一般男性、TS令嬢転生(嫌々)からのしたくもない異世界統治   作:柴野沙希

40 / 65
三年で何が変わるというのか

───王国歴427年、冬明け。ロンディルト王国北西部、港湾都市シリッサ。

 

「寒っ」

 

 日々は流れゆくもので、着任して三年が経過。私は十六から十九へ。変わらない日々と言えばそう。都市計画は年単位で回るからなぁ。見た目は据え置きです、慈悲は無い。

 最近は分業を進めまして、少しだけ負担は減った。教育を先生に、軍事はロブ、内務はミモザへ。ぶっちゃけ回るのかと思っていましたけれども、意外と何とかなるもので。色々と教えるのは手間だったけどね!

 お陰でお勉強タイムは消滅、直衛の戦力低下、お茶の味が落ちた。結構なマイナスですけど、私が過労死するよりかは遥かにマシ。流石に今後を考えると、やっぱ一人じゃ無理だ。皆にも色々と怒られちゃったし。

 

「眠い」

「お嬢様、これから大事な交渉ですよ……」

「少し眠られては?」

 

 そうねぇ……と適当に返答し、外を眺める。私は今日も今日とて真昼間から外に出て、馬車に揺られております。えぇ、会談です。わざわざ目立たない場所で、目立たない馬車に乗り換えて向かう場所。

 今回はロブとイリルが目の前に居ます、御者はモーリスの三人衆。残りの二人は現地偵察ですね。ま、会談相手もバレたら大変な立場だし。最初に会った頃から、かなり状況は変わっちゃったんでね。

 久しぶりの外出ながら、遊びに行く訳じゃないんでそれなりに怠い。屋敷に居たとて片付けることは沢山、マシになったとは言え涙が出そう。いや本当に、マシにはなったんですよ。

 

「街、少しは綺麗になったかしら」

「はい、お嬢様のお陰です」

 

 真顔で褒めてくるイリルと、首肯で同調するロブ。まぁ、悪い気はしない。視線を外に戻して、ぼんやりと外を眺め続ける。それなりに綺麗になった街並みを見ると、少しだけ達成感はあるけどねぇ。

 今日に至るまで、インフラ工事は続けました。外壁や通りの修復、片付け、整理、衛生面の調整。やること沢山で懸念していた人不足、仕事不足は無かった。金額は愉快ですけど、価値はあったと思う。いや、無いと笑えん。

 

「まだ基盤さえ出来てないのよ」

「それでも、成果と言えましょう」

「……悪い癖ね。私の」

 

 やべ、二人を困らせちゃった。いや本当に基盤の段階なんですって。なんでそんなに皆が褒めてくるのか分からん過ぎる。困惑が勝ち過ぎるわ。三年しか経ってないんだよ?近代化の入り口にすら立ってないのに。……これも完璧主義か。もう考えるのやめよ。

 

「……寝るわ。着いたら起こして」

「了解です」

 

 目を閉じ、後ろにもたれかかる。寝れるかねぇ、爆音で目を覚ますとか勘弁だぞ。なんて考えながら目を閉じた。南無三……。

 

「……お嬢様」

 

 …………ロブの声で、目が覚める。寝れたか。体感スッキリした気がしなくもないって感じ。揺れの無さで、馬車が止まっているのを察した。着いたか、あ~交渉だる。

 

「着いたのね」

「はい」

「じゃ、行きましょうか」

 

 大聖堂とはまた別区画にある小教会。私は馬車を降り、生活に馴染んだその建物を少しだけ、見る。真摯に祈っていれば救われる、か。そんな世界だったら全ては楽だったのに。

 四人で入ってすぐの出迎えは、小教会の司祭。初老の男は私を見ると、深く一礼した。

 

「ようこそ、お越し下さいました」

「彼は?」

「おいでになっております。こちらへ」

 

 司祭に誘導されるままに、教会の一室へ。その間、誰ともすれ違うことは無かった。流石にそうよね、居たら消すしかなくなっちゃう。無意味な殺生はしたくないのだ。意味があればやるけど。

 廊下を歩き、少し奥まった部屋の前に着いた。直衛が私の前に立ち、司祭が扉をノックする。

 

「お越しになられました」

「……通してくれ」

 

 開かれた扉、向こう側に見えたのは残りの直衛二人。前に一人、後ろに二人のフォーメーション。間に挟まれた私は、警戒しつつ入室しました。

 部屋には直衛二人と、男がもう一人。教会の長衣に身を包んだ彼は、少しやつれたように見えた。私と一緒じゃん、仲良くやれるよ多分。

 

「久しいね、司教補佐」

「……久しくございます、辺境侯」

 

 立っていたのはフィグラス司教補佐。シリッサ大聖堂の二番手にして、教典派の取りまとめ役。まぁ、教典派でさえ一枚岩じゃないしね。大変だなぁ、気持ちは分かるよ。

 彼もまた、深々と頭を下げてくる。私はそれを眺めつつ、少し増えたであろう白髪から、彼の苦労を何となく想っていた。クレアとかいうやべぇ司教と二人三脚だもんね。可哀想。やべぇ上司と働く地獄はよく分かるよ。マジで。

 

「息災……には見えないわ」

「分かりますか」

「えぇ」

 

 明らかに老けてる気がするわ。いや、気のせいかもしれないけど。まぁ本人が納得してるならあながち間違ってないんだろうなぁと思います。

 あ、支配者モードの口調は封印しました。一向に育たないし、皆に暖かい目で見られるのもちょっと……。変に演じてるのも自己が不安定になる主因と考察したんで。前世の残滓も、もういいだろう。でも色恋はちょっと……。ま、これからは自然体でよろしくって感じ。

