猫のあしあと   作:のーばでぃ

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誤字修正予定
×蒼籃星(そうらんせい) 〇蒼藍星(そうらんせい)
×王爾(おうじ)  〇王璽(おうじ)
×玄能(げんのう)  〇元能(げんのう)
×混元期(こんげんき) 〇混元紀(こんげんき)
一部は辞書登録までしていたお前の姿はお笑いだったぜ……!


それぞれのサブイベント ― 機人 ―

蚩尤(しゆう)

 混元紀末期、(せつ)国が運用していたキョンシー兵と言う生体兵器の生産能力と効率が低下し、(せつ)国は別の生体兵器計画を発足させた。

『戦神計画』と銘打たれたそれは、倫理観度外視ぶりが目立つキョンシー兵にさらに輪を掛けたマッドぶりだったと言う。

 

 具体的には、太陽人をベースにさまざまな動物の遺伝子や機械の骨格を組み合わせて、最強の兵士を作ろうとしたそうだ。

当時の錬丹技術や遺伝子工学、蓄積されて来た実験データの集大成。

掛けた費用も相当な物だったとか。

 

 しかし、最終的に計画は凍結された。

生まれた個体に思考能力が無くしばしば制御不能に陥り、兵器の体すら保てない有様だったそうだ。

 

 そして(せつ)国は敗戦し、凍結された2体の生体兵器は以後、(せつ)家の保管庫の中で現代まで埃を被っていたと言う。

 

 ……で、何の奇跡が起きたのか。

その2体のうち1体が漢詩に目覚め、新崑崙(こんろん)を方々歩きながら珍品を集め詩を吟じる文人へとクラスチェンジ。

今は四季閣(しきかく)の中でタブレットをつついて猫弈(みょうえき)の書を読み、軒軒(けんけん)の書いた射猪英雄伝(しゃちょえいゆうでん)の続きを待ちわびつつ羿(げい)と珍品の取引を続けている。

 

 蚩尤(しゆう)はケタケタ笑いながら言った。

 

羿(げい)殿は『別れの書』と言う物をご存じかな?」

 

「……ああ、()から聞いた事がある。混元紀の終わり、(せつ)国の王截通(せつつう)が今際に残した書だそうだな。

()に曰く、あれを超える書は時を経た今でもなお見た事が無いと云うほどの傑作だったとか。

……そう言えば九日百科にも当該項目があった気がするな。まだ読んではいないが」

 

「素晴らしい! ご指摘の通り九日百科にも当該項目があり、一節のみその内容が記載されていた。例えここで文字に起こしても、その万分の一も表現する事は出来ないだろうと但し書いた上で。

 

『―― この截通(せつつう)、戦士として生き英魂として死す』

 

……嗚呼、あの書は目を閉じれば今でも瞼の裏にしっかりと思い起こす事が出来る」

 

「……『別れの書』の項目は見ていないが、お前の項目には目を通した。お前と『別れの書』の関係についてもな。

書いていた内容に誤りはあったか?」

 

 そう。それは、截通(せつつう)の遺した今際の書が起こした奇跡だった。

 

 凍結され、(せつ)家の保管庫にて眠っていた蚩尤(しゆう)の前には、『別れの書』が安置されていたのだ。

思考能力のない蒙昧な古代兵器は、保管され続けていた長い年月、来る日も来る日もずっとその書を見続けていた。

 

 ―― そしてある時、その書の素晴らしさを理解したと言う。

 

「ククク……いいや、何も間違いは無かったとも。しかしそうか、既に拝見されていたか。

……ならば小生の目的やその末路についても、目は通しているのだろう」

 

「……兄、刑天(けいてん)の自由意思無き『死んだ』生を止める事」

 

「いかにも。……そして悲しいかな、小生は羿(げい)殿にすべての品を買って貰い十分な金を手にし、その上武器の調達までして貰った上でなお玉砕してしまい、結局羿(げい)殿にその役目を任せてしまうと言う体たらくであったようだ……ここまで散々な末路だと最早乾いた笑いしか出て来やしない。

―― 特に兄、刑天(けいてん)の項目にある一文がキツかった。

 

振り下ろし5回さえ解ってしまえば割とザコかった』と……」

 

 あまりにもあんまりな一文である。

結局九日百科だろうが何だろうが、読んだ奴に等しく目を覆わせるのが猫弈(みょうえき)の本質なのだと羿(げい)は思っている。

 

