一般男性、TS令嬢転生(嫌々)からのしたくもない異世界統治   作:柴野沙希

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再び会うとは

 

 取り急ぎ、兄上と騎士数名を着替えの出来る部屋へ通す。流石に護衛無しでお着替えは無いです。兄上たちが部屋に入るのを見届けて、私は隣の部屋に。適当な椅子へ座って、化粧が崩れないように顔を覆う。なんで来るんだ兄上。こんな政情不安な辺境へ……。

 正直来られても、兄上が喜びそうなものとかないよ。この絶望欲張りセットな土地で頑張る、元一般男性のかよわい妹はいるけど。うーん。自分で言ってて、気分悪くなって来たわ。単体で前世と今世を思い出すのはいいものの、思考上で結び付くと自己崩壊スイッチがオンになっちゃうから。わたしはだれ?いつもの定期。統治だけでもクソしんどいのに、TS後遺症もあるからねぇ。あーやだやだ。

 

「お嬢様。今、お時間よろしいですか?」

「構わないわよ。何かしら?」

 

 私の下に、兄上一行の騎士一人がロブと共にやって来た。兄上の手伝いは他に任せたか。まぁもう兄上が来てる地点で君らの正体も知ってるけどさ。

 ガチャガチャと慣れた手付きで兜を外す、騎士。狼の彫刻が刻まれた兜の中から現れたのは、女の方でした。くすみのない茶髪、顔は緊張と若干の……ん?兄上の護衛は男に囲まれてたはず。古い彫刻に様式だが、金属特有の色褪せ無し。魔甲騎兵だ。ならなぜ?兄上の護衛は、フェロアオイ本軍の中でも相当の役職っすよ。名誉的にも、実力的にも。何しろ次期当主の護衛だからな。本家の政治から離れて久しいが、随分と人が動いてるのは間違いない。で、誰?

 

「ご挨拶が遅れてしまい、大変失礼いたしました。私はヒュー様の護衛長を務めております、アラーナと申します」

 

 謝罪と左腕を右胸に当てる敬礼。見覚えのある顔でもない。薄オリーブの肌色はフェロアオイ領の感じではない、王国東南の出身か?フェロアオイの武門貴族は基本的に覚えてるが。実家の粛清が原因で台頭した新顔とか?ならなんで新顔が護衛やってんですか。歴史ある他家の皆さんはどこへ。

 

「いいわ、兄上の戯れに巻き込まれたが故でしょう。……私も名乗った方がいいかしら?」

「ソフィア・クオーツ・リードラル卿。当然、存じ上げております」

「あら、本家は私を忘れてないのね」

「滅相もございません。ご高名は中央にもよく届いております」

「……どう届いてるのか、気になる所ねぇ」

 

 今のところ借金と教会関連のゴタゴタしか届いてないと思いますけど。素直に気になる、母上とかめっちゃ文句言ってそう。あの人優しそうな顔して、数字と効率に厳しいんで……。父上が見れない分、見てるって感じなんすよ。別邸時代の収支報告とか大変でしたね……。パッと見は父上の方が厳しそうなんすけど、知れば知るほど母上の方が容赦ないと評判です。元気にしてるかな。まぁいいか。

 

「そうですね……教会の件、当主様は随分と喜ばれておりました」

「でしょうね」

「本件、内容は詳しく知りませんが……。対照的に、シッセア卿は複雑そうにされておりました」

「それも、でしょうね」

 

 父上は教会の件、大喜びだったのかよ!いや、大法の修正が通るなら喜ぶか。修正には聖女一人の同意が必須だからなアレ……。それ以外にも色々引き出してるに違いない。王都の教会は大変だろうなぁ、父上の交渉えぐいし。くわばらくわばら……。

 まぁシッセア卿は本軍の司令官代理ですからね、そらそう。というかあの人は先代、お爺様の時代に上がった人だし。教会寄りなんすよね確か。もう本家政治大変そう、関わりたくねぇ。

 とはいえ、このアラーナが私に吹き込んでる可能性もあるから何とも。新顔の時点で、お前絶対シッセアと仲悪いだろ。新顔、女、若い、兄上の多分お気に入り。もうダメ。具合悪。

 

「……あぁ、そうだ」

「どうされましたか?」

「兄上の戦い振り、どうだった?」

「勇猛果敢、次期当主の強さを示しておいででした」

「ふふ、ならよかった。数年やってたものねぇ、戦地は暑かったでしょう?」

「お気遣い頂き、ありがとうございます。大丈夫です、暑さには元より慣れておりますので!」

 

