一般男性、TS令嬢転生(嫌々)からのしたくもない異世界統治 作:柴野沙希
「そうねぇ……」
一気に緊張感の増した空気を前に、私は迷っていた。潰すだけなら簡単なんですよ、潰すだけなら。腐敗した親方や職人をリストアップしてさ。民衆の圧倒的な支持を背景に、皆殺し。数ヶ月で終わるんじゃない?
これやると、強権的過ぎて恐怖政治の割合が強くなるのよ。民衆はまだいいですけど、内部が硬直しちゃう。外部の正当性や内部の手続きにこだわってるのは、持続可能で健全な組織を目指すが故です。正しい粛清を目指しましょうね。私との約束ですわよ。
「ギルドのせいで、皆が苦しんでます」
「……事実ね」
「職人を守るためのギルドが、職人から奪ってるんですよ?」
「ザラ」
「ハドリー、何よ?」
「言い過ぎだ。今のギルドも、全部が全部悪い訳じゃない」
ザラの容赦ない言い方に、普段は落ち着いてるハドリーも片眉を上げてますね。まぁ彼だけ一応、石工ギルドの構成員だし。お互いの言いたい事も分かるんですけどねぇ。どっちかに肩入れするとややこしい事になるな、これ。権力があると、発言一つに力が乗るってので面倒ですね。
「だからって……!」
「ギルドが無ければ、誰が商売を守るんだ」
「守ってないじゃない!」
「一部の構成員だけの話だ……!」
あ~喧嘩っぽくなってきた。ザラは机を叩き、ハドリーは机に置いてる拳に力が入っちゃってますね。流石に私の前で喧嘩されたら、色々落としどころを探らなきゃなんで……。
一旦回すか。アーヴィン、任せた。
「アーヴィン、どう思う?」
「……どう、と言われましても」
「他領を知る君から見て、ここのギルドはどう見える?」
アーヴィンは顎を摩り、視線を投げる。ザラとハドリーの空気感は微妙。ザラは機制をそがれて頭を掻いてます、お団子髪がバラけてますよ。ジェフリーは黙ってますね、何だぁお前。
ローナの視線を背中に感じる。いや、絶対に私から動かないです。私が明言すると、皆同調するからヤダ。即断即決は強制力にもなるって訳だ。
暫しの沈黙。どうかな、アーヴィン。私個人としては腐敗してるし、近代化の邪魔。以上。
「そうですね……随分と、気楽そうには見えます」
「ほう?」
「ギルドの本分は商いを守り、次代に繋げる事だと考えます」
「……そうね」
「しかし此処は、今儲かる事しか考えていない。その先を知らない気楽さを感じます」
声が低く響いた、静かな怒りがアーヴィンから感じられる。まぁ彼、戦災で故郷のギルドが消えてるしな……。苦労人だけあって、言う事がちゃんと重いっすね。実際、私もそれは合ってると思うし。何でギルドを作るかってところで。職人や商売を奪われたり壊されないため、身内を守る為なんですよね。確か。
そんな事を考えながら聞いていると、今度はジェフリーが口を開いた。
「フェロークでも言われてたよ、ギルドは本分を失いつつあるってな」
「ジェフリー、そうなの?」
「あぁ、俺はそんなギルドが嫌いだった。ま、こっちの方が酷かったから笑えるけどな」
「笑えんな……」
あ~、既視感のある話ですねそれは。ザラもハドリーもそっちに興味が行ったし、取り敢えず助かった。ジェフリー、やるじゃん。色ボケの割に。
こっちもちょっとぐらい、内情を開示しときますか。多分この程度なら言ってよかったはず……。
「母上も言っていたわ。その話」
「フェロアオイ公爵夫人ですか……」
ビビるジェフリー。フェローク住みならそりゃビビるか。母上も割と容赦ないから……。粛清で徴税が健全化して、しっかり喜んでましたからね。私より酷いでしょ。いや似たようなものか……。前世があるのに、何か父上や母上に似てる部分もあるんだよね。不思議だ。
「そう。既得権益化して、組織として腐りつつある。って」
「公爵夫人は、フェロークのギルドをどうするので……?」
「そこまで聞いてないわねぇ……」
「そう……ですか」
「……母上は、無実を処断するような人じゃないわ」
「……信じますよ、領主様」
取り敢えずジェフリーの目を見て頷いておく。多分大丈夫。フェロークの木工ギルドがどうなるかは知らないですけど。母上は容赦ないけど、理不尽じゃない。解体はありうるけど、粛清は無い。多分!一応、次の手紙で聞いておくか……。
別の意味で空気が微妙な感じになってますね。このままうやむやにしても……全計画の開示はまだ早いと見てるんだけど。確定してないし。
「話を戻してもよろしいですか?」
「……」
あっ逃がしてくれない。まぁそうですよね。ザラはここで日和るような人じゃないですよね。因みにこの人、魔法学院で学んでたらしいんです。火関連の教室名を貰える寸前まで行って、ゼミの教授と大喧嘩。魔法論の解釈違いだそうで……。先生曰く、才能はあります!との事。変な縁持ってますね先生は。
「ギルドは、いつ、潰すんですか」
半分睨んでいるような目が、私を射貫く。現実逃避にさっきまで色々考えてましたけど、そろそろ威厳的に良くないか。立場がちょっと忘れ去られてる。あんまり威圧出して、反感持たれるのも嫌なんですけど。流石に上下は思い出して貰おうかな。言いたいことは分かるんだけどねぇ。
敢えて下を向き、溜息を吐く。雰囲気の変化に気づいたのだろう、ザラがハッとなり、他三人が息を呑む。多分そんな反応になってるはず。顔を上げると、皆予想通りの反応をしていた。
「ザラ」
「……はい」
