猫のあしあと   作:のーばでぃ

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天道照覧

 魂境(こんきょう)の中を噛み締めるように歩く。

見渡す景色は白く、魂境(こんきょう)に浮かぶ結晶は何も映さない。

無機質で、まるで誰もいなくなった道路のような。そんな世界だった。

 

 そこを無言で見渡しながら光の先へ歩いて行く。

果たしてそれは、背を向け佇み羿(げい)の事を待っていたようだった。

 

 声を掛けた。

 

「……ここに隠れていたのか。まったく、本当に骨が折れたぞ」

 

 師の姿だった。太陽、易公(えきこう)

蒼砂の制御を専門としながら、あらゆる分野にも知見を置く英知の頂点。

間違いなく太陽の最高頭脳と言っても良い妙齢の女科学者。

 

羿(げい)、まさかまた会えるとは。

挨拶をするために、わざわざ私の魂境(こんきょう)に入って来た訳ではあるまい?」

 

「ああ、心残りを消すために来たんだ。

忘れたか? 前回は慌しく別れたから、先生に別れを告げる時間も無かった」

 

 軽口が行き交う。

 

「フッ、義理を重んじるいい生徒だ。前回別れてから……500と9年か?

師として常々考えていた。あの時、おまえを説得できていれば、違う未来があったのではないかと」

 

「ならば、500と9年考えて説得する文言は浮かんだか?」

 

「……いいや、どれだけ考えてもお前を納得させるイメージが浮かばなかったよ。まったくもって困った生徒だ」

 

「そうだろうな」

 

 そっけなく言う羿に、易公(えきこう)はこれ見よがしに溜息を付いた。

 

「はぁ、ここに来るまでに九王を皆殺しにしたようだな。その残虐非道さ、師である私でさえ本当にお前かどうか疑ったよ。

覚えているか? あの科学と世界に対して好奇心に溢れた、私の自慢の生徒を。

永生炉(えいせいろ)プロジェクトを発案した太陽人の希望の光……」

 

「……振り返るべきは、昔の生徒の功績だけか?

もっとある筈だ。500と9年かけて、見つめなければいけなかった物が」

 

「そうだな。言われるまでもなく見つめ続けて来たよ。

私は科学者として、問題を現実的に解決しなければならない。

嘘も真実も、人の命の前ではどうでもいいことだ」

 

「……なるほど、これでは500と9年かけても説得は難しいだろうな」

 

「聞くが、おまえが王璽(おうじ)をすべて手に入れたとして、天禍(てんか)は消滅するのか?

それとも、おまえはみんなを魂境(こんきょう)から起こし、蓬莱(ほうらい)に連れ戻して死を待てと?」

 

「そうやって沸いた二極論を以て切り捨ててきた事柄が、まさにいま牙を剥いて来ているのだとは考えないのか。

他の誰かならばともかく、よりによっておまえがそれを口にするのはもう、開き直ってるようにしか見えない」

 

「誰の口から発しようと同じことだ。真実は変わらない。現状も変わらない。

私は確かに過ちを犯した。だからこうして何世紀もの時間をかけて、償いを続けてきた。

今のところ、問題を解決できるのは私だけ。お前がどんなに私を憎もうと、それは紛れもない事実だ」

 

「それは果たしてどうだろうな。お前は早々に、自分以外を見限り過ぎた。

不和と言う物を軽く見過ぎた果てに今がある」

 

「フッ、それこそそのままお前に返そう。よりによってお前が口にするのは開き直りと変わらないぞ?

おまえが持っている九つの王爾(おうじ)がその証明だ……おまえも文字通り、『斬り』捨てて来たわけだ。

不和がどうこうなどと、もはや持ち出す時期は遠の昔に終わってる。

結局沸いた牙は、力で抑えるしかなくなっているのだ。お前がその王璽(おうじ)を奪ってきたように。

……ゆえにこそ、こんな議論にはもはや何の意味もない」

 

「……結局、剣か」

 

「今更何を取り繕っている? 散々繰り返してきた事だろう。

ここに来る前も……そして、500と9年前もだ。

もっとも、だからこそ剣を合わす事にはならないが」

 

「なに?」

 

「忘れるな。お前が侵入したのは私の霊枢(れいすう)だぞ。

方士兵法の第一項を覚えているか?」

 

 羿(げい)が少しの沈黙の後、この後起きる事を悟ったように低く答えた。

 

「……兵は詭道なり」

 

