予想以上に忙しく、まさか年明けになってしまうとは…。
本当に申し訳ない…。
倉田さんが言ってくれたお店に入り、カウンターで互いに飲み物を購入した後、窓際の席に向かい合う形で着席する。
ふとお店の外を見ると、小雨ではあるものの雨が降り始めていた。確かポーチの中に折りたたみ傘を入れていたはず。だからまぁ濡れて帰るという悲しい事態にはならなそうで安心。
ちなみに…店内の雰囲気はオシャレで落ち着いたお店、という感じだ。僕はJK御用達!みたいな、見るからにSNS映えしそうな派手すぎるお店は苦手なので、倉田さんのお店選びのセンスに心から感謝という他ない。
ちなみにオシャレなカフェもSNS映えするだろ!って意見は受け付けていません。モノの例えってやつだよこれは。SNSやってないから分かんないだけだけど。
ただ…お店の中に入ってからというか、駅からお店までの道中もそうだったんだけど…。
僕…コミュ力無さすぎないか。コミュ力無さ過ぎてアレだもん、倉田さんとコミュニケーションの読み合いみたいな感じになちゃってるからねこれ。今も着席した所までは良かったけど、どっちが先に話を切り出すか読み合いみたいになちゃってるし。視線も全くと言って良いほど揃わないし、揃ったら揃ったで目を背けてしまう。
話があるって言ってくれたのは倉田さんだけど、こーゆーときは男側がリードするべきなんだろうなぁ…。女の子側から男の子に話を切り出すって、多分そんな簡単なことじゃ無いと思うし。それこそ女の子にモテる男の子っていうのは、こーゆーときにリード出来る子なんだろうね。つまり全くそれを出来てない僕は…そういうことですね。
…倉田さん、流石に引いちゃってる…よね。
モテる男の子を目指しているつもりは毛頭無いが、会話すらまともにこなすことが出来ない人なんて、男の子としての魅力以前の問題だ。
そんなことを考えつつ、ただいつまでも2人で達人の間合いをしてる訳にはいかないので。
取り敢えず勇気を振り絞って話しかけてみることにする。
「…すみません倉田さん。なんていうか…僕、話すのがあんまり得意じゃなくて。だからその…退屈させちゃってますよね…?ここに来るまでもなんていうか…ぎこちない会話になってしまいましたし…。」
「え!?いや全然そんなことないです!そもそも神明くんに話があるって、お礼がしたいって言ったのは私なのに…まともに話を切り出すことも出来てなくて…私の方こそ本当にごめんなさい…。」
「そんなことないです!それこそ、僕の方こそリードしなきゃいけないのに…。」
「それを言ったら誘った私の方が…。」
「いややっぱり僕が…!」
「いや私が…!」
「「ふふっ」」
なんていうか、倉田さんにせめて一言詫びようと思って切り出した会話が、いつの間にか倉田さんと謝罪合戦になっていて、しかもお互いに自分の非にするための謎の掛け合いが始まっていて。
交錯していた2人の視線も、気づいたら重なることが多くなっていた。
全くと言って良いほど揃わなかった視線がこんな会話で重なって…しかも2人して真剣な目線なんて…。
思わず笑みが吹き出してしまった。
ただそれは、前に座る倉田さんも同じ様子だった。
話していた感じ…もしかしたら。もしかしたら倉田さんは僕と…。
「何をしているんでしょうね僕たち。互いに自分の非を認め合うっていうか…。」
「傍から見たら私たち、一体何をしているんだろう…って思われていると思います。」
「そうかもですね!…ちなみに倉田さん。」
「なんですか?神明くん。その…私も1つ、聞きたいことがあって…。」
「多分…なんとなくですけど、聞こうとしていること、もしかしたら同じだと思います。えっとですね…倉田さんはその…僕と同じで、人と会うときとか話すときに…引かれたらどうしようって、自分なんかが…とか、そんなこと思っていたりしませんか…?それこそなんていうか…自意識過剰過ぎてアレなんですけど、今日とか…。」
「!は、はい、その…通りです!昨日に神明くんと約束をして貰った後からずっとそれが心配で心配で…。私ってこんなだから、神明くんに引かれちゃうかもって…。でも…ということは…やっぱり神明くんも…?」
倉田さんが恐る恐るといった感じで僕に聞く。
この感じ、やっぱり他人とは思えないって、そう思う。倉田さん側からしたらいい迷惑かもだけど。
なんて表現したら良いんだろう…自分なんかがって、常に不安に感じちゃうっていうのかな。多分そんな感じ。
「はい…。僕もその…倉田さんと明日会うって決まってから、僕が倉田さんが思ってくれているような高尚な人間じゃないから、失望させちゃわないかなって、すっごく心配でした。今もですけどね。」
「そうなんだ…。…もしかして、私たち、似た者同士…なのかな?