 

「座りなさい」

「では、失礼致します」

 

 フィグラスを椅子に座らせ、私もその対面へと座る。話すことは一杯あるが、向こうはどうなんだろうか。

 

「まず、来てくれた事に感謝を」

「……私の選択ですので」

 

 ぶっちゃけ呼んだのは私だ。そして直前になり、勝手に面倒になっていたのも私だ。相手に見せてないからマシか。

 内政に注力した三年間で、茶会に社交界はポイ捨てです。会議、書類、会談、視察。なんてこったい。

 

「それで……彼女の方はどう?」

「……!」

 

 面倒、苦悩、疲弊。フィグラスの顔に、色んな表情が浮かんでは消えていった。こりゃ相当きてるわ。よかったね、私は今回その辺を解決するために来たんだ。善意の使者って奴だな。

 聞くまでも無く、何となくは知ってるんですけどね。彼女が呼ぼうとしてる異端審問官の派遣、妨害しまくってるし。消すにしては貧民の支持がちょっと面倒だったんで……。

 

「変わらず、と言った所でしょうか……」

「そうでしょうね」

「……辺境侯」

「何かしら?」

 

 まだ迷うフィグラスに、穏やかな笑みを向ける。そろそろ、彼女が大変になってきたんじゃない?その取り巻きも似たようなものって聞いてますよ。

 そもギャングが市街地出禁状態だし、スラムが更に大変になるものね。教会が貧者救済って言っても、無理があるわよ。

 

「私に、何を求めているのです」

「“日は、地に寄りて命を焼く”彼女は己の正義に焼かれている」

「それ、は……」

「交渉はしたのよ。だけど、話にならなかったわ」

 

 いや、結構擦り合わせはしたんすよ。やっぱり祈祷で見た、彼女の中にある真実が一番強いみたいで。もう交渉にならないよね、条件じゃないんだもの。まぁそもそもギャングをスラムに封じ込めた地点で、こうなるのはお察してはあったというか。

 

「だから、殺すと?」

「生かす道があるなら、教えて欲しいわ」

「……追放では駄目でしょうか?」

「いずれ戻ってくるわ。憎しみと、より強度を増した正義を持って」

「神の、愛を以ってすれば……」

「その神に殺されそうなのよ?」

 

 苦しそうに頭を抱えるフィグラス。そうでしょうね。私がそっちなら同じようになってるわ。

 向こうが軟化してくれればやり様があるんですけどね。追放は絶対戻ってくるし、信仰で私と対立してるから無理。彼女に兵隊が居たら、とっくに戦争になってたでしょうね。

 

「傀儡になれって話じゃないの。その点は勘違いしないで」

「では、何を?」

「私たちは協力できる」

 

 真っすぐフィグラスの目を見つめる。瞳の中が揺れていた。教典派も一枚岩ではなく、対立の聖女派ば暴走。力が欲しいのは、火を見るよりも明らか。私も、貴方達の持つ教育資本が欲しい。

 

「ですが」

「私も貴方達に協力したいの。炊き出しに教育、孤児の支援……人、物、金。全部足りてないんでしょう?」

「……」

「彼女が与える盲目の施しでは、人は育たない。分かっているでしょう?」

「……否定できません」

「与え続けるだけではなく、自立する力を」

 

 実際、炊き出しだけだとマジで消費するだけって話なんすよね。老人相手ならいいんすけど、それ以外は何とか拾い上げるのが行政って奴で……。

 

「考えは分かります」

「そうねぇ……教典を広く教えられるわ」

 

 フィグラスの目が少し鋭くなった。いいね、やっぱ聖職者なだけあるわ。教えを広めるってのは大事だもんねぇ。

 まぁ、ある程度教育資本が揃ったら容赦なく世俗化するけど。神とかろくでなしだよ。多分ね。私が会った奴が神かどうかは知らないけど。

 

「本気、なんですね?」

「えぇ、少なくとも教育や福祉において協同する準備があるわ」

「…………では、協力を」

「素晴らしい」

 

 よし!……駄目だったら中央から傀儡持ってこないといけなかったし、助かるわぁ。流石に根こそぎ消し去るのには反発と時間が掛かるからね。

 

「……私はどうすれば?」

「シリッサの司教になって貰うわ」

「簡単になれるものでは」

「大丈夫よ」

 

 彼女が前々から準備してる異端審問官、こっちの息が掛かってる奴に変更するんですよ。枢機卿と密に連絡は取ってるし、動けば彼女の友人達は牢屋行きでしょうね。

 んで彼女の方を処断して貰い、空いた椅子に座って貰おうって話。

 

「例の異端審問官、教典派の者になったわ」

「まさか」

「彼女には、正しい沙汰が下るでしょうね」

「なんと……」

 

 そんなビビってどうすんのよ。別に向こうも同じか、もっと滅茶苦茶じゃない。

 

「私が、彼女に寝返る可能性は」

「……なら、異端が二人になるだけね」

 

 その、怪物を見るような目やめてくんない?昔のロブみたいなアレ。心底恐ろしい、理解できないって空気出されるのは困るんすよ。別に慣れたけどさ。

 

「……神よ」

 

 少しずつ、改革の手札は揃いつつある。まず、一歩目を始めよう。教会を掌握して基礎教育、福祉の基盤をそのままそっくり使わせてもらうわ。

 

─────だから、これからも仲良くしましょうね。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。