猫のあしあと   作:のーばでぃ

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それぞれのサブイベント ― 太陽 ―

夸伏(こほ)

 羿(げい)が様子を見に来た頃には、夸伏(こほ)は幾分悄悄(しょうしょう)しているようにも見えた。

九日百科の項目を見て溜息を吐き、また見ては頭を抱え、さらに見ては肩を落とす。

人を一人こんなにしてしまうなら、まさしくそれは『呪いの書』なのかもしれないとチラと思う。

 

「……大丈夫か」

 

「相棒……」

 

 振り返った夸伏(こほ)の表情は見るからに暗かった。

 

「なあ、相棒……俺はな。今度こそ、今度こそお前の力になろうって決めてたんだ。

500年前のあの轍は、もう絶対に踏まないと」

 

「……ああ」

 

「だけど……だけどよ。なんだよこのTrueエンドは。

扶桑(ふそう)が変異体に感染して、その拡散を防ぐ為に相棒が自爆? 最後に残ったのは猿人と俺だけ?

こんなの……こんなの、あんまりじゃないか。

太陽がほぼ死んで何一つ進まず、結局蓬莱に戻って軒軒(けんけん)のクローンが作られ永生炉(せいせいろ)プロジェクトが進み続ける……そんなNormalエンドの方がまだ救いがあると思えるくらいだ」

 

「……そんなに重く受け取る事はない。猫弈(みょうえき)の妄想かもしれないぞ?」

 

 ため息をつきながら夸伏(こほ)は小さく首を振る。

 

「言ったことあったか? 俺は()に占って貰った事があったんだ。

なんでも俺は、老後は新崑崙(こんろん)では無いまったく別の場所で暮らし、最後を迎える事になるそうだ。

その時は何だそれと鼻で笑ったものだが……ここにあるTrueエンドもNormalエンドも、その結末を結論付けている」

 

「……運命は変えられる。その()が、『天命』から外れてこの四季閣(しきかく)に身を置く選択をしたように」

 

「ああ、そうだな。そうかもしれない。でも……でもな、相棒。

これと同じ状況になった時、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 それは責めるような、そして縋るような問いだった。

まっすぐに見つめてくる夸伏のその問いを、羿(げい)は否定する事が出来ずに俯くしかない。

 

 辛うじて、絞り出す。

 

「……同じ状況にするつもりはない」

 

「俺だってそうだ。だから相棒、俺は決めた。

俺は……お前が例え元能弾を持って来たとしても、それを矢じりに仕立てる事は絶対にしねえぞ!

そもそも、そもそもだ! このゲームの俺は何だって元能弾を矢にしようだなんてバカな事を考えたんだ!? 都市丸ごと吹き飛ばせる戦略兵器だぞ!? どうやったって使えば爆発に巻き込まれて死んじまうに決まってる!

だいたいなんで人間一人狙うのにこんな過剰な威力を持ち出したんだ! 易公(えきこう)は全長100mで口から火を噴く怪獣だとでも言うのか!?」

 

「落ち着け。まだ来てもいない、そして来るかも怪しい未来の話だ。

……それにゲームだの物語だの、そう言った物にはどこかしら、ご都合主義やムリな設定の一つ二つはつきものだろう。そんなに重く取るんじゃない」

 

 怒鳴り散らしたおかげで幾らかクールダウンできたのか、肺の中の空気を入れ替えるように大きく吐き出してのち、ぽつりと夸伏(こほ)が漏らした。

 

「……相棒は、よくそんなに冷静でいられるな」

 

 戦うのは羿(げい)の筈で。死ぬのも羿(げい)の筈で。

しかし淡々としたその様子に、頼もしさと同時にどこか危うさや恐ろしさのような物を感じるのは果たして気のせいなのか。

 

「だから、そんなに重く受け取るな。俺はかくある未来として受け取ってないだけだ。

……確かに過去は合っていたかもしれない。しかし理由はどうあれ、今はあらすじから外れ始めていて、ならば未来はきっと外れるのだろう。

そもそも俺はまだ夸伏(こほ)伏羲(ふくぎ)の王璽しか手にしていないのだから、易公(えきこう)が議会法典にアクセスして中央演算室への道を開けるのは現状不可能の筈だ」

 

「……」

 

「対策を考える時間が出来た、と解釈しろ。

切羽詰まった時に取る対策と、余裕がある時に検討する対策では質が違う筈だ。システム屋・技術屋なら覚えがあるどころじゃない筈だろう?

