「…ってことをしろちゃんが話してて…かーくんはその…心当たりってある…?」
かーくんが来る前にしろちゃんが話してくれた出来事を軽くかーくんに話した後、そう問いかける。
っていっても…なんとなく返答は分かる気もするんだけどね。
「えっと…それって先週…いや今週か。時系列的には今週日曜日の夕方辺り、ここからいちばん近いコンビニ…で合ってますか?倉田さん。」
「…!はい…!その通りです…!ってことは…。」
「そうですね…まぁその…言ってくれた男の子は僕の事で間違いないとは思います…。」
どこか照れるような、いつもより少し落ち着かない…ような様子でかーくんはそう答える。
うん…やっぱりそうだよね。かーくんはそういう子だもん。何も驚かないな~。
見守るみんなも驚いてはいるが、でも一方で納得は出来る…みたいな表情。まあ…かーくんって一言話すだけでも「優しい」ってオーラは十二分に伝わってくるから、驚きはしないよね。
「やっぱり…!この間はありがとうございました…!」
「いえいえそんな…大したことをやった訳じゃない…ので…!本当にただその…これは自分への戒めみたいなものなので、そんな尊敬されることじゃ…。」
「戒め…ですか?それって…。」
戒め…ってなんだろう。しろちゃんの呟きに続くような形で、私もかーくんが言った戒め…という言葉を頭で何度も咀嚼する。
そのとき、お店の入口の方から扉の開く音がした。
あ…そう言えば私とかーくん、バイト中だった…完全に忘れてたよ…。
「…もう少し話したいところだけど、お客さんが来たから私とかーくんは戻らないと。」
「そうですね…店長さんもこっちに合図してますし…ごめんなさい皆さん、こんな途中で…今日はわざわざありがとうございました!」
「いやいや~!あたしらが行きたかったから来ただけだって~!それに目的は達成できたし!」
「寧ろ、私たちの方こそいきなり押しかけてしまって悪かったわ。」
「2人共!バイト頑張ってね!」
「ま、また…!」
4人に対してペコペコお辞儀をするかーくんを連れ、ひとまず店長の元へと向かう。
いや待って…?
とーこちゃんの目的…はいいとして、しろちゃん…今またって言った…?
少しだけそこに引っ掛かりを覚えながら、私とかーくんはバイトへと向かった。
_____
朝早くから思いがけない来客があったバイトは何とか終わり、今は七深とお店を出ようとしているところ。
もうなんていうか、七深…とこんな感じで帰るのも慣れてきている自分がいる。名前呼びも慣れないし、仕事の方もまだまだとても慣れたとは言えないというのに。
ただ今日は不思議といつもみたいな大きいミスは無かったかのようにも思える。七深のカバーがあってこそだけど。
あれかな、元々ミスが多すぎて気づけてないだけなのかな。テストの個票で0点の科目があったら、他に32点の科目があっても目に入らない的な感じ?でもあれって、0点怒るついでに結局32点にも触れられて怒られるよね。じゃあダメじゃん。
ちなみに今日来てくれた七深のバンド仲間は、僕や七深と別れた後、今から2時間くらい前にお店を後にしていた。みんななんていうか…四者四様?良い子たちだったな。
「いや~今日はいきなりごめんね~かーくん。でもやっぱりかーくんはかーくんだなって、そう思ったよ~!」
「それは全然気にしてないから大丈夫だけど…かーくんはかーくんって?」
「そのままの意味だよ~。さりげない気遣いが出来るの、流石だな~!」
「それを言うなら七深だっていつもバイト中、僕のことこっそりフォローしてくれてるでしょ?それこそ今日だって…」
そんな会話をしながら、七深と一緒に裏口から店を出る。
すると。
「「…倉田さん?(しろちゃん?)」」
裏口の付近ですっごくオドオドというか、恐る恐る
僕たちが思わず声をあげると、この声に少しだけビクッとした倉田さんが「あっ…2人共!」と小さく反応した後、そそくさとこっちへ向かってくる。
…倉田さんたちが帰ったのって2時間くらい前だよな?
