青い青春のひとかけら 作:逆襲
「うう……」
激しく吹き荒れる砂嵐。
ここ、夕暮れのアビドス砂漠に立っているのは先生――ひとりだった。
どうしてこんなところにいるのか。その理由は、数時間前にさかのぼる――。
~~~~~~
対策委員会の教室にて。
「それで、あの場所で見つけた石が、まだ埋まってるか探しに行くんだっけ?」
たまたまアビドスに用事があった先生は、久々に対策委員会の会議に顔を出していた。
「はい。以前見つけたオアシス付近のものは気化してしまい、もう残っていません。でも、その近辺にまだ眠っている可能性があります。なので、全員総出で探しに行こうかと。」
進行役のアヤネが、いつものように落ち着いた声で説明する。
“あの場所”――それはかつて、ホシノをテラー化から元に戻すために皆で戦った、あの砂漠だ。
「青輝石」と呼ばれるそれは、砂の中で形成され、外部からの刺激を受けると、プラズマを放ちながら気化してしまうという不思議な鉱石。
価値はとんでもなく高く、100グラムでも1000万円を優に超えるという。
「みんな~、ちゃんとコンパスは持った?砂漠の中じゃスマホなんて役に立たないからねぇ」
気だるげな声でホシノが注意を呼びかける。
「はい!ちゃんと持ちましたよ☆」
「ん。大丈夫。」
「私も持ってるわ!」
それぞれが首から提げたコンパスを掲げる。
乾いた風が、窓の外で砂を鳴らしていた。
「お時間がよかったら先生もどうですか?替えのコンパスもありますよ!」
アヤネが先生に差し出す。
ちょうど今日の仕事は全て終わったところだ。
「うん。予定も無いし、ご一緒させてもらおうかな」
こうして全員で校舎を出て、アビドス砂漠へ向かっていった。
――その時の先生は、これがまさかこんなことになるとは思ってもいなかった。
~~~~~~
巨大な砂嵐に巻き込まれ、飛ばされた先。
そこは、人も音もない、何も見えない砂漠の真ん中だった。
砂嵐で舞い上がった砂が頬を叩き、息を吸うたびに喉が焼ける。
「17時……か」
端末を見てもアンテナは当然のように立っていない。
まもなく日が沈む時刻――夜の寒さが容赦なく襲ってくる時間だ。
(まずいな……)
水は多めに持ってきている。だが問題は夜の寒さ。
キヴォトスの人間なら意識を失う程度で済むだろうが、先生は違う。
この世界では、子供たちよりも虚弱な存在なのだ。
「はぁ……はぁ……」
鉛のように重い足を一歩ずつ運び、コンパスが示す方角を頼りに歩き続ける。
だが視界の先には、ただ砂と風があるだけだった。
「……ん?」
ふと目の前に、細い道路が見えた。
砂に半ば埋もれてはいるが、確かに舗装された痕跡がある。
「……これで、なんとか助かり……そ……う」
安堵が胸に広がった瞬間、膝から力が抜け、そのまま砂の上に倒れ込んだ。
意識は、砂の冷たさと一緒に闇に落ちていった。
~~~~~~
砂漠の真ん中を、夜風を切って一台のロードバイクが走っていた。
少し肌寒い風が頬をかすめる。
それでも――彼女はこの感覚が好きだった。
一度は諦めたサイクリング。
けれど、あの人――先生が背中を押してくれたから、こうして再び走っている。
(……先生、今ごろ何してるんだろう)
遠くの道端に、何か黒い影が見えた。
(落とし物……?現金輸送車の袋とか……)
そう思ったのも束の間、近づくにつれ、それが“人”だと分かる。
「人?こんなところで……」
ブレーキをかけ、自転車を止める。
砂の上に倒れている人影の顔を持ち上げた瞬間――
「……先生!?」
思わず声が裏返った。
先生の顔だった。
「……んん?シロコ……?どうしてここに……」
かすれた声。唇は少し青ざめている。
「ん、それはこっちのセリフ。どうしたの、こんなところで」
「アビドスのみんなとはぐれちゃって……」
先生の体がわずかに震えている。低体温症の兆候だ。
「ん。先生。ちょっとだけ我慢してて」
シロコは先生を抱き上げ、自転車にまたがると一気にペダルを踏み込んだ。
「ちょ、ちょっとシロコ……速いよっ!」
「ん。我慢して」
砂漠の夜道を、風を切るような速さで駆け抜ける。
その後ろには――きれいに砂が払われた一本の道が、まるで導線のように続いていた。
~~~~~~
