一般男性、TS令嬢転生(嫌々)からのしたくもない異世界統治   作:柴野沙希

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平穏はいつ訪れるのか

 

「ねむ……」

「お早う御座います、お嬢様」

 

 私の朝は早い、というか日の出ぐらいに叩き起こされるんで……。未だに朝、私を起こしに来るのはミモザなんだよね。稀にダフネが来るって感じ。シリッサに来る前までは絶対ミモザだったんですけどね。流石に公庫も受け持ちだし、そりゃ全日は無理だよね。それでも、体感九割五分でミモザが来るの凄いよね。私ならどっかで誰かにぶん投げてるわ。

 

「麦粥とマルカレルのスープとなります」

 

 食堂へ移動し、お爺の料理長から朝食が流れるように出てくる。胃に優しく食べやすい、マルカレル……サバのスープもいい感じっすね。なんだろうな、あっさりとした旨味なんだろうかね。粥にも出汁ちょっと入れてくれてるっぽい。食べ飽きないのは工夫があるから。ありがたいね。

 身支度から朝食まで、私が何もしなくても流れ作業で私が完成する訳だ。通勤列車に乗ってるみたい。ベッドが始発、数メートル隣の執務机が終点です。はーあ。もっと寝たいわ。机の上に置いてるガラスペンと山積みの書類。始めるのが一番おっくうなんすよ。始める時は何も考えず、終わりはダラダラやってよし。まぁ程々にしないとシバかれるんですけど。

 

「ん……?都市各税の徴収一本化提案?」

 

 起き抜けにしては大分重いの来たな……。ふむふむ、今は徴税官や衛兵、官吏がバラバラに徴収してる都市各税。これを一つの組織で纏めて徴収したら、効率も中抜きも減ります、って言いたいのか。まぁそりゃそう。

 

「どこから上がってきた奴、これ?」

 

 提案特有の紙束、表紙の右下を見る。メーザリーの印に、カミラの署名ね。シリッサ領主筋から上がってきた提案、ともすればローナも目は通している訳だ。ふーむ、難しいな。

 この件、シリッサ就任直後ごろに考えてないことも無かったんですけど。色々アレだったから凍結したんですよね、頭の中で。しかし巡ってきたなぁ……。

 

「二人はシリッサ行政側だし、当然言いたくなるよねぇ……」

 

 これ、一見正しいんすよ。徴税を一つの組織で一本化、中抜きや面倒な税率計算も、専門化してしまえば間違いは減る。恣意的な税の付け入る隙を減らす意味合いもあるし、教会が取る税への牽制にもなるしね。

 でも、今のシリッサに導入できない。理由は色々あるんすよ。まず、組織が総合的過ぎて編成コストがクソ高い。税の専門家ならいいけど、徴税の専門家は居てもロクな事にならんだろうし。徴税の専門家ってもはや闇金じゃん。

 後、徴税を総合的にやる組織は、基本的に強くなりすぎるので厳しいっす。徴税とかいう巨大利権を一つの組織が持つってねぇ、腐敗と台頭不可避。マジで勘弁。

 

「喧嘩売っちゃうなぁ……」

 

 んで、既得権益にめちゃめちゃかち合う。衛兵はまだ我らがクラリス軍政長の麾下に居るからいいけどさ、徴税官と官吏はそれぞれシリッサの都市貴族と法務所が抱えてんすよ。都市貴族が各徴税権をバラバラに持ってて、法務所は官吏、軽犯罪の罰金とか徴収してますね。確かそんな感じだったと思う。これ全部を敵に回しちゃうんすよね~。彼ら貴族の食い扶持に憂さ晴らし、法務所の数少ないお小遣いです。

 そして教会の徴税にもかち合うフルコンボ。別に教会はまだいいけど。シリッサ都市貴族が都市貴族足り得る為の既存特権、徴税権にまだ私の手は入ってない訳だ。監督官と複式帳簿付けさせて、不正を減らしてはいるけど権限まで取っては無い。だから、都市貴族はフェロアオイの威光と攻撃されてない状況に安心してくれてる訳。その内整理するけど、多分。

 

「予算、人数の都合で却下……と」

 

 次二人がここに来た時、色々話さないとな~。適当に却下した訳では無いって話を主にやらねば。多分この提案、割と真面目にやろうとしてた感あるし。通そうと思えば通せるんですけど……。これで貴族や法務所が港湾ギャングやギルドと組むようになったら悪夢だし……。ま、却下で勘弁。敵対勢力が一掃されたらやるかな、って感じです。

 そこからペラペラ、サラサラと重くない感じの確認書や報告書が続く。私はざっくり目を通し、少しずつまともになっている数字と書式に少し嬉しさを覚える。あ、やべ。ガラスペン回しちゃった。インク散ってないよね……?よし、ドレスにインクが付着する事故は避けられた。洗濯は前世と違って大変なんでね。私やんないけど、洗濯。転生してからの方が家事やってないわ。

