一般男性、TS令嬢転生(嫌々)からのしたくもない異世界統治 作:柴野沙希
あ~緊張する。これで魔法ミスったらマジで面子がね……。しかも短杖だから難しいんですよ。魔法を安定化してくれる魔石のサイズが小さくて、杖本体にも彫刻が刻めないから暴れるんす……。はい、言い訳辞めます。頑張るっす。
モーリスから短杖を受け取り、位置へと向かう。何使うかな、印象深くなる感じの奴、レパートリーにあったかな。真面目に勉強してたの、昔の話になっちゃった……。
あ、アレ行けるか。今日は晴れてるし、一発芸として完成度高いし。まぁむずいんだけどさ。そうと決まれば、よしよし……。
太陽はこっちに上がってて……なら、この向きに立って貰えばいいか。
「二人とも、こちらに立ちなさい」
訝し気に動く兄妹、ちょうど太陽を背に立つ形になってますね。
右手に持った杖を身体の前へ出す。
「『水よ、出で、留まれ』」
杖の先にある魔石から水が湧き、ひたすら水球の様に纏まり続ける。程々にしとかないと倒れるから注意っすね……。とはいえ、私の身体ぐらいのサイズは最低でも要るんすよ。
……よし、次。杖を上に動かすと、釣られて私と同じくらいのサイズのクソデカ水球も上に動く。私をヨイショするための歓声がちょっと聞こえた。
「……大きい」
「『水よ、放たれ、爆ぜよ』」
動き方的にはドタプン!って感じですけど、音はほぼ無い。そのままお空へ飛んでいきました。ここからは速さ勝負!
「『風よ、均され、旋げ』」
「すげぇ……」
ビュォォ!と一気に旋風が空へ向かう。歓声がちゃんと聞こえた。このサイズと操作、素人には真似できまい。私的にもムズい!上手い具合に拡散させなければ!あぁ、脳のリソースが壊れる!
指先、杖先、体内!外の魔法を同じ魔力が循環しているイメージ!上から、パン!と弾ける音が聞こえた。よし!後は風を維持するだけ!
「…………きれい」
ティナの呟きが聞こえた気がした。気のせいかもしれない。とはいえ、もう魔法操作は大丈夫だろう。バッ、と上を見た。そこには。
「……こっちで、生きていけたらなぁ。『風よ、旋げ』」
兄妹の方を見ると、もうなんか一週回ってぼんやり見てますね。反応を見る限り、しっかり虹は出てるんでしょう。落ちてくる雨を避けるために、風を頭上に展開する。魔法とか、こういうので私は生きていきたいんすけどね……。これちゃんと印象深くなってんのか?不安になってきた……。
これも昔、まだ魔法で遊べてた頃に生み出した奴の一つですね。思考錯誤はあれど、意外と出来て私もビビったのを覚えてるわ。先生の前で初披露した時も、なんか呆然とされてましたからね。
二人の方へ歩いて戻る。礼儀忘れてぼんやりしてるっすね。うん、子どもらしくて大変よろしい。これで拍手されながら迎えられるとかだと、逆に嘘っぽいんで……。
「返礼になったかしら?」
「……凄いです!」
「どうやったんですか!?」
声を掛けると、二人はハッと気付いて、フンスフンスと大興奮で話し掛けてくれました。バートの方は純粋に凄い凄いって言ってくれてますわね。ティナは魔法の原理を気にしてる辺り、やっぱ素質はあると思いますわよ。魔法の才能って、結局万象を疑い続ける視点にあると思うし。
とはいえ、どう説明したものか……。後ろに太陽がある形で立って貰いまして。クソデカい水球作って、空で破裂させることによって疑似的な雨降らすじゃない?それを風魔法でとにかく細かく飛散させると。
原理説明は……整理できないかも。虹の発生条件、光の角度、水滴の反射とかもう科学的な基礎知識がないと飲み込みにくいだろうしなぁ。私も思考錯誤の末、発生条件は分かるけど、原理はフワついてるから……。こんなことなら前世でもっと勉強しとけばなぁ。これ、何度思ったかね。
「そうねぇ、これは……」
「教えて下さい!」
「僕も聞きたいです!」