「その通り。お前はいつもいい生徒だった」

 

 ―― 神経ジャック。

 

 突如しびれたように動かなくなった体が、そのバランスを崩し地面に投げ出された。

何も抵抗が出来なくなった羿(げい)から次々に王璽(おうじ)が抜き取られて行く。

 

 奄老()勾芒()伏羲()夸伏()截全()羿()女媧()蚨蝶()()

王たちの持っていた王璽(おうじ)が、すべて。

 

「お前が侵入した瞬間から、おまえの神経中枢を制御させてもらっていた。

実は……新しい時代の到来を迎えるため、どう権限を手に入れるか悩んでいたのだ。

その結果、天は私を助けるためにお前を遣わしてくれた。

お前には礼を言わんとな」

 

 地に伏せながら、羿(げい)が動かない体を押して易公(えきこう)を睨みつけていた。

最早声も出ないようだ。しかし、その目から力は消えていない。

 

「これまでたくさんの事故があった。それがどういう事かわかるか? 私は今、すべて理解した。

お前の裏切りも含め、すべて最高のお膳立てだったのだ。

 

―― おやすみ、羿(げい)。悪夢はすぐに終わるよ」

 

 そして自分を睨むかつての弟子に背を向けて、易公(えきこう)霊枢(れいすう)を去って行く。

手にした王璽(おうじ)を使い、生命に掛けられた最後の錠を開くために。

 

 沈黙したままの羿(げい)を一人残して。

 

 

 

@ @ @

 

 

 

 すべてが順調に回り始めている。まるで天が後押ししているかのように。

易公(えきこう)は心の底からそう感じている。

 

 切っ掛けは解っていた。()()()()()()()を見出してからだ。

その時から、なぜ今まで失敗ばかり続けていたのかをはっきりと理解した。

 

 失敗していたのではない。

ただ、成功していた結果を見て、それが成功であると認識していなかっただけなのだ。

それに気づいた時、運命がその答えを肯定しているかのように色んな事が回り始めた。

 

「もうすぐだ。もうすぐ……」

 

 そう。羿(げい)の離反でさえ予定調和だったのだ。

この手にある十の王璽(おうじ)がその証拠。羿(げい)の霊枢を漁りに行く手間すら必要なかった。

この制御中枢への道のりが、レッドカーペットで丁寧に整えられているようにすら思う。

 

 見上げた古木樹は黒々と茂っていた。

 

 神話において扶桑(ふそう)が世界の母とされていたように。

これからこの古木樹も、新たな太陽人を導く母となる。

 

 エレベーターで上層へ向かう。

古木樹の中に作られた制御中枢は500年の時を経てもなお、正常に動き続けていた。

 

 天道議会の中心と言える議場を横切る。

少しだけ眺めて、かつて10王が集まっていた頃を想う。

……もはや感傷に等しい回想だ。

太陽達はもう、羿(げい)の手によって没したのだから。

 

 議会法典システムのある最上層まで悠々と辿り着いた易公(えきこう)は、コンピューターに王璽(おうじ)を照合させ ――

 

 

 

《エラー。アクセスキーの照合に失敗しました》

 

 

 

「……なんだと?」

 

 500年間メンテナンスしていなかったシステムだ。

まさかこんな大事な時にデータ破損かとメディカルチェックを走らせる。

逸っていた気持ちとは裏腹に、かかる時間がもどかしい。

ともすればシステムに牛歩されているのではと思えるほどだ。

 

 努めて深呼吸して心を落ち着かせた。

 

 想定できる事象ではあった。解決も可能だ。

回復の手段も用意されている。何も問題はない。

 

 一瞬、霊枢に閉じ込めた羿(げい)の事が脳裏に浮かぶが、アレも問題はない。

一度ああなってしまえば遠隔から操作は出来ず、外部から直接霊枢を操作しなければ羿(げい)が出て来る事は無い。

 

 順調に行き過ぎたせいで、軽く躓いた小石に過剰反応しているだけだ。

……そう思っていたが、確認と修復を進めていくと何かがおかしいと気付く。

 

 確かにシステムに破損は見られたが、リペアデータによる回復はちゃんとできた。

しかしそれでも照合が失敗する。

ログデータを見て行くと、ほとんどの王璽(おうじ)の照合が失敗しているようだ。

こうなると王璽(おうじ)ではなく、システムそのものの破損を誰だって疑う。

 

 ……が、ひとつだけ照合が通っていた事に気付いた。

 

