とある転生者の憂鬱な日々 リメイク版   作:ぼけなす

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かつての強さは……もう、ない

(by神威ソラ)


第九十五話 弱体化

 

 

(??side)

 

 

 神威ソラが倒れた。駆けつけたまどかに背負われ、すぐに治療へ移る。あらかじめ、まどかの応急処置によってある程度傷はふさがっていたが、ソラの衰弱っぷりが異常だった。

 ソラの使う魔力は精神と身体のエネルギーを混ぜ合わせた力だ。精製すると、体力と精神力が疲弊する。

 ようは運動と勉強を同時に行うと言ってもいい。

 

 ゆえに、ソラが衰弱している理由は魔力を精製し過ぎた、ということである。

 

「……ソラくん!」

 

 治療が終わると、まどかとほむらは真っ先に部屋に入った。

 

 目を閉じ、ベッドの横になる彼を見て二人は蒼白する。治療していたマミは腕を組んで言い出す。

 

「……もう大丈夫よ。私の力で治療は傷がふさがったわ」

 

 ただ、とマミは続けて言う。

 

「ソラくんの身体……おかしいわ」

 

 マミは治療していたときに感じた。

 そう、ソラの傷の治りが遅い。

 

 マミの力は『結んで繋ぐ』。傷の治りは自然回復ではないが、この力を使えば、すぐに傷は治まる。しかし、ソラに行使してみた結果、彼女は驚かせずにはいられない。

 普通の人よりも、傷の治癒速度が減速していたのだ。

 

 普段のソラは、マミの治療を受ければ、すぐにピンピンするはずだ。これは明らかに彼に異変が起きているに違いない。

 

 マミの疑問に、答えるかのようにほむらは俯きながら、ここにいる(アオとキリトはある人と接触のためいない)全員へある紙を見せる。

 それはソラが見ていた体力測定の用紙だ。

 

「これって学校の……?」

「えぇ。旅行から帰ってきたとき、テーブルの上にあったわ。仕舞うのを忘れていたのね、きっと」

「これがどうかし――――え?」

 

 マミの目がグッと記録用紙に注目する。ソラの握力、シャトルラン、腕立て背筋などなどの彼の力の具合の欄を確認した。

 

 平均よりかなり下。その一言で済む。

 

 中学の彼はこの平均よりも遥かに上回っていた。なのに、高校になってからここまで低くなるのだろうか。

 

「こんな……あっさり低くなるものなの?」

「ならないから『異常』よ。最近、鍛練をしていないにしろ、彼はこれまで多くの相手と戦ってきた。だから、そう簡単に力が大暴落するかしら?」

 

 そんなはずはない。長年、戦いから離れてきたのなら話は変わるが、彼が戦いに身においていたのは数年くらい前。ゆえに握力が平均より上か同等になるのが必然である。

 

「……私たちはこの異変を雷斗さんに相談してみたの。そしたら、雷斗さんは……」

 

 

 『決められた寿命かも、な』と言って、まどかは雷斗から聞いた話を説明した。

 

 ソラは本来は『踏み台キャラ』という役割だった。身体は丈夫でしつこい仕組みになっている。

 しかし、ソラを転生させた下級神は、彼を長生きさせるつもりは毛頭なかった。

 

 

――――オリ主(笑)(名前を忘れた彼)に殺される

 

 

 逆鱗を買い、無惨に死ぬ運命にするつもりだった。彼の力が弱まっているのは、その時期に死なせるつもりだったということだ。

 しかし、もうオリ主(笑)はこの世にいないし、何より彼は誰かに殺されるということはほぼ不可能だ。それを見越して、あの下級神は彼の寿命を短く設定し、弱体化するような身体にしたのだ。

 身体の細胞が劣化し、そして衰弱していく。緩やかな死を迎えさせるために、そして全ては自身の愉悦のために。

 

「雷斗さんはいち早くソラくんの異変に感づいていたよ……。それで女神さんに相談したら、そんな答えが返ってきた……と言っていたよ」

 

 まどかの目からポタポタと涙が零れ落ちていく。

 

「……どうして。どうしてなの? これからがソラくんは幸せになるはずだったのに! もう戦うことも、悲しむことも、苦しむこともないはずだったのに! どうして、最後は絶望が待っているの……!!」

 

 ほむらも悔しそうに、握る拳の力をいれていた。医療でどうにかできる問題ではない。

 細胞が劣化し、最後には衰弱死していく。病気ではない。老衰に近い緩やかな死だ。

 

「隠していたのは、それだったのね……」

 

