青い青春のひとかけら   作:逆襲

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先生がセリナに救護されちゃいます


いつでも、あなたのそばに (セリナ)

喧騒に包まれた街が寝静まる深夜。

 

周りのビルより一際高いビルの一フロアに灯る光が、夜の闇を緩く照らしていた。

 

「....」

 

ここはシャーレの執務室。書類が山のように積まれた机の中央に一人の男性が仕事をしていた。

 

時計の針は11を指している。

部屋の中にはペンが紙に擦られる音だけが響く。

 

「ふぁああ…」

 

大きなあくびが不意に出る。

先ほどから激しい眠気が先生を襲っていた。

 

眠気覚ましに飲んでいるエナジードリンクも3本目の底が尽きようとしていた。

 

「少し休憩するか...」

 

仕事はまだ終わりそうにない。長時間同じ姿勢で座っていた先生は一度立ち上がり大きな伸びをした。

 

体中が悲鳴を上げているのがわかる。

だが、生徒たちが平和に過ごせるのであれば自分の体などいくら酷使してもよいという覚悟は先生にはあった。

 

「でも、流石に三徹は厳しいな...」

 

また徹夜したというとユウカやミネになんと言われるだろうか...

 

ほんの少しだけ、そう、ほんの少しだけ仮眠を取ろう。

 

ふらふらとした足取りでソファに向かい、倒れこむ。

ベッドに比べれば寝心地は悪いものの、今はそんなことはどうでもよかった。

 

そしてそのまま目を閉じ、意識を手放す...

 

 

あれからどのくらい時間が経ったのだろうか。

 

開けたくない瞼を開く。

 

だが、そこにあった光景は、無機質な執務室の天井ではなく、見覚えのあるピンク色の髪だった。

 

首裏に感じる硬いソファの手すりもなぜかとても柔らかく感じた。

 

「....あ、起きられましたか?先生。」

 

自分を呼ぶ声がする。目をこすって見開くと、そこにいたのは..."天使"であった。

 

「始業時間までまだ時間はありますし、まだ眠っていても大丈夫ですよ。」

 

彼女の手が先生の額に触れる。まぶたを閉じるようにゆっくりと動かされる。

 

「...うん....い、いや仕事が...!」

 

一瞬眠気に負けそうになるが仕事のことを思い出し眠気が吹き飛ぶ。

 

「あ、お仕事なら私ができる範囲で済ませておきましたよ。先生には押印や確認をしていただくだけで大丈夫です。」

 

その言葉に耳を疑い、顔を机のほうに向ける。

数時間前までそこに確かにあった書類の山は無くなっていた。

 

「え、あ、ありがとうセリナ...。」

 

あれだけの書類をどう片づけたのか、難しいことを考えるのはやめにした。

 

「先生?最近、ちゃんと眠れていますか?ひどいくまができていますよ。」

 

セリナのほうを向きなおし、彼女と目があう。

 

「あはは...実はあんまり眠れてなくて...」

 

「それはいけません。忙しいのはわかりますが、ちゃんと睡眠を取らないと疲労は蓄積していくばかりです。」

 

耳が痛くなる。 いろいろな生徒から口を酸っぱくして言われているが、セリナから言われると一層重く感じられる。だが、不思議と責められている気はしなかった。

 

「勿論、私たちのために頑張ってくれているのはわかりますが、それで先生が倒れてしまっては元も子もありません。」

 

「面目ない...」

 

「今日もたくさんお仕事があるのでしょう?無理にするなとは言いませんが、せめてお仕事が始まるまで少しだけでも休んでください。 」

 

優しく触れられる手。消毒液の香りに混じる甘いシャンプーの匂いがした。

 

「....うん。」

 

「では、まずはマッサージからしていきましょう。体をゆっくりでいいので起こしてください。」

 

少々名残惜しいがゆっくりと体を起こす。

その間にセリナはソファの裏に回った。

 

「まずは肩から失礼しますね。」

 

肩にセリナの手が触れられる。

 

「痛かったらすぐに言ってくださいね?」

 

先生はキヴォトスの中の生物で最弱といっても過言ではない。無理な力を与えると体を壊しかねない。

 

指に込められる力がゆっくりと肩に伝わる。

 

「硬い...相当無理をなさっていたんですね...」

 

凝り固まった肩が柔らかくなっていくのを感じる。

正直言うとマッサージチェアより気持ち良い。

 

「先生?痛くないですか?」

 

彼女に声をかけられハッとする。

あまりの気持ちよさに言葉を出すのを忘れていた。

 

「うん。すっごい気持ちいいよ。」

 

