一般男性、TS令嬢転生(嫌々)からのしたくもない異世界統治   作:柴野沙希

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新生活とこれから

 翌日、新しい邸宅で目を覚ました。えぇ、フェロアオイの別宅です。シリッサにも当然あります、前の屋敷より広いかな。眠いのも継続、昨日クソ疲れたし。

 

「お嬢様、おはようございます」

「はい、お早う」

 

 何となく驚いているミモザに礼を返しつつ、朝の準備を終えていく。ミモザはどうやら最後まで来てくれるらしい。最後って何すか、まぁミモザの寿命か、私が死ぬのが先か五分五分って感じだけど。笑えねぇ~。

 

「今日もお綺麗です」

「でしょ」

 

 お互いにふふ……と笑みを浮かべる。この感じは変わらないのが助かる。なんでもかんでも変わると大変だからね。今いるの、半分敵地みたいなものだし。

 

「ねぇ。使用人の配置なんだけど」

「周りは固めております」

「助かるわ」

 

 使用人も増えたし、前からの継続使用人もいる。私の周りは継続で固めるとして、他はどうすっかな。全員を私の近衛にする訳にはいかないし、人員は普通に欲しい。文官側に行って貰うか?

 

「あぶれた人員ですが」

「いい案ある?」

「文官に付けるのがよいかと」

「でも、教育がねぇ」

「規律、計算、文字。叩き込んでおります」

「ほんとに?」

 

 えっ何それ聞いてないんだけど。私も使用人も暇ないからってやめておいた案をやっちゃったの?

 新しいドレッサーから視線を浮かせた。そしてミモザを見上げると、得意気に私を見てきた。ふぅ~ん、やるじゃんか。

 

「言いなさいよ」

「報告の必要性は無いと判断いたしました」

「……ま、いいわ。助かる」

「では……」

「複式簿記だけ後で教えるわ。終われば、文官として運用」

「……承知いたしました」

 

 髪をまとめて貰いながら、今後のプランを何となく思い出す。

 まずは不正から徐々に消さないといけないんだよなぁ。複式簿記を使える文官、忠誠心のある監督官がとにかく必要。この二種で証拠を集めまくるとこからかなぁ。いきなり上を潰すのは下策だし。

 

「終わりました」

「ご苦労様」

 

 立ち上がって、一緒に部屋を出る。そしてミモザは別の方向へ、私は食堂へ。

 同時に直衛が隣の部屋から出てくる。今日の担当はシーラですね。明るめの顔立ちを仏頂面にしている分、独特な雰囲気が出てるんすよね。

 

「おはようございます。お嬢様」

「ご苦労様」

 

 やっぱ追従してくれるだけで安心感凄いわ。適当に声を掛けつつ歩き始めた。やっぱり斜め後ろに追従してくる。向こうの表情が見えないから複雑なんだよな。

 

「変化あった?」

「屋内は特に。広くはなっていますが」

「そうねぇ」

「屋外は、また別かもしれませんが」

 

 こんな感じで何となく話しながら廊下を歩く。広くなったせいで遠いんだよな、別に運動全くしてない訳じゃないけど。めんどくさいんだよね。

 私の寝室周りは前の使用人で固めてるから、例によって挨拶はしっかりしてる。角度の合う礼、私も手で返す。

 

「魔銃兵は駐屯地?」

「はい」

「そ、メーザリーの軍は見た?」

「我々はまだ」

「軍がまともならいいけど」

 

 軍を掌握してるアルバーネの爺さんは食わせ者っぽいけど。中身自体は多少ガタついてても、悪い噂自体は少なかった気がする。率いている側がアレっぽいけど、下の兵は意外と……?ま、今後の報告次第かな。

 

「考えることが多いわ」

「お嬢様なら解決出来ましょう」

「買い被り過ぎよ」

「いえ、皆そう思っております」

 

 そんな高い評価されても何も出ないわよ……。やらなきゃいけないからやってるだけで、別に褒められるアレではないというか。やり通すけど、無理してるからいっつも。

 テクテク歩いて食堂につく。居るのはこちらも継続の料理長。

 

「お早う」

「おはようございます。お嬢様」

 

 さっさと座って祈ってお食事に。結局こっちでもポリッジを食べてます。正直朝からバチバチの香辛料食べれるほど元気ないしなぁ。ちょっとだけシナモンの味がする。港町なだけあって、この辺も手広くやれるようになってるはず。

 

「甘くて助かるわ。こっちの方が食材の種類は多い?」

「はい。今回入れさせて頂いているのも、舶来の香辛料です」

「いいわね。今日から楽しみ」

「そう言って頂ける、それ以上の喜びはございません」

「……言い過ぎじゃない?」

「いえ」

 

 なんかさ、全体的に重くなってない?気のせい?ま、まぁいいか。悪意からって訳じゃないし。ちょっとだけ暖かくなった目を受けながらご飯を食べる。

 

「ご馳走様。美味しかったわ」

「ありがとうございます」

 

 さて、戻るか。シーラと二人で執務室へと向かう。今度は回り道で戻る、まだ屋敷の全体を把握してないからね。

 歩いていると見たことのない顔ぶれが三人、窓を拭いていた。私を見かけると、礼をしてくる。

 う~ん、バラバラ。角度ズレズレ。いや、多分継続組に基準を寄せてるから悪いんだよなぁ。ま、ちょっとは指導しとくか。

 

「礼、ズレてるわ」

「申し訳ございません……」

「角度も合わせておくこと」

「承知いたしました」

 

 あ、まだ教育前って可能性しかないか。でも、使用人ならこれぐらい……基準上げ過ぎか。

 