 マミも千香もなんとなくだが、感づいていたかもしれない。自身に対するツッコミがなかったのは、やる気がないのではなく、活力がそれほどなかったということだろう。

 

 衛と鍛練もとい模擬戦をしなかったのは、負けるのが怖いのでなくて、もう自分がどうやっても勝てないし、何より戦えることが困難だったのだろう。

 

 そして極めつけにアオを呼んだ理由と六道寺に呆気なく倒された理由も、同じだ。

 

 

――――もう、オレに戦える力はないかもしれない……

 

――――『神器』も使えないかもしれない……

 

 

 らしくない。と全員が思った。しかし、彼の内心は不甲斐なさと悔しさがあったはずだ。

 誰かに任せる無力さ。そんな非力な自分に嫌悪していたまどかは彼の気持ちを嫌ほどわかる。

 

(何もできないって悔しいよね……)

 

 何もできず、ただ見守ることしかできなかった自分。その果てに待っていたのはただの自己満足。彼女の歩んできた前世は、まさにそんなところだ。

 

(ソラくんは、私のようにならないよね……?)

 

 危惧していたことは、いつか彼が自己を犠牲にして何かを救う。そして誰にも届かないところへ行ってしまうことだ。

 彼の前世がほむらと似ているならば、死ぬ運命にある今がまどかと似ている。

 

(行かせないよ……。そんな自己満足を、自己犠牲を。私が絶対に許さない!)

 

 だからこそ、今度は自分が守る。前世がそうだったように、そのときまで彼を守ることを誓うまどかだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、キリトとアオはメイド服から着替えて身軽な格好で目的地へ向かっていた。

 

「どこにいくつもりだ」

「ちょっと、テロリストとな」

「テロリスト!?」

 

 なぜそんな相手と会いに!? とアオが驚愕している間に、その目的地にたどり着いた。

 場所は人の気配がない小さな喫茶店のようだ。中に入ると日がそろそろ落ちそうな時間帯だからこそ、客足が少ない。

 そんな客の中に一人の青年が、カウンター席に座っていた。赤髪で髭を生やしている男で、顔立ちはやや整っている。野武士という格好で、腰に刀を帯刀していた。

 

 その男――――クラインはキリトを見ると、笑みを浮かべて、子どものように手を振っていた。

 

「おぉー、キリの字! よく、きたな!」

「久しぶりだなクライン諜報員」

「やめてくれよ。オレなんか諜報員って柄じゃねぇよ」

「確かに。そこそこの情報収集だしな」

「フォローしないのかい」

 

 ビシッとツッコむクラインが、アオに視線を向ける。アオは彼を観察しながら、どういう人物か推測していた。

 

 気さくでお人好し……。リーダーとしての判断力はまだわからないが、全員に気を配れる周りを見る目がある。

 クラインという男は、どうも親しみやすい青年のようだ。

 

「で、どうだった」

「……予想通りだ。オベイロンのヤロー、こんなことしてやがった」

 

 クラインが簡易デバイスからウィンドを表示する。画像と文字がかかれた映像をキリトとアオは席に座りながら見ていた。映像に写っていたのは、黒い鎧をした人型の化け物やのっぺらぼうのマリオネットが檻の中にいる。

 その檻の中には、黒い大きな化け物が僅かに写っていた。

 

「なんですかこれ?」

「噂でオベイロンが他国から拉致している少女の話をしていただろ? その噂が本当だったことを証明するものさ」

「まさか……この化け物達は」

 

 アオが絶句し、キリトは頷いた。拉致された少女達の末路は――――化け物にされていたことだ。魔力がある少女達をオベイロンは化け物にしていたのだ。

 

「この化け物がなんなのかわかんねぇ。オレのツテの情報屋も、こんな不気味なヤツを隅々まで調べたくないとか言ってて手を引いたぞ」

「確かに無理ないか……。こんな化け物を見ていると俺も、気分が悪い」

 

 キリトは水を飲んでそう呟いた。アオはゴクリッと唾を飲み込んだ。

 これを見ていると不気味というか、恐怖と深い闇を彼は感じ取った。

 

 哀しい、苦しい、辛い、憎い、羨ましい、恐ろしい。そんな負の感情の集合体を見ている気分だった。

 

「化け物の名前は?」

「モンスターじゃねぇし、何よりこんなもの初めて知るんだ。……けど、一括りされた名称はあったな」

「種族名ってヤツか……。その名前は?」

 

 

 

「『魔女』」

 

 