あっすっごいグイグイ来る。サイズ的に君らと同じくらいなんだから、あんまり寄ると私の護衛が危ないっすよ。ほら、イリルの眉間に皺が……。子ども相手ですよ?ステイしててね~。
「落ち着きなさい、貴族でしょう?」
「……あっ」
「す、すみません!」
「よろしい」
私からバッと離れる二人。よしよし、別に個人としては纏わりつかれててもいいんですけどねぇ。こっちと向こうの周りが大変だからね、許してね。
「さて、この魔法は……」
何とか嚙み砕いて解説する。やってること自体は水と風魔法の複合みたいな感じなんですけど、並列で唱えている訳でも無く……。
ふんふん話を聞いてくれる二人と、余裕そうな顔を努めてしつつ、どうにか解説しようと努力する私。助けて先生、心から。
何だかんだと解説しておりましたが、最終的にやり方を教える感じになりました。まぁそうだよね。水球を頑張って作ろうとしてる二人を眺めながら、私はぼんやりする。魔法の話、完全に余談なのにめちゃめちゃ疲れたんですけど……。
とかやってると、後ろから話し掛けられました。振り向くと、夫人が複雑な表情で立っていた。
「……お取り込み中でしょうか」
「待たせてしまったかしら?」
「そのような事はございません。お食事の準備が済んでおります」
「では、行きましょう」
「バート!ティナ!」
夫人のよく通る声で、二人はバタバタと戻ってくる。夫人が二人の服を直して、食堂へと案内してくれる。私に背を向けたタイミングで、小さく私だけに夫人は呟いた。
「……感謝いたします」
感謝も何も、私の無茶振りだぞ全部。特に私からは返答を返さず、案内されるまま屋内へと戻る。廊下に飾られている花瓶と、活けられているラカルの花が視界に入った。それを横目に通り過ぎ、開かれている扉から食堂へと辿り着いた。
「随分とお待たせしてしまい、申し訳ございません」
カーセラ伯爵が頭を下げる。こっちが盛り上がってるのを見て、声を掛ける時期を計ってたんでしょ多分。ここで嫌味なく頭下げられる辺り、悪くないっすね。ちんたら兄妹と遊んでたのは私なんで、申し訳なくはあるよ。
「よい。彼らに屋敷を案内して貰っていたもの。退屈しなかったわ」
「それはそれは……」
「突然の案内役にも関わらず、兄妹はよく役割を果たした。よい子を持ったわね、カーセラ伯爵」
「おぉ……感謝いたします!」
「「ありがとうございます!」」
シンプルに褒めると、破顔して喜ぶ伯爵。めっちゃ嬉しそうっすね。そりゃそうか、すわ無茶振りからの非礼とかいう、理不尽貴族コンボの可能性が高いところに褒めが入ったから……。なんかすいませんね。
「では、そちらへ座って頂けますか?」
「えぇ」
当然の権利の如く上座へ座る私。それを見てから、カーセラ伯爵家の面々も座り出す。いつもカーセラ伯爵が座る位置なんだろうなと思いつつ、私から見て左に夫人とティナが、右に伯爵とバートが座ってますね。周囲を囲う使用人と我が近衛の皆さん。
使用人が葡萄酒を取り敢えず持ってきてくれました。別に飲まない訳じゃないんすけど……まぁいいか。弱くは無いし。現代なら丁度成人してるし……。この世界、水魔法と祈祷のお陰で真水が手に入りやすいんでね。
「こちら、ペレネーの12年物となります」
グラスに注がれる赤色の葡萄酒。ペレネーは王国南部にある葡萄酒の名産地ですね。415年の奴は出来が結構よかったはず。香りは……深みの中に瑞々しさがある、まぁいい感じなんじゃないっすかね。ちょこっと口に含んで揺らす、鼻に通るいい香りと嫌味にならない程度の酸味と苦みの複合。いい年の葡萄酒なだけあるわ。これ、出してよかったんすかね。伯爵家的には高いだろうに。
「如何ですか、リードラル卿」
「ペレネーの415年、当たり年には景色が宿るのよね」
「……流石、公爵家の方で御座います。葡萄酒にも明るいとは」
「嗜む程度に過ぎないのよ、大袈裟に褒めすぎねぇ」
