(??side)
アクアによって拉致されたアオがいたのはどこかの水族館だ。
透明なガラス張りは頑丈に設計されてるため、本来は人では破壊できない。
――――レプリロイドなどの人外を除いて。
ガラス張りが破壊され、一斉に浸水してきた。それは激流に等しい力強い勢いには、アオの足は耐えられなかった。
流され、身体を打ち付け、息を吐いてしまった。アオは急いでこの場から離れなければと思い、神器を召喚するも突如、氷柱がアオに向かってきた。
ダーツのように突き刺さり、アオは氷柱を撃ってきた女に対して視線を向ける。
一緒に転移したアクアその人だ。ここから出さないと言った視線を彼に向けていた。
(ヤバい……ここは彼女の独壇場。息は長く続かないし、何よりここだと身体が思うような早さで動けない)
水中にかかる抵抗力によってアオの動きは制限されていた。おまけにそれはアクアに対して無意味だ。なぜなら彼女は、水中戦に特化したレプリロイドだ。
早くここから出なければこちらが窒息死する。アオは泳ぎ始めるが、アクアの動きは異常だった。
地上にいるときでも変わらないスピードで、アオに接近し、突いてきた。神器を使って受け流すも、脇腹を少し傷つけられる。
苦痛で顔を歪ませるとアクアは嗜虐的な笑みを浮かべる。残忍という噂は本当だったと、アオは再確認した。
「クスッ。このまま藻屑にしてあげるわ」
槍の先端が凍りつく。アクアの機能の一部が発動したのだろう。
凍りついた槍の先端は禍々しいほどの突起しており、一度深く突かれてしまえば、抜けにくい仕組みとなっていた。つまり、より相手を苦しませるために作られた槍ということだ。
一度受け流したアオと言えど、二度目は難しい。なにせ、動きが思うような早さではないからだ。
先ほど受け流せたのも、ある程度予測したからだ。
「さあ、救世主さん。あなたにこれがどうにかできる?」
氷の槍の連続突きがアオに襲いかかる。マシンガンのようにバラバラに突かれたことで、アオの身体に次々と傷つける。血が水の中で溶けるように流れ、アオの顔が徐々に青くなり始める。
(息、が……もた、ない……!)
アオは最後の手段として、神器の『ドコでもドア』を使おうとした。そうはさせまいとアクアは遂に、アオの身体を深々と射し込み、嗤う。
しかしアオの集中力は余裕がないゆえに、途切れることがなかった。『ドコでもドア』を使い、開いた彼は背中から入る。
容器に穴を開けるという仕組みと同じく激流が起きるが、好都合なことにアクアの魔の手から離れることができた。アオが指定したのはレジスタンスのベースのトレーニングルームだ。
蒸せて、深呼吸を繰り返すとアクアが出てきた。
まだ彼女は終わっていない。そう気づいたときには既に遅かった。
「足が……!?」
凍りついている。足がコンクリートでできた地面に張り付いていた。
アクアの槍が地に突き刺さっていた。そしてその先端には水であった氷が、固まっていた。
『ドコでもドア』から出てきた水族館の海水を凍らせたのだ。
(こんな短時間で凍らせるなんて……!)
もちろん、塩による凝固させる速度が上がっていることもあるが、全力で、なおかつ相手に察知させず凍らせる芸当はたとえどんな達人であっても難しい。
見誤った。四天王は倒せる。そう勘違いしていたゆえの、油断が今の結果をもたらした。
足が張り付いている限り回避も、受け流すこともできない。防御したところで、いずれにせよ、彼女の攻撃には免れられない。
アクアは妖美な面持ちで笑みを浮かべ、
「これで、お し ま い」
アオの身体に氷の槍を貫いた。身体から血が溢れ、口からも赤い液体が溢れる。
貫いた槍を引き抜こうとしたアクアの顔はとても快気的だった。
槍が抜かれそうとなるとアオの苦痛による叫びが止まらないからだ。拷問のような行いを受けたアオは槍が引き抜かれたとき、氷は砕けて、アオは膝について前のりに倒れる。
これで終わりか。つまらない。アクアはもう少し楽しめるかと思っていたが、すぐに対象を変えることを決める。
次はあの子――――銀髪の少年だ。あの子はどんな断末魔の宴をしてくれるのだろうか。
楽しみで、楽しみで仕方がない。アクアはアオに背を向けて歩み始めると、後ろからピチャピチャと水温が聞こえた。
振り返るとアオが俯き、顔を見せないまま立ち上がろうとしていた。
アクアは呆れたと言わんばかり、嘲笑にする。
「なぜそんなにもがんばろうとするの? いい加減楽になればいいのに」
それに、と続けて自身が感じた疑問をぶつける。
