一般男性、TS令嬢転生(嫌々)からのしたくもない異世界統治 作:柴野沙希
「こちらです」
全員で応接室を出て、廊下を少し進む。そして、違う扉の前でダレンは止まった。中からさっきとは違う、暖かな笑い声が聞こえている。楽しそうでいいなぁ。むしろ私が混じっていいのか悩むまであるぞ。
「今、いいか?」
ダレンに扉を叩かせつつ、私は逆側に立つ。笑い声が止まり、しばらくすると扉が内から開いた。
「すいません、待たせました……?」
現れたのは一人の男。流された金髪に、優しそうな顔。モテそ~。私を見て困惑してますね。あれ、別に先生は伝えてない感じ?
「先生から聞いておりませんか?」
「……お貴族様ですよね?」
「えぇ」
ダレンと私の間で視線を行ったり来たりさせている。困惑がより深まってますね。気持ちは分からんでもない。伝えといてとは言ってないし、別にいいんだけど。
「と、とりあえずお入りください……」
「えぇ」
「私はどういたしましょうか?」
「下がっていいわ」
「……では、失礼いたします」
「ご苦労様」
下に降りていくダレンを見送りながら、部屋に入っていく。護衛は外で待たせる事にした。先生居るし、絶対空気が終わるから。さて、どんな方がいらっしゃるのでしょうかね。楽しみです。
「失礼しますわ」
「あ、ソフィア様!」
「ねぇアイヴィー。お貴族様って聞いてないわよ」
「言ってませんから!」
「言いなさいよ!」
中に入ると、先生を含めた女性が三人。茶色の短髪に軽装の方と、薄い赤の長髪に長衣の方。男の方を含めて、計四人?まさにって感じでいいですねぇ。
乳繰り合ってる茶髪さんと先生、それを白けた目で見る赤髪さん。関係性がもう既に透けてて、いいですわね。このめっちゃビビられてない感じも素晴らしい。基本的に舐められてるか、ビビられてるかの二択だしな。不思議ですね。
「此方の二人が申し訳ございません」
「構わないわ。公の場ではないもの」
「感謝します」
赤髪さんが頭を下げてくる。長衣の垂れ下がってる部分が揺れた。聖職者なのかね。冒険者スタンダードを知らないから何とも言えねぇ。
実際、公の場でもないし、礼法に期待してる訳じゃないから別にいいです。その意図で、手を適当に振る。
「どうぞ。椅子をお持ちしました」
「あら、ご苦労様」
男の方が椅子を別室から持ってきてくれた。気が利くわね。というか、貴族を相手するのに若干慣れてる感はある。
椅子に掛けると、彼ら全員もまた座り直した。どこまで自己紹介するべきかねぇ。ま、爵位とか言っても仕方ないし。名前伝えとけばいいか。
「改めて……私はソフィア・リードラル。先生の教え子をさせて頂いております」
ここまで言って皆を眺める。ピンと来て無さそう。そりゃそうだよね、都市の上位管轄が変わりましたって知りようが無いし、知ったとてどうしようもないしな。
先生だけがジトっと見てくる。端折り過ぎでは?と言わんばかりの顔ですね。平民から見れば、どの貴族も変わんないから大丈夫だって。
「ですので、教え子として関わって頂ければ。……お名前を教えて頂いても?」
「……分かった。俺はネイト、リーダーをやってる」
男の方はネイト、ですわね。なるほど。流石リーダー、先陣切って、コミュニケーションの空気を作ってくれるのは助かります。
「私はケイシー。担当は……遊撃?」
茶髪さんがケイシーですね。短髪軽装、じゃあ部屋の脇に置いてある二本の剣は、彼女のか。はへ~。
「ダリアと申します。担当は後衛にして聖職でございます」
丁寧に頭を下げてくるのが赤髪の方、ダリアですね。やっぱ聖職者か。独特の落ち着きがありますね、何というか。
これで三人は分かった。……折角だし、先生にもやって貰うか。視線を先生の方に向ける。首を傾げる先生。全員の視線が集まる。自分を指差す先生。頷く全員。
「私も……?」
「一員では?」
「そうですけど……」
「先生なんでしょ?」
「そうですけどぉ……。要ります?」
全員でまた頷く。先生はよく分かんないって雰囲気で立ち上がる。立ち上がるんすね、なるほど。
「アイヴィー・アトモスです。担当は後衛で……先生です?」
「戦闘時は先生を?」
私が何となく振ってみる。あっ混乱してる。
「うぇっ?いや、後衛です」
「授業の時は後衛なの?」
ケイシーが悪い顔で聞いている。まぁ、授業の時も後衛といえばそうですね。よく入れ替わってるから。
「???あ、後衛かもしれません!」
「フフフ……!」
「ハハ!」
あ、ダリアとネイトが吹き出した。この人やっぱなんか面白いんだよな。???みたいな感じで自己紹介してるし、役職先生になってるし。授業で後衛て。
恥ずかしそうに座る先生を尻目に、再び全員を見渡す。うん、緊張感が更に取れた。先生、ありがとうございます。貴女の犠牲は忘れません。
「一応、ウチにはもう一人居るが。今日は用事で抜けてる」
