――――出会えば最期、死は免れない
(by『とある本』より)
(??side)
一ノ瀬リッカは友江マミの亡骸を背負い、まどかとほむらと合流した。
まどかはワンワン泣き始め、ほむらは悔しそうに静かに泣いた。
リッカはそんな彼女達を見て、ふとカルデラの外まで続く空を見つめる。星空は曇天で囲まれ、月が薄く輝く空。
戦っている元我が子に、彼女は勝利を祈る――――
様々な形をした使い魔が攻め込むカルデラ城下町外。基本シルエットはヌイグルミたが、元来のかわいらしさを残したまま凶悪な牙や爪、翼を生やして攻め込んできていた。
六道寺幸太は戦うことを拒んだ。それにより後援へまわって、いつでも逃げれるように町の入り口にいた。
他の冒険者も同じだ。彼らもあの物量の脅威には、さすがに『死』を感じた。
ソラ達が挑もうとしていることは無謀だ。蛮勇だ。勝てるはずのない戦いに挑む愚か者だと内心、嘲笑した。
加えて、初対面からしてソラは大したことない男と幸太は思っていた。あの程度で組しかれる男が、物量の波に呑み込まれて死ぬのも一興だと考えていた。
しかし、まさか同僚であるキリトやクラインまで参加するとは思わなかった。さすがの彼らでもこれは勝てない。逃げてくると予想していた――――
――――しかし、そんな予想は『甘い』
――――ヌルイ考えだと思い知らされることが起きた
キリトとクライン。二人だけでなく、その他の戦士達も奮闘していた。まだ誰一人傷ついていない無傷。
それを際立たせている存在が、使い魔軍団の塊へと斬り込む。
一振りで、周りの使い魔を吹き飛ばす。
二振りで周りの使い魔を空へ飛ばす。
飛ばされた使い魔達は光る斬り傷を残し、消滅していく。キリトとクラインの場合だと、身体に流れる液体を飛び散らせるがソラは一切傷という傷を残さない。
綺麗な殺戮だ。そして使い魔は殺されているが、誰も傷つかずに敵を蹴散らしている。
『無双』。まさにソラの独壇場がここにあった。
ふと幸太は、キリトの言葉を思い出す。
『
キリトの義父は魔王だ。そんな男に認められるなど胡散臭い話はずだった。しかし、証明するかのようにそれが目の前で起きていた。
キリトやクライン、さやかや杏子。それぞれが返り血で汚れていく中で、ソラは返り血を全く浴びてない。
自分の身体が傷つくことも、敵の身体が傷けることもなく、血を一滴も危ない英雄――――そんな話を昔聞いたことがある。
それに答えたのは、避難に尽力してやっと合流したアオだった。
「『無血の、死神』……なのか? 僕達のかなり前の世代に存在した英雄だったのか……彼は」
アオにとって『無血の死神』は畏怖する対象であり、強さの理想だった。彼の『神器』のように多くの敵を倒すそんな強さを求めていた。
彼のような力がある人であれば、どれだけ救えただろうかと無力な自分に悔やむ日々があった。
呆然とする冒険者達の上空に鳥の使い魔が攻めてきた。上空からの特攻。刺々しいクチバシで彼らを串刺しにするのが、目的だ。
幸太は覚悟を決めて、武器を構える。
「「『ロッソ・ファンタズマ』!!」」
アオも構え始めたそのとき、鳥の使い魔の頭上に影が生まれる。
驚くことにその正体はソラだ。しかし、一人ではない。複数の彼が上空から鳥の使い魔を串刺しにしていったのだ。
「な、なんでアイツが!? てか、さっきまであそこで蹴散らしていただろ!?」
「今現在も蹴散らしているんだけど……」
「ハァッ!?」
あり得ないことだらけだ。ソラの髪の色はいつの間にか銀髪から赤髪に変わっており、『神器』の形も剣から矛に様変わりしていた。
ソラだけでなく杏子も、彼と髪の色を交換したかのように銀髪へと変わっていた。
いったい何が起こっている。と幸太の頭が混乱しているとき、凛とした声が冒険者達の背後から聞こえた。
「説明しよう。『シンクロ』って言うソラくんの魔法さ。『
「キアラさん!」
キアラだけでなく、なのはとフェイトを含めた管理局の軍隊もいる。
「たれ込みでこの次元世界に使い魔がいると聞き付けてやって来たが……。まさか、こうも表だって攻めてくるとはな」
「じゃあ、今まで裏でも」
「ああ。被害は少ないもののちょこまかとミッドに現れていたのだよ」
キアラの話によると使い魔が現れ始めたのは、ソラが中学生一年。記憶を取り戻し、寿命が短いと知ったときの頃からだ。
その被害は少ないと言っても犠牲者が出ており必ず命を奪われていた。とある執務官を目指す青年とそれに追われていた犯罪者もまた使い魔に殺される事件が始まりだった。
いずれにせよ。使い魔がこのように表に出て攻めてくることはなかった。しかし、本日をもってその均衡は破られた。
なんのためなのかキアラ達にはわからないが、なんにせよ。彼女達はカルデラ城下町を守るためにここへ訪れたのだ。
「質問いいですか」
「何かね。古宮嘱託管理局員」
「彼……神威ソラは『無血の死神』――――過去に魔族との戦場に勝利をもたらした英雄なのですか」
