このお話の根幹、主人公くんと七深さんに関するお話。
結論、ぜんっぜん駄目でした!
いやなんかもうアレだね、清々しいくらいにミスを連発しまくって笑えない。
今日一日で割った皿の枚数と注文ミス、接客ミスの数は途中から数えるのを止めたほど。いやまあそんなことはなくて、実際は最初から順に3、6、4なんだが。なにこれ
「え、えっと~、かーくん今日は大変だったねぇ~。」
隣を歩く
ちなみに今の状況は、広町さんと退勤時間が重なり「かーくん、一緒に帰らない~?」と誘われたので一緒に帰宅中って感じだ。しかも帰る方向がほぼ同じだったからね。凄い偶然。
まあともかく、超優しいけどふわふわしてそうな広町さんが気を遣うくらい今日の僕は酷かった。
店長さんに「キッチンとホール、どっちを先に覚えたい?」って聞かれたとき、店長さんも「普通にやれば大丈夫」って言ってるし、なによりイメージ的にまだ簡単そうだからって理由でホールを選んだんだけど…。
その結果これである。
「本当に面目ないです…。店長さんは、
「まぁかーくんほど派手にやらかす子はいないかも…?あっ、いや別に攻めてる訳じゃないからね??全然気にしなくて良いよ~!。……多分、私の教え方が悪かったんだろうし…。」
「いやいやそんな訳ないですよ本当に。」
なにより教えてくれた広町さんに大変申し訳ない。こんな僕の教育係を任されたがためにこんな気苦労を…。
正直教えてくれることが高度すぎて、各種才能が普通未満の僕にはほとんど理解できなかったけど。
でもこれは100%自分の問題。広町さんに非はゼロだ。
「だって広町さん、このアルバイト初めて1年でもうバイトリーダーなんですよね?ここって他にもアルバイトの先輩方がいるのに…。
「そっか…やっぱり、私は…。」
…?広町さん、何か今言って…?
「広町さん?」
「あぁ〜、ううん、こっちの話だから。うーん…そうだと良いんだけどねぇ〜。今まで私が教えた子ってさ、全員がこのバイトを辞めちゃうか、他の人に教育係を頼んでて…かーくんはそう言ってくれるけど、きっと私にも原因があるはずなんだ~。」
「?そ、そうなんですか…?広町さん優しいし、理由が思い浮かばないですけど…。うーん…なんでだろう…。」
そんな事情があったのか。まぁただの偶然でしかないとは思う。
高圧的とか、仕事が出来ないとか、そういった要素があるんだったらまだ分かるんだけど…。
少なくとも今日一日、こんな要素は皆無だったし、むしろ対極の位置にいると言えるのが広町さんだ。
そんな感じで僕が足りない頭で考えこんでいると、隣を歩く広町さんは何か思いついたかのように立ち止まった。それを見て僕は慌てて止まるが、それでも僕と広町さんに数歩ほど間が空く。しかし広町さんはその間を気にすることなく僕に話しかける。
「ま、そのことは良いんだ~。なんとなく察しはついてるから~。」
「そ、そうですか…?」
「うんまあ大体ねぇ~。……。それより…かーくん…。いきなりになっちゃうんだけどさ……
「普通、ですか…。…急ですね。」
「そう、普通。まぁほんとに、軽く気になっただけだからそんな深く考えずに、気軽に答えてよ~。」
口調こそ軽めだが、今日一日見ることの無かった真面目な表情で広町さんにそう問われる。
「深く考えずに」と広町さんは言っているが、これは軽い回答をしてはいけない、そのような雰囲気を感じとって。
僕は何か、広町さんにとって引っ掛かることを言ったのだろうか。まぁ気にしても仕方ないものと、一旦切り捨てて。
僕は深く考える。
普通。それは僕にとっていちばん欲しいものだ。
普通。それは僕にとっていちばん嫌いなものだ。
他者と比べ、あらゆる面で劣る僕にとって、
「
みんなはそうやって言うけど、僕はその
ただそんなものでも、欲しがってしまうのが人間の性。
ただそれさえも今まで理解してもらえなかった。
だが、この目の前にいる
まだたった1日だけの、細く薄い付き合いの彼女だが、
そしてその優秀さをひけらかすことのない、優しい人であることも。
だからこそ、彼女にとって
まだ出会って1日目の僕に、この問いで
夕日も落ち、暗くなってきた道の途中で、2人の間に長い時間が流れる。
____
思わず聞いてしまった、というのが正しいのかな。
まだ出会って1日目の
彼のことは正直言ってまだ分からない。大雑把に言うと、面白い人!っていう印象なのかな。
今日のバイトの時もなんて言うか、常にエンジン全開?って感じ。
教えて貰った仕事をこなす為に一生懸命働いて、それが空回りしてお皿を割ることもあったし、注文をミスってしまうこともあった。
仕事もとても完璧とは言えず、皆が言う
でも常に全力って感じで。それは私には決して出来ないもの。だって私が全力を出してしまったら…皆…。
…私にとってそれは懐かしく、とても眩しいもので。
そして何より、彼には私と同じように「