 「壬」の王璽(おうじ)

ただ一つ、易公(えきこう)王璽(おうじ)のみが。

 

 この状況の理由を理解して瞑目した。

 

「……そう言う事か。羿(げい)、おまえはまったく本当に、素晴らしく優秀な生徒だったよ」

 

 本心だった。易公(えきこう)は思わず感嘆の溜息を付く。

別にどうにかなるわけではない。多少手間が増えた程度の影響だが、これについては素直にしてやられたと認めよう。

 

 いや、多少どころではなく凄く面倒な事になってる可能性の方が高いか。

この分では素直に羿(げい)の霊枢に王璽(おうじ)を保管なんて可愛い事をやってはいないだろう。

ずいぶん時間を稼がれる事になるかもしれない。

 

 まるで終業間際に優先度の高い仕事が舞い込んできたような心持ちになりながら、易公(えきこう)は踵を返した。

萎える気持ちに鞭を打つ。

 

 羿(げい)を閉じ込めた霊枢に潜って場所を割らせるのは、おそらく最後の手段になるだろう。

 

 さて、まず当たるべきは羿(げい)夸伏(こほ)の霊枢であるが、こんな解りやすい所には無いだろうな……と思考を巡らせながらプランを練りつつエレベーターで中層に降りた易公(えきこう)が、完全に想定外の光景を目にして足を止めた。

 

 ―― 天道議会議場。

かつて十王たちが座していたそこに。

 

 

「なんだと」

 

 

 座っていたのだ。

奄老(えんろう)が、勾芒(こうぼう)が、伏羲(ふくぎ)が、夸伏(こほ)が、截全(せつぜん)が、女媧(じょか)が、蚨蝶(ふちょう)が、()が。

羿(げい)王璽(おうじ)を手にしていた故に、既にこの世にはいないと思っていた者達が。

 

「来たか。遅かったな……やはり議会法典のシステムにもガタが来てたか?

ここの議事録データもいくつか破損しているくらいだったしな」

 

 ―― そして、傍らに玄蝶(げんちょう)を浮かべた……おそらくコレを使って霊枢から出て来たのだろう、羿(げい)が。

 

 易公(えきこう)の出てきた通路を見つめ、かつてと同じ場所に座していた。

 

 

 

 瞠目し立ち尽くす易公(えきこう)は、震える唇でやっとこれだけ声に出した。

 

 

 

「―― 王璽(おうじ)の偽造は死罪だぞ、羿(げい)

 

王璽(おうじ)の強奪と、議会を経ない法典へのアクセスもだな、先生」

 

 

 

 『兵は詭道なり』――ああ、本当に羿(げい)は優れた生徒だった。

 

 

 

@ @ @

 

 

 

 まるでかつての天道議会の焼き増しである。

しかし時が過ぎて、最早これが『かつて』では無いのが瞭然だった。

 

 伏羲(ふくぎ)が変異体の様相のまま女媧(じょか)の隣に静かに座っていた。

蚨蝶(ふちょう)も体が透けている。普通にホログラム体としての参加のようだ。

おそらく議事録のホログラム再生機能を間借りしているのだろう。普通にハッキングである。

 

 皆、その手元にはタブレット端末が保持されていた。

よほど興味深い事でも書いてあるのか、截全(せつぜん)なんかは時折端末に指を滑らせイヒヒと含み笑いを上げている。

それとは対照的に、勾芒(こうぼう)は怒りの様相を隠し切れていないようだ。

 

 そして決定的に違う点。

―― 外様がいる。

 

 猿人の子供と、サポートロボットと、それと手をつないだ ―― 変異体が、もう一人。

後は(せつ)家の蔵で見た事のある古代兵器が、どこからか持ってきた椅子に座っている。

 

 その視線に応えるように、羿(げい)が口を開いた。

 

「紹介しよう。

まず、第95猿人養殖場……通称『桃花村(とうかむら)』の住人にして2年間俺と暮らしていた軒軒(けんけん)だ。猿人側の当事者枠兼、助言者(オブザーバー)として参加してもらった」

 

助言者(オブザーバー)、だと?」

 

 さすがの天下無敵の軒軒(けんけん)もこの面子には気後れするのか、カチコチになりながら会釈する。

しかしどうせ、色々始まったらいつもの軒軒(けんけん)に戻るのだろう。

 

「サポートロボットである山海9000と、暮守(くれもり)(せい)だ。

覚えているかはわからないが、後者とは面識がある筈だ。

変異体の稀有な一例として参加を頼んだ。

山海9000が手を握っている限り、彼女は基本的に大人しくなる」

 

