猫のあしあと   作:のーばでぃ

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ここから先はほぼ捏造、独自解釈になります。ご注意ください。
またゲーム本編のテキストを全て押さえられていないのでどこか矛盾する部分が出てくるかもしれません。
もし本編と解離する重大な矛盾が出て来た場合は、羿(げい)が腹を切ってお詫びいたします。

羿(げい)「!?」



歩み始める未来

「まず初めに、変異体とは何かという点について纏める。

―― 如羿(じょげい)、要約しろ」

 

 羿(げい)の声に合わせて、ホログラムスクリーンに大雑把な資料が出力された。

スピーカーから如羿(じょげい)の声が流れる。

 

《かしこまりました。

変異体とは易公(えきこう)様が太陽人の進化の形として見出された、天禍(てんか)の一つ先のステージになります。

 

具体的には錬丹炉にて突然変異させた黄龍の抗体をベースに、細部を調整した血清を生成。

天禍(てんか)の対抗薬として作り出されました。

易公(えきこう)様のレポートによると、これを注入した被検体はおよそ90%の確率で死亡し、10%の確率で身体変異を引き起こします。

ただしこの数字はあくまで初期の物であり、後期においては死亡率を40%程まで大幅に引き下げる事に成功しているようです。

伏羲(ふくぎ)様と(せい)様がこの変異体に当たります。

 

変異体となると体組織が特殊な細胞に置き換わり、知能が著しく低下します。

性質として他の生物を積極的に襲うようになるようですが、これの原因は解っておりません。

ただ易公(えきこう)様は一説として、変異体自身が生存圏を確保しようとしているのではないかと考察されています。

まるで外敵を()()する太陽人のように。

変異体同士で攻撃し合わないのもこれで理由が付くとのことです。

 

能力ですが、変異体となると古木樹と共鳴し、事実上の不老不死になります。

細胞はいわゆる万能細胞の体をなし、それ故に様々な奇形への変異が見られております。

またこの細胞には感染性があり、水などを介して他の生物に潜り込むことも出来るようです。

他のウイルスや細菌、毒性による影響もみられる、当然ながら天禍(てんか)による影響も無縁となります。

 

総評して生命力、万能性と言う点では非常に優れていると言えますが、代償とする知能の著しい低下と言う痛烈なデメリットは未だ解決策が用意されていません》

 

 如羿(じょげい)の説明を聞きながら、勾芒(こうぼう)が手元のタブレットに目を落としつつ補足説明を要求していた。

 

「被検体の総数は?」《460名です》「時期あたりで致死率をグラフに出せるか? それと血清の変更点も」《こちらになります》「細胞の万能性に関する概要を資料で出せ。テロメアもじゃ」《かしこまりました》

 

 早速システムを使いこなしているようで大変頼もしい。

 

「意識についてはオカルトが入るが、本人の意思や有りよう如何でその行動に影響が出ると見れる実例が、今俺たちの前に存在している。

伏羲(ふくぎ)(せい)だな。

見ての通り、伏羲(ふくぎ)はまず何より女媧(じょか)に侍ろうとし続け、女媧(じょか)が望まない限り他の者を攻撃しようとはしない。

(せい)も、最初こそ俺に攻撃性を示して見せたが、山海9000が手を握って呼びかけると次第に大人しくなった。

今では手を握っていないと不安定になるものの、共生の一例として見る事が出来る状態と言えるだろう。

(せい)は新崑崙(こんろん)発足当時、山海9000に手を握られながら長い旅をしてきた経緯がある。その記憶がこの状態を作っていると考えられる」

 

(せい)は盲目だった筈だな? 瞳孔反射検査は行ったか?」

 

「いや、行っていない。しかしカプセルから出された後に俺に襲い掛かってきた様相を考えると、視覚は治っている可能性がある。顔が俺の方を向いていたからな」

 

「ええい、中途半端な。まあ、とりあえず治る方向で考えてやるが。理屈通りなら治る目は普通にあるハズだしの……」

 

 一連の流れを聞いていた山海9000が、ふと不思議に思って(せい)の手を握っているのとは逆の手を(せい)の目の前でひらひらさせてみた。

(せい)は何も考えてなさそうな虚ろな目で、なんとなく顔を山海9000に向ける。

ひらひらする手に反応したようにも見えるし、山海9000の動きを感じ取ったようにも見える。微妙なラインである。

 

易公(せんせい)、ここまでを前提とした上で、先生が具体的に何をやろうとしていたのか、それによってどうなる事を期待していたのかを説明してほしい」

 

