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一部は辞書登録までしていたお前の姿はお笑いだったぜ……!
■
混元紀末期、
『戦神計画』と銘打たれたそれは、倫理観度外視ぶりが目立つキョンシー兵にさらに輪を掛けたマッドぶりだったと言う。
具体的には、太陽人をベースにさまざまな動物の遺伝子や機械の骨格を組み合わせて、最強の兵士を作ろうとしたそうだ。
当時の錬丹技術や遺伝子工学、蓄積されて来た実験データの集大成。
掛けた費用も相当な物だったとか。
しかし、最終的に計画は凍結された。
生まれた個体に思考能力が無くしばしば制御不能に陥り、兵器の体すら保てない有様だったそうだ。
そして
……で、何の奇跡が起きたのか。
その2体のうち1体が漢詩に目覚め、新
今は
「
「……ああ、
……そう言えば九日百科にも当該項目があった気がするな。まだ読んではいないが」
「素晴らしい! ご指摘の通り九日百科にも当該項目があり、一節のみその内容が記載されていた。例えここで文字に起こしても、その万分の一も表現する事は出来ないだろうと但し書いた上で。
『―― この
……嗚呼、あの書は目を閉じれば今でも瞼の裏にしっかりと思い起こす事が出来る」
「……『別れの書』の項目は見ていないが、お前の項目には目を通した。お前と『別れの書』の関係についてもな。
書いていた内容に誤りはあったか?」
そう。それは、
凍結され、
思考能力のない蒙昧な古代兵器は、保管され続けていた長い年月、来る日も来る日もずっとその書を見続けていた。
―― そしてある時、その書の素晴らしさを理解したと言う。
「ククク……いいや、何も間違いは無かったとも。しかしそうか、既に拝見されていたか。
……ならば小生の目的やその末路についても、目は通しているのだろう」
「……兄、
「いかにも。……そして悲しいかな、小生は
―― 特に兄、
『振り下ろし5回さえ解ってしまえば割とザコかった』と……」
あまりにもあんまりな一文である。
結局九日百科だろうが何だろうが、読んだ奴に等しく目を覆わせるのが
「……気にするな、お前は文人なんだから。そもそも戦える人間では無いだろう」
慰めに入る羿の言葉にしかし、
「いいや、
つまりこの、『振り下ろし5回』さえ対応できてしまえば小生にも勝機が ――」
「正気に戻れ。
現実の
……今のでわかった。スペックは足りていてもお前はトコトン戦いに向いていない。
やはりお前は文人なんだ。悪いこと言わないからやめておけ」
ついに
涙のひとつでも零しそうに目を細めて呟く。
欲救家兄奮此躬 (家兄を救わんと欲して 此の身を奮わすも)
気蓋世兮力無功 (気は世を蓋うも 力に功無し)
良朋苦諌非君事 (良朋 苦諌す 君の事に非ずと)
不識干戈涙万胸 (干戈を識らず 涙 万胸に満つ)
いくら戦う気概はあってもそれを成せる力はなく、やめておけと言われて嘆く今の姿をそのまま詠っていた。
「―― いい
「
「……そんなに、俺が手伝うのが嫌か?」
九日百科において、最終的に決着は
ならばという訳ではないが、
口にはしないが、友人を亡くすよりもそちらの方がよほど良いに決まっている。
「
そもそもこの件は完全に小生の、そして小生の兄の問題ではないか。
それにもかかわらず、戦神計画で生み出された身でありながら、この身で戦う事もしないと言うのは恥が過ぎると言う物だ」
「気にするな。言っては何だがどうせ失敗した計画だろう。そんな重圧や誇りなどただの幻想だ」
「ウヌヌ、返す言葉もないがバッサリ行かれるな……」
「そんな事よりもだ」
「『別れの書』と言う優れた作品があった前提だったとは言え、戦う身として生み出されながらも書の優美を理解するに至り、文人として覚醒して見せたお前の足跡の方が余程凄くて誇るべきだ。