 なんて考えながら、また紙束を手に取る。

 

「……お、教科書の改定案」

 

 対象は国語。教会の物語も必要ですが、シリッサで口伝されてる童話や説話も入れてはいかがでしょう。って感じね。私のアイヴィー先生らしいわ。表紙に印と署名あったわ。

 ま、こっちは通しでいいかな。教会の権威を削るけど、まだ通る範囲でしょ。魔法学の拡充じゃないし。地元シリッサに対する帰属意識も持って欲しいし、いい案だと思います。

 

「説話や童話の追加を許可するが、子ども向けというのを念頭において選定せよ。また、選定した作品は私の方で確認する……と」

 

 みんな頑張ってんねぇ。ぼちぼち前に任命した役職を、それぞれしっかりこなしてくれてるわ。有事の際はどうなるかって懸念はあるけど……。

 ん?私?……巡察で地方貴族の皆様と心温まる交流を成しました。取り入るのに必死か畏怖のどっちかって感じでしたね。まぁノリノリで肩組まれても困るんだけどさ。やっぱ、貴族のお子様たちと適当に遊んでるのが一番楽しかったわ。地方巡察が最近やった一番大きい仕事説はある。

 

「お嬢様!」

「入りなさい」

 

 なんだ?ロブがこんなに焦った感じで来るのは珍しいぞ。襲撃?だったらエグいぞ。とりあえず入って良しと返答は返す。

 失礼いたしますの言葉もそこそこに、バタバタ入ってくるロブとデレク。えっほんとうになんすか。

 

「何事?」

 

 私が問いかけると、二人が私に敬礼を向ける。ロブの顔には焦り、デレクの顔には緊張が走っていた。

 

「お客様が正面まで来られております!」

「予定は入ってないわね?上?下?」

 

 ロブが変な事を言い放つ。そんな焦ることある?来客の予定無いし、身分を勘違いした商人か家格を勘違いした貴族とかでしょ。場所的にもここ辺境だし、わざわざ私と同格か格上が連絡も無しに来るとか……。まぁいいや。誰?

 

「本物の場合、上です。お嬢様をお呼びになられてまして、何分予定にも入ってないので判断が付かず」

「上?……分かった、出るわ。ミモザは?」

「本日は公庫の方へ。呼び戻しますか」

 

 タイミング悪いっすね……。呼んでも間に合わないし、上なら変に待たせる方が不味い。てか上ってマジ?もう偽物であってくれ感が上がってきてはいますよ。そもそも来たのが誰か、言ってくれない?仮定でもいいからさ。ともあれ一旦いいわ。見ればわかるし、二人で判断付かないレベルなら多分本物でしょ。

 

「呼ばなくていいわ。デレク、ダフネに伝言を」

「何とお伝えしましょう?」

「緊急、格上の来客、身支度の要あり、昼食は後、来賓は執務室……人数は?」

「主賓は一人、他二十人は護衛です」

「護衛は客間へ、以上」

「承知いたしました。復唱します」

 

 取り敢えず伝えるべくは伝えたか、と考えつつデレクの復唱を聞く。流石、しっかり覚えてんね。行っていいわ、と私が言う。デレクは敬礼と共に部屋から急いで出ていった。屋敷の準備は何とかなるか、これで。

 

「ロブ、近衛は何人動ける?」

「イリルが非番ですが、他は出れます」

「イリル以外全員集めて。準備の後、ここに」

「承知いたしました」

 

 これまた敬礼して去っていくロブを見届けた後、私の方も準備を始める。服自体はまぁドレスだからいいとして……。

 

「お嬢様。よろしいですか?」

「入りなさい」

 

 なんて考えていると、侍女が私の身支度の為に部屋へと入ってきました。そのまま古株の皆さんに色々身支度して貰います。やってると準備を終えた近衛諸君も集まって、歓待の準備がギリ出来ましたとさ。

 

 面々を引き連れて、エントランスへ向かう。バタバタ準備する使用人の皆を横目に階段を降り、廊下を抜ける。エントランスへ着くと、鉄面皮のダフネと四人の侍女が立っていた。

 

「お嬢様」

「やれる?」

「ミモザ様に一通りは」

「よろしい。……大丈夫?」

「…………申し訳ございません。少々」

 

 不味いな、ダフネが少々どころか死ぬほど緊張してる。真面目な顔は変わらず、されど色は悪い。前で組んでる手も震えてるし。ダフネの持つ青髪と似たような状態に……。気持ちは分かるぞ、私の上レベルって王国重鎮に分類されてくるんで……。よし。

 

「一瞬考えて、答えが出なければ……そうね。私を相手にするなら、こう動くでやりなさい」

「ですが」

「権威が私以上でも、失礼一つで処刑は無いわ。私が守る」

 