「私のお友達です!優秀な魔法使いなんですよ?」
「なるほど……」
先生が優秀って言うぐらいなんで、そりゃもう凄いんでしょうね。実戦どうのこうのは正直よく分かってないんですけど。ランク制度もぶっちゃけ覚えてないっす。
「それで、なんで俺達に会いに来たんだ?」
「先生の仲間が気になったのが一つ。そもそも冒険者を知りたいというのが一つ。ですわね」
「なるほど……。冒険者についてどこまで?」
「正直、ほぼ知りませんわ」
上の機関と話すことは多いんですけど、実務機関としての冒険者ギルドを知る機会が無くてね。
「じゃあ、何から話すか……」
「ランクからでいんじゃない?」
「そうするか」
そこから、ランク制度を語って貰った。曰く、ロー、ミドル、ハイランクの三つが大分類で、中分類で金属ランクが付くらしい。んで、役割ごとで剣、杖、矢とかが小分類として付いてる。
先生の冒険者証を見せて貰うと、銅の杖二本だった。大分類はミドル、中分類は銅、小分類は杖、階級が二本って感じらしい。階級は三本が最大。なるほど。
「金属は共通で金、銀、銅なんですか?」
「いや違う。ロー、ミドル、ハイでそれぞれ内容が変わる」
ふむふむ。ローだと下から鉄、鉛、錫、鋼。ミドルだと銅、銀、金。ハイランクになってくると魔法金属が多いな、フォトンセシオもエーテルグライトも高いぞ~。成金すぎ。
「私たちだと、ネイトが金の剣一本。後の三人が銀で、階級はバラバラ」
「もしかして、かなり優秀な方々?」
「シリッサでも有数なんですよ!凄いでしょう?」
あ、先生が得意気になっている!可愛い。胸張っちゃってまぁ。でも、実際凄そうなんだよな。分布比率を考えると、どうせローがパンパンになってて、ミドルから一気に減ってるパターンだと推測されるし。
ギャングと癒着の件、ミドルに上がれないローが腐ったか生活が無理過ぎてなったのかで、かなり状況は変わってくる。要調査だな。
皆さんも褒められるのに慣れてる感あるし、やっぱ結構凄そうだな。意外と指標になるんだよね、褒められ慣れてるかどうか。
「普段はどうやって生計を?」
「俺達はダンジョン専門だからなぁ」
「基本的には調査、探索で依頼料を貰うといった感じです」
「失礼ながら……立つんですか?生計」
「私達のランクになってようやく、ですかね」
気まずそうに手を合わせ、苦笑するダリア。まぁそうっすよね。下の方が厳しい仕事してるのは、いつの世でも変わらない。
「後は遺物売却もありますが……」
「ギルドに持ち込むと買い叩かれるし、個人で流すと法に引っ掛かる時があるのよね……」
「とはいえ国に売ろうとしても、明確に強くないと買ってくれないしな」
「ですねぇ……」
これは父上に話しとくべきかな。遺物の売却についての法を調整してくれって。草案は後で考えよ。
いやほんと、こういう話聞けるの貴重だなぁ。先生に感謝しないと。
「後は、非公開ダンジョンが多すぎる」
「……なるほど」
「数年前に公開ダンジョンが増えて、最近また減ってる」
「あぶれた奴が、危険な仕事に手を出すってのも多い」
「この辺は、軍の利権問題もあってですね……」
実際、何かありそうなダンジョンは本軍が握って離したくないんすよね。でも王国の南方で本軍が戦争してるから、探索するだけの人員は足りない的な。
これも本軍に話を通して、重要性の見直しさせよ。母上に言ったら多分、ある程度は放出してくれるだろう。
「分かってるがなぁ」
「出来る限りの事はしてみましょう」
「流石、お貴族様だ」
「えぇ、貴族ですので」
ネイトと一緒にニヤつく。いいね、こういう軽い感じがいいんだよ。
「軍がダンジョンの規制を行っているが故に触れられず、魔物が溢れる例もありますから」
「あるわねぇ、山間とか特に多いわ」
「一度ダンジョン化出来るような場所には、どうやっても魔力が集積しますからねぇ」
やべぇ話がゴロゴロ出てきますわね、私たちの統治がへなちょこ過ぎるのが目に見えすぎて苦しいです。でも対策打つためには、聞かなきゃならないしな~。現実逃避が一番の下策なんでね、仕方ない。
「最近はギルドの治安も悪いし、中々難しいのよね」
「海洋にあるダンジョンも、海賊の増加で入れないからなぁ」
ギャング、増えてるからなぁ。造船所と組んで色々やってる可能性は大いにある。稼げない商会が禁制品輸送に海賊使って、需要増大で拡がるとかもあるだろうしな。頭痛いっす。
「その辺りも可能な限り、対処します」
「出来るのか?」
「えぇ、勿論」
信じられてないっすね。ネイトのまぁ無理だろうけど言ってくれるのは嬉しいっす、みたいな雰囲気が凄いっすね。一応ここというか、西北は私の統括なんで。一ミリも言ってないけど。
十六のお嬢様にしか見えないだろうし、実際そうなんでね。
「他には……」
「是非、聞かせて欲しいですわ」
今日一番楽しい。まだまだ続くぞ。教会とかどうでもよくなって来たわ。