「……先に言っておく。変異体の特殊例についてだが、2人ではなく3人だ。

この私も、今現在体が変異している最中なのだよ」

 

 易公(えきこう)が軽く襟をはだけた。

天禍(てんか)変異体特有の肉種が、体に食いついて蠢いているのが見える。

その様相に思わず参加者全員の呼吸が止まった。

 

「……羿(げい)の言うオカルトは真実と解釈している。強い意志があれば、変異体となってもなお貫ける意思があれば、かく有れるのだ。それは私が身を以て証明している。

意識はしっかりしているし、頭痛も消えた。体の変調をごまかすために飲んでいた丹薬も最早必要が無くなっている。

知性は精神力次第で保持出来るのだ」

 

 どこか熱に浮かされたような目で、易公(えきこう)が後を続けた。

 

「具体的に何をやろうとしたか、だったか。この身を以て古木樹に変異体を感染させる。

古木樹から天禍(てんか)は生まれ、天禍から変異体は生まれた。それ故その親和性は高く、瞬く間に変異体は古木樹に、新崑崙(こんろん)中に広がるだろう。

そこから太陽人に感染は広がり、最終的に新崑崙(こんろん)は島ごと進化を遂げる」

 

「待って欲しい易公(せんせい)。この資料を見ると、致死率40%まで下げられた要因は被験者をカプセルに入れて変異状況を調整する事が前提のように見えるのじゃが。

そのやり方だと致死率が90%に戻ってしまわぬか?」

 

「可能性は高いだろうな。しかし種を残す事を優先した。どのみち何もせずとも終わりだし、何よりカプセルの数を揃えるのは非現実的だからな。

計算上、千は生き残る事が出来る筈だ」

 

「さすがに異議ありじゃ! やるとしてもカプセルを使って致死率を下げて行うべきじゃ!

幸い、永生炉プロジェクトのおかげである程度時間は稼げるのだから!」

 

「おい勾芒(こうぼう)ちょっと待て! まさかお前、この変異体化を前提として喋ってんのか!?」

 

「反射的に口答えするでないぞ夸伏(こほ)! ()()()()()()と枕を置いたじゃろうが!

そもそもが「どうせ合意が得られないから」と色々見限って急ぎ過ぎておるのだこの計画は!!」

 

 そんな喧騒を見ながら、女媧(じょか)がポツリと言った。

 

「……わたくしは、構わないわ」

 

 その発言に、伏羲(ふくぎ)も含めた皆の視線が女媧(じょか)に集まる。

 

「お兄様と一緒になれるなら、わたくしはそれでも構わない。

元々終わりが見えていたのよ。体の中からじわじわと天禍(てんか)に蝕まれる恐怖。死ぬまでのひと時を享楽で必死にマヒさせてた。

でも……それから逃げられるならと、考える人だって結構いるんじゃないかしら」

 

 何より、伏羲(おにいさま)と離れ離れになるよりは。

そう言って、女媧(じょか)は光の無い目で俯きながら伏羲(ふくぎ)の腕に頬を寄せる。

 

女媧(じょか)、お前……」

 

「あの、ひとつ質問良いかな?」

 

 軒軒(けんけん)が恐る恐る手を挙げた。

 

「不思議に思ってたんだけど、この変異体になった人達って何食べてるのかな。ケガして死んじゃうことが無いのは解ったけど、おなかすいて死んじゃうのも無いの?」

 

 女媧(じょか)の目線に若干の侮蔑が混じる。

 

「……お兄様は、『こう』なってからは何も口にしては無いわ。不老不死と言うのはつまり、何も食べずとも生きていられるのよ」

 

「いや、実は俺もこの点が気になっていてな」

 

 羿(げい)だった。

 

「動くにはエネルギーが必要だ。テロメアは何とかなったとしても、さすがにエネルギーを細胞でどうにかしてるのは少し考えにくい。古木樹だって光励起が必要だし、()だって物は食ってる。

―― 俺が駆除した変異体の中には元能エネルギーと思わしき物を溜め込んでいる種も見られた。

変異体は古木樹と共鳴しているのだろう? その過程で元能エネルギーも取り込んでるんじゃないか?」

 

《データを見る限り、それの反証となり得るものは見受けられません。

……易公(えきこう)様の所見は如何でしょうか?》

 

「……十分、あり得る話だろう。襲った生物を貪るような様相も無かった。古木樹と同じく光励起している可能性も無くはないが、体表の状況からその可能性は低い」

 

 羿(げい)が頷いた。

 

「となるとだ。古木樹は変異体にとっても生命線となり得る事になる。

その古木樹を変異感染させたとして、エネルギーの励起を保てるだろうか?」

 

「……どういうこと?」

 

《古木樹の細胞に変異体細胞を感染させた例は実験データに存在します。先の易公(えきこう)様の「親和性が高い」と言う発言はここから来ているようです。

映像記録を見ると、細胞が肉腫に変異し変異体に変わるまでほぼ時間を要しませんでした》

 

「……ん? 肉腫に変異して『黒』じゃなくなるのか?