 ……お前ならどうする? 扶桑(ふそう)が変異体に汚染されるとなったら。元能弾の矢じり抱えて突っ込むのか?」

 

「……いや。

いや……そもそも変異体なのだから、元能エネルギーによる破壊だと結局再生しそうな気がする。と言うか元能エネルギー感染の疑惑が出てきてる以上、扶桑(ふそう)ごと吹っ飛ばす、と言う考え方は本当に対策になってるか怪しい部分があるじゃねえか。

やるなら、変異体破壊王と同じ方向性の武器でやるべきだ」

 

「そうだよな。だから俺は、例えば体長100mで口から火を噴く怪獣変異体が相手でもどうにかなるような、バージョンアップした変異体破壊王が出てくるのだろうなと信じているだけだ」

 

「おいおい……」

 

 あんまりな要求に思わず口元が緩む。

だが、幾らか気は楽になった気がした。

 

「無理か? 蒼砂の技術を使って対象に打ち込むやり方だったらイケるんじゃないかと俺は踏んでいるが」

 

「はは、割と真面目な提案だったんだな。……イケそうな気はするけど、工夫は必要だろうな。

100mの巨体だと、相殺情報が回り切るのに時間を要する。途中で切り離される可能性が高い筈だ」

 

「なるほどつまり……切り離されても間髪入れずに次を撃ち込む。変異体破壊王弾の機関銃か」

 

「ははは、そりゃあいい!! 普通の変異体の処理にも効率よく使えそうだ!

……でも結構資材が必要だぞ?」

 

「集めてきてやるさ。任せろ」

 

 互いの拳をコツリと合わせる。

 

 ―― あの時を思い出す。

崑崙(こんろん)への改修の折、夸伏(こほ)が手掛けた新型元能柱が完成し、それを二人で見上げた時の事を。

 

 あの時もこうして互いの拳を合わせたのだ。

あの時の誓いを、今再び口にする。

 

「―― その日が来るまで、俺はお前について行く。

今度は違えねえ、絶対に。例え未来が昏くてもだ。

 

だから……だから、相棒。

何が待っていようとも、お前も命を諦めるんじゃねえぞ』

 

「……ああ。約束する」

 

 その場しのぎで取り繕ったのとは違う。

それは間違いなく羿(げい)の本心であった。

 

 

 


 

 

 

()

 壁面モニタによってシミュレーションされている四季閣(しきかく)の風景は、リアルさよりも優美さを優先して投影されている。

それ故に見上げた景色は遥か崑崙(こんろん)の情景とは違うが、それでもかつての夜空に続いていそうな不思議な感覚があった。

 

「わたくしは……天山の泉の始まりと終わりを見たよ。

方山ではたくさんの死体が山となって夕日を隠してたな。

東皇鐘の最初の響きも聞いたし、時間の流れに埋もれたいくつもの街を歩いてきた。

 

ある時、わたくしはふと悟った。

すべての事象は(タオ)と言う、一本の糸に帰するのだと。

わたくしが見ていたのはその糸の、寄り合わさった一部の光景だという事を。

 

『光』景……フフフ。

その糸の全てではないけれど、寄り集まった繊維の中に、時折眩しいほどの光を放つものがあったんだ。そんな繊維は大抵、より多くの繊維を絡め、導いているのが常だったよ。

流れ星が天を横切り、天と地のはざまに爪痕を残すように。その光は見る者の心を惹いて行く。

……私はその光を見るのが大好きで、悠久の時を歩む慰めとしていたんだ」

 

 四季閣(しきかく)の壁面シミュレートモニタが、まるで気を利かしたのか一筋の流れ星を奔らせる。

それを何かの皮肉に受け取ったのか、()は自嘲気味にくすりと笑った。

 

「すべては『タオパンク』と言う世界観の、ゲームの一幕だった……なるほど、一本の糸に見えていた筈だよ。

わたくしのこの呪いは何の神のいたずらかと思ってきたけれど、全ては九日(Nine Sols)と呼ばれる物語の為にあった事だった」

 

「……そう悲観するな。お前の歩んできた膨大な道のりを、一本のゲームが描き切れる筈が無い。

お前が覚えているひとつひとつの情景こそが、俺たちのいる世界がゲームでは無いという事の証明だ」

 