「レジスタンスのベースにいたレプリロイド達。彼らは法律上、処分は決定されていた。もちろん、犯罪行為をしていたからの処分と言うわけでもないわ。けれど、ルールに乗っ取っての処分されなければあなた達、人間が生きていけなくなるのよ?」
彼らに同情はする。
彼らは悪くない。
けれどそうしなければ、ネオアルカディアに住む人々がいつか死ぬことになる。それだけは四天王として阻止しなければならない。
「無駄な命を減らすことを、人類の未来のために、なぜ反抗するの?」
「無駄、じゃない……!!」
掠れ掠れの声が響いた。ドコでもドアから出ている海水の飛び出す音よりも大きな声だ。
アオの顔は憤怒に染まっていた。彼女の言葉の中に許せないものがあった。
「人類の未来? ネオアルカディアのため? ふざけるなよ。『無駄な命』なんて一つもない……!!」
大義のためだとか、大衆のためだからという理由でアオは戦わない。
彼が戦う理由、それはいつだって――――
☆☆☆
古代ベルカ。ミルゴドーラ国にて古宮アオ――――いや、アオは産まれた。彼は貴族でもなければ一般市民というわけではなかった。
『奴隷』。古代だからこそある身分の底辺の存在として彼は生きていた。主である男やその息子に虐げられ、暴力を受ける毎日。
身体中が痣だらけで、そして身体的特徴で嘲笑されてばかりの毎日を受けていた。
そんなアオに訪れた転機。それが『ミルゴドーラの内乱』である。古代ベルカの群雄割拠時代において当たり前な内乱のため、ミッドでは概要が説明される子となく、名前しか知られていない。
奴隷だったアオはその戦乱により、逃げ出すことができたものの、お金はもちろん食べ物がない彼が餓死になりかけるのも遅くはなかった。
もう自分は死ぬ――――寂れた教会で、虚ろな瞳が瞼を下ろそうとしたとき誰がここへ入ってきた。
それは彼の助けというわけでもなく、むしろ更なる危機へ陥れることだった。身なりの悪い集団が貴族の少女を誘拐し、ここへ逃げてきたのだ。
このときのアオにはどうでもいいことだった。せっかく、楽になれるのに、余計な騒ぎを……とやさぐれていたとき、貴族の少女は男達に乱暴されていた。
自分と歳が変わらない少女がこれから犯され、蹂躙される。
正義心が動かされたわけでも、彼女に一目惚れしたわけでもない。
――――ただ、嫌だな
そんな一時の感情で彼は細い身体で男達に立ち向かった。当然、敵うはずもなく、骨折し、痛みで倒れた。
自身の無力さにどれだけ嘆いたのか。
自身の無力さにどれだけ絶望したのか。
下卑た笑い声が響くなかで、彼は涙を流し、目を閉じて気を失った。
もし、ご都合主義と言うべきならばこういうときだろうか。アオの元に奇跡が舞い降りたのだ。
彼が目を開けたとき、手には白いカギがそのまま剣となったような武器があった。
――――『神器』。『誰かの神器』が彼の手に、授けたのだ。
アオはそれを使って男達を、倒した。怒りと憎しみがあっての殺害だが、彼が少女を助けることができたのは変わりない。
こうして、それを気に少女の騎士となり内乱を治めた。
これが『救世主』の物語だ。
――――しかし、物語は。アオの人生はここで終わりではない。
見聞を広めるために、国を出て彼は聖王、覇王、冥王、黒のエリミア――――様々な強い人と出会い、成長していく。
その中で彼は聖王、覇王、黒のエリミアと仲を深めるが、皮肉なことに群雄割拠時代はそれを許してくれなかった。
再び戦乱が彼を引き裂く。彼は無実の罪で、捕まり、そして聖王の計らいで処刑は免れたが、冷凍永眠装置で眠りについた。
古墳のような遺跡に閉じ込められ、何千年の時を経て、彼は目覚めた。
遺跡は次元の渦による影響で異世界に旅立っていたのだ。その影響か、彼はやや若返っていた。
こうして九歳の肉体となり、彼はしばらく旅をしてからで出会ったのは、シエルという少女である。
この過去の話で言いたいこと、それは彼は『大衆』や『大義』のために戦わないことだ。
聖王と別れる前、彼女は彼に言っていたことがある。
『……もし、もしもまた会えるとしたら、また友達でいてくれますか?』
もちろん、彼は笑って頷いた。……その約束は果たされることはなかったが。
ゆりかごで永眠した彼女を知り、彼は人知れず泣いた。
もう聖王には会えない。もちろん覇王やエリミアにも会えない……。彼は一人ぼっちになった。
一人ぼっちになった彼は、そんな彼だからこそ決めたことがある。
――――友達のために戦おう、と。