アオの問いに、キアラは頷いて答える。
神威ソラはやはり英雄だった。彼の求めるの強さだった。
尊敬の眼差しを向ける冒険者一同に、
「……キミ達が何に憧れているかは知らないが。仮にあれが人だったとしたら? 人であっても彼はあのように殺戮する死神なのだよ。はっきり言えば、何もかも救う『
とキアラは否定するかのような言い方をする。しかし、そうであっても彼らは神威ソラの戦う光景を目に入れてしまう。
彼の行いはひどい。
彼の殺戮はひどい。
そして、使い魔が蹂躙されるその光景は美しいのだろうか。見惚れてしまうだろうか。
かつて自分達が憧れる悪を滅ぼしていくその姿を、彼らの目に焼き付いていく。
キアラは冒険者一同に対して呆れながらも、
「やれやれ……まあ仕方あるまい。何せ過去の再現と言ってもいいのだからな」
とキアラは呟いてソラの動きを観察する。一見、支障がないに見えるがところどころにムラがある。
現役時代だけでなく、闇の書事件から比べると動きがやや鈍いように見える。
(……たれ込み者の言う通りか。ソラの動きが些か不安定だ)
なぜたれ込み者がソラのことを知っていたのか疑問に残るが、今は彼の負担を少なくさせるのが先決。キアラは手を叩いて冒険者達を注目させる。
「さて、キミ達にミッションを与える。今の彼はどうも前の仕事の影響か些か疲労で鈍くなっている。よってこのままでは彼が倒れるのも時間の問題だ」
キアラの言葉に誰もが耳に入れる。聞き逃す者はなく、誰もが彼女の言葉に耳を傾ける。
「そこでこのミッションだ。
――――どうだ? 過去の英雄と共に戦ってみたいかね?」
このとき冒険者達が『逃げ』から『攻め』へと変わった。
さやかの魔力を取り入れたソラは二本のサーベルを駆使して、使い魔達を切り裂く。二本ともサーベル化した『全てを開く者』であり、切り裂かれた使い魔から血は出てこなかった。
「はぁはぁ……くそっ」
終わらない物量。溢れんばかりに出てくる敵。
数より質と言うが圧倒的な数の前では質も関係ない。特に防衛戦において、物量攻めは溢れ出る水道管の大量の穴を全て防げと言うことだ。
無理だ。元々、ソラは防衛より侵攻が得意の方だ。何かを守る戦いは不向きなのだ。
今もこうしているのは、敵の目を引き付ける囮役だ。
彼のいつもの防衛セオリーなのだ。
(体力的にもキツい……ッ。やっぱり、弱くなってるなぁ……)
前世の自分ならば、この程度は苦もなく動けたが今の彼は弱体化している。魔力も体力も以前と比べれば、確実に衰えているのだ。
「ソラ! 上ッ」
ハッと見上げれると、そこには鳥の使い魔がこちらに向かって降下していた。
『ロッソ・ファンタズマ』の分身で串刺しにしたヤツと同じ使い魔だ。
ソラを貫こうと、急降下して向かっていた。
彼は舌打ちしながら、来る矛に構える。そんなとき、掛け声を出しながら金髪のオッドアイの少年が使い魔を切り裂いた。
古宮アオ。嘱託管理局員であり、ソラと同種の神器使いだ。
「アオか……。いや、それだけじゃねぇな」
ソラの呟き通り、彼の後ろから雄叫びに近い掛け声で使い魔達に突貫していく冒険者達が現れる。空からも、魔導師の集団がなのはやフェイト、はやてを筆頭に使い魔を滅ぼしていた。
「どうだい? 随分な数の助太刀だろ?」
キアラが操作した岩を使い魔に落としていきながら、彼の隣に立つ。フッとソラは笑みを込み上げていた。
なつかしい。こんなふうに、仲間と共に戦う光景がなんともなつかしい。
前世の戦争。嫌なことだらけで救いようのないものだったが、それでも戦友と共に笑い、泣いて、そして戦った。
それは彼にとって良いにしろ、悪いにしろ、忘れられない思い出だ。
「ソラ。感傷に浸っている場合ではなさそうだぞ」
キアラが指さすのは上空から降下していく生物だ。先程の鳥ではない。かなり大きなサイズだ。
鱗を持ち、大きな翼を広げて、獣のような牙を生やすおとぎ話や伝説上にしかいないと呼ばれていた生き物。
「『魔女』がドラゴンかよ!!」
種の最上位クラスの生物がこの地へ降り立った。ドラゴンをよく見ると目はなく、口しかない白銀の鎧をそのまま身に纏った姿だ。
銀竜であるが、爪は同じ白銀ではなく黒い煙を出し、口から黒い泥を常時垂れ流す『魔女』。邪悪で醜い存在だ。
「ここまで汚されたドラゴンは見たこといないね……」
千香がそう言いながらソラの右隣へ現れる。キアラもまた同じことを考えているのか、やや冷たい視線を向けていた。
「ドラゴン退治? なら、我を混ぜろ!」
ズドォンッと空から降り立つ衛。
「やれやれ……まさか久しぶりの龍退治か」
「あれ!? 俺もッスか!?」
と疲れた顔をしたキリトと、なぜか巻き込まれた幸太。
六人の戦士と『魔女』。にらみ合う(一人を除く)両者の戦いが今、まさに始まる――――
次回: エピローグ。……先ほどで終わりで、この戦いは続きません