「ん、着いた。……って先生?」
あまりの速さに、先生はまたもや気絶していた。
シロコは小さくため息をついてから、少しだけ反省したように肩をすくめた。
自転車を止め、先生を抱えたまま廃墟の建物へと入っていく。
スイッチを押すと、暗い部屋にぼんやりと灯りがともる。
かすかにホコリの匂い。だが、ここは彼女の大事な“家”だった。
「ん。こういう時は、こうする」
シロコは先生をベッドに寝かせ、冬用の布団をかける。
それでも先生の体は震えたままだ。
彼女はためらいもなくその布団に潜り込んだ。
「んん……?」
暖かい――体の芯がじんわりと温まるのを感じる。
「ん。目を覚ましてよかった」
シロコが布団の中から顔を出す。
「シロコが助けてくれたんだね……ありがとう」
「ん。お礼ならいい」
先生は思い通りに動くようになった手で、彼女の頭を撫でる。
灰色の髪が、手の動きに合わせてふわりと揺れた。
「さっき、みんなに連絡したから、あと少ししたら来ると思う。先生は、休んでて」
彼女は先生の頬に、自分の頬をそっと寄せた。
「……ちょうど、サイクリングしながら先生のこと、考えてたんだ。そしたら、先生が見えて」
シロコはゆっくりと、夜の静寂の中で言葉を紡ぐ。
「先生を抱えて走ってたとき、出会って初めての時を思い出したんだ」
「アビドス高校に向かう途中で、遭難しかけてたっけ……シロコが助けてくれたんだよね」
「ん。あの時はびっくりした」
思い出話に花が咲く。
時に笑い、時に泣き、いくつもの記憶が布団の中で交錯する。
「それでね……アヤネが……」
声が震えはじめる。
彼女が元いた世界――その結末に、話が差し掛かったのだろう。
「うっ……それで、ホシノ先輩が……っ」
「シロコ」
先生はそっと声をかけた。
その震えが寒さによるものではないことは、すでに分かっていた。
「こっちにおいで。」
先生が布団の中で両腕を開くと、シロコは黙ったまま中に潜り込む。
先生の胸元に顔を埋め、静かに涙を流した。
砂で汚れたシャツが、少しずつ湿っていく。
「無理に思い出さなくてもいいんだよ。シロコが話したいことを話せばいい。喋りたくなくなったら、それでいい」
先生は彼女の背中を優しく叩いた。
――きっと、"彼"も同じようにしただろう。
「……うん」
~~~~~~
布団の中から、かすかに寝息が聞こえる。
涙を流しきって、ようやく安心して眠れたのだろう。
「さて、と……」
すっかり体も温まったし、そろそろ布団から出よう。
そう思って上半身を起こした、その時――
「……ん?」
服が引っ張られる感覚。
視線を下げると、シロコがワイシャツをぎゅっと掴んだまま眠っていた。
まるで、子どもが安心できる何かを離したくないみたいに。
(……かわいい、けど……これ、まずいな)
そっと引っ張ってみる。……が、まったく離す気配はない。
むしろ、ちょっと力を込めた気がする。
このままだと布団から出られない。
いや、それよりも――この状況、誰かに見られたら絶対に誤解される!
背中を一筋の冷や汗が伝った、まさにその瞬間だった。
ガチャ――バンッ!!
「 「 「 「先生!!」 」 」 」
ドアが勢いよく開き、対策委員会のメンバーが飛び込んでくる。
砂漠で消息が途絶えた先生の安否を心配して――。
アヤネの顔に安堵が広がる。ホシノが「よかった」と息を漏らす。
……ほんの一瞬だけ。
そして、全員の表情がピタリと止まった。
布団の中には、先生とシロコ。
その手はしっかりと先生のシャツを掴んだまま。
しかも先生はなぜか上半身を起こした姿勢。
外から見れば、言い訳が追いつかないほどアウトな構図だった。
「……な、なんで……こうなるんだ……」
「…………(沈黙)」
アヤネの目がまん丸になる。ホシノは口を半開きで固まっている。
ノノミの「えっ……」という声がやけにクリアに響いた。
空気が――凍りついた。
結局、シロコが目を覚ますまで、
先生は“こっちの”シロコからみっちりと問い詰められる羽目になった。
青輝石とかの設定はストーリーを読んでちょっと頭に残っている程度のものです。
間違っていたら申し訳ございません。
追記
ストーリーを読み直してきました。
設定が少し間違っていたので修正しました。