そして彼が目の前にいるのは、友達を傷つける存在。彼はそんな存在を許すはずがない。
「僕は守る。青臭い理想論だろうが、くだらない夢物語だろうが言ってやる……! 友達の悲しまないそんな世界なんてさせてたまるか……!!」
アクアはそれを聞いて、嘆息を吐く。
「だったら守って見せなさい。救世主さん!」
流れ出ている海水を使って氷のタワーを立ててきた。アオは身体を前のり倒すように、走り出した。
そして、神器を投げ捨て手に印を組み込む。
(なんのつもり……? なぜ武器を……)
捨てる理由がわからない。しかしその理由がすぐにわかった。
アオの足元に三角模様と円が浮かび上がった。ベルカの術式だ。アクアも見たことがある『肉体強化』と『身体変化』の解除の術式だ。
なぜ『身体変化』も……と疑問に感じた。『肉体強化』ならばまだわかる。
自身の身体能力に追い付くために、強化するのならまだ理由として納得できる。
しかし、『身体変化』という術式が納得できない。なんせ、文字通り身体の一部を変化させる魔法だ。それを解除させるとなると元は違う身体をしていたということになる。
何を変化させるつもりか……と考え込むとアオの身体に変化が起きる。
――――青い髪が金色へと変わり、左の瞳も青から紅へと変わる。
オッドアイ。踏み台などがしそうな瞳をしていた。
これが本来のアオの姿だった。
そして左の目は特殊な目だった。
氷のタワーは乱立するように、立てている。そんなタワーをまるで
アクアはその動きに驚愕に染まらずにはいられなかった。そしてその一瞬が仇となり、手に召喚された神器で左腕を切られた。
(くっ、どうして避けれたのかは知らないけど、これならば!)
海水と周囲の水蒸気を使った四方八方の氷柱を射出。それはソラでさえ全てを防げることは難しい。
なのに、
「……ば、かな」
躱した。避けた。回避した。
全てを予測していた。まさにそう言わんばかりに、アオは避けきった。
「なんで、なんでなの……!?」
否定したい。今のアオという存在を否定したいが、そんな彼女に待っていたのは神器による断罪だった。
アクアというレプリロイドは、四肢をバラバラにされるという形で幕を閉じる――――
アオは疲れた面持ちで応急処置をしていた。やはり自身の生まれながら持つ力を使うとなると疲労はする。
(
この目は相手の動き、または流れを読むことができる達人にさせる目だ。
筋肉、血液はもちろんのこと、魔力の流れでさえ見えてしまう。
ミルゴドーラ国では紅い瞳は不吉の象徴として見られていたため、よくアオは馬鹿にされていたが、彼が友達を助けることができるようになったこの目には感謝している。
「……無駄な命、か」
そんなものはない。必ずそれは意味ある命なのだとアオは良い意味でも悪い意味でも知っている。
聖王は悪い意味だ。無駄な命を散らせたくないがために、自身の命を散らせた。
そして周りを悲しませた。覇王である彼を例として、彼女がしたことは間違いだと彼は考えている。
アオは内乱で死を見てきた。おとぎ話では亡くなった人間は少ないとされているが実際は、アオの知人だけで、その他は多く亡くなっている。
関わりがなかった。友達でもなんでもない。
なのに、胸が苦しくなった。知り合いが亡くなったときはなおさら苦しかった。
彼は優しい少年であるがゆえに、苦悩してきた。
「でも、それでも前を見ていくしかない」
自分のために失った命を。
自分のために奪った命を。
彼は今日も忘れないで生きてく。後悔し、反省しながら彼は前を見ていく。
アオはしばらく壁にもたれながら歩いていると目の前には取り押さえられたシエル。そしてソラと似た男がほむらを小脇に抱えている姿。
彼は運の悪いことに遭遇してしまった。
「……救世主もさすがに四天王では苦戦したか」
「さあね。とりあえず彼女達を離してくれないか」
「断ると言ったら?」
彼は神器を向けて言う。
「わからせる」
無謀な戦いに勝利したのは、それを知るのはその場にいた者達のみだった。
流水の眼: あらゆる動きの流れを見極める眼。写輪眼のように相手を動きを予測できる。デメリットとして、集中力と魔力が消費しやすい
アオの過去: 古代人だった件。そして王様と知り合いだったが戦争には参戦していない模様。裏舞台での活躍のため、歴史書には描かれなかったらしい。
アオの神器: 誰かの継承によって得た神器。…………その神器が誰のものだったかはなんと(何者かによって削除されました)。
四天王全滅: さてラスボスは誰になる?