とある転生者の憂鬱な日々 リメイク版   作:ぼけなす

89 / 122
――――彼女は間違っていた
――――彼女は歪んでいた

――――そして嘘つきだ

寂しがり屋で、子どもっぽくて、それでみんなに元気を与えてくれる……。
そんな彼女は、もう――――……いない


(by五木雷斗)


第八十五話 これにて閉幕

 

 

「え、マジで!? やったー! ソラに勝っちゃったぜー!!」

 

 大人げなく、子どものように笑うノエルにオレは呆れた視線を向ける。キアラも何やら疲れた嘆息を吐いていた。

 いや、確かに疲れるのはよくわかるけどさ。

 

 オレの降伏に全員が目を丸くする中で、高町とフェイトがシエルと古宮をつれて屋上にやってきた。

 

「なんで降伏するんだよ! このままだとこの世界が……!」

「オリ主(笑)くんみたいなことを言うなよ。つーか、こいつが言っていることは全て正しいとは限らないし」

 

 そう言うとノエルが「ありゃ、バレた!」と言い出す。世界をめちゃくちゃにするって言ってもこいつはあくまで遊びであり、本気で『台無し』にするつもりはない。

 

「ということはあれか。この人の世界を『台無し』にすることは単なるガセなのか?」

「いや、刑務所の件も含めてこの女が異世界の大半を変態化させてめちゃくちゃにしているのは本当だ」

「それはマジなのかよ!!」

 

 キリトよ。こんなのまだ序の口だ。オレがまだ出会ってない頃のノエルは『遊び』と評して、多くの国を破壊したこともあるらしい。

 

 変態ハザードではなく、ガチで気まぐれで虐殺したらしいわ……。

 

「『害悪』かよこの女……」

「それは褒め言葉だぜキリトちゃん♪」

「ちゃん付けするな! なんか幼い頃のトラウマが誘発するから!」

 

 ……過去に何かあったのだろうか。キリトの身体を抱き締めて震えていた。

 きっと幼い頃に変態と遭遇したに違いない。

 

「にしてもこのワタシ自身が相手にすることになろうとは、ソラも成長したねー♪」

「……前世のオレだと役者不足ってことか?」

「まあね。あの頃のソラはお気に入りだったけど、ワタシと戦えば瞬殺されてたよ?」

 

 違いない。たった一人でなんでもかんでもできる化け物に挑むなんて無謀過ぎる。『シンクロ』で戦えば善戦できると思っていたが、それでも勝てない……か。

 

 本当に異常過ぎるよこの変態は。

 

「うんうん! この戦い(あそび)楽しかったからこの世界を『台無し』にすることはやめてあげるよ。ソラと最後に(・・・)遊べて満足したし」

「あっそ。だったらもう――――」

 

 

――――待て

 

 

 『最後に』って……どういうことだ?

 オレが死ぬのは六年後。それは確定していると彼女は言っていた。

 

 なら、なぜ最後なんだ。

 

 

 その答えがすぐに目の前で起きた。

 

 

 ザシュッ!!

 

 

 ノエルの胸から腕が生えた。その腕は細く今にも折れそうなのに、彼女を貫いた。

 

「き、きゃァァァァァ!!」

 

 女性達の悲鳴と驚愕に染まるオレ達。口から血を垂れ流しながら、グッタリとするノエルをそいつは乱暴に投げ捨てた。

 

「よくも私からソラの記憶をとってくれたわねこのクズ女……」

「悪魔……!」

 

 警戒心と剣呑な視線を向けると、悪魔はクスリと嗤う。

 

「……久しぶりね。ソラ」

「久しぶりじゃねぇよ。よくもオレの記憶を……!」

「いいわ……その怒り、憎しみ! ゾクゾクする!」

 

 悦ぶ悪魔にオレは神器を投擲する。ブーメランのように飛んでいく『全てを開く者』に、ダークピーチ色の魔力矢が直撃し、弾かれる。

 

「まどか、邪魔するなよ!」

「違う……私じゃないよ!」

 

 は? なら、なんでピンクの魔力矢が……。

 悪魔はクスクスと嗤いながら、「紹介するわ」と言い出す。

 

「ソラの絶望の記憶から生み出した私の使い魔(カナメマドカ)よ」

 

 黒い霧が集合し、人の姿形を現した。褐色肌で髪はやはりピンク。しかし、暗いピンクという感じだ。そして彼女の瞳は紅いが、左目は眼球が紅く、瞳が黒という人間がする眼をしていた。

 

「さぁ、マドカ。挨拶なさい」

 

