一般男性、TS令嬢転生(嫌々)からのしたくもない異世界統治   作:柴野沙希

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あなたは誰?

 

 あの後、部屋でダラダラしようとしたんです。悲しいことに、ミモザに捕まって後は挨拶巡りと街巡りっすよ。嫌になっちゃうわ。曰く。

 

「次フェロークに来れるのは、何年後か分かりませんので」

「いいわよ別に数年後で……」

「いけません」

「えぇ……」

 

 街の大学、商会、ギルド、聖堂、片っ端から足運んでたせいで気がつけば夕方よ。夕方で終わったのが奇跡だわ。まぁ夕飯あるから帰っただけ……。んで帰って夕飯。

 

「ソフィア、別邸はどうかね?」

「自然が多様でいいとこですわよ」

「フェロークは開発され過ぎて、自然は減ったな……」

「だから景観に気を遣わないとって言ったのに」

「ミーゼル、だが進化こそ力だろう?」

「場合によるわよ……」

「母上の言う通りかと思います」

「ソフィアもか……くっ」

 

 新鮮なステーキと、温室で採れた野菜をお行儀よく食べながら、打って変わって緩~い会話を楽しむ。なお、礼儀や礼法は完璧であることが前提だぞ。疲れるわい。お肉は美味しかったです。野菜の方は……ちょくちょく母が薬草混ぜて来るからなぁ。今回は当たりでした。鼻に抜ける新鮮さって不思議な感想が出ましたね。

 飯も終わって、今度こそダラダラするぞ!って自室に戻ってすぐ、ドアがノックされたんです。嫌な予感。

 

「当主様が、お呼びです」

 

 あばばばばば。仕方が無いのでテラスまで出ていくと、ラフな服装の父上が柵にもたれ掛かって夕涼みをやっておりました。私も隣りで同じようにもたれ掛かる。

 しばらく夜空を二人で眺めながら、無言でいた。現代とは違って、都市でも綺麗に星々が輝いている。地球とは違う宙、でもなんでか寂しくなるんだよ。不思議と。

 親父といても、別に気まずく無いからいいよね。その辺は意外と前世より楽だ。

 

「我が娘よ」

「何でしょうか?」

「ミーゼルが、最近冷たいのだ」

 

 嫁の愚痴かよ!これもあるあるなんですけどね。私が別邸に行く前はここに居たんですけど、私は両親の愚痴聞き係になってました。えぇ。まぁ私も前世持ちの大人だし、何となく聞く程度のことはしていた。だから気まずくないのかもしれない。

 

「また喧嘩ですか?」

「いや、そういう訳では無いのだが……」

「最近、何かに熱中してます?」

「そうだな……。競馬ぐらいか?」

「なるほど……」

 

 それだろ!多分!母上はバリバリの実務家故に、雑な出費に厳しい。私もダンジョン産のアイテムを買い漁って何度か説教を喰らっている。前世にないから珍しくってさ……。

 

「出費、抑えてはいかがです?」

「やはりそうか……」

「恐らく。まぁ、母上にもそれとなく聞いておきます」

「流石は我が娘」

「構いませんよ」

 

 政治って、こういうしょうも無いことから始まるんだろうな……。伝令係を全うするか。これも家庭内コミュニケーションって奴だな。

 そこから暫く取り留めのない話を続けて、ようやく部屋に戻った。いい加減ダラダラさせてくれ。ベッドに座ったその時、また部屋がノックされた。何だぁ!

 

「ミーゼル様がお呼びです」

 

 今度は母上かよ!

 

「ソフィア、調子はどう?」

「忙しさに対して、意外と元気です」

「よかった」

 

 植物と書類に包まれた母の自室。私はこの独特の香りが好きだ。青くて、少しだけインクの重くて鋭い香りが。母上は机に座って本を読んでいた。私を見ると、こちら側に椅子を向けて、再び座り直した。

 

「ごめんなさいね、こんな夜更けに」

「構いませんよ」

 

 これは本心だ。私は兄上も含めて、家族のことが好きだからね。でも責任乗せてくるところは好きじゃないよ。前まではミモザだけだったのに、今じゃみんなあれやれこれやれ。酷いなぁ。

 唯一の救いは南で戦争やってる兄上だけだ。でもアレなんだよな、私が内務側に行く事になったって話で、今後どうなるかね……。別に野心とかないよ、本当に無い。

 

「いいの?女の道じゃなくて」

「……」

「貴女は綺麗で聡明。宮廷でもやっていける器」

「買い被りすぎです」

 

 なんでそんなよいしょしてくるんすか?宮廷とかいう地獄はちょっと行きたくないです……。男と結婚さえ嫌すぎるって話で。

 

「事実よ。小さい頃から、私たちの橋渡しをやれてたもの」

「それは」

「今もやってくれてる」

 

 別に、何かをした訳じゃない。ただ誤解が起こらないように、聞いて伝えただけ。誰でもできることだ。偶然それが私だっただけ。

 だから、そんな優しげな顔で私を見ないでください。期待されるような人間じゃないんです、本当に。

 

「……偶然です」

「でも、私たちは何度も救われてるわ」

「そうなんでしょうか」

「えぇ。だから、全体会議までに考えておいて」

「道を、ですか」

「そう」

 

 私は、何もしたくない。そもそも一度終わった人生なんだ、休みたい。例えば冒険者になって、強い力があって、何となく日銭に困らない生活。俺は、そんな感じで生きたかった。

 領民の命も、貴族の責任も、第二の人生でさえ、背負いたくないのに。勝手に背負わさせるんだから、どうしたらいいんだろう。俺は悪いことでもしたのか?

