一般男性、TS令嬢転生(嫌々)からのしたくもない異世界統治   作:柴野沙希

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ソフィア・クオーツ・フェロアオイの華麗なる日常 ~昼~

 

「お嬢様、お疲れ様です」

「ん、ご苦労様」

 

 部屋から出ると、ミモザが綺麗な一礼で迎えてくる。朝見た時と何も変わらない、彫りの深いおばあちゃん。表情はめちゃくちゃ真顔だから初見は怖いって言われがち。でも、子どもには好かれるのよね。

 私はなんでか子どもにはビビられます。動物には好かれがち、変だよね。私もそう思う。犬とかにめっちゃ手とか舐められる。分からん。

 

「書類、粗方終わってるわ。終わってるのは持って行っといて」

「承知いたしました」

 

 また食堂へと向かう私。足取りは朝より元気だが、まだ怠さが結構残ってるのよね。ま、休憩自由に取れる分マシなんだけどね。終わらないと全部自責になるけど。

 ミモザは私の斜め後ろに着いてきている。声の方向的に右斜め後ろかな。どうでもいいことに思考を巡らせながら廊下を歩く。やっぱ挨拶され過ぎて、デスクワークで疲れた腕が悲鳴を上げる。

 

「挨拶止めない?」

「駄目です」

「なぜ」

「敬意と規律、挨拶が一番分かりやすいのですから」

「否定できない……」

 

 絶対得意気な顔してるわ。確かになぁ。分かりやすくて、共同体意識もしっかり出る。される側になると、こういうのめちゃめちゃ面倒になるのよね……。

 

「料理長、待たせたわね」

「とんでもございません。どうぞ、席にお座り下さい」

「えぇ」

 

 途中でミモザと別れ、一人で食堂へと入る。料理長はもう既にスタンバっていた、仕事が早いわねぇ。助かるけど……。こう、全員聖職者レベルの規律を叩き込まれてるのよ。だから全員時間通りで、統一されてる。本家とは空気感の違う規律なのよねぇ。私も頑張らなきゃいけないからめんどい……。

 

「いいわね」

「ありがとうございます」

 

 座ってすぐに料理が運ばれてくる。今日は鮭のスープとパンですね。ハーブのいい匂いがする。鼻に抜ける、自然と健康が融合した香りが非常によろしい。

 

「天と地、巡る星の恵みに感謝します」

 

 料理長に見守られながら、聖句を唱える。まぁ食材に感謝するのは大事だし……。食えない農民の皆とか見てきたから、余計祈りに力が入るのよね……。全員を食に困らせないって、ほんとに難しいんすよ。現代に生きてた頃は当然すぎて、あんまり気にしてなかったけどさ。

 

「料理長」

「はい」

「下処理とハーブのお陰かしら、爽やかで美味しいわ」

「……ありがとうございます」

 

 例によって後ろに控えてるせいで表情は見えないけど、嬉しそうにしてるわね。声色で分かるわ、何となく。寡黙なタイプだけど、感情が声に乗る感じなのよ。面白いし、腕もいいから気に入ってます。

 美味いな~。飯の美味しさだけは、貴族に生まれてよかった点ですね。それ以外?いやぁ……。鮭も新鮮な訳じゃないけど、処理のお陰で美味しく食べられるし、ほんと料理長にも頭上がらないわ。頭下げてしかないな、内心。驕るよりマシか……。

 

「ふぅ……ご馳走様」

 

 言い終わって少しだけ息をつく。女になってから全然飯食えなくなっちゃったのよね。本当に転生して、変わっちゃったんだな。こういうタイミングで寂寥とかいう恐ろしい奴が襲い掛かってくるんだよな。

 

「訓練、見に行こうかしら」

 

 近衛達が訓練してたはず、腹ごなしに見に行こっと。椅子から立って食堂から出ていく。ホールを抜けて外へ。眩しいなぁ。

 

「始め!」

「ふっ……!」

「……!」

 

 直衛五人が決闘方式で剣を打ち合っていた。お、やってるやってる。ロブとイリルが木剣で打ち合ってるわ。よくやるわねぇ。

 

「隊長!なんすかその受け方は!」

 

 二人には体格差がある。ロブの方が明らかに大きく、イリルは不利を抱えてる。でも、素人目に見てもちゃんと競り合ってるのが凄い。むしろ、下から攻められている分ロブが苦しそうだ。

 イリルの剣がロブの腿を掠めた。どうにか跳ね返してるけど、大変そうねぇ。部下に煽られちゃってるし。でも、あの距離感の近さは羨ましい部分が……。

 

「うるせぇ!」

 

 ヤジに言い返しながら、距離を取らせるように薙ぎ払うロブ。器用ねぇ。対してイリルは上体を倒す形で避ける。インファイトする気しかないわね……。あ、体格的に内の方がやりやすいのかな?分かんないや。

 

「そこ!」

 

 イリルが声を上げ、ロブの喉元を突き上げようとする。えっぐ。模擬戦よねこれ?そんな急所攻めていいの?

 

「甘い!」 

 

 ロブは剣の身で押し流すように受け、背を晒したイリルの肩に返す刀で打ち込んだ。スパコォン!と凄まじく痛そうな音が聞こえる。訓練なのこれ?

