猫のあしあと   作:のーばでぃ

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劇物取扱説明書

 猫弈(みょうえき)の書は、彼女が選定された前後でその文体も内容も大きく変わっている。

考えてみれば当然で、選定後のそれは猫弈(みょうえき)()()()()()()()書いたものだ。だから主な内容は羿(げい)への呼びかけとか諸々の考察とか予言とか、そう言った物が多い。

 

 ではそれ以前の物はどうかと言うと。

 

 

 


 

 

 

猫弈(みょうえき)の書原文

癸丑年季夏乙未月丁酉日

 

 九日ってさ。可愛いとスケベが同居してると思うんだよね。

截全(せつぜん)とか常に『裸』ってイメージじゃん。筋肉もりもりを常に見せまくりたい系マッチョじゃん。つまりスケベ。

 

 でも上には上がいるんだ。

勾芒(こうぼう)。肩出してる。上乳出してる。激しく動いたら絶対乳がまろび出る。下履いてない。

下 履 い て な い !!

 

 なんなんだアレは?実はタイツなのか?下履いてないように見えるだけなのか??

でも下履いてないように見える時点でドスケべ同然だよな。誘ってるって思うよな。

しかもさ、猿人にも優しいんだよな。死んじゃった子にゾンビ処置施して「これでいつまでも一緒に居れるぞ」なんてもうプロポーズじゃん。しかもママって呼ばせてるし。

これもしかしたらワンチャンヤれるのでは??

 

 ()もエッチだ。エッチすぎる。

なんなのだあのけしからんレリーフは。大股開きで腕を後ろに回してる上に舌出してるんだぞ?

あれはもはや誘ってるどころの騒ぎではない。襲ってくださいと言う意思表示だ。つまりドスケべ。

 

 永遠の若さに頼んでさ、絶対に何人か咥えこんでるよなアレ。すばらしい。

しかも女装男子。狙っているとしか思えない。男に股開いてヨシ、女に差し込んでヨシだ。やっべえムラムラしてきた。

しかも戦ってる最中ですら股開くんだぜアレ。

 

 でもさ、やっぱ蚨蝶(ふちょう)だよね。

何と言ってもあの色気を帯びたふくよかな体ですよ。体がもうドスケべ。特に乳。あのペエに埋もれたいだけの人生だった。

 

 彼女が潜在的Mであるのは魂境(こんきょう)での振る舞いを見てもあきらか。叩いてとねだってくる。しかも平然として羿(げい)に混浴を勧めてくる。ホラー演出に隠れてるだけでアレはもう7~8割がたセックスなんですよ。合意とみてよろしいですね?

 

 しかもさ、考えてみたらMax7人分身だぜ?やべえよおっとりしながら搾り取ってくるよ。あの肉厚な体に溺れちまうよチクショウここが桃源郷か??

 

 そして羿(げい)。こいつも隠れスケベ。

低身長にゃんこがぴっちり黒ボディースーツに道服っておまえ、私らに新たな性癖を開拓させようと言う気概しか見えない。反省しろけしからんすばらしいもっとやれ。

 

 玉石メンテナンスでも顔色ひとつ使えずにグッと耐える彼は壁尻と触手拘束の才能が有ります。

蚨蝶(ふちょう)に誘われて温泉に入っちゃう彼は受け系ショタの才能があります。

ともすれば軒軒(けんけん)が選定されなかったら将来的に軒軒(けんけん)に襲われます。性的な意味で。

ってーか襲わせる。私が。軒軒(けんけん)x羿(げい)本描いて見せてもじもじな空気にさせた上で襲うように仕向ける。ありがとうございます!

 

 良いよね?もうゴールして良いよね?

そろそろ太陽でスケベ本描いちゃっても良いよね……?

だれで行こうかな。

 

 

 


 

 

 

 さながら頭の悪い同人誌の奥付である。

だれにも解読できない文字。知ってるゲームの中。魅力的なキャラクター。

何も書かないわけがなく。

最早性癖の開示とでも言わんばかりの爆弾がゴロゴロしている。

 

 『計画』が始まり、アンダークロック状態が解かれ、本格的に翻訳に処理速度を振れるようになった如羿(じょげい)は、当然この毒物とも言えそうな書に目を通すことになる。

 

《……ユニーク》

 

 ともすれば神農が喰う毒にカウントできるんじゃないかと思えるその劇物を見て、電脳の世界の中で如羿(じょげい)は一人呟くのである。

 

 ―― これは最早、コンピューターウイルスの類になっていないか?