 アラーナが直立から、また敬礼に。それと同時に、さっきから空気だったロブの右眉が動いたのが見えた。そうね、大分穏やかじゃないね。兄上が参戦したのは首長国との戦争、戦地は王国の東南。兄上と一緒に戦っていた、そして暑さには慣れている。首長国は砂漠がちな国土、接する王国東南はここより暑い。フェロアオイ公爵領は王国の北部だ。仮説だけど、アラーナ貴女、兄上が戦争で拾ってきた現地民とか言わないよね?だとしたら結構エグい。まぁ兄上に聞こ、アラーナ本人に聞いても気まずいし。

 

「ならよかったわ。……となるとこの辺りは、寒くないかしら?」

「……!いえ、大丈夫です」

 

 なんか察されたのに気付いたか。別にいいや。反応的にさ、余計拾ってきた説が強くなるのやめてね。嫌な仮説が現実味を帯びてくるわ。やだー!

 そこはかとなく空気が微妙な部屋。知りたいことは知れたから適当に話していると、兄上が部屋に入って来た。……大きくなったねぇ、兄上。鎧を脱いでる分、ガタイの良さが目立つ。私はちんまいのに……くそ。

 

「待たせたか?」

「えぇ。挨拶に来たアラーナを捕まえて話す程度には」

「なら全然だな。行こうか」

「はい」

 

 皮肉の一つも通じねぇ。これだから権力のある男って奴ぁ。私も前世はこんな感じだったのかもしれない。なお、権力は無かった模様。あったらあったで大変だし、難しいね生きるのって。

 兄上を執務室へ案内する。兄上の護衛、私の近衛が微妙に火花を散らす中、執務室の前までくる。さて、人払いするか。

 

「お前達、外せ」

「誰も通すな。話の聞こえない位置で警戒を」

「「承知いたしました」」

 

 兄上が護衛に、私が近衛にそれぞれ命令を飛ばす。アラーナとロブから同じ返答が返ってくる。指揮権とかで揉めるだろうなぁ。まぁ、私と兄上を守るって目的は果たされるでしょ多分。こっちはこっちで本番なんすよ。

 

「そちらへ」

「あぁ」

 

 見慣れた景色、新鮮な顔。執務机の前に置いている来客用のテーブルと椅子二脚、お互いに腰を下ろす。さて、どうするかね。何聞いても嫌なニュースしか無さそう。出方を伺うか。

 兄上は大きな溜息を吐いた後、私に笑いかけてきた。不穏!

 

「これで自由に話せるな?フィア」

「……相変わらずですねぇ。兄さん」

「お前もな」

「本気で言ってます?」

「少なくとも身長はそうだろ」

「は?怒りますが?」

「だが、変わった部分もある」

 

 口調を崩しながら、背もたれに寄り掛かって足を組む兄上。私もテーブルに肘を付き、デカい溜息を吐く。そっちが許してくるならこっちも自由にやりますよそりゃ。目上にも臣下にも微妙にやれないんすよね、格好崩すの。

 さて兄上……兄さんか。割と普通の貴族になったかと思ったが、意外と昔のままっぽい。余所行きの顔、昔は苦手でしたもんね。兄さん。今じゃまぁ、傲慢に。

 視線が私の首元に向かっているのが見えた。して嫌そうな顔をする兄さん。

 

「……総じて、気にし過ぎなんですよ」

「嫁入り前だろ、しかも」

「相手が相手、と?」

「教会は好きじゃなかったが、明確に駄目になったな」

「なぜ?」

 

 熱心という程では無かったけど、それなりに星を信じてましたよね?少なくとも、兄さんが王都に行かれる前まではそうだったはず。王都に戦争、色々見えるか当然。

 溜息、少し伏せられた目。右手の甲に傷が見えた。お互いに、随分と傷を負ったようで……。

 

「戦争が悪い。首長国、相手は違う世界を信じていた」

「東南の戦は、そこまで?」

 

 首長国は魔法を信仰して……正確に言うなら、建国の英雄たる"魔法使い"が記した教えに沿って生きている。なんかそんな感じだったと思う。魔導書が聖典なんだよな確か、そうだったはず。何の魔導書だったかな……。まぁいい。

 

