どこか懐かしく、それでいて荘厳なメロディー。
この特徴的な、僅かに振るわせるかのような運指や吹き方は
染み入るように瞑目して、
いや、
「―― どう? 結構うまくなってきたと思うんだ!」
演奏を終えた
「とても素敵だったよ
歳を取ると、どうも涙腺が弱ってしまうね」
「……未だに信じられないんだよなぁ、
《私は太陽である
「あはは、なんか喋ってみるととても近く感じちゃってさ。
遠くて良く解らないから、なんとなくみんな線を引いて『太陽様』って呼んでたけど。
実際にお喋りしてみると、
あまりに純粋で毒気のないその言葉に、
《―― しかし、とても懐かしいメロディーでした。
まるであの方が戻って来たかのようだ……》
「
しんみりと肯定する
「
「ああ、お前は知らないよな。相棒の妹さ。ふんわりした穏やかな子でさ、たまに研究室に遊びに来てくれてたんだ。刺々しい相棒とは正反対で、そりゃあもうみんなのアイドルだったんだ」
「へえ、
「……俺が喋ったなんて言わないでくれよ。相棒はきっと、家族や昔の事は喋りたがらないと思う……結局、喧嘩別れして離別した筈だったから。
俺は未だにそれが心残りで仕方ねえ。例え、それを口にしたら「人の事情に口を出すな」と突っ返えされるのがわかってたとしてもなぁ……」
俯く
……そう言えば、この笛もこの曲を吹くと言う話になった時、
この笛を手渡してくれた時の
「しかし不思議だね。その子はこの曲を知っていたのか。もうずいぶん前に失伝して、わたくしの持つ楽譜の形でしか残っていないと思っていた。存在すらも忘れられて久しいと。
何らかの、わたくしの知らない形で細々と受け継がれてきたのなら、これほど嬉しい事はないけれど……」
しかし永い時を経てみんなの記憶からも泡のように溶けて行った物事を多く知る
「――
「
よもや古木樹が、人の吹く笛の音を覚えていて、はるか未来に伝えたなどと。
@ @ @
「くそ……なんなんだアレは! あんなモノが進化の行く末だと……!?」
古木樹ノードから出て来た
怪我を無理やり丹薬で直したのか、所々に乾いた血がこびり付いている。
その姿を見て真っ先に
噛みつくように声を張り上げる。
「
当然、
「……落ち着いてほしい、友よ。一刻一秒ほどの猶予すらままならないと言うならともかく、説明する時間も取れないかい?」
「お前はアレを知っていたんじゃないのか!?!?」
普段は努めて冷静さを保っている
しかし、絶句しながら
頭を振った。
「天人エリアはもう駄目だ。居住区の水が汚染され、変異した不死身の化け物が徘徊している。
『見ると聞くでは大違い』の典型だ……!
今は休眠期だから全滅までまだ至っていないが、皆が起き出したら大変な事になる!!」
そう言って、
……普段なら
さもあらん。
そこに映し出されていたのは、本来美しい景観をしていたと思わせる、趣のあるデザインの施設が広がった場所に、そこかしこにへばりつく彩度の高いピンク色の肉片。
そこから突き出る骨のような長く鋭利な棘。
その肉片に寄生されたのか、蠢くそれを張り付けながら、もはや面影しか残っておらずに徘徊するバケモノの姿。
余りの臨場感のある映像に
呆然と呟く。
「なんだこりゃあ……この気色悪い腫瘍、まさか
いや待て、まさか天人エリア全体がこんな有様なのか!?
「俺が知るか……! 奴らには会っていないし、そもそも何か対策が動いているようには全く見えなかった。ならば、
「なんてこった……!」
夸伏はもはや、瞠目して映像を見つめる事しか出来ない。
「……
不老不死の体を経て、太陽人の文明を永遠の物とする事を目指していたと。
実物に興味はなかったし、
なるほど、『見ると占うとでは大違い』という事か。
わたくしの体をどうにかしたら、あんな悍ましいものが生まれてしまうのか……?
わたくしはいったい何だと言うんだ……?」
「ね、ねえ……これ、太陽様の国なんだよね? それがこんなになってるなら……父さんと母さんは?
「……」
震えながら問う
沈黙の後、最初に声を出せたのは
「……水を止めるのを手伝うのは構わない。ただ、通天塔から続くライフラインは
彼女なら水の浄化システムについても何か知っているかもしれない」
その内容に、苦々しい顔をしながら
「……。じゃあ、
「わかっているだろう? 友よ。
おそらく通天塔と水・酸素生成エリア双方の操作が必要になる。
その時、飛べる私は通天塔にいるべきだという事くらいは。
……それにこれは、一つの区切りとするべきじゃないのかな。君に課せられた試練なのだと、わたくしは思うよ」
「……それも占いか?」
「いいや。こっちに来てから、わたくしは努めて
わたくしにとってそれは少し難しい事でもあるのだけれど。それでも君に運命を壊されてから、いつまで続くか解らなくとも、『選ぼう』と努力はしているつもりだよ。
―― 友よ。だからこそ君にも、向き合って欲しいとわたくしは思っている」
白濁した双眸を開き、
まるで大人に怒られる子供のように視線を漂わせる
「……わかった。やってみよう」
運命なんてものはなく、人生は自分で選択するもの。
そしてこれは、間違いなく自分の選択によって現れたものだ。
ならばそこから顔を背けようとするのは、自分で否定するのも同じだったが故に。
@ @ @
―― 姉ちゃん、僕ら向けに色々書いてくれる事もあるんだけどさ。
短編の冒険活劇が一番好きかな。登場人物がすごく生き生きしているんだ!