 

 

 

@ @ @

 

 

 

 四季閣(しきかく)がセーフティゾーンとして稼働しはじめ、軒軒(けんけん)がそこに転がり込んできた。

羿(げい)としては最大の誤算になった訳だが、飛天玉座を強引に突破したから外には機械の衛兵が闊歩している。追い出すのはそのまま軒軒(けんけん)の死を意味していた。

 

 さらに、別れる気満々だったので色々放り出してきてしまっている。

祭りの事とか、破壊した飛天玉座とか、太陽人の事とか、この四季閣(しきかく)についても。

 

「……ウロチョロしないなら、しばらくここにいても良い。終わったら全部話すから」

 

 羿(げい)はそうやって、明日の自分に色々放り投げてお茶を濁した。

 

 

 

 そして羿(げい)新崑崙(しんこんろん)を駆けまわる。

軒軒(けんけん)に色々話すのに抵抗があったと言うのもあるが、実際ゆっくりしている暇はなかった。

九日が寝ている間に、やれることはやって置かないといけなかったのだ。

 

 自然と、軒軒(けんけん)如羿(じょげい)が会話する機会が増えた。

仮想空間の紅葉を眺めながら軒軒(けんけん)は口をとがらせる。

 

「……大哥(にいさん)はさ。僕の事避けてるのかなあ」

 

 祭りのあの時からこっち、目に見えて会話が少なくなってしまったのを嘆いてため息を付いた。

 

《私が口にして良いのかどうかはわかりませんが。

……あなたの事を想っていても、負い目があってどう接すれば良いのかわからないのでしょう》

 

「負い目?何があるっていうのさ。僕が干してた魚を、我慢できずに燻製にする前に食べちゃったこと?」

 

《そのお話は後で詳しく伺いましょう。

軒軒(けんけん)、あなたも気づいている筈です。

この世界はあなたが感じていた世界よりもっと、非情で無慈悲な物で出来ていた事に》

 

「……まあね。それに大哥(にいさん)が少なからず関わってるんだろうなって事ぐらいは。

……でもさ、大哥(にいさん)は僕には何もしないよ。僕だってそうだもの。

負い目だっていうなら、話してくれたって良いじゃないか」

 

《どうか羿(げい)様をお許し頂けますよう。

その言葉で括るには、この世界はあまりにも重すぎるのです》

 

「むぅー……」

 

《加えて……これはあなたのせいではありませんが、猫弈(みょうえき)の得体が知れなさ過ぎると言うのもあるかもしれません。

書から見る彼女は、明らかに知る筈のない、知り得ない筈の事を知り過ぎています》

 

「え、猫弈(みょうえき)姉ちゃんの書を解読できたの!?」

 

《文字の使い方があまりに違い過ぎるため、完全ではありませんが。書のいくつかの解読には成功しております》

 

「ええー、ずるい!?解読出来たら僕にも教えてって言ったのに!!」

 

《こちらも謝る事しかできず、申し訳ございません。

余りにも無遠慮かつ無作為に危険すぎる情報が散らばっていた為、見せるに見せれなかったのです。

例えばこの情報が太陽たちに漏れた場合、すぐさまここは危険地帯となり、私は破壊され、羿(げい)様は拷問の末殺されるでしょう。

第95……失礼、桃花村(とうかむら)についても、状況次第では鏖殺される可能性があります》

 

 さらっと出されたあまりにも酷い未来予想図に、軒軒(けんけん)は思わず絶句した。

 

「え……え。そんなにマズいの?」

 

 その書は今、猫弈(みょうえき)の家に無造作に積んである筈なのだが。

 

《非常にマズいです。その為、我々も取り扱い方にとても苦慮しております。

ともすれば、未来の事まで触れられているケースすら。

あなたが選定……いえ、『太陽の国へ行ける人間』に選ばれることを示唆している文さえありました》

 

「なにそれ……姉ちゃんは未来が見えてたってこと?僕の件で神託が下りたのって、姉ちゃんが旅立った1年後だよ?」

 

《我々もそれが知りたいのです。何故知り得る筈のない事を知っているのか。

超常の要素を加味しなければ説明が付きませんし、加味した上でも不可解な事が多すぎる。

……例えば猫弈(みょうえき)が我々の敵であった場合、すでに我々は()()()()()()筈なので逆説的にそれは無いとは思うのですが》

 

「なんだよそれ。確かに司祭様みたいに色んな事を知ってる姉ちゃんではあったけどさ。

基本的にその知識をほぼ自分の趣味に使うような人だよ?

