一般男性、TS令嬢転生(嫌々)からのしたくもない異世界統治   作:柴野沙希

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二章:転生令嬢、港町改革編(嫌)
ようこそ、潮騒へ


 香る潮風、潮騒の気配。馬車に乗る私は大いに不安と面倒に襲われております。四季は巡り、春。とうとうシリッサ側の諸準備が終わってしまった。

 身長?一センチだけ伸びたわ。誤差。私の成長期は終わってしまったのかもしれない。やっぱ威厳が足りないのよ、威厳が。何度も言うけど。

 揺られて揺られて数日、石造りの港湾が目に入って来た。時は満ちてしまった。色々対策会議とか内偵やってたけど、現地に就任しないと強権は使い辛いんですよ。反発も多いし。

 

「来ちゃったぁ……」

 

 先生とミモザ達は現地に先入りしてるし、私と直衛が最後っすね。周囲のやる気と現実にごねることさえ出来なくなってしまった。そも爵位まで押し付けられた以上、やるしかないのだ。

 誰も見ていないからと馬車の中で、横になる。かてぇ。散々寝まくったからもう寝れないです。街の様子なんて見たくないっす。散々事前調査したし、現実見たところで何になると言うのか。

 

「奸臣共と顔合わせたくないよ~」

 

 メーザリー夫人は操り人形だし。着いたら奸臣の皆様にご挨拶ですよ?しかも、馬鹿の振りしとかないと警戒されるしさぁ。わざわざ本家から贈答品持ってきたよ、どっかで消す奴らの為に。無意味すぎ。

 ガラガラと馬車は進んでいく。私の意志なんて関係ないからどうしようもないね。仰向けになって空を眺める、いい天気だなぁ。

 

「お嬢様。街に入ります」

「分かったわよ……」

 

 よいしょっと、姿勢を戻して静かに座る。人の列を無視して中に入れるのは素晴らしいっすね。車窓から街に入ろうとする人々の列を眺める私。

 正門前で衛兵に一度止められるも、多分ロブが何とかしたんでしょう。すぐに動き出した。本当に衛兵が止めたのかは知らない、そもそも見えないし。

 

「流石、活気はある」

 

 馬車が通る為の広い通り、無骨に見える建造物の数々からは、確かに歴史と土台の強さを感じる。実際、ここまでボロボロの割にはちゃんと都市やれてるのが凄いのよね。

 

「一旦、ご挨拶ね……めんど」

 

 雑多な市街を抜け、都市貴族の邸宅が並ぶ通りへと入っていく。邸宅って言っても、今まで居たフェロアオイの別邸と比較したら小屋もいいとこなんですけどね。はは。

 やがて街の中心、メーザリー夫人の屋敷へと辿り着く。窓から見た限りだと、そこまで落ちぶれているようには見えない。いや、庭の管理が杜撰だな。庭とか掃除に出るんだよな、大体。

 馬車は正面に止まった。わざわざロブが下馬してまで、馬車の扉を開けてくれる。ここ敵地みたいなもんだし、あんまり任せたくないのよ。死んでもいいけど、後が大変なんで。

 

「どうぞ、お嬢様」

「えぇ」

 

 いい感じにボンクラ演じるかぁ。私は今から、現実を知らない感じのお飾りお嬢様やるか……。別にそっちの方が百倍幸せな人生って話でぇ……。

 因みに直衛達の装備も上着で隠してあります。剣は鞘だけ弱そうにしてる。実際はダンジョン産のガチ装備だから、挑んできた奴はチリにされちゃうぞ。

 

「ようこそお越しくださいました。リードラル辺境侯」

「お招きいただいて、感謝するわ」

「そちら、夫人にお伝え頂ければと存じます」

 

 ミモザよりちょっと若いぐらい、初老の使用人が出迎えてくる。意外とちゃんとしてるのね。多分、この家令が一番上だろうなぁ。身だしなみ、礼の格度も悪くない。

 

「案内を頼めるかしら?」

「勿論です」

 

 努めて笑顔で言うと、家令は少しだけ安堵したように思えた。優しい小娘に見えたなら何より。事実だし、うん。

 

「兵士の皆様、帯剣は……」

「モーリス、見といてくれ」

「了解」

 

 ロブと他の三人が、モーリスへと剣を渡す。家令は見えないように、眉を潜めた。見えてるわよ。そりゃその反応よね。明らかに信じてないってことだもの。ま、事実信じてないし。

 

「……では、ご案内いたします」

「よろしくね。使用人さん」

「ケネスと申します。リードラル様」

 

 ケネス、ね。長い付き合いになるか分かんないけど、よろしくね。私は努めて笑顔を浮かべ、親しみやすさを見せる。おいロブ、キモすぎって顔が言ってんぞ。私だってやりたくないんだ。

 私と直衛達はケネスに導かれるままにエントランスへと入っていく。大都市の領主なだけあって広く、青を基調にしていて豪華だ。だけど、掃除と管理がやっぱり行き届いてないわねぇ。勿体ない。

 

「綺麗ね」

「全て、ご当主様の趣味でございます」

「あら、そうなの?」

「このままでいい、と奥方様の希望で」

「そう……」

 

 愛は深そうね。内偵の調査だと、夫婦仲は良好だったはず。もし夫人の愛が嘘なら、自分好みに全部入れ替えるのも全然あり得る。自己顕示欲は、さほど強くないのか。ただ演じているだけか。

 今回だけでどこまで探れるか。不安だ……。

 

「奥方様。リードラル様がお越しです」

「お入りになって」

 

 屋敷をしばらく歩き、一枚の木扉前へと辿り着く。ケネスがノックし、中から聞こえて来たのは優しく人を落ち着かせるような声。勝気な雰囲気ではない?

