一般男性、TS令嬢転生(嫌々)からのしたくもない異世界統治   作:柴野沙希

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ライブ感しかない演説と兵士達

 

 第一段階の粛清を実行します。幹部会議でドヤ顔発表して数日後、私は練兵場へと向かっておりました。

 また馬車にガタゴト揺られております。空はいい感じに青く、シリッサは表面上は元気そうです。表面上は。

「軍権、何とか回収できた……」

 なお、ギリのギリギリ回収した模様。マジで兵士が訓練不足の弱兵ってのと、爺さん伯爵の押さえつけで動けなかっただけでよかった。腐敗してたら流石に公爵家案件でしたね。泣きついてたわ。

 アルバーネの爺さんは結局、私に屈した。粘った方じゃない?因みに騎兵長は、ウチの銃兵達が回収しました。んで爺さんの情報開示、忠誠の乗り換えを条件にして戻した。歩兵長は私の内通だし、これでエリート兵科と基礎兵科のトップがこっちに付いた訳だ。

「利で動く人間でも、優秀なら必要なんだよね。今は」

 まぁ次、怪しい動きしたら殺すけど。爺さんも同じく。正直騎兵長、爺さんは私がやるって言ったらやるのを分かってるから楽ではある。恐怖ってのは偉大だね。後ろ暗い人間に使うのが、一番良い。

 都市公庫は抑えてるし、これで金と軍はどうにか掌握した。てかここは粛清関係なく、握っとかないと統治が無理まである。柱っすからね、統治の。

「数ヶ月で形になったのは助かるわ」

 軍は魔法銃兵の皆様が数ヶ月猛訓練してくれたお陰か、随分とマシになったそうです。最初は行進や整列、武器の手入れさえ怪しかったからな。就任時に見に行って唖然としたわ。

 差し入れと報告、偶に顔出すぐらいしか出来てないから不安ではある。訓練済みとはいえ、爺さんに守られてた部分もあるからな。向こうは手を出されない代わりに出さない。そんな感じだったんだろうが、これからは違う。

 

「折角訓練したのに……」

 

 訓練には人、物、金がしっかり掛かっている。これが戦いで失われると考えると、もうほんとつらい。ただでさえカツカツなのに。実家に頼り過ぎると、後々揺すられるから出来る限り介入は減らしておきたい所。

 両親は好きではあるが、その辺なあなあでやってくれる人達じゃないのも分かってるし。フェロアオイの幹部連中からも色々せっつかれちゃう。迷惑も避けたい。避けたいものばっかりだなこれ。

 

「演説かぁ」

 

 これから都市でしっかり戦って貰うので、私が決戦演説的なのをやるって話になりました。まぁ、士気上げてかないとね。しかもメーザリー軍と魔法銃兵を別々に、計二回も。話すこと無いよ。頑張りましょうじゃダメ?ダメかぁ……。

 ぶっちゃけしっかり支配者として存在感出しとかないと、後での反乱や求心力の低下に繋がりかねないってのもある。物出すだけだと流石に無理だからね、士気上げるのは。しっかり兵士が死ねるだけの理由を作れてこその統治者よ。

 

「……着いたか」

 

 馬車が止まり、私は外へと出る。兵舎とほぼ一体になっている練兵場では、兵士諸君が雲梯や木製の坂、筋トレをやってました。訓練中ですね、素晴らしい。

 前領にいた頃から、屯田兵の皆には色々アスレチックや行進訓練を試して貰っていた。正直、ほぼ既存概念ではあった。でも一部や、これ全部を統合的に取り入れるのは珍しかったらしい。そういってたからそうなんだと思います、多分。

 

「お嬢様。兵舎の方でお待ち頂いても?」

「分かったわ」

 

 勿論ついてきたロブが言う。当然、直衛もフルメンバーです。いつどこで襲われるか分かったもんじゃないからね。私はテクテクと訓練を横目にしつつ、兵舎へと入った。

 雑多だが、物が多いだけで整理はされている兵舎の中を進む。二階の騎兵長の部屋まで進み、扉をロブがノックする。

 

「お嬢様が来られている!開けるぞ?」

「勿論です!どうぞ!」

 

 中には、騎兵長がいた。少し若めの男、顔の造形的にも全体的にシャープなのよね。この人。それなりの期間、留置場で生活してたせいでやつれてたけど、今見る限りだと顔色もよく、随分と回復したようでよかったわ。死なれたら困るからね、今は特に。

 

「ご苦労様。息災かしら、ニール?」

「ソフィア様……随分と、良くなりました」

「見る限り、そうみたいね」

「本日は兵達に、演説を?」

「えぇ」

「では、兵を集めて参ります」

「そうしてちょうだい」

「狭い部屋ですが、ごゆるりとお過ごしください」

「そうするわ」

 

 ロブが持ってきてくれた椅子に腰かける。騎兵長のニールは、私たちに一礼すると外へと出ていった。普通に何話そうかな。行き当たりばったりでいいか……?別に士気を下げなければいい訳だし。

 

「ロブ」

「何でしょう?」

「何を話そうかしら?」

「思うように話して下されば、士気は上がるかと」

「そ、そう……」

 

 当てにならねぇ!ノープランで行けってのは信頼以上に何かこう、怖いわ。少しは何いうのか気になったり、軍人の視点から何かカバーしてくれるとかじゃないの?十六の令嬢が、整列する兵士の前で演説ですよ?しかも百人以上いるんだから。

 ロブはダメだ!幸い、部屋にはまだ四人いる。誰か一人ぐらいは何か言ってくれるでしょ。まずイリル!