イタズラだったらともかく、(はかりごと)なんてガラじゃないと思うんだ」

 

 日がな心のままに書を編んでいた猫弈(みょうえき)

後からそれを見返してニマニマしてるのも見たことがある。

時折挿絵付きの書を残したり、とても面白い冒険活劇を見せてくれたり。

 

 ……また、えちえちな絵を描いてエロガキやエロいおっさんに売ってたりする光景を思い出して軒軒(けんけん)は少し顔を赤くする。

猫弈(みょうえき)本人も息を荒げにしてた辺り、小遣いのためにイヤイヤ書いていたなどと言う推察は通らなかった。

と言うか、女のくせに自らの性癖を平然と口にする輩であった。

 

《今のところ、書から見える人物像もその域から出ておりません。きっと本当に()()なのでしょう。

しかしだからこそ、その知識が疑問過ぎる……》

 

「あんまり本気で考えない方が良いと思うなあ。姉ちゃん昔から適当だったし、何かツッコまれたら「いんだよそんなこまけえこたあ!」ですっごい雑に処理する人だったよ?

真面目に付き合うと大体損するんだ」

 

《……専門家からの諫言痛み入りますが、我々がその域に達するまでは今少し時間が掛かりそうですね……》

 

 

 


 

 

 

如羿(じょげい)の訳文

甲辰年季夏辛未月庚午日

 

 

 古木樹『扶桑(ふそう)』について。

 

 太陽人数千年間の発展を支え続けたエネルギー源にして永遠の象徴。

時には信仰の対象にすらなっているようだ。

 

 無理もない。持っている能力が反則過ぎる。

太陽の光を浴びる事で元能と呼ばれるエネルギーを生み出す特性を持ち、しかも寿命が見当たらない。

事実上の永久機関。

こんな物が古来からあるなら、それこそ神様と同一視したくなる気持ちもわかると言う物だ。

 

 この元能エネルギーを大量に貯蔵するために作られた塔があるが、扶桑(ふそう)からの出力の点に言及された覚えが無いのを鑑みるに、新崑崙に根付く扶桑(ふそう)一本だけで相当量のエネルギーを賄ってなお余る能力がある筈だ。

そうでなければ各施設の維持エネルギーの消費に追いつかず枯渇し、宇宙船の体すら保てなくなっている筈である。

 

 扶桑(ふそう)には葉っぱは『無い』で良いのか?そんな描写は無かった筈。

つまり緑葉体ではなくあの黒い幹全体で光を取り込んでエネルギーを励起していると言う事か。

 

 一般的な植物について、光励起する器官である『葉』が緑色なのは、実は励起し切れなかった波長の光が残っていて、それが結果的に『緑』に見えているだけと言う話ではなかったか。

ならばこれがすべての波長の光を吸収できる『黒』い幹であるならば、余すことなくエネルギーを励起できるのかもしれない。

出力の大きさも頷ける。

 

 ……このような植物、自然に発生しうるのだろうか?

例えば人の構造を語るとき、神の存在を肯定しないと説明がつかないほどの完全さが学者諸兄を悩ませていると言う話を聞いた事がある。

扶桑(ふそう)は特にそれを感じさせる。

 

 超常的な話になると、扶桑(ふそう)と共感できる者がおり、曰く「扶桑(ふそう)は結構おしゃべり」なのだそうだ。

扶桑(ふそう)を盲目的に信仰するのとは違う、貴重な意見だと思う。

しかも一部、未来を予言するような視座を見せている。

 

 人がその心臓の鼓動を制御する事が出来ないように、扶桑(ふそう)と言葉を交わせてもその制御には至らないだろうが。

一部にそういった視座を取り込むのは、考え方としても有効だったのではなかろうか。

扶桑(ふそう)に依存する文明であるなら特に。

 

 太陽はその理念に『道徳』とか入れて、11人目の太陽として(こう)を迎えるべきだったと思う。

それでなくても対人能力が凄いのだから、色々破綻したようなのが多い太陽の中で潤滑油的な働きを期待出来ていた。

ともすれば、天禍発生の経緯を想えば、あるいはその解決の鍵にすらなり得たかもしれないのに。

 

 

 


 

 

 

 例えば心境だけで人が死ぬとしたら、夸伏(こほ)の心臓はこの日だけでもう5~6回は爆発四散しているだろう。

彼はふくよかな体を撫でつつも、一気に体重が減った気さえ感じている。

 

 易公(えきこう)の手により親友であった羿(げい)が屠られ、そこから太陽として働きながらもコールドスリープを繰り返して500年。

ずっと悪夢を見続けていた。

 

 監視記録の映像の奥に見た、頭蓋を割られ脳を零れさせ、自らの(はらわた)と共に崖の下に倒れる親友の姿。

糾弾と共に天道議会を離れた羿(げい)を捕まえ、一度みんなで話し合うのだと信じていた夸伏(こほ)が目にしたその光景は、ショックなどと言うレベルでは追いつかない程に彼の心を抉った。

 

 親友と共に作り上げた『永生炉(えいせいろ)プロジェクト』。

その為に設計した蓄能施設を管理し続けるのは最早空しさしか沸いてこなかったが。

それでも自分は太陽なのだと、多くの太陽人の命が、責任が掛かっているのだからと、悪夢に取りつかれながらそれでも役目を果たし続けた。

 