「ミモザから習った?」

「いえ、今日からです」

「そ、なら忘れて。知らぬ者に求めるのは酷だったわ」

「……ありがとうございます」

「ん、ご苦労様」

 

 ちょっとミスったか……。疲れ、抜けてないわねぇ。手を振ってまた歩き出す。シーラも無言でついてくる。

 

「ね、完璧じゃないのよ」

「知っております」

「そ、そうなのね……」

「はい」

 

 そういう感じなのねぇ。別に、凄いとか思われたくないというか、思われても何も無いからさ。期待しても無駄なだけだよ。でも、答えようとしてしまう悪癖は未だに残ってるなぁ。くそう。

 執務室について、椅子へと座り込む。机の向こう側、少し離れた椅子にシーラも座った。机の上には大量の書類、またこの作業かぁ。サボったところで自己責任だから余計いいやら悪いやら……。

 

「少し、整理するか」

 

 ぼんやりと天井を眺める。古い白の天井が目に入った。さて。シーラは持っている剣の手入れを始めたらしく、剣を抜く音が聞こえた。ん?

 

「……?」

 

 何となく視線を下に戻す。シーラは、剣の手入れをしていた。別にそれ以上でも、それ以下でもなかった。駄目だな、ちょっと悪い方向に行ってるわ。警戒し過ぎ、敵味方の区別が早速揺れてる。

 今、暗殺させると全部投げ捨てることになっちゃうからなぁ。流石に皆が大変でしょ、この段階で急に死ぬの。

 

「お嬢様」

「何?」

「我々は、常に貴女と共におります」

「疑ってる訳じゃないの、ごめんなさいね」

 

 気づかせちゃったか。流石だなぁ。ほんと、疑ってる訳じゃないの。身体が勝手に反応しちゃったというか。ごめんね。

 

「僭越ながら……警戒と、猜疑は違います」

「今のは猜疑だったわ。少し、恐れ過ぎてる」

「命に代えて守ります、それでも不安でしょうか?」

「……大丈夫。安心したわ」

「それはよかった」

 

 理論上死なない。この心の隅にある恐れは、生物が勝手に持っている本能。きっとこれが猜疑を生んできたのだろう。理論上死なないが、死ぬかもしれない。矛盾した精神と身体が自分を不安定にする。

 落ち着け。どうせ死ぬなら運命だ。全力は常に尽くしてる。一度、通ったものだろう?二度目は、無に還るに決まってる。

 

「仕事、やるか」

 

 首を軽く両手で叩き、ガラスペンを持つ。やれることを、やっていくしかないんだ。私にしか果たせない責任があるなら、果たすしかない。

 サラサラカリカリとペンを動かしつつ、決裁書や、命令書などを捌いていく。シリッサがヤバすぎて、西北全体を触れられるだけの力はない。一旦現状維持で誤魔化しつつ、シリッサから片付けよう。

 

「う~む」

 

 腕を組んでまた天井を見る。先をどうするかなぁ。貴族たちはまぁ、ギルド担当の狐顔と経済担当のキツい女はいずれ消してしまっていいだろう。アルバーネの爺さんは保留しつつ、揺らして情報は抜く方向で行くか。

 一旦は下級貴族、スラム、腐敗冒険者を片付けるところからやらないとなぁ。めんどくさすぎ。

 

「財政から」

 

 複式簿記の徹底と監督官制度は入れないとなぁ。簿記の徹底は使用人たちを教育係に、メーザリー軍とウチの兵に監督官は任せよ。軍の不正発生もあるかもなぁ、でも健全化はするだろうし。不正は極刑で縛るか。

 本家のあるフェロークから、人員のリクルートもやらないと……。貴族の仕分けも必要だな。不正が無い、グレーなら一旦残そう。最悪からマシにするのが目的だし。

 

「他は……」

 

 貴族の反発は、密告の奨励と監督官、噂を流しまくって纏まれないようにしとこ。取引も視野に入れて、話すものは助けるスタイルにしておけばいいか。

 

「金……」

 

 都市公庫は最速で抑えよ。絶対黒だし、違えば徐々に取り込めばいい。本家から借りた金を注入して、中央銀行化で流れを見たい。粛清貴族の資産接収。

 これで公共事業とダンジョン攻略依頼補助を出せるはず。失業者、下位冒険者の収入を底上げすれば、ギャングとスラムを縮小出来る。

 

「教会……」

 

 クレアの失礼、フィグラスはやり手。炊き出しに合わせて行政支援、聖職貴族の一部許容で下層粛清は黙ってくれるかねぇ。一応、中央教会に異端審問官の派遣を頼んどこ。バレないように……泣き顔に頼むか。

 

「ギルドは」

 

 冒険者ギルドからの反発はないはず。他ギルドは受注数増えるし、ギャングの影響力を削げるから問題ないと予想。商会もそうでしょ。

 

「最後、暗殺」

 

 これだけ固めて無理なら無理よ。魔法銃兵三十、魔甲騎兵五が屋敷を守ってるし。挑んで来たら根こそぎ消し去ってやる。一族郎党全員、消す。挑む意思を消さなきゃならない。

 

「一旦、こんなもんか」

 

 まだ先の話だし、軽く枠組みだけ決めとけばいいでしょ。書類仕事、続けよ。

 

「決裁書ばっか……」

 

 私のガラスペンが、再び音を鳴らし始めた。日は登り、シーラは剣を磨きながら伸びをしている。

 

 平和ね、今はまだ。やれるベストを尽くしましょう。……眠いけど。

 

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