まさかそこからこの時間まで待っていたのかと、少し不安というか、心配になる。
「しろちゃん、こんな所でどうしたの?しろちゃん達が店を出たのって、2時間くらい前だったと思うけど…。」
「うん…そうなんだけど…。その…えっとね…。」
七深の問いかけに対して、僕の方をチラっと見ながら言葉を濁す倉田さん。
もしかして…倉田さんが待ってた目的って…僕が関係したりしてるのかな。
いやそんな訳ないだろと、心の中で自分自身に反抗しつつ、一応聞いてみることにする。
「もしかして…倉田さんがここで待ってた…?目的って、僕が関係したりしてます…?あ、いや全然違かったら本当に『図に乗るなお前』って言ってもらって良いんですけど。」
「あ、いやその…ち、違くないです!そんなこと私なんかが言える訳…。えっと…その…神明くんに…お願いがあって…。」
倉田さんの目的が自分に関係があったことに少しホッとしながら、「お願いってなんだろう?」って思う。
僕の隣にいる七深も、「しろちゃん何をお願いするの…?」と今すぐにでも言い出しそうな怪訝な表情を浮かべている。多分僕と一緒で倉田さんが何を頼むのか検討もついてないんだろうな、これ。ちょっと新鮮。
「えっと…その…し、神明くんの連絡先を教えてくれませんか?」
お願い内容は、連絡先の交換だった。
案外普通のお願いで安心しつつ、僕なんかの連絡先を貰っても嬉しいのかと疑問にも思う。
「それは全然大丈夫ですけど…むしろ僕なんかの連絡先を貰っても頂いても良いんですか?っていうか…。」
「むしろ…神明くんのやつじゃなきゃダメなんです…!私なんかに連絡先を渡すなんて…迷惑じゃなければ…ですけど…。」
「い、いや!それならその…こっちには断る理由もないので…。えっと…はい、これで大丈夫ですかね…?」
「…しろちゃんもなかなか大胆だねぇ~。」
僕と倉田さんのやり取りを見て七深がボソッと何か言ってるような気もするが、取り敢えず一旦それは気にしないことにして、倉田さんに僕のLIMEのQRコードを見せ連絡先を交換する。
元々僕は友達がいる方ではないので、友達欄にあるのも男の名前ばかり。
もしかしなくても、女の子の連絡先は七深に次いで倉田さんが2人目だ。
それにしたって…倉田さんは僕の連絡先なんか貰ってどうするんだろう…。
目の前で少しだけわちゃわちゃしながらスマホを操作している倉田さんを見守りつつ、そう感じずには居られない。
倉田さんを僕が助けたと言えば聞こえは良いが、アレを助けた判定にしたら流石にいろんな人に怒られるレベルだし…あれくらいはみんな普通にやっていると思う。だって僕がやれてるんだもん。
そんなことを考えていると、倉田さんが一通り操作を終えたのが分かった。
「あ、ありがとうございます、神明くん…!そ、それでは…ごきげんよう!」
連絡先を交換し終えた倉田さんは電光石火の速さで僕たちの元から去っていく。
ただその背中は、どこか嬉しさを帯びていて。僕なんかの連絡先にも価値がまだあったのかと、ちょっとだけ嬉しさを感じる反面。
…僕なんかの連絡先を交換するために、わざわざここに残ってくれていたの…?
なんというか…今になって、すごく申し訳なさも感じてくる。だって有名人のサイン待ちでもないのに2時間も待たせてしまったんだよ?。これはもう、僕が有名人になって僕の連絡先の価値を上げることでしか償うことが出来ないのではなかろうか。ビックになろう、僕。じゃあその前にバイトの仕事を覚えろって話ですよね。何も言えない。
「…七深さんや。」
「どうしたの?かーくんさん。そんな老夫婦みたいな聞き方して。」
「えっと…倉田さんって…もしかしなくても変わっている人?」
「うーん…そうだねぇ…。私が言えたことでは無いけど…変わっている子ではあると思うよ~?」
「…やっぱり?」
「でもしろちゃんとかーくんって結構似ている所あるからなあ~。…私的にはちょっと複雑…なの…かな?」
「同じようなこと桐ケ谷さんたちも言ってたけど…そうかなぁ…。あと最後、何か言った?」
「ううん、独り言だから全然気にしないで~。ま、どこが似ているかはそのうち分かるよ~。それこそさっきの会話でも似ている所、結構あったし…。」
「え!?そうかなぁ…。うーん…。」
そんなことを七深と言い合いながら、お店の裏口に留まっているのもアレなので、ひとまず歩きだすことにする。
突如増えた連絡先の相手であり、僕と似ていると言われている倉田さん…。
一体どんな人なんだろうと、頭の片隅で思い浮かべながら七深といつも通りの帰路についた。
次もましろちゃん回ですね。
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