 

「俺の勝ちだ」

「また隊長の独り勝ちかよ……」

「面白くな~い!」

「なら強くなれ!」

 

 ヤジしか飛んでないわね……。愛されてるようで何よりだわ。

 遠目から見ていると、クルクル回りながら剣を掲げているロブと目が合った。なんかごめんなさいね、楽しんでる時に。ま、普段見に来ない分、周りの目なんか気にしてないわよね……。

 

「……ん?お嬢様!?」

「あ、お嬢様だ!」

「お疲れ様です」

「ご苦労様。訓練よね?」

「その通りです」

 

 全員が立ち上がって私に敬礼してくる。手を挙げて返し、そのまま手を下げて自由にしていいと伝える。全員座って、こっちを見てくる。軍人に見られると緊張するな……。何回やっても、独特な緊張感があるから何か慣れない。

 

「意外と暇?」

「お嬢様が帰ってきてからですね」

「そうなの?」

「はい。軍務だけとは言え、維持でも忙しく……」

「隊長は死にそうになってましたよね」

 

 直衛たちが口々に語る。書類仕事、バカみたいにあるからねぇ。ロブは本軍で隊長やってたし、意外と慣れてるんじゃないの?

 ロブに目を向けると、げんなりとしていた。気持ちは分かるわ。ほんと。

 

「意外と苦手なの?」

「量が多いんです、お嬢様」

「軍務だけでしょ?」

「だけってお嬢様……」

 

 やっぱりマジかよこいつ……って顔をしてますね。私もクソ限界だったから、別に普通にやれてたわけじゃないぞ。

 

「因みに、お昼はもう食べたの?」

「これからです」

「あらそう。邪魔したわね」

「お気になさらず」

「何ならまた見に来て下さい!今度は早めに!」

「考えとくわ……」

 

 朝起きられて暇だったら行くわ。結構なレアケースだけど。

 そう言って直衛達は屋敷の中にぞろぞろと戻っていく。さて、私も戻りますか。とか思っていると。

 

「ソフィア様~!」

 

 門の先から声が聞こえてきた。その緩やかボイスは!

 

「ご足労頂きありがとうございます。先生」

「えっ、なんでそんな畏まってるんですか……?」

 

 困惑する先生。もう既に何となく面白いから困る。ちょっとだけ走っているはずなのに、特に汗一つかいてない。これがミドルの冒険者……。私ならヒイヒイ言っちゃいますわ。

 

「さぁ、今日も始めますよ!」

「では教室へ」

「いや、実践をやりましょう!!」

「ほう……?」

 

 何となく意図を察した私は、その辺に居た男の使用人に杖を持ってくるように伝える。彼は走って屋敷に入っていってしまった。そんな急がなくていいのに。

 

「杖が来るまで何をやるか、話しましょうか」

「お願いします」

 

 先生はそう言いながら、地面にかなり大きめの円を杖で書き始めた。それ杖削れません?いいんですか?気にせず先生は円を書き終え、半円にするように一本線で区切る。

 

「今日やるのは、私が学院に居た頃の訓練です!」

「ふむ」

「名前は“逆話”といいます」

 

 どういうこっちゃ。連想ゲーム的な感じなんです?困惑する私を尻目に、先生は続ける。

 

「ルールは簡単です。特定のお題で会話しながら、合間に唱えられた魔法を打ち消すだけ」

「相性は?」

「消せれば何でもいいですけど、弱点突いた方が効率的です」

「それもそうですね」

「……質問はありますか?」

「いえ特に」

 

 明らかに安心するのは私が少し傷ついてしまいますよ?ちょくちょく気絶させてるから仕方ないと言えばそう。あ、一個だけ聞くか。

 

「どうやったら負けなんです?」

「伝え忘れてましたね。直撃を貰うか、魔法二つが消される間、会話を止めてしまえば黙った方が負けです」

「順当ですね」

「後、移動できるのは半円の範囲内だけです。出ても負けですよ~」

 

 魔法学院らしい、頭がおかしくなりそうな訓練だな……。私はそれなりにシングルタスクなので、全然苦手ですこういうのは。

 

「先に前回の宿題もやっときましょうか。一応、私なりの回答を見つけて来ました」

「素晴らしい」

 

 おぉ!確か前回の持ち帰りは確か……。魔力で新しい風を生み出したなら、その前にあった空気はどうなるのか。でしたっけ?

 

「風の話でしたよね?」

「そうです!聞いてください!」

「聞きましょう」

「結論から言うと、前の空気は押し退けられます!」

「ふむ」

「街で試すと、勢いが少しだけ上がって吹いてきました」

 

 空気が何となく圧縮されているのに気がついてるのは凄い気がするぞ。まだ、蒸気機関とか無い時代っすよ?この人普通に凄いのでは?

 

「周りを囲んで同じようにすると、凄い力になりそうですね」

「確かに!帰ってやってみます!」

 

 流石風魔法ガチ勢。というか魔法ガチ勢特有なのかな。でも今すぐやらない辺り、理性を感じますね。ミモザもこの辺を見込んで雇った可能性があるかもなぁ。

 

「お嬢様、お待たせいたしました!」

「ご苦労様」

 

 息を切らせながら杖を渡してくる使用人。ありがとね。

 

「杖も来ましたし、始めましょうか」

 

 使用人の扱い雑じゃない?みたいなジト目を向けてくる先生。別に私、走れとは言ってませんよ?見てましたよね?

 

「ルールは覚えてますか?」

「勿論です」

「ではお題は……魔法で。先手はソフィア様からどうぞ」

 

 双方に距離を取り、杖を相手に向ける。先生の杖と私の杖。緑の魔石と、紫の魔石がお互いに突きつけられる。

 

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