正直、僕が書いてる武侠小説にもそういう所参考にしてたりするよ。
コツがあってさ。簡単な事で良いんだ。
『敬意を払え』
それだけだって言ってた。
―― あのね、出てくる人たちにもちゃんと人生があって、思いがあって、葛藤の果てに今に至ってるんだ。英雄も、悪役も、皆そう。
だから安易に出して安易に動かすと、すっごいぺらっぺらになっちゃうの。
あるいは設定や性格がしっちゃかめっちゃかになって、矛盾だらけの人間が出来上がっちゃう。
だからどういう人生を送って来たのか、この人のすごい所はどこか、苦手なものは何か、ちょっと考えるようになったらすっごい自然に息付いてくれるようになったんだよ!
……まあそのせいで思い通りに動いてくれない所もあるんだけどね。
これ、人間相手もそうなんだって。
相手を自分より下に見てたらいい関係なんて作れる訳が無いし、相手の言い分をすべて否定してたらより悪い結果に転がって行く。
聞く事、認める事、興味を持つこと。すべて『敬意』から始まるんだって。
そして敬意を払えるからこそ、人は成長し、発展してく事が出来るようになるんだって。
その人が言ってることが本当だとしたら、どうなるんだろう。自分はどうするんだろう。世の中はどこに向かうんだろう。
嘘だとしたら、そういう理由は何だろう。自分はどうするんだろう。そんな深掘りも考えていくと楽しいよ。
だから『敬意を払え』って言うのは、人間として、とっても大事な事なんだって。
……でも、コッショリ僕と太陽様がエッチいことする話を書くのには敬意持てないかな……深掘りしたらヒドイ事になりそうで。
―― 今思い返してみたら、アレもしかして相手は
@ @ @
その時の話で案の定、
思えば
非科学的。スピリチュアルに傾いてて将来心配。そう言った思いしか持っていなかったのではないか。
両親に対してだってそうだった。
両親はともかく、
……なるほど、より悪い結果に転がって行った果ての今か。
もはや自嘲的な苦笑しか出てこない。
自分を閉じ込める檻を見つめながら、ならば『敬意』を持っていたらどうなっていたのだろうと今更ながら考えて、いやいや今はそれどころではないかと頭を振ってその思考を散らした。
対して目的の人物は、そんな『敬意』などまったく持っていないような目で
食料、酸素、水……新
ここに
……そして下履いていない、とも。
毛に覆われ肌は見えないのでいやらしさは見えないのだが、まあそれも見る人間によりけりと言う所である。
膝から下は鳥の足の様な義足が嵌められ、その義足には振り鐘が握られていた。
「どうしてこんな罠にかかったのじゃ? まったく目からうろこじゃ」
「遠くから気づいていた」
ぶっきらぼうに
「ふん、相変わらずの減らず口を叩きおって。
一人でわらわの領地で暴れまわるとは、その勇気を誉めるべきか、その愚かさを笑うべきか。
やっと死から蘇ったのではないか?
わらわの耕地に侵入してきた以上、長生きは出来ぬものと思うがよい」
「……ずいぶん簡単に『蘇った』と口にするんだな。俺が生きていたのに気付いていたのなら、なぜ殺しに来なかった?」
「貴様の事情や生きていた経緯など知った事か。羽虫と同じじゃ。害が出て来たなら駆除するのみよ……このようにな。
―― 畜生ども、時間じゃ。起きて働け!」
ちりんちりんと、それでいてどこか電子的な色を持たせながら、高い金属色が響き渡る。
すると壁に配置されていた二つの箱の前面が倒れ、中から猿人が飛び出してきた。
一方は小柄で、もう一方は大柄だった。
顔色は死んだように土気色で、
掠れたような死臭の漂う声で呟く。
《マ……ママ……》
《ママ……暗いよ……怖いよ……》
「キョンシー兵……?こんなもの、数百年前に廃止されたんじゃ……
猿人まで改造したのか?」
「使えるものは最大限使う。何が悪い?
死後もわらわに仕えられるのじゃ。例外的な施しとも言えよう。
目が覚めた時にシステムからの報告を見たが、貴様は猿人牧場の収穫設備を破壊したようじゃな?