「……気にするな、お前は文人なんだから。そもそも戦える人間では無いだろう」

 

 慰めに入る羿の言葉にしかし、蚩尤(しゆう)は小さく首を振った。

 

「いいや、羿(げい)殿。ある意味でこれは小生にとって福音でもある。

つまりこの、『振り下ろし5回』さえ対応できてしまえば小生にも勝機が ――」

 

正気に戻れ。

現実の刑天(けいてん)がゲームと同じように同じ動きを擦り続ける筈が無いだろうが。

……今のでわかった。スペックは足りていてもお前はトコトン戦いに向いていない。

やはりお前は文人なんだ。悪いこと言わないからやめておけ」

 

 ついに蚩尤(しゆう)は「ぐぬぬぬ」と呻いて天を仰いだ。

涙のひとつでも零しそうに目を細めて呟く。

 

欲救家兄奮此躬 (家兄を救わんと欲して 此の身を奮わすも)

気蓋世兮力無功 (気は世を蓋うも 力に功無し)

良朋苦諌非君事 (良朋 苦諌す 君の事に非ずと)

不識干戈涙万胸 (干戈を識らず 涙 万胸に満つ)

 

 いくら戦う気概はあってもそれを成せる力はなく、やめておけと言われて嘆く今の姿をそのまま詠っていた。

羿(げい)がそれを聞いて何度も頷いている。

 

「―― いい(うた)だ。今度は戒律もちゃんと正しいし、今の無念がちゃんと詠えている」

 

羿(げい)殿のおかげで37番演算回路は滞りなく復旧できた。しかし、今ほど詩を誉められても嬉しくない瞬間が来ようとは……!」

 

「……そんなに、俺が手伝うのが嫌か?」

 

 九日百科において、最終的に決着は羿(げい)の手で付けられた。

ならばという訳ではないが、羿(げい)としてもこの件で動くのはやぶさかでは無かったのだ。

口にはしないが、友人を亡くすよりもそちらの方がよほど良いに決まっている。

 

羿(げい)殿……小生は人造兵器の身ではあるが、それでも筋と言う物は大事にしたい。

そもそもこの件は完全に小生の、そして小生の兄の問題ではないか。

それにもかかわらず、戦神計画で生み出された身でありながら、この身で戦う事もしないと言うのは恥が過ぎると言う物だ」

 

「気にするな。言っては何だがどうせ失敗した計画だろう。そんな重圧や誇りなどただの幻想だ」

 

「ウヌヌ、返す言葉もないがバッサリ行かれるな……」

 

「そんな事よりもだ」

 

 羿(げい)がきっぱりと言い切る。

 

「『別れの書』と言う優れた作品があった前提だったとは言え、戦う身として生み出されながらも書の優美を理解するに至り、文人として覚醒して見せたお前の足跡の方が余程凄くて誇るべきだ。

戦神計画で生まれた事を自分の人生の理由とせず、戦いを避け続けて来たその生き方こそ、兵器だからと結局武器を手に取るよりもよほど価値のある物では無いか」

 

「……羿(げい)殿」

 

刑天(けいてん)は俺に任せておけ。適材適所だろう?

……あいにく、刑天(けいてん)をお前のように覚醒させることは叶わないだろうが、()()()()だけなら俺の方が適任だ」

 

 蚩尤(しゆう)は染み入るように目を閉じ、その身を小さく震わせていた。

もし泣く機能があったなら、感極まって泣いていただろう。

いつもなら溢れてくる詩の奔流すらも、今は言葉に起こす事すら出来ない程に打ち震えていた。

 

「―― かたじけない、羿(げい)殿」

 

 そしてやっと口から絞り出せたのは、詩ではなく感謝の言葉だった。

そしてその言葉は不思議と、百の詩よりもなお鮮明に心の場景を描けていたようにすら蚩尤(しゆう)には感じられた。

 

 

 


 

 

 

■山海9000

『行かせて! 行かせて! 行かせて! 行かせて!』

 

「うーん、困った……」

 

《……しばらく()()()()おきますか?》

 

 幸い、抑えること自体は容易だった。

山海シリーズの生みの親である()と、四季閣(しきかく)を管理するスーパーAIの如羿(じょげい)が揃っているのである。

開発者用コードも制御系も演算力も手の中とあれば、山海9000の駆動系をワイアレスでハックして動けないようにする事など至極容易だ。

 

 いちサポートロボットでしかない山海9000に、これを破る手段など存在しない。

 