「はい。ではこのまま続けますね。」

 

再び肩に触れている指に力が込められるのを感じる。

首裏にあたる息が少しだけくすぐったかった。

 

だんだんと肩がほぐれていくのを感じ、数分後には驚くほど軽くなっていた。

 

「うん...ありがとうセリナ。すごく楽になったよ。」

 

先ほどとは考えられない程に軽くなった肩を回す。

 

「よかったです。では、次は、指のマッサージをしましょう。手を出してください。」

 

いつの間にか隣に座っていたセリナに少し驚きつつも、先生は手を前に出す。

 

セリナの手が自分の手と重なる。そして先ほどと同じように力を込め始めた。

 

ペンを握ったりキーボードを叩いたりした先生の手は、肩と同じようにガチガチだった。

 

「ここも...すごい硬くなってますね...」

 

少しだけ込められる力が強くなる。 だが痛みは感じられず気持ちよさが増す。

 

「あぁ...」

 

あまりの気持ちよさに声が出てしまう。

 

「ふふふ、リラックスしていただいているようでなによりです。」

 

セリナは嬉しそうな顔をしたままマッサージを続ける。

 

 

===

 

 

(先生の手....)

 

私の手より、一回り大きい手。

今まで色々な生徒を、学校を、この世界を守ってきたこの手。

 

目立ちはしないが無数の小さな傷や、欠けた爪がそれを物語っていた。

 

「無理をしないで」と何度も言っているのに私たちのために無理をしてくれるこの人。

 

頑張るあなたの助けに少しでもなれれば、とマッサージをする手に力が込められる。

 

 

ふと、セリナは気が付いた。 マッサージをしているとはいえ、先生と手を繋いでしまっている。

意識してしまった途端、顔が赤くなっているのを感じた。

 

(い、いえ、こ、これはマッサージです...)

 

心の中で気を取り繕う。

だが一度意識してしまった以上、脳裏にそれが焼き付いて離れない。

 

(も、もう少しだけ...)

 

 

===

 

「...はい。これくらいで大丈夫でしょう。」

 

セリナの指が先生の手を離れる。

 

「ありがとうセリナ。こっちもすごい楽になったよ。」

 

指を握ったり広げたりを繰り返す。指の先端が先ほどより暖かい。

血行が良くなったおかげだろうか。

 

ふと先生はセリナの顔を見た。

 

少しだけ頬が赤くなっているような気がしたが気のせいだろう。

 

「いえ、先生が楽になっていただいてよかったです。...っとそろそろ...」

 

 

セリナは壁に掛けられた時計を見る。

それに連れられ先生も同じ方を見た。

 

時計の針は始業時間の5分前を指していた。

 

「あぁ...もうこんな時間か...」

 

もう少しだけこの時間が続いてほしい...だがそれは贅沢な話だ。

 

「あの、先生。」

 

セリナに視線を戻す。

 

すると、セリナはまっすぐと自分を見ていた。

 

「さ、最後に、一つだけ、こちらを。」

 

セリナはゆっくりと両腕を広げ先生の方にゆっくり近づく。

 

次の瞬間、柔らかい感触が先生を包む。

 

「セリナ!?」

 

先生の背中に優しく手が回され、ぎゅっと力が優しく込められた。

 

「ハグをすると、ストレスが軽減されたり、免疫力が向上されるといいます。ですので先生。このままで...」

 

「う、うん。」

 

先生もセリナの腰に手を回す。

 

 

お互いの鼓動がお互いに伝わる。

 

セリナの顔は見えなかったが、髪の間から見えた耳が赤くなっていた。

 

時間としては1分もなかったであろう。だが二人には何十分にも感じられた。

 

 

 

「それでは先生。お仕事、無理をせず頑張ってください。」

 

「うん。心配かけてごめんね。セリナも気を付けて!」

 

セリナは授業があるためトリニティに戻らなくてはいけない。

 

シャーレの外まで彼女を見送る。 駅の方へと進むに連れ、セリナの姿が遠くなっていく。

 

 

先生も仕事をするため執務室に戻った。

 

「よーし..始めるか。」

 

軽くなった肩を一度回してから書類を手に取る。

 

...がその時、運悪く指を切ってしまった。

 

「あっ...やっちゃった。」

 

絆創膏を取ろうと机の引き出しを開けようとする。

 

「はい。こちらです。」

 

「あ、ありがと。」

 

隣から差し出された絆創膏を受け取り、指につけようとしたその時。

 

(ん?ちょっと待って今の誰だ)

 

先生は絆創膏が渡された方を向く。

 

だがそこにあったのは薄く香るアルコールの香りだけだった...

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