 そして今日、死んだと思っていた親友が目の前に現れた。

偽物だからとけしかけた警備兵器『英招(えいしょう)』を超えて。

 

 

『―― お前はやつらの仲間だ。そうだろう?』

 

 

 羿(げい)はそう言って、夸伏(こほ)にその手を突き付けた。

 

 ―― 当時の太陽たちを、易公(えきこう)を止める事が出来なかった。

その後悔しかなかった夸伏(こほ)はその問いを「そうだな」と肯定し、その復讐の裁きを受け入れた。

……受け入れようとした。

 

 しかし羿(げい)夸伏(こほ)の想いを、立場を理解し、その矛を収めてくれたのだ。

だからこそ夸伏(こほ)は今度こそ、全力で羿(げい)を助ける道を選んだ。

それが例え天道議会の太陽たちと敵対する道であったとしても。

 

 そしてその後、自らも安全ではなくなった夸伏(こほ)が安全な場所を求め羿(げい)が拠点としている四季閣(しきかく)に移り、『新崑崙の鉄槌』たる技師としての力で彼をサポートしていく……予定だったのだが。

 

 そこに猿人がいたのである。

軒軒(けんけん)と言う猿人が。

 

 不潔で、凶暴で、嚙みつき引っかきに来る蛮族。

一度傷を付けられたら最後未知のウイルスに侵されて全身から血を噴出して死ぬ。

そういうイメージを持っていた猿人が、である。

生きた心地がしないどころの話ではなかった。

 

 ……が、この猿人ときたらなんか懐こいし好奇心旺盛でいろいろ聞いてくるし、色々調子が狂ってしまう。

ついには自分の事を「丸いおじさん」だなんて呼び始める。

なんと言うかもう、なんと言うかなのである。

 

 ……で、そうやって猿人に対するイメージが塗り替えられて行きどう接するべきか良く分からなくなってきた所に猫弈(みょうえき)の書(訳文)がドカンなのである。

 

 どういうリアクションを取れば良いのかすら解らなかった。

 

「あー……一応確認だが。

この書は間違いなく、猿人が編んだものなんだよな?

お前たちが精神解離起こしてて、実は自分で編んでましたとかいうオチでは無いんだよな?」

 

「新しい解釈だ。いっそ俺自身もそれを認めてしまいたいくらいだが、そうなると俺は未来を予言できる力も持った事になる」

 

「……お前がその種のジョーク言うの初めて聞いた気がするな」

 

「それだけ混乱している」

 

 そもそも、羿(げい)の妹である(こう)の存在を知っている者が何人いるか。

普通に考えたらその者たちを候補者として絞り込んでいくところなのだが、それでも説明がつかない事だらけなのだと言う。

 

 夸伏(こほ)は頭痛を軽減させるべく、自らのこめかみを揉んだ。

 

「……素直な感想を述べるならばよ。

視点としては普通に面白い。会って話してみたいと思うぐらいにはな。

特にこの11人目の太陽構想は俺も大歓迎だ」

 

「ふざけるなおい」

 

「いやだってよ……お前も思うだろ?太陽達がもうちょっとマトモにやり取り出来てれば、実はもうちょっとマシになってた所が随分あったんじゃないかって。

正直普通に話が通じてたの、お前と蚨蝶(ふちょう)くらいの印象だぞ」

 

「む……」

 

「……『道徳』か。確かに天道議会に足りなかった理念かもなあ。

特に『徳』の部分が足りなかったよ、全員」

 

「しみじみ言うな……」

 

 まったくもってその通りだと思ってしまっているので、羿(げい)の口調も弱って行くばかりである。

 

「考えてもどうしようもないんじゃ、考えてもどうしようもないだろ。

素直に翻訳を進めるしかないんじゃねえか。

俺も中身にはちょっと興味が出てきた。

……特に、この『天禍発生の経緯』の部分だ。(こう)扶桑(ふそう)とお話しできたって所も大いに興味あるけどよ」

 

「……結局、手のひらで踊り続けるような気持ち悪さだけが残るのがな」

 

「悪いようにはならないんじゃない?」

 

 振り返ると、頭の後ろで手を組みながら軒軒(けんけん)がのほほんとしていた。

 

「だって、猫弈(みょうえき)姉ちゃんだもの」

 

「本当にどういう女だったんだよそいつは」

 

 解読が進むごとに気疲れがどんどん溜まっていく。

それをスルー出来るようになるスキルを身につけるには、今しばらく経験値の蓄積が必要なようだ。

 

 すでにその境地に達した軒軒(けんけん)が、新参である筈の夸伏(こほ)に見せている訳文の内容を強請るまであと3秒 ――

 

 

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