 温情で言語系は生かしている訳であるが、その残った言語系で山海9000は延々と要求を繰り返し続けていた。

 

 ()としては、このまま行かせても辿り着く事なく壊されるのが目に見えているし、よしんば辿り着けても結局壊されるとあらば、どうにも行かせたくないのである。

 

 山海9000と暮守(くれもり)(せい)の物語。

九日百科にてその内容と末路に目を通し、その必死さの理由を知ってしまったものだから、あんまり強引な手段にも出れない。

 

「やはりこうなったか……」

 

「おや友よ、駆け付けてくれて嬉しいよ」

 

 珍しく本気で途方に暮れていた()が、羿(げい)の登場に笑顔を浮かべる。

 

「気持ちは解ってしまうばかりに、心を痛めていたんだ。このまま行っても友達に会える事すら叶わないと説得しても聞きやしない」

 

「……そうだろうな。ゲームの中では、全てのエリアを俺が回った後だったのだろう?

ある程度()()()がされている状態ならともかく、今天道研究所に突っ込むのは誰が行っても自殺行為だ」

 

『関係ない! 私は (せい)ちゃんに会いに行く!』

 

「……と、これ一辺倒でね。どうにか説得したいものだけど、その言葉をわたくしは思いつけないんだ」

 

 途方に暮れている()を横目に、羿(げい)は画面モニタを激しくチカチカしながら叫ぶ山海9000を見た。

その剣幕とは裏腹に暴れる様子が無いのは、その駆動系をジャックされているからであるが……

 

「―― 多分、普通に放置してしまって大丈夫だと思う」

 

「……なんだって?」

 

《あ、お見捨てになりますか?》

 

 如羿(じょげい)の反応が淡泊過ぎるが、まあそこは置いておくとして。

 

「変異体に封鎖されているような現状で突っ込めば、瞬く間にスクラップになる事を理解できない奴じゃない。

元は俺を使って新崑崙(こんろん)中の情報集めさせて自分一人で事を成そうとしていた奴だぞ。九日百科の話が出るまではひたすら太陽(おれたち)を避けて距離を取り続けながら状況を見つめていたんだ。

()、『敬意を払え』だ。……多分コイツ、俺たちに優先順位を上げさせた上で護衛させようとしてるんじゃないか?

通らなかったら通らなかったで何か起こる訳で無し。そこらへん見切った上で騒いでるだろう、おまえ」

 

 まるでその心の内を見透かしてやろうとばかりに金魚鉢型のモニタを覗き込む羿(げい)

そんな視線に耐えきれずにプイっと顔を逸らしながら、山海9000が後を続ける。

 

『し、知らない……私 (せい)ちゃんに 会いに行く……』

 

「あー、なるほど、通りで……確かに事を起こしたのはわたくしの目の前でだったね」

 

『!?!?!?』

 

 手をポンと叩いて得心が行ったと()が呟く。

旗色が悪くなったと感じたのか、山海9000は顔をチカチカさせながら言った。

 

『ピーガガガガ……

世界ハ変ワルコトナク、命ハ途切レルコトナク続イテ行ク。

アナタ様ノ第二ノ故郷、新崑崙(こんろん)……ザザッ、ザザザッ、ぴ~~~!』

 

「露骨にごまかしに来たね……」

 

《別にそこまで言語モジュールにダメージある訳じゃ無いでしょうに》

 

 そんなもん知らんとばかりに、声ともつかないノイズをザリザリと発し始める始末である。

そんな山海9000を覗き込みながら、羿(げい)が言った。

 

「―― 言質が欲しいなら先にくれてやる。お前の護衛は引き受けよう。

ただし、一度天道研究センターをあらかた()()してからの話になるが」

 

 ざり、とノイズが止まった。

 

「しかしだ。護衛して連れてった奴が最終的に無抵抗のまま変異体の爪に引き裂かれるのは非常に面白くない」

 

『関係ない (せい)ちゃんに会えれば』

 

「関係あるんだよ。確認したいが、お前どうやって(せい)に認識されるつもりなんだ?

呼びかけるのか? しかし言語モジュールが壊れてる状態で(せい)は認識できるのか?