戦神計画で生まれた事を自分の人生の理由とせず、戦いを避け続けて来たその生き方こそ、兵器だからと結局武器を手に取るよりもよほど価値のある物では無いか」
「……
「
……あいにく、
もし泣く機能があったなら、感極まって泣いていただろう。
いつもなら溢れてくる詩の奔流すらも、今は言葉に起こす事すら出来ない程に打ち震えていた。
「―― かたじけない、
そしてやっと口から絞り出せたのは、詩ではなく感謝の言葉だった。
そしてその言葉は不思議と、百の詩よりもなお鮮明に心の場景を描けていたようにすら
■山海9000
『行かせて! 行かせて! 行かせて! 行かせて!』
「うーん、困った……」
《……しばらく
幸い、抑えること自体は容易だった。
山海シリーズの生みの親である
開発者用コードも制御系も演算力も手の中とあれば、山海9000の駆動系をワイアレスでハックして動けないようにする事など至極容易だ。
いちサポートロボットでしかない山海9000に、これを破る手段など存在しない。
温情で言語系は生かしている訳であるが、その残った言語系で山海9000は延々と要求を繰り返し続けていた。
山海9000と
九日百科にてその内容と末路に目を通し、その必死さの理由を知ってしまったものだから、あんまり強引な手段にも出れない。
「やはりこうなったか……」
「おや友よ、駆け付けてくれて嬉しいよ」
珍しく本気で途方に暮れていた
「気持ちは解ってしまうばかりに、心を痛めていたんだ。このまま行っても友達に会える事すら叶わないと説得しても聞きやしない」
「……そうだろうな。ゲームの中では、全てのエリアを俺が回った後だったのだろう?
ある程度
『関係ない! 私は
「……と、これ一辺倒でね。どうにか説得したいものだけど、その言葉をわたくしは思いつけないんだ」
途方に暮れている
その剣幕とは裏腹に暴れる様子が無いのは、その駆動系をジャックされているからであるが……
「―― 多分、普通に放置してしまって大丈夫だと思う」
「……なんだって?」
《あ、お見捨てになりますか?》
「変異体に封鎖されているような現状で突っ込めば、瞬く間にスクラップになる事を理解できない奴じゃない。
元は俺を使って新
通らなかったら通らなかったで何か起こる訳で無し。そこらへん見切った上で騒いでるだろう、おまえ」
まるでその心の内を見透かしてやろうとばかりに金魚鉢型のモニタを覗き込む
そんな視線に耐えきれずにプイっと顔を逸らしながら、山海9000が後を続ける。
『し、知らない……私
「あー、なるほど、通りで……確かに事を起こしたのはわたくしの目の前でだったね」
『!?!?!?』
手をポンと叩いて得心が行ったと
旗色が悪くなったと感じたのか、山海9000は顔をチカチカさせながら言った。
『ピーガガガガ……
世界ハ変ワルコトナク、命ハ途切レルコトナク続イテ行ク。
アナタ様ノ第二ノ故郷、新
「露骨にごまかしに来たね……」
《別にそこまで言語モジュールにダメージある訳じゃ無いでしょうに》
そんなもん知らんとばかりに、声ともつかないノイズをザリザリと発し始める始末である。
そんな山海9000を覗き込みながら、
「―― 言質が欲しいなら先にくれてやる。お前の護衛は引き受けよう。
ただし、一度天道研究センターをあらかた
ざり、とノイズが止まった。
「しかしだ。護衛して連れてった奴が最終的に無抵抗のまま変異体の爪に引き裂かれるのは非常に面白くない」
『関係ない
「関係あるんだよ。確認したいが、お前どうやって
呼びかけるのか? しかし言語モジュールが壊れてる状態で
九日百科を見たが、情報に誤りが無いなら目が見えないのだろう?