 マドカと呼ばれる使い魔はコクリと頷き、そして――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………やっぱり、無理だよー!!」

 

 悪魔に泣きついた。え、何それ。

 

「……あなた、散々練習したでしょ? なら、平気じゃない」

「平気じゃないもん! 緊張して言えないもん! 後、あそこにいる銀髪の男の子が睨み付けて怖くて言えない!」

「ソラ! 睨み付けるのをやめなさい! マドカは小動物精神な女の子なのよ。肉食獣みたいな視線を向けられたら怯えちゃうじゃない!」

「知らんがな」

 

 悪魔に叱れた。

 敵を睨み付けて何が悪い。え、オレが悪いことになるの? この場合。

 

「そうよ。あのマドカがかわいそうじゃないソラ」

「敵だぞ。睨んで何が悪い」

「ソラ、ある人は言ったわ。――――かわいいは正義と」

「わけわかんねぇよ!」

 

 おのれ、ほむらでも虜にさせるほどのかわいらしさとは。……いや、確かに守ってあげたいかわいらしさだけどさ。

 

「ソラくん、ほむらちゃん!

惑わされないで。あれは私の偽物だよ!」

「まどか……」

 

 プンスカ怒るまどかによって目が覚めた。

 そうだ。彼女は偽物だ。オレの記憶から作り出された使い魔だ。

 

「さすが、まどかだな。目が覚めた」

「うん、ありがとう」

「ちなみに、ぶっちゃけ言うと?」

「私の姿で美少女をすることを許せない!! 私はセクシーでガツガツいく肉食系美少女だよ!」

「台無しじゃねぇか!」

 

 やはりまどか(変態)は まどか(淫乱)だった。使い魔のマドカも、本物の言葉に頬を染めて、首を振っていた。

 ……何を想像した。

 

「……マドカ」

「ち、ちちち違うよ!? え、えええエッチなことなんて想像してないよ!?」

「とか言って、想像したんでしょ? ほらほら、正直に言いなよマドカ()~♪」

「うぅー! 違うもん。本物とは違ってエッチじゃないもん!!」

 

 まどかにいびられ、涙目になるマドカ。……何あの萌える娘。めちゃくちゃ、かわいいんだけど。

 

「まどか×マドカのキマシタワー……!!」

「落ち着けほむら! 興奮して鼻血を垂れ流すな」

「くっ、からかって見てて私よりかわいい! 偽物なのに、なんていうヒロイン力! こうなったらソラくんを押し倒してヒロイン力を!」

「増加しねぇよ! てか、ここで発情するな!」

「え、私は常にムラムラしてるよ?」

「この場でぶっちゃけるな!」

 

 もはやここには変態しかいないのか。てか、さっきまでノエルが殺られてシリアスだったのに、マドカの登場である意味台無しだ。

 偽物が萌えるなんて、これ如何に。

 

「あの……もういいですか?」

「あ、はい。これはご丁寧に」

「えっと、ちょっと待って。台本台本……」

「台本!?」

 

 マドカさんが台本を取り出すと読み始める。

 

「う、わはははー(棒読み)。どうだ。お前の大切な人が死んだぞー(棒読み)。さあ、次はお前の番だー(棒読み)」

「シュール過ぎるわ! やり直し!」

「えぇ!? せっかく悪魔ちゃんと一緒に考えたのにぃ! 一ヶ月かかった力作なのにぃ!」

「知るか! 台本つくる前に演技の練習しやがれ! 萎えるわ!」

「うぅ……ボロクソだよぉ」

 

 マドカが悪魔に頭を撫でられて、慰められている中で女性達から冷たい視線を向けられる。……お前ら、あいつが敵だと自覚してないのか?

 

「まあ、ちょうどソラも見つけたことだし。このままあなたを貰っていきましょう」

 

 悪魔の言葉にオレとほむらは『神器』を構える。彼女はクスクスと嗤って指をさす。

 

「かなり消耗しているのに、勝てるのかしら」

「知るか。お前に散々やられた怨みを晴らさなきゃならないんだ。いくら疲れていようが、お前と戦う以上。やるつもりだ……!」

 

 ノエルとの戦いで、かなり消耗した。『シンクロ』も解かれたし、『神器』が使える回数も残り少ない。

 それでも戦わなければ、ほむら達がどうなるかわからないんだ。戦って勝つしか生き残れる保証はない。

 

「あらそう……。なら、私直々が相手してあげるわ」

 