九日百科を見たが、情報に誤りが無いなら目が見えないのだろう? (せい)は」

 

『……!』

 

 思ってもいなかった質問をされて、山海9000は言葉を詰まらせた。

キュルキュルと自分の中にあるメモリを走査し、そっと呟いてみる。

 

(せい)……迎えにににに来、来……行くわ゛わ゛わ゛わ゛わ゛わ゛よ

 

 目の見えない(せい)が幼かった頃、新崑崙(こんろん)に連れ出すために山海9000は母親の声をトレースしたと言う。

今のはきっと、それをまたやろうとしたのだろう。

 

 ……しかしそれは、お世辞にもうまく出来ているとは言い難かった。

 

「目の見えぬまま努力して、暮守(くれもり)に滑り込んで見せた人間だ。

おそらくはもう変異体にされているのだろうが……伏羲(ふくぎ)の例がある。

流石に限界はあるが、(せい)がお前に気付いてその動きを止めるまで多少は付き合っても構わない。

……だが、その方法はお前が考えなければならない」

 

『……』

 

 山海9000の手が、左胸に描かれた落書きにそっと触れた。

 

 かつて、山海9000は欠陥品と言われた。

当時から言語モジュールに劣化を抱えており、聞いた話をオウム返しすることしか出来ない有様だった。

視力も落ち始めていたため、性能のいい後継機と交換させられる運命だった。

 

 しかし、(せい)はそれに反発。

もう友達になったのだと、だから交換は必要ないのだと声を荒げて猛抗議した。

そして最終的に、両親が寝てるまに山海9000のスリープドックに忍び込み、その左胸に落書きをかます。

 

 ―― 山海9000は『意図的な破損』にカテゴライズされ、返品できない状態となった。

あの時から、山海9000の『一番』は(せい)になったのだ。

 

 あれから何年経ったのだろう。

自分は、どんなに変わってしまっても(せい)を見つけられる自信がある。

……しかし(せい)は?

 

『……私 (せい)ちゃん 友達 なれてるだろうか?』

 

「そうでなければ、その落書きは存在しないのだろう? 探すべきは証明ではなく手段の筈だ」

 

「友よ……そーゆーとこだよ?」

 

「うん?」

 

 変にバッサリやる羿(げい)()が引き攣りながら咎める横で、山海9000はモニタをピカピカと動かしながら思考の海に潜って行った。

 

 彼はもう、強引に『行かせて』と叫ぶ事は無かった。

なぜなら羿(げい)が天道研究センターを掃除するまでに、(せい)に声を届かせる方法を考え付かねばならなかったから。

 

 

 


 

 

 

如羿(じょげい)

《正直……未だに困惑しています。

この世界がゲームである、なんて話もそうですが……皆さんが思った以上にあっさりと、対応できている事について》

 

「考え過ぎだ。夸伏(こほ)にも言ったが……結局、起きてもいない、起きないかもしれない話だ。そして事ここに至れば同じ状況にするつもりは欠片もない」

 

《はい、私の考えが間違っていました》

 

 当初、九日百科を『呪いの書』と呼んで忌諱していた頃を思い出す。

如羿(じょげい)はその開示を依頼されても、話したくないと拒否していた。

 

「……結局おまえは、何が怖かったんだ? 所詮猫弈(みょうえき)の書だぞ?」

 

《……内容が真実であることが、わかってしまったから……でしょうか》

 

 天禍(てんか)による太陽人の動乱と衰退。

羿(げい)の提唱した永生炉(えいせいろ)プロジェクトの過程と苦難。

あまたの想いと数多の悲劇。

如羿(じょげい)はそれらを羿(げい)の隣で見続けて来た。

 

 ……それが、全て作り物だと。予定された物であったなどと。

そしてその結果、結局太陽人は滅ぶしかないのだと。

どうして受け止める事が出来ようか。

 

《人の作る物語は往々にして残酷です。

世界の終わりが無いと、踏み躙られた想いが無いと、人はその物語をありきたりと言って見向きもしなくなるのでしょうか。

我々はただ、数字を取る為だけに苦しみ続けるしかないのでしょうか……!》

 

 ホログラム体を震わせながら語る如羿(じょげい)にため息を付く。

 

「被造物のくせに、被造物と言われてなんで俺達よりもダメージを受けているんだお前は……」

 

《私だけだったら別に構いません。しかし、私は羿(げい)様の働きを、苦悩を、ずっと見て来たのです。(こう)様の事も……!