この生物たちは命令を理解できるし、飼いならせば確かに可愛いものじゃ。
だがペットにせよ、家畜にせよ、結局はわらわたちの道具よ……
長時間檻の中にいたせいで、貴様も自分を畜生だと思うようになったのか?」
嘲る様に笑う
「……確かに。俺が変節したのも、俺が言うのが筋違いなのも認めよう」
「……む?」
それは自分の知る
「先ほど、お前は言ったな。どうしてこんな罠にかかったんだと。
―― お前に会う為だ。衛兵をガラクタにしても出てこなかったのでな。
いかにもな罠を見つけて掛かってみたらやっと出て来た」
「ほう、そんなにわらわに殺されたかったのか。ドブ臭い痩せぎすのネズミもどきが殊勝なマネをするではないか」
「目覚めたときにシステムからの報告を見たとも言ったな。見たのは俺の行動だけか?
天人エリアで今何が起こっているのか、水がどうなっているかも把握しているか?」
「……なに?」
話が変な方向に向かい始める。
確かに、起き抜けにシステムが報告してきた内容は頭を抱えるような物だった。
あちこちの維持システムがアラートを出しまくっていたのだ。
管理維持を務める
「……把握しておるわ。
これより対応に動かなければならぬ」
「ならば最優先で通天塔の水供給を止めろ。水が汚染されて、今天人エリアは化け物の巣窟になっている」
「は?」
そして
太陽人の面影を残す者たちのあちこちをピンク色の腫瘍が覆い、骨を突き出しながら徘徊するその様はあまりにもショッキング過ぎた。
「
いや、貴様の仕業か
「当然違う。俺が下手人であったなら、このことには触れずお前と戦っただろう。
……そして疑うなら疑うで構わないから、早急に対処しろ。
このまま汚染水を供給し続けたら新
「わらわに指図するなっ!! クソッ……どうして、どうしてこうなる!?
「……水を止めるにはどうする?」
「たわけものッッ!! 流れがあるからまだ汚染が逆流してきてないのじゃ!! この状況で水など止めたら状況が悪化するぞ!?
……下水側の浄化システムは正常に動いておるはずじゃ。さもなければ最早ここは地獄と化しておる筈だからの。この分ではいずれ下水側の浄化システムが飽和する危険があるが……
……発生源は間違いなく『水』なのか? 何を以てそう判断した?」
「通天塔に登った。その途中で上層エリアのパネルが汚染アラートを出しているのを見た。
システムは水源の汚染を警告していて、水の供給を停止する事を提案していた。
……そして通天塔を流れる水が、ピンク色に染まっているのを見た」
「チッ……ならば優先すべきはその汚染源の特定・排除と浄化システムの設定変更じゃ。
わらわの作ったシステムではこういう時に対応できるよう、どこかのブロックが汚染されても水圧と浄化槽の経由ルートを変える事で水を止めずともメンテナンスが出来るようになっておる。
しかしそれは常時でも同じこと。それが解決できずにシステムがアラートを出しているとなれば、おそらくまだ汚染源が生きておる! 貴様はそれを排除せい」
「……それで汚染水を何とか出来るのか? 水路の洗浄もせずに?」
「汚染源さえなくなれば、汚染体も浄水に流されやがて希釈される。そういうコンセプトじゃ。
……そしてその汚染源は
苛立ったその声に、
「……知らないが。おそらく、もう全滅している」
「は? ……
「話せば長い。今はこちらを優先したい。
通天塔に
「は、
……クソッ、本当に、本当にいったい何が起きているというのじゃ!?!?
ええいお前達、ぼさっとしてないで早く檻を開けてやれ!!
下水側の浄化システムが飽和するまでが勝負じゃ!! 通天塔に
クソッ、クソッ、クソッ、クソッ、本当に……ッッ!! わらわは起き抜けなのじゃぞ!?!?」
盛大にイライラしながら、
……そして。
それを見送りつつ残されたのは、キョンシー二人と檻に閉じ込められた
『檻を開けてやれ』と命令されたキョンシー二人が、がっちりと閉じられた檻を見てオロオロとしている。
「おい。おいお前らまさか……開け方わからないのか?」
そしてしばらく檻をつつきつつ、ああでもないこうでもないとオロオロしていると、やがて二人は互いに顔を見合わせ頷きあった。
―― そしてその両の腕を振り被る。
ガンッ!!ガンッ!!ガンッ!!
元が人間であるとは思えないほどの膂力で矢鱈めったらと檻を叩きまくった。
流石戦闘兵器として開発されたキョンシー兵の流れを汲むもの。
見る見るうちに檻がひしゃげて歪んでいく。
さすがの
「おいおいおいおいちょっと待て、この檻はエレベーター構造なんだぞ下が下層に繋がってるんだ!! そんな真似したら落ちるだろうが!? そういう事するならせめてこじ開けて……あ、ちょっ!?
ああああああああああああ ――― ッッッ!?!?!?」
そしてひしゃげた檻はその負荷に耐えきれず、
―― 下層に落ちて行った檻を見送ると、二人はやり遂げたようにさわやかに頷きあい、次なる命令を聞く為にその場を去って行った。
この後、下水側の浄化層に行く前に下層を彷徨う羽目になり、道中
もうヤケ酒してやる!! ……でもそのお酒、