 慰めるような声色だった。

それがまるで、書のおかげで羿(げい)が変節した証明を見ているようで、思わず笑いが滲み出てくる。

 

「フフフ……悲観? これは悲観なのかな……わたくしにも良く分からないや。

 

猫弈(みょうえき)がもたらした書のおかげで、この糸の()()はわたくしにもわからない方向へと回転を始めた。

しかしその書は、本来あった未来を指してその理を語っている……

わたくしにとって、これは混沌どころの騒ぎじゃないんだ。

 

だからなのかな。だんだんと占う気が薄れて行っているのは。

なんだか今は、占ってもまともな未来が見えない気すらして来ているよ」

 

「それは、占いに依存していた状態が抜けていってるんだ。

酒もたばこもやり過ぎれば依存するし、しばらく手を出さなければやりたい衝動も薄れていくものだ」

 

 愉快そうに噴き出した。

 

「アッハハハハハハ! それはひどい言い草だ!!

占いを指して長寿から来る洞察の妄想だと言われた事はあるけれど、酒やたばこ呼ばわりされたのは初めてだよ!」

 

「結局、そんな物だろう。

確かに過去を指して一本の糸に見えるかもしれない。()()に法則性があるなら未来が見える気もするだろう。

けれど結局、どんな糸になったかなんて紡いでみないとわからないんだ。

 

糸の未来を描くなら、今の延長で紡がれた結果を見ようとするのではなく。

どんな糸にしたいか、どうすればその糸になるかを描く方が俺好みだ」

 

 ()はまるで、その言葉に染み入るように瞑目する。

 

「なるほどね。それは道教とは少し外れる考え方になるけれど……でも、光り輝いていた人たちはみんな、どこかしらそういう考え方をしていた気がするよ」

 

「それに、気になりはしないか?

九日(Nine Sols)と言う物語は蒼藍星(そうらんせい)蓬莱(ほうらい)かで終わりを迎える訳だが、世界はその後も途切れることなく続いて行く。

そしてお前の言う糸が九日(Nine Sols)で完結すると言うのであれば、その後の世界は糸の無い世界という事になる。

その世界ではどんな景色が広がっているのか……興味は無いか?」

 

「それは……随分と蠱惑的な殺し文句だ」

 

 言うなれば、先の見えない道がやっとそこから始まるのだろう。

未知でなかったからこそ苦痛でしかなかった事が、別の視点から見たらまた変わって見えるのかもしれない。

 

「さすがに人生だ。たまには悲観や苦痛に襲われることもあるだろう……だが、その上で本当に悲観しかなくなって、生きる事が苦痛にしか感じなくなったと言うのであれば。

―― その時は俺が、苦しむ事なく安らかに送ってやるよ。

 

……友達だからな」

 

 いつも見送るばかりだった。

友とした者達は皆、何かを悟ったような顔つきで(タオ)の向こうへと消えて行った。

そして()はいつも一人残されて行った。

 

 ―― 嗚呼。

いつか軒軒(けんけん)は、「出会って仲良くなってケンカして笑って、最後に別れてべっそべそに泣いてからまた新しい出会いに導かれる……それ全部ひっくるめるからこその人生なんだ」と説いてくれたけれど。

 

 そのべっそべそに泣いてくれる役を、羿(げい)が代わってくれるのであれば。

 

「……お願いするよ、友よ。なればこそ、太陽の向こうを見に行こう……共に」

 

 ()に絡みついていたひとつの鎖が音を立てて砕け落ちた、そんな感触がした。

 

 

 


 

 

 

蚨蝶(ふちょう)

羿(げい)、あなたなら知っているかしら。

人の記憶って、忘れたと思っている事柄であってもそれは『思い出し方』がうまく出来ていないからで、結構脳内に残っていたりするものなの。

特に印象深かったり、体を動かして覚えたりした事柄は、別の記憶に上書きされずに長く残っていたりするわ》

 

「ああ。お前の専門だな」

 

猫弈(みょうえき)の脳内には、九日(Nine Sols)の記憶が強く残っていたわ。

2次創作として色々調べたり書いたりしてたと言うから、相当強く残っていたのね……流石にすべてのシーンではないけれど、太陽と戦う所なんて結構細かく覚えてたりするの。

『意味圧縮』した形で保存されている人間の脳において、細部を思い出せるって相当な事よ?》

 