「一言で答えるわ。言えない」
今度は真っすぐザラを見る。薄い赤っぽい目が揺らぐ。
「……正しければ当然、全て答えて貰える。そう思ってるでしょう?」
「……違うんですか」
「それが通じるのは学院までよ」
「お言葉ですが、私たちは味方です」
度胸だけはあるなぁ。真っすぐな目。ぶっちゃけ政治に向いて無さすぎ。嫌いじゃないけど、こういう人。私には無い熱意、やる気、正義感とか全部持ってるし。
正しいからって何でもかんでも答えると、情報漏洩と裏切りカーニバルですよ。味方だからって全開示するのは愚の骨頂、そもそも分かんないでしょ。
「私と貴女では、立っている場所が違うのよ。味方である事は、味方の全てを理解する事では無いわ。違う?」
「……違いません」
「勿論、話せる部分は話すわ。それは味方に対して、私が負う責任だもの」
適当な計画話して、本気にされたら大変ですからね。聞く自由は与えてるが、全部答える義務は無いからね?リスクしかない。ただでさえ色々と勘違いされ気味なのに。
結局、炉長の地位だと民衆の支持や鉄や軍を掌握してる領主。他三人もそこまでは見えるでしょう。ザラなら、金融も一部見えてる位はあるでしょうね。ジェフリーはフェロアオイ本家が見えてるでしょうし、アーヴィンは西方鎮圧の軍事力。ハドリーは私の持つ影響力。それぞれの背景から、私が見えているはず。所詮それは、私や都市の一部に過ぎない訳で。
「前提として……ここで私が全て話すとして、貴女は聞きたいの?」
「勿論です」
「あらそう。他の三人は?」
「……もし話されるのであれば、私は離席します」
アーヴィンが至って真面目な顔で言う。そうでしょうね。私でも逃げるわ。
「私も結構です。お二人で話して頂ければ」
ジェフリーも緩い顔してたのに、もう真顔ですね。おちゃらけ感無くなっちゃった。悲しいね。
「私は石工ギルドの者ですので……遠慮します」
ハドリーも手が震えてますわよ。白髪が増えるよそんな感じだと。ま、三人ともそうですよね。
「どうして……?」
困惑するザラ、政治と無縁の生活だったんだろうな。学院はそれなりに自由で、追い出された魔法使いとして苦労はしてる。……でも、知らないんでしょう。態度で察せるわ。逆に珍しいかも、私をただの令嬢だと思ってるの。まぁ、演出はしてるんだけどさ。
私はそれを尻目に、ロブに目を向ける。そして私が頷くと、直衛二人が唯一の出入口の前へ立った。四人の表情が固まる。いや、冗談ですよ?意味ないもんここで消すの。
「冗談ですよね?」
「ザラ。全部話すのは、機密の横断なのよ」
「でも」
「そして貴女達と私、お互いのリスクになる」
俯くザラ。私はもう一度ロブに目くばせすると、二人は扉から退けた。冗談よ、流石にね。私は薄く笑い、左手を軽く上げた。そして四人を見回すと、あからさまに全員安堵していた。少しはビビった?知るってのは、色々な責任を負うって事でもありますので……。私の憐れな身の上は、大体色々知る羽目になってるからってのもある。
「となると、私も余裕の無い対応になる。……少しは伝わったかしら?」
「申し訳ございませんでした」
「構わないわ。私も少し近付き過ぎた。他の三人は巻き込む形になってしまったわね。謝罪するわ」
私が軽く頭を下げる。とんでもありません、そう三方向から聞こえて来た。ちゃんと頭も下げます。禍根は出来るだけ減らしておきたいのはそうだし。
「勘違いの無いように明言しておくわ。私はここの皆を信用している」
本当かよ、そんな視線が集まります。間違いねぇ。いや、本当に信用してるんですよ。信頼はしてないけど。
「だからこそ、会話のバランス感覚は抑えておいて欲しいわね」
「……確かに」
「ねぇ、ジェフリー。貴方もそう思うでしょう?」
「仰る通りです。ザラ、他の貴族だったら何されてるか分かんねぇぞ」
頷くザラ。私の前で結構言うねぇ。悪くない。釘を刺す程度のノリなんでね。流石に良くないから窘めたってだけよ。そも全部駄目なら、最初のジェフリーが言った冗談からアウトっすよ。
「今のは聞かなかったことにしておくわ。……時が来れば、当然皆の力を発揮して貰うわ」
「……はい!」
「しっかり腕を磨いておきなさい。始まったら、もう止まれないもの」
全員の顔がちょっと明るくなりましたね。頑張って欲しいね。色々やった後、また中間層不足の沼が発生するから。大変になるぞ~。
「再度言っておきましょうか。私の皆に対する期待は、その地位に表れていると思いなさい」
「……ありがとうございます。領主様」
ジェフリーが答える。うん、皆持ち直したっぽいっすね。頑張ってね。私も頑張らさせられるんで。
「私の持たない部分を、諸君は持っている。欠けを埋め合い、全員で未来へ向かいましょう」
ありがとうございます、四人が静かにそう言ってきた。何か意図せず落として上げる感じになったけど……。まぁ、全体的に許容範囲内でしょう。久しく威圧感出してなかったからちょっと不安ですね。
「……そろそろ時間ね。他の質問は次回、聞かせて貰うわ」
結局この話だけで終わっちゃったよ。勘弁してくれ。次回もあるからまだいいけどさ。ちょっと緊張感も残っちゃったな。あぁダメっすね、完璧症が出てるわ。やめやめ。
私が席を立つと、四人が立って頭を下げて来た。私は彼らを一度見て、入り口の方へと歩く。シーラが開いた扉から、私は外へ向かっていった。あ~疲れた。帰って寝たいわ。