 

「…………考えておきます」

「お願いね。きっと貴女は、どちらもやれてしまうから」

「やっぱり、母上は私を買い被り過ぎです」

「ふふ、そうかもね」

 

 首を少し傾げながら、ニコッと笑う母上。私はぎこちのない笑みしか、返せなかった。

 

 

///////////////////////

 

 

──────“パープル・ヴィラ”大会議室。邸宅において一際大きい部屋の中、黒檀の巨大な円卓が存在感を放っていた。暖炉の上には、引き笑う竜のエンブレムが鈍く輝いている。

 

 ここに集められたのは王国の最精鋭、七大貴族の一翼を担う者達。フェロアオイを冠するか、フェロアオイに関する者。言うまでもなく、選ばれた者。

 

「では、会議を始めよう」

 

 王国法務卿にしてフェロアオイ公爵家当主、アラン・ヴァルコ・フェロアオイ公爵。

 

「息子以外の全員が集まれた事、嬉しく思いますわ」

 

 フェロアオイ公爵家が当主の妻にして内務部長官、ミーゼル・マホニア・フェロアオイ。

 

「その前にお伺いしたい事が」

 

 フェロアオイ本軍総司令官代理、ホレス・ノースリー・シッセア侯爵。

 

「なぜ、お嬢様が居られるので?」

 

 フェロアオイ公爵家外務部副長官、ゴール・リシー・ラル侯爵。

 

「まさか、お嬢様が政へ?」

 

 フェロアオイ公爵家法務部次席法務官、クロエ・フィニー・リッゼルト伯爵。

 

 僅か五人。されど、彼らは紛れもなく王国の中枢である。アランが先に椅子へと座り、周囲に座るように促す。そうして、全員が着席する。

 

「娘の話から始めよう。我が娘ソフィアは、西方の平定を成し遂げた」

 

 全員が、静かに聞いている。

 

「僅か三年で、しかも一五の娘が」

 

 改めて発された功績に、場が更に静まり返る。皆の内心は驚愕であった。

 

「ならば、こちらに呼んでもよかろう」

「恐れながら、本気ですか?」

 

 薄い緑髪、厳めしい顔立ちのホレスが語る。僅か十五歳の女子が、ここに呼ばれる意味。通常の思考では、考えられない功績と状況。

 

「ミーゼルとも話したが、本気だ」

「僭越ながら、父親の贔屓目では無く?」

 

 黒髪を自然にし、緩い顔立ちのゴールが問う。質問は紛れもなく失礼であり、ともすれば激高されてもおかしくないもの。その証拠に、ゴールの額には汗が滲んでいた。

 ここに立つには、並大抵の努力では立てない。ゴールの質問は覚悟と、当主に対しての素直な疑問だった。この席は、そんなにも軽いのか、と。

 

「無礼だぞ。ゴール」

 

 長い金髪を流して、綺麗だが不思議と愛嬌を感じる顔立ち。クロエが、ゴールを窘める。

 

「よい。明確に言うべきだな」

 

 全員をアランは見渡して、一度ソフィアの顔を見た。座っている彼女の顔は美しく、どうにもならないほどに落ち着いていた。

 

「フェロアオイ当主として述べよう。我は、そこにいるソフィア・クオーツ・フェロアオイを」

 

 一度溜めて、拳に力を籠めるアラン。

 

「中枢に組み込むと共に、西方を任せる気でいる」

 

 込めた力を吐き出すように、静かに、だが力強く語った。

 

「改めて、自己紹介を」

 

 これまで一言も発していなかったソフィアが、突然口を開いた。爆発しそうだった空気感が、一気に彼女の方面へと持っていかれる。

 

「私の名はソフィア・クオーツ・フェロアオイ。フェロアオイ公爵家が長女である」

 

 全員を見渡しながら強く言い切るソフィア。視線が彼女に集中する。だが、ブレない。恐れの一つ、汗の一つさえ無い。

 

「まず、私はこの席を軽く思ってはいない」

 

 ホレスに視線を投げる。

 

「諸君らは席を勝ち取った、私は違う。席を、任されたのだ」

 

 ゴールの目に、視線を合わせる。

 

「西方平定に三年。どうやら、余り長い時間では無かったのだろう」

 

 口元に力を入れて、アランを見た。

 

「あらゆる手を尽くした結果、私はここに立った。不正ではなく、徹底した規律で」

 

 クロエを静かに見る。

 

「幾千の死、幾万の期待。私はそれを、運命と呼んでいる」

 

 ミーゼルを力強い目で眺め、一度大きく息を吸った。

 

「ならば、背は向けられぬだろう」

 

 アランの後ろ、窓から空を見る。

 

「世界が私を求めるが故に」

 

 もう一度、全員を見回した。

 

「……諸君、よろしく頼む」

 

 そうして一礼。貴族らしい、完成された礼。誰も、暫く言葉は発されなかった。否、言えなかった。それは、海千山千の精鋭達でも。

 

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