『正直 ここにいるの とても不本意』

 

 山海9000は顔をピカピカさせながら不満を漏らした。

太陽相手にビクつく彼はもういない。開き直ったとも言うが。

 

(せつ)国は戦神計画で製造された古代兵器、戦神2号だ。

彼は古代兵器でありながら意思と漢詩に目覚め、暴力を捨てた経歴を持つ。

彼を呼ぶときは『蚩尤(しゆう)』と言う名を使ってくれ」

 

「ご紹介に預かった蚩尤(しゆう)だ。此度は傍聴を希望させて頂いた。

羿(げい)殿ほか、太陽諸兄の寛容さに対し小生は感謝の念に堪えない。

今日はよろしくお願いする」

 

 截全(せつぜん)がそれを聞いて、とてもとても愉快そうにイッヒッヒと笑っている。

対し奄老(えんろう)の表情がとても複雑げなのは、蚩尤(しゆう)の片割れたる兄の刑天(けいてん)のあれやこれやに関わっているからか。

 

 易公(えきこう)が無駄な抵抗をするかのように言った。

 

「……天道議会の議場に部外者が入るなど、前代未聞だぞ?」

 

「大丈夫だ、今の俺も部外者だからな。今更だ」

 

 さらりとそう言って流す羿(げい)の言葉に蚨蝶(ふちょう)が小さく噴き出しながらプルプル肩を震わせていた。

ホログラム体なのに随分と芸の細かい事である。

 

 イライラした様子を隠そうともしないまま勾芒(こうぼう)が言う。

 

「もう一人、ここに居なくてはならん者がおらぬだろうが、羿(げい)!」

 

「すまないが意図して除外させて貰った。理由は、おまえの今の態度自体が答えだ。

つまりある種の()()()()()()として認識してくれ。

―― この件については、おまえがいつか言っていた「自分を畜生と思うようになったのか」と言う言も甘んじて受けよう。事実その通りだからな」

 

「ぐぬぬ……貴様の様なのが一番厄介だ……! 隠しても時間稼ぎにしかならぬぞ!?」

 

「わかってる。しかし、だからとてそれをしない理由が無い」

 

 そんな会話をしながらも羿(げい)易公(えきこう)に歩み寄り、皆が持っているのと同じタブレットを渡す。

 

「ホログラムで資料を出す議場においてツールとしては少し古いかもしれないが、なかなかどうして使いやすい。手元の資料閲覧用として使ってくれ。

―― 如羿(じょげい)、挨拶しろ」

 

《―― 如羿(じょげい)でございます。

此度は会議の進行補助、および皆様のデータの検索・提示をお手伝いさせて頂きます。

天禍(てんか)研究所のデータについても、お手元のタブレットから見れるようになっております。データの分析やグラフ表示、内容のまとめやシミュレーションと言った事も可能です。

お気軽に、何なりとお申し付けくださいませ》

 

 議事録再生装置のスピーカーからそんな声が聞こえてきた。

この議場のネットワークは外部から侵入できないようにしていた筈だが、そんなセキュリティは知った事かとばかりに容易に突破されていた。

本当に、嫌になるくらい優秀な生徒である。

 

「……それで? 何を始めると言うのだ?

もはやここに居るもの皆、天禍と変異体の件について知っているとみて良さそうだが。

私の断罪でも始めるか?」

 

「そのような催しに出席するほどわらわも暇ではないわ。

……個人的に言いたい事は山ほどあるがな! わらわが手塩に掛けて技術を叩き込んだ暮守(くれもり)達を……よりによって(せい)をもこんなにしてくれたんじゃ!

いくら先生でもあとで一発殴らせてもらう!!」

 

 山海9000が顔を上げた。

 

『……太陽様 (せい)の事 覚えてたのか?』

 

「逆に聞くが、貴様らこそ忘れていたのか!?

最初はこちらの非からこそであったが、目玉蓮根を与えて助けたのも、途方に暮れていた(せい)に努力のきっかけを与えたのも、暮守(くれもり)に自らをねじ込んで見せた(せい)に目をかけて技術を叩き込んだのもすべてわらわじゃ!!

