落を超えた。その先には別の集落があり、そこにもウサギや鹿の姿があった。

 やはり、どの生き物も二足歩行で歩いている。実に面妖であるが、今は気にしている場合ではない。

 いくつかの集落を駆け抜け、とうとう森を抜けた。

 

《エヴォルク。制限時間:9分》

 

 人間はどこだ?

 

《『スキル:エアリア・サーチ』発動。対象:人間。失敗。サーチ範囲内に人間はいませんでした》

 

 微かにすらも香らない。だが、人間はいる筈だ。ウサギや鹿は確かに言っていた。人間の死体から武具を集めると。

 吾輩、走る。森の外に広がる草原を超えていく。すると、小高い丘が見えた。その丘に飛び乗ると、そこには絶景が広がっていた。

 

《エヴォルク。制限時間:8分》

 

 ここは山の上だった。それも、雲の上にある。

 

「……ハァ……ハァ」

 

 カイトくんの呼吸音が小さくなり始めている。吾輩も息が苦しいが、これは恐らくは走ったからで……、ある筈だが……。

 深く息を吸い込む。そして、吐く。それでも、苦しい。走ったからではない。森の中では当たり前に出来ていた呼吸が酷く難しくなっている。

 

 ―――― 神聖なる木々。

 

 ウサギや鹿が言っていた言葉が気にかかった。

 

《エヴォルク。制限時間:7分》

 

 とにもかくにも、まずは降りるである。

 

《『スキル:ウォール・グリップ』発動》

 

 急がなければならぬ。

 

《『スキル:エアリア・サーチ』発動。対象:人間。失敗。サーチ範囲内に人間はいませんでした》

 

 急がなければならぬ。

 

《エヴォルク。制限時間:6分》

 

 急がなければならぬ。

 

《『スキル:エアリア・サーチ』発動。対象:人間。失敗。サーチ範囲内に人間はいませんでした》

 

 急がなければならぬ。

 

《エヴォルク。制限時間:5分》

 

 急がなければならぬ。

 

《『スキル:エアリア・サーチ』発動。対象:人間。失敗。サーチ範囲内に人間はいませんでした》

 

 急がなければならぬ。

 

《エヴォルク。制限時間:4分》

 

 急がなければならぬ。

 

《『スキル:エアリア・サーチ』発動。対象:人間。失敗。サーチ範囲内に人間はいませんでした》

 

 急がなければならぬ。

 

《エヴォルク。制限時間:3分》

 

 山の麓もまた、森であった。その森を全速力で抜ける。

 涙が溢れ出した。カイトくんの呼吸の音が途切れ途切れになっている。

 

《『スキル:エアリア・サーチ』発動。対象:人間。失敗。サーチ範囲内に人間はいませんでした》

 

 どこにいるのだ!? 人間はどこだ!?

 

《エヴォルク。制限時間:2分》

 

 ああ、ダメである。お願いだから、もう少し待って欲しいのである。

 

《『スキル:エアリア・サーチ』発動。対象:人間。失敗。サーチ範囲内に人間はいませんでした》

《エヴォルク。制限時間:1分》

 

 体から光が抜けていく。体が小さくなり始めている。

 カイトくんの呼吸の音が聞こえなくなった。

 目の前が真っ暗に――――、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《『スキル:エアリア・サーチ』発動。対象:人間。成功》

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