「あぁ。……学校で歴史を学んだ」

「……そうですか」

「曰く、俺達は大いなる一つから産まれ、最も素晴らしい種族が故に……覇を唱えたと」

「人の成り立ち、素晴らしい事では」

「心にも無い事を。……なら何故、俺達は殺し合う?」

「……」

「司祭が戦友を治癒する横で、向こうの兵が聖典を掻き抱いて死んでいった。…………彼の本を見た」

「……中身は?」

「表紙の裏にな、同じ文言が書いてあった。全部違う筆跡で」

「…………」

「『貴方に魔導の加護がありますように』……天の神、星の教えを俺は見失っちまった」

「当然でしょう、それは」

 

 思ったより地獄を見てきたんだな……兄さん。私も人命の選択に対して、明確な解答は持ってないのよね。というか、再会一発目でこの話か。いやまぁ、誰にも話せないのは分かるし、全然聞くからいいんだけどさ。まぁねぇ、教会を明確に疑ったり、嫌うのは……立場が上であればあるほど、難しい。別に彼らも間違ってないのよね、正直。

 

「その上、司教が妹の首に手を掛けた。……痛かったろ?火傷は長く苦しむから」

「兄さん」

「……アラーナから聞いたか?父上の話」

「喜ばれていたと、聞いてますが」

「表向きはな。…………父上があそこまで怒ってるのを初めて見た」

「え??」

「王都で聖女が父上に直接謝ってきたそうだ。母上は笑ってたぞ」

 

 流石母上、ぶれない。父上もそんなキレてたの?えっ全然知らないんですけど。いや、そんな怒らなくても。別に私生きてるしさ、死んで無いのよ。この過重労働の方がよっぽど私を傷つけていますよ?父上?

 

「母上は相変わらずで」

「目は笑ってなかったが」

「あ、そうでしたか」

「母上は相変わらず顔に出ん。……とはいえ温室の花、枯らしてたぞ」

「えぇ……?」

 

 珍しいこともあるものだなぁ、なんでだろうなぁ。うん、お腹の調子が悪くなってきた。寝込んでいい?駄目?いやなんというか、自分の為に怒ってくれるのはありがたいんだけどさ。手傷程度でこんなになられると、こう、さ。私の方が気まずいのよ。申し訳ないというか。なんか。

 

「俺がここに来た理由は幾つかある」

「休暇では?」

「……微妙に否定出来んな」

「後は、お目付け役ですか?」

「無茶をするから、お前は」

 

 クソほど優し気な顔と目で私の頭を撫でに来る兄さん。いや私20なんですけど……。まぁいいか。精神状態が結構危ないかもしれない家内のメンタルケアと思えば……。こっちも散々殺し合ってますけど、そっちもそっちで別カテゴリのエグさがあるな。お疲れ様です、兄さん。

 というかアラーナが兄さんの護衛に付いてる理由が何となく察されるわこれ。何かで兄さんが救って、アラーナが依存、兄さんも救ったから微妙に依存。両親もこれ色々考えた結果、一旦ステイで残してるだけかもしれん。いや分からんけど。

 

「休暇にしては不安定な土地ですが、大丈夫なので?」

「その為の護衛だ」

「そうですか」

「話したい内容は山ほどある、時間は?」

「執務は山ほど残ってますが」

「やりながらでいい。話に付き合ってくれ」

「……えぇ、構いませんよ」

「久しぶりに聞いたな、その返答」

「でしょうね」

「その表情も、久しぶりに見た」

「変わりませんか?」

「あぁ、昔に見たままだ。……俺は、どうだ?」

「見た目は変わりましたが、根は変わりないように見えます」

 

 相変わらず優しいっすね。何かと考え込む癖もお変わりないようで。私は好きですよ、その感じ。色々見捨てられないから、こんな感じに悩むんだよねぇ。いや、兄さんがどう考えてるか知らないけどさ。私もこんな時期があったなぁ。今も、言うほど変わらないか。

 

「そうだろうか?」

「えぇ、本当に」

 

 そんだけ学んで、戦って苦しんだのでしょう。それでもなお、人が救われないことを嘆き、私の為に怒る。その優しさ、努力はまさしく才能でしょう。無理せず育てて欲しいっすね……。

 言葉を切り、兄さんの目を見る。同じ碧眼が、水面のように揺れていた。やっぱり、大事な部分は変わってないように見えますね。知らんですけど。

 

「優しい人です。昔からずっと」

 

 きっと、恐らく。こう言った私は笑っていただろう。

 

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