「ご謙遜を……」
謙遜でも何でもないんすけど。当たり年を何となく覚えてて、後は味の感想をそのままお伝えしてるだけなんすけど。酒は翌日の執務に差し支えるから、付き合い以外であんま飲まないんすけど……。舌は使い物になって良かった。
各種野菜のスープに、サラダをしめやかにパクつく。健康にいい!あ、メイン来た。ポロゴスのステーキでした。イノシシステーキ、大きいなぁ。私のちっこい胃袋に入るかなぁ。ジュウジュウ言ってるわ。前世なら喜んでかぶりついてたのになぁ。寂しきかな。
「こちらも如何でしょうか、今朝狩ったモノとなりますので、鮮度は抜群かと」
「力強く、濃厚な風味ね。悪くないわ」
「それは良かった」
何とか優雅にモクモク食べる。小さくなったせいで、一口も小さくなっちゃったのよね。まぁ私がゆっくり食べる事によって、伯爵家の皆もゆっくり食べられるように余裕を与えてる部分もあるから……。
「……ふぅ」
食べ切って、口をナプキンで拭いながら一息つく。葡萄酒にステーキ、足し算だな……。まぁ美味しいのはしっかり美味しいからいいか。
「ところで、リードラル卿」
「何かしら?」
「此度はなぜ、このような地へ?」
そりゃ気になるよね。私にいい顔しながら、目の奥には色んな何かが渦巻いているのが見える。どこまで話すかなぁ。完全に嘘言う必要は無いけど、とはいえ全部出すのは下策。う~ん。
「偶には地方に顔を出しておかないと、忘れられるでしょう?」
「その様な事は……リードラル卿のご威光、我が領地にも当然届いておりますとも」
「世辞が上手いわね」
実際のとこはアレですね。偶には顔出しとかないと、適当にやってもバレんやろってなられるからね。後は、ギルドやギャングに今後、更なる手を入れる予定なんで。今のうちに地盤固めやっとかないとって感じなんすよね。もちろん、徴税監督官に対しての監査目的もありますけど、当然。全ては味方であり、潜在敵なんですわよ。表面敵?殺し方以外に悩まなくていいからマシまである。
「して、統治の労苦を労う為でもあるわ」
「なるほど……?」
「幾つか労いの品を持ってきているわ。後で受け取りなさい」
「おぉ!感謝いたします」
「真面目に働く者には正当な報酬を。悩みがあれば言いなさい」
「お気遣いまで……重ねて、感謝いたします」
流石に上手いっすね、カーセラ伯爵。上に対してのへりくだり方とか。意外とシリッサ都市貴族の方が怪しかったりするんですよね。都市はやっぱ貴族も民も、ある程度力を持ちやすい環境でもあるからなぁ。あ、田舎の下級貴族が一番酷いっす。これは不変の原理。
「まぁ、後の会議で話しましょうか」
「承知いたしました」
お腹がちょっと重いかも。あ、デザートはカシリスのソルベでした。私の好物、よく調べてんね。おいしゅうございました。
後は見どころも無く、ひたすらカーセラ伯爵と会議して一日が終わりました。寝て起きて飯食って話して、今度は夫人に色々解説させて地方視察はあっさりと終わりました。一生、農作物の収量や領地の見解を領主と監督官、先生の三者から聞いて、汚職が無いかとか数値の正確さを読み取る作業してました。きつすぎ。数学的な素養は凡以下だし私。
「楽しかったです!」
「それは、よかったですね……」
念願のフィールドワークが出来てツヤツヤの先生と、一生会議と書類で煤けてる私。帰りの馬車の中は、非常に対照的な雰囲気に包まれてましたね。は~あ。ティナとバートともっと遊びたかったなぁ。
とはいえ、地方を回った分だけ釘を刺せるし、とにかくギルド解体の布石を打っておきたいんす。極論、農作物さえ確保できれば民衆の支持は最低限維持できるんでね。めんどくさいね。頑張ります。
「……次、か」
「何か言われましたか?」
「いえ、何でもないです」
──セカンド・パージ。幕間は去り、シリッサ平定の第二幕がやってくる。