となると……光励起機能、消えちまってるかもしれないな」

 

「……!!!」

 

 夸伏(こほ)の言に、今気づいたとばかりに易公(えきこう)が目を見開いた。

解っていなさそうに首をかしげる軒軒(けんけん)に説明するように勾芒(こうぼう)が後を続ける。

それはそのまま、女媧(じょか)への説明でもあった。

 

「古木樹は太陽の光を受けて元能エネルギーを作っておる。この過程で古木樹の色が『黒』と言うのはかなり重要でな……

解らぬかもしれぬが、色と言うのは光の反射を指す。

光を吸収してエネルギーを造り出すという事はつまり、光から力にする分を()()()状態が色になって表れているのと同義じゃ。

例えば同じく光励起している一般的な樹木の葉は緑色をしているが、アレは光から力を吸収した()()()()が緑になって見えているに過ぎぬ。

同じく光から根こそぎ力を吸収すると、光はもはや何の色も出せずに黒色になるんじゃ。古木樹がこれじゃな。

……故にこそ、肉腫になった『ピンク色』の変異体古木樹細胞は、光励起を失っていると解釈できる。

もしこの考えが当たっていたとしたら、古木樹を変異体感染させるプランを実行させていたら滅亡一直線じゃな。

古木樹がエネルギーを作れなくなるのだから、古木樹からエネルギーを得ていた変異体もそのうち飢えて果てるじゃろう。

……そのストレスの中で、何かを捕食する方向に進化する可能性も否めなくはないが……元能エネルギーが無くなった新崑崙(こんろん)で捕食に倒れても、緩やかに死んで行く未来しか見えんの」

 

「『進化』だったら僕にもわかるよ。突然変異して環境に適応するってやつでしょ?

――『黒い』変異体に進化する可能性は?」

 

「あるかもしれんが、母数が少なすぎる。変異体数が千程度ではあまり期待は出来んじゃろう。

錬丹炉を使って方向性を操作してやった方がまだ可能性はあるが……わらわの知る限り、古木樹と同様の性質を持つ方向に進化できた例を知らぬ。そうじゃな? 截全(せつぜん)

 

「ああ、そうだな。古木樹も伊達に神様扱いされていないって事だ。

易公(えきこう)に言われて俺も錬丹実験に立ち会った事があるが、古木樹のような不死性やエネルギー効率を持つ生体を生み出す試みはすべて失敗に終わっている。

……生み出せたなら、真っ先に俺が自分に組み込んでるさ。イヒヒヒ」

 

「……確かに、これは認めざるを得ないな。私のプランには穴があり過ぎたようだ」

 

 一歩間違えれば変異体の絶滅まで考えられたシナリオを聞いて、易公(えきこう)があっさり己の不明を認めた。

何だかんだで、彼女自身にも思考の固着があった事は自覚していたのだ。

 

「思考能力についても、意思だけで抑え込むと言うのはやはり母数が足りなくなるな。見た目は妥協するとしても、この部分はいうなれば人格の死だ。何か解法は出しておきたいところだが」

 

「……人格の死、か」

 

 奄老(えんろう)だった。自嘲気味に口を開く。

 

「わしのように……ただ死の恐怖から『生きたい』と考えている者は、容易く蒙昧に転びそうじゃな。伏羲(ふくぎ)易公(えきこう)も……そしてそこな(せい)も、何か意思を保つに足る確固とした目的があったのじゃろう。

わしは……それを持てと言われても、難しいな」

 

「……」

 

 女媧(じょか)も、内心その言葉に同調する。

あるいは蒙昧となっても、伏羲(ふくぎ)の傍にいる事が出来るならそれで構わないとすら女媧(じょか)は考えていたのだ。

 

「……太陽人が変異体となった後、外敵が排除されれば、自然と種の目的は全体の維持に偏るはずだ。その過程で思考能力が芽生える事を期待していた面は確かにあった。

我々太陽人が、長い時を経て思考能力を獲得したように」

 