 悪魔は手から『スゥ』と一本のサーベルを取り出した。『召喚術』か。

 本来は光と共に喚ばれるものだが、あれは特異な召喚術かもしれない。

 前世で魔力の特性が『紫電』とされてる相手と戦ったことがある。そのとき、そいつが使っていた魔法が『紫電』によって紫の雷に変化していた。

 

 つまり『属性』を持つ魔力は、魔法や召喚術にも影響するということだ。

 

 悪魔の魔力色は『透明』なのだろう。

 

「見えない魔力色かよ……」

「珍しいでしょ? それに、」

 

 悪魔の姿がスゥと消えて、次の瞬間。オレの目の前にいた。

 

「透明化できるのよ!」

「チッ!」

 

 なんとか防げたが、悪魔の肘で顔面を殴られ、ほむらが援護に回ろうとすると、彼女の足元にダークピーチの矢が突き刺さる。先ほどと変わらずオドオドしていたカナメマドカだ。

 

 口内にある血を吐き出すと悪魔はクスクスと笑って、今度は不可視となったサーベルを向けてきた。

 

「さて、私のサーベルはどれくらいでしょうか?」

 

 おどけたふうに聞いてきた悪魔に剣呑な視線を向けていたが、構えず『神器』を下ろす。悪魔は怪訝になって、オレの行動に対して聞いてきた。

 

「どういうつもり?」

「オレが戦う必要はもうないと思ってな」

「何を言って……――――!?」

 

 彼女の背後にソロリソロリと近づくヤツが、ガバッと悪魔を羽交い締めにした。そう、心臓辺りを貫かれて絶命したと思われていた女――――ノエルだ。

 

「まだ生きていたの!?」

「このワタシを殺せるのは雷斗とソラみたいな概念攻撃できる人のみだよん!」

 

 ノエルが暴れる悪魔を押さえ付け、オレは『神器』を悪魔に向けようとするが彼女は首を振っていた。

 

「やる必要はないよ。この子はワタシがやるから」

「オレじゃあ、役不足か?」

「うん。この子の力は本当に強いよ。ソラの記憶を奪ったり、相手に力を与えたりなんてできちゃう。……ワタシみたいに何かで狂ってる女の子だよ」

「それでお前はこれからどうする」

「うーん。わかんないや。とにかく殺り合って、駄目だったら封じることくらいしかできないや」

「…………」

「なんで、悲しそうな顔をしているの。ほら、スマイルスマイル!」

 

 ふざけているように見えるが、オレはなんとも言えなかった。

 

 

 

 なぜならノエルの胸に空いた傷は未だに塞がっていない。

 

 

 彼女の傷口が治っていないのだ。

 あんな傷口程度、彼女はすぐに塞いで完治するのに。本調子の彼女なら、あっさり治してしまうはずなのに。

 

 なのに、塞がっていない上に、彼女は辛そうに脂汗をかいて無理に笑っていた。

 

 おそらく、今のノエルは弱体化している。悪魔にナニカされて、力が弱くなって、彼女は死に体だ。こんなノエルを見たことがない。

 ノエルがこれからどうなるか想像できなかった。

 

「ノエル……」

「なぁに?」

「お前は、いいのか? このままだとお前は……」

「うーん。ま、『最後』だし。これくらいやらなきゃなーって思ってね」

 

 ノエルはふとした感じで真剣な面持ちになった。

 

「ソラ、キミの人生が短い。短いからできることがある。キミはそれを見つけていかなきゃならない」

「オレが、できること……」

「それがわかるまで全力に生きて。それがワタシが母親として言えることだから」

 

 『母親』って言葉にオレはフッと笑みを浮かべ、ノエルも笑う。

 

「お前が母親かよ」

「えー? 駄目?」

「駄目だっての。役者不足だ」

「あは、確かにそうだねー♪」

 

 ノエルは笑って、それから言った。

 

「じゃあね。雷斗には浮気していいよって伝えてね♪」

 

 それを最後にノエルはフッと消えた。カナメマドカも、その場から消えた。

 

「……じゃあな、母さん(ノエル)

 

 ……その後、彼女がここや海鳴へ帰ってくることがなかった――――

 




ノエル=アーデルハルト: 彼女の人生は狂ったものだった。けれど、最後には『かつて村娘だったノエル』らしいお別れをソラとした。彼女がどうなったのかはソラは知らないまま、彼もこの世から去りますが……。なお、ノエルは死亡ではなく行方不明となっているらしい。

カナメマドカ: 悪魔がソラの記憶から作り出した使い魔。前世のまどかのような小動物系美少女なので、誰もが萌える(笑)

浮気していいよ: ノエルの最後の言葉。……あれ? これなんかの雷斗のフラグ?

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。