『……!』
思ってもいなかった質問をされて、山海9000は言葉を詰まらせた。
キュルキュルと自分の中にあるメモリを走査し、そっと呟いてみる。
『
目の見えない
今のはきっと、それをまたやろうとしたのだろう。
……しかしそれは、お世辞にもうまく出来ているとは言い難かった。
「目の見えぬまま努力して、
おそらくはもう変異体にされているのだろうが……
流石に限界はあるが、
……だが、その方法はお前が考えなければならない」
『……』
山海9000の手が、左胸に描かれた落書きにそっと触れた。
かつて、山海9000は欠陥品と言われた。
当時から言語モジュールに劣化を抱えており、聞いた話をオウム返しすることしか出来ない有様だった。
視力も落ち始めていたため、性能のいい後継機と交換させられる運命だった。
しかし、
もう友達になったのだと、だから交換は必要ないのだと声を荒げて猛抗議した。
そして最終的に、両親が寝てるまに山海9000のスリープドックに忍び込み、その左胸に落書きをかます。
―― 山海9000は『意図的な破損』にカテゴライズされ、返品できない状態となった。
あの時から、山海9000の『一番』は
あれから何年経ったのだろう。
自分は、どんなに変わってしまっても
……しかし
『……私
「そうでなければ、その落書きは存在しないのだろう? 探すべきは証明ではなく手段の筈だ」
「友よ……そーゆーとこだよ?」
「うん?」
変にバッサリやる
彼はもう、強引に『行かせて』と叫ぶ事は無かった。
なぜなら
■
《正直……未だに困惑しています。
この世界がゲームである、なんて話もそうですが……皆さんが思った以上にあっさりと、対応できている事について》
「考え過ぎだ。
《はい、私の考えが間違っていました》
当初、九日百科を『呪いの書』と呼んで忌諱していた頃を思い出す。
「……結局おまえは、何が怖かったんだ? 所詮
《……内容が真実であることが、わかってしまったから……でしょうか》
あまたの想いと数多の悲劇。
……それが、全て作り物だと。予定された物であったなどと。
そしてその結果、結局太陽人は滅ぶしかないのだと。
どうして受け止める事が出来ようか。
《人の作る物語は往々にして残酷です。
世界の終わりが無いと、踏み躙られた想いが無いと、人はその物語をありきたりと言って見向きもしなくなるのでしょうか。
我々はただ、数字を取る為だけに苦しみ続けるしかないのでしょうか……!》
ホログラム体を震わせながら語る
「被造物のくせに、被造物と言われてなんで俺達よりもダメージを受けているんだお前は……」
《私だけだったら別に構いません。しかし、私は
あれが最初から決められた事だったなんて!!》
「……」
現在の
「だから、落ち着け。
……大枠は決められていたのかもしれないが、結局は俺が自分で選択してきた道だ。後悔や憤りも普通にあるが、しかしその選択を誰かのせいにするつもりは一切ない。
……俺は、運命は信じない。だから自分で選択しろと、
お前はそれを掘り起こして、俺の選択は操られたものだったからやっぱり無しだ、全てゲームの開発チームのせいだとでも叫びたいのか?」
ハッとしたように
《……申し訳ありません。出過ぎたマネをいたしました》
「気持ちは嬉しいが、あまり気にするな。
例えこの世界がゲームだったとしても、ゲームだけではない事ぐらいは解っている筈だ」
《……
「まあ……
思い起こすのは
そろそろ素直に降参する。あれに勝てるビジョンが全く思い浮かべないのである。
《
「……」
《出過ぎたことを聞いて申し訳ありません。もしかして
「……。俺のやる事に口を……いや、」
口から出かけたセリフを止めて
「……どうだろうな。少なくとも俺は、同じ状況になったらきっとまた
《……》
「その上で
困ったのが、
……まあ、自暴になった訳じゃない。でも、
《差し出がましい事を申しますが……おそらく
その上で、
「……そうだな」
思い出すのは、九日百科が公開されたあの時。
頭がいい子だ。もうすでに、
「……わかってるんだ。俺も腹を括らなくてはならない事に。
そうでなければ、『納得』の行く選択など出来ようものか。
……ああ、そうだな。俺にとっては世界がゲームだなんだと言われるよりも、何がしたいかを決める事、納得の行く選択をする事、そちらの方が何倍も重いんだ。
ともすれば、多少のアドバンテージぐらいにしか思えてないのかもしれないな」
瞑目して気負わず、静かにそう語る
《
天道議会を離反した当時の、あるいは
今は、湖の水面のように自在で泰然とした様相に見えます。
「刃物に水面……随分と詩的になったな。
《むしろ影響されたのは
「緊急メンテナンスが必要だ。思考ロジックチェックを回せ。直ちに」
《あ、今ちょっと刃物になりました》
水面になっていっても、結局