一般男性、TS令嬢転生(嫌々)からのしたくもない異世界統治   作:柴野沙希

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星なるかな

 

 私は再び移動を始めた馬車の中で、彼らを思い出していた。いや、めちゃめちゃいい話が聞けたなぁ。最後まで私にはピンと来てなかったっぽいけど。ま、どこかで勝手に気づくでしょ。

 

「はぁ……」

 

 先生に抱きしめられて以降、もうめちゃめちゃ暖かい目で見られてました。ずっと。完全に下級貴族の令嬢だと思われましたね。あんな気軽にスキンシップしないし、意表を突かれたとは、正にこの事よ。

 また会いましょうなんて口約束を交わしつつ、私は次の時間が迫っていたので退出しましたとさ。残念でしかない。

 

「ま、教会で最後だし……」

 

 そうです、お次の目的地は教会です。別に行きたいかと言われれば、普通に行きたくないっすね。だって内紛状態なんですよ?聖女派の司教と教典派の司教補佐がバチバチやってるのヤバすぎ。もうお腹いっぱい。

 ガラガラと馬車に引かれて進んでいきます。例によって、私の意志とは関係なく。悲しいね。もう帰って寝たいっす。

 先生たちは、まだ話してるんだろうなぁ。全員面白そうな人だったし、先生はいつも通りおもろいし。くそう。

 

「やれる事を、やるしかないかぁ」

 

 決意と嫌を胸に、私は教会へと向かうのでした。

 

 しばらく馬車に乗っていると、視界の先に大きな聖堂が見えた。メーザリーの屋敷以上に歴史と荘厳さを感じさせる石造り。角には幾つかの尖塔と、正面には鐘楼が見える。

 大通りを進み、正面へと辿り着く。大きいな、流石に。馬車を降り、何となく見上げてみるも、壁にしか見えない。ちょっと近すぎるわ。

 

「……神ねぇ」

 

 この世界に送られる前、私は誰かに出会った。でもアレ、一回も神って名乗ってないんだよ。多分、私の記憶によると。アレが神だとしても、教会の天なる神とは違うんだろうなぁ。性格悪いしアレ。

 そんな事をぼんやりと考えていると、馬を繋ぎ終えた直衛たちが集まった。ここで襲われるとか無いと思うけど、一応ね。よし、行くか。

 

「行こうか」

 

 開かれた大扉の先を眺めながら、直衛達に声を掛ける。てかさ、出迎えがないって結構攻めてるよな。アポ取ってるんすよ?礼拝の時間から外れてるし……。

 ギルドも無かった?期待するだけ無駄っすよ。全体的に雑なんですよ、ギルドは。国を跨いだ機関だし、国家と繋がってない分、貴族に対して雑といいますか……。シリッサのギルドはシンプルに余裕ないだけって感じするけど。

 

 大聖堂の中に入ると、独特の香りがした。荘厳な装飾、所々にある十字にクロスを足した四本線。天に輝く星を表す、星字。豪華だなここ。長椅子も綺麗だし。

 

「リードラル卿。お待たせして申し訳ございません」

「構わないが……無論、理由はあるんだろう?」

 

 手を組んで頭を下げる若そうな男、小麦色の肌とウェーブがかった黒髪。薄い灰色の長衣を着ている。事前に調査した情報通り。なるほど、司教補佐は貴方か。

 

「はい。司教は急患を診ておりまして……」

「命は何にも代えがたいものだ。よろしい」

「感謝いたします」

 

 急患ならしょうがないっすね。一つの命を救うのは本当に大事ですから。医療も祈祷がある関係で難しいんですけど、こっちの教会は清潔をめちゃめちゃ大事にしてるから助かる。

 なら粛清は?これもまた、必要なんで。無常ですね~。色んなコストと本体の値段を天秤に掛けた結果、処分になっただけなんで。

 

「では、少々待とうか」

「応接間へとご案内いたします」

「ご苦労様」

 

 礼拝堂を抜け、中へと進んでいく。独特の古さを持つ聖堂は私の目を飽きさせない。観光ぐらいの気持ちで来れたら楽だったんですけどね。

 また別件で顔出した時は普通に観光してやろ。生きている歴史を見られるのは、転生の特権。全然プラマイだとマイナスですけど。

 

「こちらでお待ちください」

 

 テーブルと椅子が置かれた、簡素な部屋。これでめっちゃ豪華な部屋とか出てきたらどうしようかと思いましたよ。

 しかし暇になるな、どうしよ。折角だし、司教補佐と話すか。さっさと出ていかない辺り、まだ何かあると見れないことも無いし。

 

「司教補佐、時間はあるか?」

「……えぇ、ございます」

「では……少し話さないかね?」

「勿論、構いません」

「感謝する」

 

 偶然とはいえ、司教補佐と一対一で話せる場面なのは嬉しい。どう引き離すか考えてたし、両方同時に話したら本音も何もあったもんじゃないからね。

 座るように勧めると、彼は椅子へと座った。直衛二人が部屋にいるせいもあってか、凄い尋問みたいな雰囲気になってるのはご愛敬ですね。許して。

 

「名前を聞いていなかったな。司教補佐」

「フィグラス・ラブレと申します」

 

 フィグラス司教補佐ね。さて、何から話そうかな。あ、その前に。

 

「私は、ソフィア・リードラル辺境侯だ。宜しく」

「リードラル卿。お噂は聞いております」

「ほう?」

「十六の若さにして、これから西北一帯を治める方だと」

「事実だな」

「会うまでは疑っておりましたが、得てして真実とは不思議なものです」

 