「そうだな……お前の魂境(こんきょう)に迷い込んだときに見た、易公(えきこう)とのやり取り。アレもそうか?」

 

 今を生きるこの世界が、何らかの映像作品と言う形で創作されている。

そう気づく要因となったあの魂境(こんきょう)の光景を思い出し問う。

 

「そうね。……今となっては猫弈(みょうえき)の遺品になってしまったわ。

『サブカルチャー』と言うらしいのだけど、猫弈(みょうえき)の頭の中にはそう言うのが沢山あって。魂境(こんきょう)にいた時、あの環境であればそう言った物を容易に思い出せる方法がある事に気付いて、色々見せてくれたりしたのよ。

驚きよね……想像の世界の筈なのに、まるで宇宙がいくつもあるのではないかってぐらい命に満ち溢れていたの。

 

九日(Nine Sols)もその一つ。

自分がゲームの世界の住人だなんて、今のこの現状が物語に捻りを与える為の要素でしかないなんて、悪夢そのものだと思っていたけど……

……でもなんか、見てる内に納得してしまったわ。

誰も彼も、必死に頑張ってなおどうにもならなかった結果なんだなって。

易公(えきこう)の選択にだって、私はなんとなく共感してしまったもの。

 

思えば太陽は皆、クセが強すぎてまとまりが無かった。

それでも一応同じ視線で歩んで行けてたのは結局、易公(えきこう)が何とかしてまとめていたからよ。

でも彼女は本来生粋の研究屋であって、誰かを纏めて引っ張って行くような器質の人じゃなかったわ……

それでも彼女には有無を言わせない能力があったから、みんな彼女の方針には従ったのよ。

 

……そんな状況は、彼女からことごとく退路を奪った。

ある意味、彼女を追い詰めたのは私たち太陽だったとも言えると思うわ」

 

「……」

 

 心当たりがあり過ぎる話だった。

夸伏(こほ)も言っていた。太陽達がもうちょっとマトモにやり取り出来てれば、実はもうちょっとマシになってた所が随分あったんじゃないかと。

11人目の太陽に(こう)を入れる構想は大歓迎だったと。

 

 あるいは、易公(えきこう)にその役が出来るのなら違っていたかもしれないが。

我が師ながら彼女がそう言う気質ではない事は十二分に理解していた。

 

「責めるつもりで言う訳ではないけれど……多分、決定的になったのは羿(げい)、あなたの離反よ。これによって易公(えきこう)は完全にタガが外れてしまった。

羿(げい)を殺してまでも現状維持に努めたのだから、どうにかして結果を出さなくてはならない』と言う状況になってしまった」

 

「……ああ、そうだな」

 

 かつて、易公(えきこう)と対峙した時の事を思い出す。

 

 

 

―― 羿(げい)、落ち着け。何故先生の説明を聞かない?

 

―― お前だったのか、お前が黒幕だったのか! 他の人はどこだ!

 

―― 他の太陽は、ほかにやることがある。だから、お前との話し合いを任された。

 

―― わかった……最初から俺だけが、蚊帳の外だったんだな……夸伏(こほ)蚨蝶(ふちょう)まで……

 

―― 彼らも私と同じだ。事がここまで発展してしまった以上、現状を受け入れるしかないのだ。

 

―― ふざけるな! このクソッタレの天道議会が!

みんなを殺したんだ……俺の父さんと母さんを……そして(こう)も、もうじき……!

 

 

 

 天道議会に離反すると決めた時。そして夸伏(こほ)が力になると言ってくれた時。

羿(げい)は『天道議会に離反する以外に道はないのか』と問うてきた夸伏(こほ)に言った事がある。

 

 

 

―― 目を覚ませ、あいつらの手口をまだ理解していないのか?