……忘れておるのじゃろうな、(せい)は。本当に嘆かわしい事じゃ」

 

 山海9000と手を繋ぎながら大人しく座っている、変わり果てた(せい)を見て勾芒(こうぼう)はため息を付いた。

 

「……夸伏(こほ)蚨蝶(ふちょう)も言っていた。

太陽達がもう少しまともにやり取り出来ていれば、もしかしたら別の道があったかもしれないと。

それを探ってみたい。

 

……ずっと考えていた。俺はどうするべきなのだろうと。

何を以て『納得』できるのだろうと、ずっとずっと考えていたが……結局、答えが出なかった。

だからこの場は、その答えを求めるための一助としたい。

そしてそれは俺だけでなく、この場にいる者達皆、『納得』を探すきっかけにもなるかもしれない」

 

 羿(げい)のその言葉を、易公(えきこう)は一笑する。

 

「すでに終末が見えているこの状況にあって、か?」

 

「そうだ。故にこそ、『どのように終末を迎えるか』という事の検討すら選択肢になるだろう。

我々が捨て去った『道教』の概念を持ち出す事にもなるかもしれないな。

ここに来るまで、捨てたものが多すぎた。それを一度振り返ってみたい。

 

―― しかしそれを考えるために、一度やって置かなければならない事がある」

 

 羿(げい)が軽くこの場の皆を見回し……そして、易公(えきこう)の目をまっすぐ見据えて、ぺこりと頭を下げた。

 

 

 

「ごめんなさい」

 

 

 

 それは、羿(げい)……以前の羿(げい)を知っている者なら、出てくることが無いと思っていた言葉だった。

 

「……断っておくが、天禍の事を許してはいない。父さんも母さんも、(こう)も死んだ。

だが……あの時。500年前のあの時。俺は激情のままアンタを断罪する事しか考えてなかった。

太陽を冠した身でありながら、俺はあの時、科学者であることを辞めていたんだ。

あの時行ったのは、『話し合い』なんかじゃなかった……アンタの言ったとおり、俺はアンタの話を聞こうとしなかった。

 

……あれは、俺が悪かった。ごめんなさい」

 

 頭を下げるその姿を見つめる易公(えきこう)の瞳が揺れる。

 

「……その言葉を、おまえが離反する前に聞けていたら。また違う道があったのだろうか」

 

「いや。自分のことながら、それは無かっただろう。

截全(せつぜん)にも言ったが、離反自体を後悔はしていない。俺が変われたのは離反したからこそだったから。

だからそれより前の俺相手では、結局何も変わらなかったと思う」

 

「……空気の読めない奴だ、ここは肯定する所だろうに。

しかし、そうか……生徒に追い抜かされた気分だよ。

お前は、私に出来なかった事をやったんだな。

 

『過去の過ちを認める』―― 私に出来なかったそれを。

ならばこそ、私もそれをしなければならないだろう」

 

 易公(えきこう)が議場の皆に振り返る。

そして、羿(げい)と同じく頭を下げた。

 

「……すまなかった。私は、おまえたちに黙っていた。

天禍は、太陽人を絶滅せしめるウイルスを生み出してしまったのは、この私だ。

故にこそ私は天禍を克服せんと研究を続けて来た……結果を持って償おうと。

しかしそれを黙ったままだったのは、私がそれを言い出す勇気が無かったからだ」

 

 沈黙が流れる。

皆、易公(えきこう)を見つめている。

 

「……そして、この期に及んでも私の結論は変わらない。

変異体の事はみんな知っているのか……?

天禍の克服法にして、太陽人の進化の形。その結論は、今なお私の中に根付いている。

これより議会を発しても、結局その結論を出すだけだぞ?」

 

「―― では、まずはその変異体について検討する所から始めてみよう。

否定から始めるつもりはない。迷走の可能性が見えていたとしても……今はそれも、意味がある事の筈だ。

 

今こそ天道議会をやり直そう。今度は、以前まで無かった和を以て。

 

 

……『敬意を払え』、だ」

 

 

 易公(えきこう)を伴い席に戻る羿(げい)を見つめながら、夸伏(こほ)は思わず目尻がうるつく自分を自覚した。

今の羿(げい)の姿が、何処となく(こう)のそれと重なって見えたから。

 

 

 ―― おそらくきっと、本当の意味で。

これから最初の天道議会が始まるのだ。

 

 




Q. 奄老(えんろう)のイベントは?
A. スキップされました。

Q. 山海9000と(せい)との再会イベントは?
A. スキップされました。

Q. 刑天(けいてん)破壊イベントは?
A. スキップされました。

びっくりするほど深掘りする気になれなかったよね。
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