 

「イリル」

「はい、お嬢様」

「演説なんだけど」

「自由に語って頂ければ」

「……なるほど」

 

 だから自由ってなんだよ!昨日食べた夕飯の話でも士気が上がるんですか?いや、信頼は嬉しいけどさ。大丈夫なのかそれなりに不安にはなるよね。可愛い顔に付いている目が、私を静かに見ていた。いや、目が凪いでるってのが余計に何か、ね。もういいや。

 次はモーリス、何とかしてくれ。

 

「モーリス!」

「どうされましたか?」

「いい案!」

「お嬢様の考えられる案以上を、私は出せません」

「あ、そうなのね……」

 

 ダメだぁ!出せるだろ別に。私は演説とか発表は得意じゃないんです。いや本当に。人前とか出来るだけ出たくないんすよ。皆が私を駆り出してくるから仕方なく出ているだけであって……。草稿も基本的にその場しのぎになるというか、実は台本作っても覚えられないって話が……。まぁいい!糸目なせいで目は見えないけどさ、表情の真面目さと立ち振る舞いから察するところはあるよね。信頼や忠誠の強さ。

 次、シーラ!そろそろ何とかならないか。台本を覚えられない健忘症の私に、いい案を!

 

「シーラ!」

「聞いております」

「どう思う?」

「他三名と同意見です」

「そう……」

 

 活発系の元気な顔が、凄まじい真顔である。このギャップが結構凄いんですけど、本題の方はあっさり拒否されましたね。畜生。別にまるパクリするって訳じゃないのにさ、どうして私に全てを託してしまうのか。

 信頼ってのは残酷だなぁ。これで四人目も撃沈と。さて、最後の一人は……。

 

「デレク!!」

「私も同じく」

「早いわね……」

「申し訳ございません」

「気にしてないわ……」

 

 カッコいい系の、ともすれば俺様系と呼べるのかもしれない直衛最後の一人。オレンジ色のバックにされた髪は、彼の答えと同じく歪みはない。デレク、お前もか……。

 俺様系にして全忠誠ですからね、てか直衛全員がそう。期待を裏切った瞬間、あっさり殺されそうではある。酷い話だ、そうでないことを祈るしかない。

 

「じゃあ、私が考えるしかないわね……」

「そうして下さい」

 

 ロブが直衛全員の意見を代弁するかのように、返答してきた。空気感的に実際みんなそう思ってるんだろうな感はある。どうしてこんなに信じられてるのか理解できない部分はある。私、別に言うほど何にもしてないぞ。いや、ほんとに。

 よし、何か考えよ。そう思った瞬間、ドアが開いた。

 

「準備が出来ました」

「……今、行くわ」

 

 結局ノープランか、大丈夫かな。大丈夫な訳がない。少しだけ痛むお腹を抑えながら、外へと向かうのでした。

 

 練兵場には兵士たちが整列していた。ニールが私をステージまで誘導してくる。クソ、普通に行きたくない。でも行くしかない、まぁ何とか話せるだろ!多分!

 

「どうぞ」

「ご苦労」

 

 皆の前に立つ。兵士たちは皆一様に黙り、私の顔を見ている。数ヶ月の訓練前より、めちゃめちゃいい顔してるじゃない。いいね。

 

「……兵士諸君。私は貴君らの主である」

 

 一旦、立場の再定義から始めましょう。どういう気持ちで向こうが聞けばいいのか誘導するのが大事。

 

「数ヶ月前、私は失望した。シリッサの兵は、ここまで弱いのかと」

 

 事実ですね。マジで弱かった。長槍は錆び錆び、構えは腰が引けてるし。頭抱えましたよ。

 

「だが今、槍は磨かれ、貴君らもまた、磨かれた」

 

 顔の雰囲気、穂先の色もいい。流石に見回りが出来る感じはする。

 

「鈍く光る穂先、精悍たる顔立ち。人はそれを、兵士と呼ぶ」

 

 どう変わったのかをしっかり提示してあげないとね。そして、誇りが持てるように役職を与える。簡易的な叙勲に近いっすね。概念的には。

 

「シリッサは今日、兵士を持つ街となった。そして、兵士によって守られる街になった」

 

 これから何をして貰うのか。そりゃ戦いですからね。しっかりやって下さい。私は兵士の顔を見回す。いい覚悟っすね。

 これまで耐えてきたんだ、やり返してやれ。向こうは法に違反してる敵だ。

 

「伯爵は黙らせた。もう、耐える必要はない」

 

 私のやった功績もさりげなく入れておくぞ。これも大事。

 

「……諸君、時は満ちた!」

 

 そろそろクライマックスへと向かうか、少しずつ兵士側のボルテージが上がってきたのも感じるし。熱気を何か感じるわ。

 

「新領主、ソフィア・リードラル辺境侯爵の名において命じる!」

 

 さぁ諸君、舞台は完成しつつある。敵を潰してやれ。

 

「戦いは幕を開けた!法の下、悪逆を絞首台の上に送ってやれ!!」

 

 喉は痛いが、言いたいことは言えたかな。結構アドリブにしてはいい線行ってたんじゃない?ほら、兵士も直衛もめっちゃ敬礼と熱視線送ってくるし。

 最後にスローガンとか入れとくか。こういうのが一番連帯を作るんだ。そうだなぁ……シンプルなので行こう。

 

「兵士諸君、シリッサに正律を!」

 

 これでどうですか。正しい規律的な。

 

「「「シリッサに正律を!!!」」」

 

 皆、何度も腕を振り上げて叫んでくれてますね。よしよし、上手くいってそうでよし!疲れた!終わり!

 

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