 私の手で、ダフネの手を包む。よし、少しは安心したっぽいな。大丈夫大丈夫。まぁぶっちゃけ、格上と言っても今回はそんなにだろうし。王族級、公爵か公爵夫人級なら事前に言うだろうし、本家から通達くるでしょ。考えられる可能性は……いいや、見れば分かるし。

 

「……ありがとうございます」

「いいのよ。……皆も同じく、私が守るわ」

 

 まぁダフネ以外は大丈夫でしょ。侍女と近衛の皆は本家から続いてるし、格上も大概応対してるはず。行けるでしょ、なんて考えながら皆の方を見て頷く。全員が礼を返してきた。よし、こっちはいい緊張感ですね。行くかぁ、行きたくないなぁ。

 

「よし、行きましょう」

 

 私が先頭として、主として、侍女が開いた玄関の外へと歩みを進めた。

 

 外に出ると、騎馬隊がたむろしていた。馬車の姿は見えない。んん?状況は読めないが、取り敢えず王族や公爵の線は薄くなった。いや待て、騎馬隊の装備が統一されていないな?適当に過ごしてるし……?兜で顔も見えないが?ロブ?適当に通した訳では無い?

 私がしっかり困惑していると、騎馬隊の中から一人の騎士が出てくる。馬も人も当たる前に避けてる辺り、この人が頭だな。しかし分からん、流れの傭兵団にしか見えんぞ。

 彼が私に接近するが、玄関の階段手前で止められる。シーラとモーリスが私の前へ、静かに立った。ロブとデレクが気まずそうに、私の脇を固める。君らが通したのでは……と思いつつも、前の二人は知らないか。ロブにこいつ?と目配せを送ると、頷いてきた。ふむ。とりあえず、様子を伺うか。

 

「臣下より、貴き者とは聞いております。されど、貴族の敬意は礼を知る者に払うものと存じます」

「……」

 

 ふむ、と言わんばかりに首を傾げる騎士。他の騎士たちも集まってくる。少しずつ剣呑になる雰囲気。なんか具合悪くなって来たんすけど、なにこれ。

 

「何者か、名乗って頂いても?」

「…………思っていた展開と違うな」

「?」

「残念だが、非礼を詫びよう」

「??」

 

 若い男の声。非礼を詫びておいて残念とは、中々面白い謝罪っすね。だるすぎ。とか考えていると、彼は兜をあっさり脱いだ。ガチャガチャ音を立てながら明かされた顔は、知っているが知らない顔だった。マジ?

 

「随分と会ってなかったが……相変わらず小さいな、妹よ」

「そう仰る兄上は、随分と大きくなられましたね。体躯も、態度も」

「ふ、詫びたじゃないか」

「えぇ、詫びられましたが」

 

 格上ってそういう事かよ!そりゃロブもデレクもあんな感じになるわ!初手口止めからの悪戯とは兄上……。性格悪いっすよ。正体隠す系は私も嫌いじゃないっすけど、警備的にはゴリゴリの不審者って話よ。

 はい。灰髪を後ろに流して、父上の厳つさと母上の綺麗さを半々で持つ顔。この方が私の兄上、ヒュー・ギッセル・フェロアオイ公爵令息ですね。次期フェロアオイ公爵様です。

 

「さて、近況でも話そうか」

「長くなりますわよ?」

「構わんよ。さ、通してくれ」

「……昼食はお済みで?」

「私は軽食でいい。部下には何か食わせてくれ」

「分かりました。では、彼らの案内を」

 

 侍女に視線を向けると、一人が一礼して残りの皆さんを案内しに行ってくれました。あ、兄上が本物である認証してなかったわ。九割本物ですけど、一応フェロアオイにはアレがあるんすよ。

 

「あぁ、忘れていました。兄上、竜の瞳はお持ちですか?」

「……ふ、勿論持っているさ」

 

 私が問うと、兄上がそれを胸元から取り出そうとする。フルプレートなので、手が入らず当然引っ掛かる。兄上はめんどくさそうな顔をした。いや、どちらにせよ脱ぐんですからそれ。

 当然ダンジョン産の鎧らしく、兄上はパパッと胴体を脱いでしまう。鎧の一体感を見るに、ダンジョン産の全身鎧ですね。本当のレア物です、すご。昔の祝福とか、ワンチャン加護までありうるな……。関係ないっすね、はい。

 脱いだ後、再度胸元を漁る兄上、出て来たのは一つの宝石でした。丸い紫水晶の中に黒い一本線、本物ですね。フェロアオイの当主、夫人、長男、長女だけが持ってる宝石、竜の瞳。私も持ってます。

 

「ありがとうございます。……本物ですね」

「当然だとも」

「ではご案内を……鎧、どうします?」

「中で脱ぐ」

「分かりました」

 

 兄上を屋敷の中へ迎え入れつつ、私はとんでもない面倒ごとが始まっているのを、何となく察するのでありましたとさ。

 

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