「逆に言えばほぼ無策か……蚨蝶(ふちょう)、例えば変異前の脳をコピーして置いて、変異後にその内容を焼き付けるようなマネは可能か?」

 

《ず、随分とエキセントリックな解法を思いつくわね……今のデータだけでは未知数としか言えないわ。

ただ、個人的にはかなり怪しいと見てる》

 

「理由は?」

 

恒常機能(ホメオスタシス)よ。体が同じ形・状態を保ち続けようとする機能。

データを見ると、変異体はそれが強烈に機能してるように見える。

だから損傷があっても瞬時に再生を行っている。

……仮にニューロンの状態を焼き付ける事が出来たとして、恒常機能(ホメオスタシス)がそれを無効化しに来る可能性は大いにあるわ。

いえ、もしかして細胞レベルでそれを制御するのは可能なのかしら? ……勾芒(こうぼう)?》

 

「細胞への増殖コントロール法に光明を見ているのなら、期待するなとしか言えんの。わらわも恒常機能(それ)については盲点じゃった。

いっそ脳みそ取り出した上で変異させ、しかる後に脳を戻した方がまだ可能性が……いや無いな。馬鹿を言った、忘れてくれ。

せめて恒常機能(ホメオスタシス)の中枢である視床下部を残せればあるいはと思ったが、普通に変異させるのと理屈は変わらんの」

 

「……そちらの話になるのであれば、俺は『オカルトで押し通せ』に一票だな」

 

 截全(せつぜん)が口を開く。

 

「万人に救いの手をと考えるお前たちの姿は素晴らしいが、彼らはそれを受けるに足るのか?

お前たちは今、自分を定義する事も出来ないような奴らの話をしているのだぞ?

蒙昧に堕ちるとなれば、それこそ自然淘汰と言う奴ではないのか」

 

「でもそれってさ。少し前の大哥(にいさん)みたいに、眉間にずっと皺を寄せて生きてくって事だと思うんだ。

それはきっと、とても凄くて尊敬するぐらい英雄的だけど……僕は、大哥(にいさん)には笑って生きて欲しい。

そして、この変異体はもしかして、笑えるようになった傍から意思が消えてってしまうように思える。それはなんだか……種としてとても寂しい話だよ」

 

「苦痛は、英雄を鍛えるものだ」

 

「うん。でもそうやってガンバった英雄には、苦痛の先で笑ってて欲しいよ。じゃなきゃそれじゃあ、ただのバットエンドだ」

 

 軒軒(けんけん)のそんな言葉に思う所があったのか、截全(せつぜん)はしばし瞑目した。

報われる事が種として許されなくなる……確かにそれは、最終的に破綻しか見えないように思えた。

 

「ねえこれ、つまり変異すると自分を忘れてしまうって事だよね?

……強い思い出とか、自分を形作るオリジンに関連する物品を用意するとかで、変異しても思い出せるようにするって方向は無理かな?

姉ちゃんの書いた『七想記』にそんな設定があったんだ」

 

 その手があったかと蚨蝶(ふちょう)が手を叩く。

 

《―― 符号化特定性原理!! 確かにそれなら可能性があるわ!!

だって実際、伏羲(ふくぎ)(せい)はそれで現状を保ってるような物だもの!!

そしてミもフタも無いけど、そう言う強いエピソード記憶を作らせるのも薬で行けるわ!!》

 

「……え、薬で行けるの? なんかすごいコワい技術だねそれ……」

 

 何人かが軒軒(けんけん)の言う『七想記』に興味を持って、如羿(じょげい)にその概要の出力を要求していた。

そのうち猫弈(みょうえき)や『九日百科』に辿り着かれるかもしれない。

 

「記憶の固着……確か、そんな心理学の論文が無かったか?

香りや音楽で記憶と感情を想起させるとかいう……

もしそうなら、ある意味女媧(じょか)の専門分野かもな」

 

「……わたくし?」

 

「雅楽は(ファン)氏の面目躍如だろう? 伏羲(ふくぎ)がこうなってからも、思い出の曲を二人で弾いたとか無かったのか?」

 

「あるわ。お兄様の七弦琴は、それはそれは繊細で見事な物だったのよ。

今ではとても不器用になってしまったけれど……それでもわたくしが笛を吹くと、拙い音でもお兄様が合わせてくれるの」

 

《普通に想起できてるじゃない。使えるわよ、これ》

 

「つまり何らかの『知性』と結びつくレクリエーションをやりつつ、特徴的な香りでその場を満たしつつ、音楽流しつつ、皆で薬をキメれば、変異後もラインぎりぎりで知性を保つ事は出来そうだと」

 

字面。並べるとちょっとヒド過ぎないか友よ。

何回かわたくしを中心にしたそう言うシーンに放り込まれたことがあるよ。

みんなわたくしを置いてけぼりにしてヤバい目をしながら踊ってるんだ」

 

「俺はたぶん、すごく直近でその光景を見た事がある。10年に1度パーティーやってる貴人殿の中がちょうどそんな感じだった。

特に中央あたりで腰振ってたヤツ」

 

ほっといて頂戴!!