話し合おうとしたが、暴力で返されただけだった。

 

 

 

 あの言葉に嘘はないが、ある部分事実でもない。

手を出したのは確かに易公(えきこう)が先だった。

しかし、天禍(てんか)をばら撒いたのが易公(えきこう)だと公表し、裁判にかけると頑なに意見を曲げなかったのは自分だ。

 

 あれはただ感情を吐露してただけであり、結局『話し合い』をしなかったのは……自分だったのだ。

 

「……易公(せんせい)とは、一度話し合わなければならないと思ってる」

 

「謝罪も、でしょう?」

 

「……そうだな」

 

 易公(えきこう)がこちらに謝罪するかどうかはともかくとして、か。

内心軽く乾いた笑いを浮かべながら羿(げい)が答える。

とりあえず、そこからもう一度『話し合い』をしなければならない。

 

 ……『敬意を払え』か。

それはつまり、相手の行動も相手の行動として認める事。

よくぞ(こう)はこんな事を長年やってこれたなと尊敬した。

 

 自分は……憎悪を超えて、謝れるだろうか。

 

《ねえ羿(げい)、聞いて。……長めに見積もってあと2年よ》

 

「……?」

 

《私はもう、自分で霊枢の生命維持装置を切ってしまった。それをきっと易公(えきこう)が、私の脳を霊枢に接続して延命させたのね……だから今の私は他の猿人たちと同じく脳だけの存在になってる。

別にそれは良いの。もう過ぎ去った事だし、易公(えきこう)を恨んでもいないわ。むしろそのおかげで猫弈(みょうえき)と会えたって言うのもあるしね。

 

今言いたい重要な部分はね、羿(げい)

―― 私が太陽として動ける残り時間はたぶん、もう2年も無いって事なの》

 

蚨蝶(ふちょう)……」

 

《私の力が不要そうなら別に良い。でも、太陽として私に動いてほしいなら、私にタイムリミットが来るまでにどうにかできるよう、『何がしたいか』を決めておく必要があるわ。

そこを覚えておいて欲しいの》

 

「……手伝ってくれるのか?」

 

《天道議会を離反した当時のあなただったら乗れなかったわ。公開してどうするって問題は放り投げていたもの。

でも、今のあなたが出した考えなら乗れると思ってる。

 

……それに私は、いくら易公(えきこう)の気持ちが理解できても、太陽人化け物化計画には乗れそうにないから》

 

「……俺が復讐に走る道を選択したとしてもか?」

 

《あら、あなたが今更そこに意味を見出すようには思えないけど。

まあそうなったらどちらにしろ『太陽』としての私の役目なんて王璽を渡すくらいしかないのだから、さっさと王璽を渡して消える事にしようかしらね》

 

 ホログラム体でそう微笑む蚨蝶(ふちょう)の姿は、羿(げい)が離反した当時の頃よりもなんだか頼もしく見えた。

 

《そうね……あなたが『何をしたいか』を決めかねているのなら、猫弈(みょうえき)のサブカルチャーからひとつ言葉を贈るわ。

 

――『納得は全てに優先する』

 

職務上、自分の信念や感傷とは反する状況になってなお、自分の心に従ってイバラの道を選んだ主人公のセリフよ。

あなたが今感慨を受けて実践していると言う、『敬意を払え』を口にした人物でもあるわ。

 

離反した頃のあなたに送ればただの劇薬にしかならなかっただろうけど……今のあなただったら、別の答えに辿り着けるかもしれないわね。

世の中には『納得』なんて叶う筈もなく沈んでいく想いがあるわ。

そんな大波を超えて、あなたが『納得』のできる答えに行きつける事を願うわ、羿(げい)

 

 羿(げい)はポカンとしながら瞠目して蚨蝶(ふちょう)を見つめる。

 

「……猫弈(みょうえき)から始まった言葉では、無かったのか」

 

《そうなの。猫弈(みょうえき)もサブカルチャーから影響を受けて自身の礎にしている言葉よ。

本当に優れた言葉や想いは、例えそれが虚構の作り話であったとしても、ちゃんと人々の心を打って受け継がれていくのね……

 

……ちなみに私が易公(えきこう)に乗れない理由がそれよ。

私はそれがどんな形であっても、私たちの想いや道のりが……僅かであっても良い。受け継がれて行って欲しいの。

変異体になってしまったら、それが叶わなくなると思うから。

 

私たち太陽人が生きてきた道のりを、『人間賛歌』を受け継いでいきたい。きっと小何(シャオヘ)猫弈(みょうえき)も、それを願っていると思うから。

……うふふ、私も色々毒されちゃったかもしれないわね》

 

 ――『納得』、か。

口の中で羿(げい)が小さく呟く。

 

 その元ネタである『サブカルチャー』にも心惹かれる物が有りはしたが。

その単語には、何か自分の目的を決められるような、そんな光明が見えて来そうな何かがある気がした。

 

 

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