 

「どうも、奥方様。傍仕えが一緒で申し訳ない」

「あら、お可愛い方。いいのよ」

 

 見た目は妙齢で少し儚いか。かなり濃い青髪に、切れ長の目。身長はそれなりに高い。羨ましいわ。

 というか、私のことを知らない感じか?いや、確かに新設の爵位ではあるから知らなくて当然といえば当然……。

 何となく、嫌な予感がした。これ、本家は私のことを、西北の貴族たちに何も説明してない?新設の名誉貴族がやってきたと思われてる?流れ変わったな。

 

「お名前をお伺いしても?奥方様」

「カミラ・メーザリーよ。可愛い娘さん、お名前は?」

 

 そもそも辺境侯家の当主だと思われてなくね?これ。いや十六の小娘だから分かるけどさ。ケネスも教えてやれよ……。これ、カミラから見ればイキってる令嬢に見えてるってこと?

 

「ソフィア・リードラル。ご存じの通り、西北の統治を任されています」

「……?貴女、お歳は?」

「十六です」

「??」

 

 明らかに混乱してますね。まぁ、私もそう思う。腕を組んで手を顎に当てる、あらあらとなってるカミラ。私はニコニコしてます、ずっとね。若干直衛達が引いてんだよな……。

 

「えっと、ご当主様は?」

「私です」

「本当に?」

「残念ですが。私が正真正銘、リードラル辺境侯爵です」

「……あらまぁ」

 

 部屋の窓際に立っていたカミラは、座り込んでしまった。十六の女で西北統治の辺境侯って信じらんねぇよね。信じたくねぇよ私も。

 

「大変失礼いたしました。リードラル卿」

「構いませんよ。この雰囲気で辺境侯爵など、信じられないのは分かっていますので」

「それでも、申し訳ございません」

 

 深く頭を下げるカミラ。いや気にしてないから、今は超寛大モードなんで。別にこの程度なら普段でも別にって感じ。知らないに怒るのはちょっとね。

 私も勝手に座る。お気になさらず、と一声掛けて頭を上げさせる。目が合った、今度は不安の色がちょっと強くなっているように感じた。ま、他貴族なら不機嫌になるのも当然って感じの失礼ではある。

 

「以後よろしく」

「はい、よろしくお願いいたします」

 

 さて、何から話そうか。

 

「シリッサの統治はどう?」

「難しいことが多く……。助けて下さる貴族がいなければ、どうしてよいか……」

「なるほど」

 

 素直に難しいですって言えるのは好印象ですよ。どうにも、祭り上げられただけの素人か?当主が統治やってたのは当然として、まぁシリッサレベルだといきなりは無理だよね。わかるわかる。

 悪人感は無い、ただ利用されてるってのが第一印象。

 

「資料を見せて頂ければ、助言程度なら出来ますが」

「よろしいので?」

「私もシリッサの統治に携わる以上、避けて通れませんので」

 

 嫌感出しとこ。これは本音だし。

 カミラが名演してない限り、ケネスは多分黒だし。なんでお前は私のことを知ってて、カミラは知らないんだ?絞ってるだろ、情報。

 

「これが報告書です」

 

 棚からガサガサと色々な紙が出てくる。結構ちゃんと整理してるな。私、整理苦手なのよね。めんどくさくてやりたくなくなっちゃう。

 徴税記録は……と。滅茶苦茶やってんなぁ。この規模でこんな税収少ない訳ねぇだろ。素人相手だからって横領し過ぎ。不正の範囲が広すぎるなぁ。やっぱ周りから切り崩してくのが吉。

 

「綺麗な報告書ですね。見習いたいくらいですわ」

「そうですか?嬉しいです!」

「えぇ」

 

 ケネスの方を見ると、額に汗が浮かんでいた。ふ~ん。短い付き合いになりそうね、名前教えて貰ったのに。

 

「軍はどうされてます?」

「貴族の皆様がやって下さってるので……」

 

 軍権は弱い、と。よろしくないなぁ。もっと連れてくるべきだったかこれ?多分、統率と質はカスなのが救いか。魔甲騎兵、魔法銃兵、騎兵のエリートで固めまくったからな。最悪ゲリラ戦か……気が滅入るな。

 

「他に把握してることはありますか?」

「報告書は貰っていますが……余り見方が分からなくて」

 

 見方を教えると、めちゃくちゃされてるのが分かっちゃうからなぁ。難しいな。この人、悟ったらちゃんと怒りそうな人ではあるし。旦那暗殺で不安定な上に、臣下腐敗とか知ったら倒れちゃうよ。化粧で顔色を誤魔化してるの分かるし。この辺は前世だと分かんなかった塩梅ですね。

 

「ゼロから教えるとなると……今日だけでは時間が」

「そうですよね……」

「また、ご都合のよい日をお伝えください。政とは別に接していきたくもありますので」

「それは……嬉しく思います」

 

 別に悪い人じゃなさそうだし。それを測る為にもまだまだ色々、知らないとね。メーザリーの内情も知りたいし。家令がヤバいのは間違いなさそうだけど。

 

「さて……」

 

 次に何を話そうかと悩んでいると、ドアがノックされた。誰だ?

 

「奥方様。伯爵様方がお越しです」

 

 私の方を見てくるカミラ。通すか、面倒だけど。無言で頷く私。

 

「通して」

「承知しました」

 

──────顔合わせだけのつもりが、面倒になってきたぞ。

 

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