 

 キメる薬の性格は正反対の筈なので、たぶん絵面的にはそんなに酷くならないのではないかと思う……いや、記憶や感覚の定着を促す薬になる訳だから、やっぱり見た目はひどいのか??

 

「―― ひとまず、変異体を最終セーフティとして考えた場合の方針は大体固められたのではないだろうか。どうしても実験は必要になるが……易公(せんせい)、他に懸念項はあるか?」

 

 易公(えきこう)はホログラフモニタに移った結論を眺めて、半ば呆然としながら答えた。

 

「……いいや、何もない。あるとしても実際に稼働した後の話になるだろう。

資源の使い方や被検体の問題のような。

……正直、否定されるだけで終わると思っていた。何かと理由を付けて破却されるだけだと」

 

 今まで、何回も十王会議を開いてきた。

しかし、ここまで纏まりがあり、かつ建設的な話が出来た例はあっただろうか。

 

 確かに難易度は高かった。不明な事だらけの天禍(てんか)に相対するにあたって、太陽人中の英知を集めてもどこから手を付けるべきか誰もが分かっていない状態だった。

だからこそ、自分が何とか引っ張ってきたのだ。

 

 ―― しかし、今日(こんにち)においてのこの一体感は何だ。

やっと、天道議会にあるべき姿が展開されたような、そんな気さえする。

 

「『敬意を払え』―― 合言葉だ。みんな気にしてくれている。

時間こそ掛かるが、とりあえず否定から入らずに深掘りをしていこう。それが出来る下地を整えてこの場に臨んだつもりだ」

 

「……これが、『和』か」

 

「そうだ。我々天道議会に足りていなかったモノだ。ずっと俺が、俺たちが軽視していたモノだ。

……俺は今、今までになかった手ごたえを感じている。

これなら……きっと、『納得』できる道を探す事が出来る」

 

 『分かり合えるまで話し合う』なんてキレイごとにしかならないかもしれないが。

羿(げい)はそれこそが、今必要な物なのだと信じた。

 

「……さて、変異体については良いな。ではそれを最終手段とした上で、別の方策を模索したい」

 

「そうだな。……しかし掘り進める草案くらいは出来ているのか?

例えば、肉体を捨てて電子の世界に引っ込むと言うのもこの期に及べばひとつの選択肢のように思えてきたが」

 

《私も倫理観排して一度考えてはみたけれど、その方向も結構課題が多そうよ。どうしても肉体は必要になる》

 

「……お主がその体で言うと説得力があるの。やはり、そこまで()()()か?」

 

《ええ、脳みそは肉体に乗ってるのが一番安定するって事らしいわね。少なくとも今の技術では永生炉(えいせいろ)ほど長続きはしないわ》

 

「つまり、永生炉(えいせいろ)の発展形が前提か。しかし……」

 

 軒軒(けんけん)に視線が集まる。

永生炉(えいせいろ)を発展させる……それがいったい何を意味するのか、軒軒(けんけん)にも理解できていた。

彼は口を結び、まっすぐに顔を上げた。

 

 羿(げい)が言う。

 

「いや、その……『和』で頼む。ほんとに。

お願いします。怒らないでください。

……いや言わせてもらうが、俺は絶対悪くない。ぜったい。絶対」

 

「……は?」

 

 猿人の処遇を絡めた永生炉(えいせいろ)の行く末が、議題に上がろうとしていると誰もが思っていた。

思っていたのだが。

羿(げい)はしどろもどろになりながら良く分からない事を口ばしる。

 

羿(げい)、おまえらしくない。いったい何だと言うのだ?」

 

 羿(げい)易公(えきこう)の声に視線をあっちこっちにやりながら、やがて観念した様に頭をガリガリ掻き、懐からひとつの薬酒壺を取り出して、皆の前にコトリと置いた。

 

 

 

「―― 天禍(てんか)、これで治っちゃった……」

 

 

 

 ―― 一行は後述する。

その時の羿(げい)は、まるで何かをやらかしてしゅんとなる子供のごとき様相であったと。

 

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