 やっぱ結構攻めてくるな。私の器を試してきてるのか?色々消したのも知ってるはず。こめかみに汗が見えた。危ない橋を渡ってる自覚はあるのね。何が目的だ、教典派。

 ま、一旦流そう。これでキレるってなったら、恐らく本音は出てこないだろうし。一旦、こっちのターン。

 

「フィグラス。君から見たシリッサはどうかね?」

「……今は、喧騒と自由の街かと」

「ほう?」

 

 今は。なるほど、過去と今は違うと。明らかに今の方が状況は悪いから、含みしかないっすね。それでも、まだ距離感を探ってる感じだなぁ。私もそうだけど。

 私から見たシリッサは、動けるだけの病人って感じだぞ。生きてるけど、あらゆる場所が悪い。動けるけど、その内死ぬって感じ。

 

「ギルドや市場は盛況で、冒険者は自由に生きております」

「ふむ……。私の見た冒険者は、かなり縛られている様に見えたが」

「冒険者ギルドには向かわれましたか?」

「えぇ」

 

 強そうなのにどこかくたびれているギルド長を思い出した。マジで大変そうでした、私の未来もああなるのではないかと思うと困っちゃいますね。

 盛況ではあるが、影に呑まれつつある。冒険者は自由の中で生きるしかないと。多分、そういう感じかな?

 フィグラスは真面目な表情だ。向こうも、何か聞きたいことがあるんだろうなぁ。内容をギルドに寄せてきた。何が来る?

 

「どう感じられましたか?」

 

 ふわっとし過ぎてない?まぁ本音半分で答えるか。全開示は愚。間違いないね。

 

「自由に生きるとは何かを考えさせられたよ」

「と、言いますと?」

「私は貴族であるが故に、彼らの自由は少し羨ましくある。しかし、私は自由の中で堕落してしまうだろうな」

「ほう……」

 

 少し意外そうにしているフィグラス。ま、こんな感じかな。内部の腐敗には踏み込まず、しかして自由に対して思考を持てる力はあると提示。彼が踏み込んでこない限り、私も表面に徹するか。

 自由の中で堕落するのはガチ。絶対日銭残ってればいいや精神でサボりまくる。見えるわ。

 

「君はどう思う?自由について」

「天は仰いました“自由の中で自身を星とせよ”と」

「星導教典の引用か」

「仰る通りです」

 

 結構強い文の引用だな……。ともすれば、神の一部であると自身を定義していると指摘されても仕方ないはずだ。やはり、何かある。

 

「君は、どうかね?」

「……?」

「それは聖者フィリンの言葉だろう?」

「私は……」

 

 しばしの沈黙。フィグラスは顔を歪め、何かを迷っているように感じられた。言うなら言うといい、しかし責任はあるけどね。誘導してる?いや、言いたいことは言った方がいいから。後悔しちゃうよ。多分。

 あ、直衛の二人は静かにしてくれてます。私が彼らに視線を向けると、まただよこの人……って目を向けられました。なんでよ。

 

「まぁいい。酷な質問だった」

「いえ……!答えを出せず、申し訳ございません」

「質問というのは悩んでこそ、存在する価値を持つ。構わんよ」

「寛大なお言葉に、感謝いたします」

 

 流石に詰めてる感じになっちゃったし、私も何かそれっぽいこと言っとくか。自由ねぇ。

 

「……星は闇に在りて光れるのかもしれんな」

「……?」

「言い方が複雑だったな。天という秩序の中でようやく、星は光れるのかもしれない」

「それは」

「光の中だと、星が光っているか分からないだろう?」

 

 都市の中だと星見えにくいし。前世で、田舎の山から見えた星。今世で、屋敷のバルコニーから見えた星。全く違う夜空だったけど、同じように美しかった。

 

「……そうかもしれません」

 

 この話、結構危なかったかも。いや、向こうも同じように危ない話してたからいいでしょ。お互い様だね、うんうん。フィグラスに笑いかけると、彼は若干引いたような笑顔を浮かべた。なんでそんな顔するんですかね。

 

「私も答えを持たない話だ。真に受けなくてよい」

「いいえ、この話を聞けて嬉しく思います」

 

 微妙な笑顔から、静かで真面目な顔へ。何か響いたなら面白いけど、どうだろうね。結局、持論適当に話してるだけだし。

 てか真に受けるなっていったら拒否されたんですけど、そんなに真に受けることある?確かに天=光みたいな雰囲気はあるけど、別に光量の問題だからそんなもんでしょ。まずったかな。

 しばらく二人してぼんやりと考える時間になっていた。こんな時間もいいっすよね。私はボーっとするのが好きだぞ。直衛からも緊張感が減っているのが見えた。

 

「一度、司教の様子を見て参ります」

 

 ふと思い出したように、フィグラスはそういった。司教のこと忘れてましたね。私は別にいいけど。

 

「承知した」

 

 適当に肯定する。

 

「ご自由にお過ごしください。……失礼いたします」

 

 一礼して、彼は去っていった。直衛と私だけが残される。特に話す事も無さ過ぎて、私は椅子を揺らしながらボーっとするのでした。

 普通に前哨戦の重さだったんだけど。頭使うの疲れて、終盤ふわっとしたことしか言ってないし。

 

 司教とまだ会ってすらないってマジ?もういいよ~勘弁して~。

 

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