あれが最初から決められた事だったなんて!!》

 

「……」

 

 羿(げい)はさらにため息を付いた。

現在の如羿(じょげい)は感情設定が80%で固定されていると言う話だそうだが、これがなかなか厄介な物だなと内心一人ごちる。

 

「だから、落ち着け。

……大枠は決められていたのかもしれないが、結局は俺が自分で選択してきた道だ。後悔や憤りも普通にあるが、しかしその選択を誰かのせいにするつもりは一切ない。

……俺は、運命は信じない。だから自分で選択しろと、(こう)にもそう言って生きて来たし、()にもそう言ってきた。

お前はそれを掘り起こして、俺の選択は操られたものだったからやっぱり無しだ、全てゲームの開発チームのせいだとでも叫びたいのか?」

 

 ハッとしたように如羿(じょげい)は頭を垂れた。

 

《……申し訳ありません。出過ぎたマネをいたしました》

 

「気持ちは嬉しいが、あまり気にするな。

例えこの世界がゲームだったとしても、ゲームだけではない事ぐらいは解っている筈だ」

 

《……羿(げい)様ならびに、他の方々の強さにおいて感服いたします。軒軒(けんけん)も、全く意に介していないようでした》

 

「まあ……軒軒(けんけん)はそうだろうな。あいつがこの程度でダメージを受けるような人間であったら、何と言うかもう少しこう……大人しめな事になっている気がする」

 

 思い起こすのは軒軒(けんけん)の天下無敵っぷりだ。

そろそろ素直に降参する。あれに勝てるビジョンが全く思い浮かべないのである。

 

羿(げい)様が軒軒(けんけん)に、全ての書の閲覧許可を出されたのも意外でした》

 

「……」

 

《出過ぎたことを聞いて申し訳ありません。もしかして羿(げい)様は……軒軒(けんけん)に裁いて貰いたいのですか?》

 

「……。俺のやる事に口を……いや、」

 

 口から出かけたセリフを止めて羿(げい)は小さく頭を振る。

 

「……どうだろうな。少なくとも俺は、同じ状況になったらきっとまた永生炉(えいせいろ)プロジェクトを提案すると思う。

軒軒(けんけん)達の事はもう、ただの猿人だと割り切れはしないが……それでも俺は選択するだろう。太陽人の為に」

 

《……》

 

「その上で軒軒(けんけん)が俺を断罪したいなら、素直に受け入れるつもりだ。そう言う覚悟は持っているつもりだ。

困ったのが、軒軒(けんけん)がその選択をする場面を想像する事が出来ない事くらいか。それに案外、俺の考えを超えて別の選択肢すら出してしまいそうな気がするな。

 

……まあ、自暴になった訳じゃない。でも、軒軒(けんけん)には見る権利があると思った。それだけだ」

 

《差し出がましい事を申しますが……おそらく軒軒(けんけん)はもう、ある程度気付いています。

その上で、羿(げい)様から口にされることを望んでいる》

 

「……そうだな」

 

 思い出すのは、九日百科が公開されたあの時。

羿(げい)の項目は見ないと舌を出して見せた軒軒(けんけん)の姿。

頭がいい子だ。もうすでに、桃花村(とうかむら)の真実にもある程度感付いているだろう。

 

「……わかってるんだ。俺も腹を括らなくてはならない事に。

そうでなければ、『納得』の行く選択など出来ようものか。

……ああ、そうだな。俺にとっては世界がゲームだなんだと言われるよりも、何がしたいかを決める事、納得の行く選択をする事、そちらの方が何倍も重いんだ。

ともすれば、多少のアドバンテージぐらいにしか思えてないのかもしれないな」

 

 瞑目して気負わず、静かにそう語る羿(げい)を見て如羿(じょげい)は言う。

 

羿(げい)様は……良い方向に変わられたように見えます。

天道議会を離反した当時の、あるいは軒軒(けんけん)に助けられたばかりの頃は、血に塗れた刃物のような鋭くギラギラした雰囲気がありました。

今は、湖の水面のように自在で泰然とした様相に見えます。

軒軒(けんけん)に触れ、猫弈(みょうえき)に触れ……四季閣(しきかく)に人が集まってくるにつれてそのような雰囲気が大きくなって行くように感じさせるのです》

 

「刃物に水面……随分と詩的になったな。蚩尤(しゆう)に影響されたか?」

 

《むしろ影響されたのは猫弈(みょうえき)にでしょう》

 

緊急メンテナンスが必要だ。思考ロジックチェックを回せ。直ちに

 

《あ、今ちょっと刃物になりました》

 

 水面になっていっても、結局猫弈(みょうえき)の事は大嫌いな羿(げい)であったりした。

 

 

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