「ふふっ、そうかもですね。なんていうか…倉田さんとは波長が合うような、そんな気がします。」
「わ、私もです!神明くんはその…話しやすいっていうか…。その…私、いつもならそもそも男の子と1対1で話すなんて、きっと出来ないと思うんですけど…神明くんとは今もきちんと話せてて…。」
え、倉田さん、僕と同じで人と話すの苦手だったんだ…。僕なんかよりもよっぽど話せていると思うけど…。
でもそれなのにバンドをやっているってことだよね。何の楽器をやってるのかは分からないけど、挑戦している時点で僕よりも遥かに立派で、逃げ出した僕では比較対象にすらなり得ない。
「倉田さん、男の子と話すの得意じゃないんだ…?全然気付かなかった…。」
「他の人と話すのがそもそも得意じゃなくて、特に男の子とはって感じなんですけど…あんまり得意じゃなくて…。それでその…これに関係あるって訳じゃないですけど…神明くんに、1つお願いがあって…聞いてくれますか?今日私がお礼をするための会う約束だったのに、私がお願いしちゃってごめんなさい…!」
「全然大丈夫ですよ!元々お礼されるようなことでもないですから、お気持ちは十分伝わってます!それでその…お願いって…?」
「ありがとうございます…!その…お願いなんですけど…えっと…し、神明くん!私と友達になってくれませんか…?」
不安気な表情で、でも勇気を振り絞った、という表情で倉田さんは僕を見つめる。
意外っていうか、予想外なお願いが飛んできた。
でもなんていうか、僕がこのお願いを断る理由が正直ない。むしろ僕なんかで良いのかなって思う。
「倉田さんと友達に…?は、はい!僕で良ければ、ですけど…。」
「え、こんなあっさり…良いんですか…?ありがとうございます!」
倉田さんがニコッとした笑顔で僕にお礼を言う。
こんなに喜んでもらって良いのか僕なんかで。
「むしろ喜んで、って感じです!倉田さんとなら…って思ってましたし、なにより僕、全然友達と言える友達が居ないので…。」
「そうなんですか…?意外…。」
「僕…中学に上がったときから誰かと深い関係になるのが怖くて…。だからその…今は友達と言える友達なんて…それこそ七…広町さんくらいしか…。」
「…ななみちゃんが唯一、なんだ…。」
なんか一瞬倉田さんの口からななみ…っていう言葉がボソッと聞こえたような。しかも、ちょっと表情も怖かったような…?
気のせいかな。だよな七深。
「?倉田さん?どうかしました?」
「い、いえなんでもないです!あ、でもその…折角友達になったのに、お互い敬語っていうのはちょっと他人行儀な気もしませんか…?互いにさん付けっていうのも…。」
なんか似たような流れ、どっかであった気がするな。
だよな共犯者さん。
「たしかにそう…ですね。でもその…僕、タメ口は使い慣れてなくて…。名前呼びとかも特に…。」
「…その割には、ななみちゃんとはタメ口だったような…。それに…ななみちゃんのことは下の名前で呼んでましたよね…?」
倉田さんから今日一の圧を感じる。
これは逆らってはいけない圧だ。
「え、いやその…これに深い事情…いやその、は、はい。その通りでございます。」
「神明くん。」
「は、はい。」
「私たち、今日から友達ってことで良いんですよね…?」
「は、はい。」
戦国時代の籠城戦みたいな感覚だこれ。
「ならその…今日から敬語禁止ってことで!その…良いですか?」
「は、はい!それはもちろんって感じでs…だけど、でも名前呼びは…その…良いの?」
「う、うん…。友達なのに敬語はその…嫌だけど、でもまだ私たち、出会ったばっかりだから…。だから、互いの呼び方を変えるタイミングは神明くんに決めて欲しいなって。あ、私は今からでも大丈夫だけど!」
「今からは流石に…でも良いの…?僕に任せたらいつになるか…。」
「うん…私待ってるから。だからね、神明くん!これから友達として、よろしくね!」
「ありがとう…こちらこそよろしく!」
そんなこんなで、僕に新しい友達ができた。
それは、僕なんかよりも心優しい女の子。
でもなんていうか…ここ1か月で2人も女の子の友達ができるなんて、僕は一体どうしちゃったんだろう。
読んでくださっている皆さま、今年もよろしくお願いします!
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