 ピクッとアオは反応した。その名称は一人の、いや彼と彼女達の宿敵が関わりを示していた。クラインは続けて言い出す。

 

「まだ第二発達を終えてない段階の女――――まぁ、十四、五六歳の女の子達を拉致して、魔女化させている。オレが集められた情報はそこまでだ」

「そんな化け物を集めてどうするつもりなんだ?」

 

 

 

 

「そんなもん決まっとるやろ。侵略や、侵略!」

 

 

 一人の男がアオの疑問に答える。その男はイガイガ頭で、つり目な軽装の格好をしていた。胸には妖精の紋章がある辺り、おそらくこの国の騎士だとキリトは身構える。

 

「思った通りや。こんなところに害虫がおったわ」

「クライン~?」

「……すまん。オレ、諜報員向いてないわ」

 

 エヘッと視線を逸らしながら、舌を出す彼にキリトのエルボーが決まった。ズドンッと決まったエルボーに悶絶するクラインを無視する形で、イガイガ頭の男はキリト達に指をさす。

 

「覚悟しいや! この暁部隊副隊長キバオウが、アンタらをお縄にかけたる!」

「松ぼっくり?」

「キバオウや!!」

「覚えたぜウニ頭。俺達は絶対に捕まってやらねーよ。わかったかウニ山トロ太郎!!」

「キバオウゆーとるやろ!? なんでウニになってるねん! わざとやろ!」

「え、わかるの?」

「当たり前やァァァァァ! ナメとるじゃないでゴルァァァァァ!」

 

 青筋立ててぶちギレるキバオウの後ろから「ホワチャァァァァァ!」とダイナミックエントリーするリーファが現れる。「げばぶ!?」と後頭部を蹴られ、踏まれた彼が床に倒れると、彼女は真っ先にキリトに抱きつこうとしてきた。

 

「おにいちゃーん! どう。スゴいでしょ!」

「リーファ。なんでお前がここに?」

「なんか、そこのウニ山トロ太郎に刃物を向けられて、人質にされてたところを天道くんが助けてくれたよ」

「俺の知らないところで事件発生してたのか」

 

 結果的に無事でよかったので、ホッとするキリトに、キバオウが「うぐぐぐ」と呻きながら立ち上がる。

 

「き、貴様らぁ~。ワイらの隊長をどないしたんや!」

「後ろのようになってます」

 

 リーファが指さすその先には、隊長であるディアベルが衛に担がれている姿だった。

 

「でぃ、ディアベルはん!」

「ふん。か弱き少女に刃物を向けるなど、言語道断。この我、直々に成敗してやったわ」

「だから、反対だったんだ……こんな、卑劣な作戦。絶対にやられるって…………ガクッ」

 

 ボロ雑巾になったディアベルはブツブツと呟いて、力尽きた。そんなディアベルを見かねて逃走を図ろうとするキバオウに、リーファの剣線が描かれた。

 片手剣で、行われた連続斬りによりキバオウの衣服がズタボロになり、全裸となって倒れた。

 

「……なんで全裸にしたの?」

「この後、マスターに渡すから」

「マスターって……あの?」

 

 アオが知るマスター。リッカの酒場のマスターのことだ。彼女――――いや、彼は漢女であり思いっきり男色家である。つまり、ホイホイ食っちまうような男である。

 

 ……もはやアオの心境としては合掌しかない。

 

「これで生け贄ができてマスターも楽しめるね!」

「心底ゾッとしたよ」

 

 リーファを改めて魔王の娘だと思えた。

 「みんなと合流するか」とキリトの言葉に同意して、キバオウ達を引きずりながら、喫茶店から出るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「てか、リーファ。なんで捕まってたの?」

「お兄ちゃんが助けに来てくれてそのままベッドインしてくれるかと」

「段階いろいろすっ飛ばし過ぎる!!」

 

 リーファがあえて捕まっていた理由が判明したそうな。

 




神威ソラ: ツッコミが薄い理由やリンゴを握力で潰そうとしてもできなかったのがこの『弱体化』が原因。本来の役割は第二期(AS)で死亡予定の踏み台キャラ。そのため、彼は長生きする身体に設定されていなかったので、このようなステータスダウンが起きている。……忌々しい元凶は滅んでも忌々しいということである

キバオウ: 噛ませ犬(笑) ……またの名を悲劇のヒロイン?(意味深)

酒場のマスター: みんなのママ。包容力のあるダイナマイトボディです。……ムキムキな方の。ちなみにホイホイくっちまうお人なんだぜ?

リーファ: 安定の義妹。どうしてそうなった……
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