だからこそ私は彼に興味を持ったのかもしれない。
だからこそ私は彼に質問を投げかけたのかもしれない。
今まで誰にも理解されることの無かった、「
____
「僕は、
「身勝手で…残酷…。」
広町さんに問われ、どれだけの時間が経った後だろうか。
私は広町さんに、真っ直ぐ彼女の赤色に光る瞳を見つめながら、自分なりの回答をぶつける。それが広町さんの欲しているものなのかは、僕には分からない。分かるはずもない。
でも、今の自分が思っている感情を、隠すことなくさらけ出して、僕は述べる。
たとえそれが、広町さんに一蹴されてしまうようなものだったとしても。
「そうです。人間なんて人それぞれで、誰もが同じなんてことは決して無いのに、皆は無意識のうちに皆における基準を作り、それに合致するものを
「…それでもかーくんは、
「…はい。これだけ普通ってものに振り回されておいてって話なんですけど…やっぱり、僕は
とりあえず自分の思うこと、言いたいことを伝えた。
自分の想いを出し切ったからか、少し息が上がっている。
これを聞いた彼女は一旦どのような表情をしているだろうか。伝える前は真っ直ぐ見れた彼女の瞳を、今は見ることが出来ず、思わず下を向いてしまう。
…みっともないって、思われたかな。
だが、彼女は。
「ううん、笑わないよ、私は。私だけはかーくんの話、絶対に笑わない。」
そんな優しい言葉をかけながら、彼女は僕にそっと近付き、優しく手を取ってくる。
だがそれは優しくも力強く。
それに驚き、思わず手を離そうとした僕の手を、決して離さないように。
どうしてそんなに寄り添ってくれるの…?
誰も僕の気持ちなんか…分かって…
そんな思いで、勇気を絞り僕は顔を上げる。
するとそこには。僕なんかの話を聞いて、安心したような、仲間を見つけたかのような、優しい表情をしている彼女がいて。
なんで。どうして。そんな表情をしているの…?だって、彼女の立ち位置は、僕の立ち位置とは真逆と言って良いもので、分かりあえるはずなんて…
「どうして…ですか?もし、もしその言葉が哀れみから出たものだとしたら、それはありがたいもの…ですけどそれは…」
「ううん、これは決して哀れみなんかじゃないよ。同情や気を遣ったものでもない。少なくとも私は、私だけは、かーくんの話をバカになんてできないし、笑うこともできないんだ。」
「…どうして。」
「だって私も…かーくんと一緒だから。」
「一緒…?」
「そう、一緒。…私もね、
広町さんはそう言って僕の手をそっと離し、いつの間にか完全に日が沈み、月が薄っすらと見えてきた夜空に向かって話を続ける。
月は
「広町さんが…普通に?」
「うん。だってかーくん、さっき言ってたじゃん。普通に満たないものには満たすように求めてしまうって。これって何もそれだけじゃなくて、
…なんて僕は自己本位な人間なのだろう。視野狭窄な人間なのだろう。
普通を満たさない人間に普通になることを求めるなら、普通を超える人間にも普通であることを求めてしまうはずだ。
だからこそ、目の前にいる彼女も、自分の
あぁ。
僕は無意識に、僕と彼女は生きてる世界が違うと、才能に差がありすぎると、線を引いていたというのに。
実際の彼女は、僕と同じように苦しんでいて、尚且つそれを共有することができる、唯一と言っても良い子ではないか。
広町さんが話を終え、再びこちらへ向く。
僕は、心の中で自分の気持ちを整理し終えた。
自分の中に湧き上がったこの想いを彼女に伝えようと、話を続ける。
「そっか…。そっか、広町さんも…僕と一緒なんですね…」
「そう、一緒なんだよかーくん…。…私は今まで、
「僕も…今まで、
「私もだよ、かーくん。」
「でも…。でも広町さんは違う。広町さんは僕の願いを、気持ちを、世界で唯一って言っても良いくらい、心から理解してくれる人だって、そう思いました。」
こんな僕の気持ちを理解してくれる人なんてそうそういない。その根元からとなればもっとだ。
「それこそ私もだよ〜。多分これから先、数え切れない人と出会うと思う。けど、私と同じ想いを共有できるのは、多分かーくんしかいないかもって、なんか、そんな気がするんだ。」
「僕もです。だからこそ、だからこそ広町さんに1つお願いがあります。」
「僕の、共犯者になってくれませんか?」
七深さんが常々目指している「普通」というものは、時に便利で時に残酷…という印象があります。
「普通にやれば出来る」という言葉は特に怖くて、自分が出来なかった場合に拡大解釈をしてしまえば、「自分は普通すら出来てない」ってことにも繋がってしまうので、私自身も怖いなって常々思います。
っていう想いを込めた駄文です。
ここまで見ていただいた方には感謝しかないです。本当にありがとうございます。
次の話以降はもうちょっと明るい感じで行くと思うので、もし良ければ見ていただけると嬉しいです!
※誤字報告・感想もお待ちしてます!