「……
洗いざらい話せと言ったは良いが、初めに出てきた情報がアホらし過ぎて、
「……信じなくていい。俺も半ば似たようなものだ。だからそれを確認する為にも動いている」
「ふん、どうだか。自らを追い落とした天道議会を見下ろしたくてうずうずしているのであろう?」
「見下ろしたくて……? そう見えるのか、俺は。
どうだろうな。考えた事は無かったが……俺を認めてくれた
まただ。
コイツはもう少し、唯我独尊な奴だった筈だ。
人の意見は切って捨てて、正論で殴り続けるタイプの人間。
間違いも過ちもそれなりに認めはするが、その頻度が少ないために結局鼻に付く奴になる、そんな印象だった。
少なくとも、自分の意見とは違う事柄に介して肯定しつつ考える、そんな殊勝な奴では無かった筈である。
……と言うか。
「仇だと?
「……」
まるで、何かを見定めるように。
「な……なんじゃ、一体。さっきからお主妙に気持ち悪いぞ」
「
ぽつりと呟く様に口を開く。
「
俺は、知ったからこそ反発した。
あの時、あそこにいたのは俺一人だけだったから、俺はみんな知っていたのだと思っていた。
だから
「待て、一体何の話じゃ」
「俺の仇の話だ。
父さんも、母さんも……天禍と言う災いを生み出して」
まさしくそれは核心だった。
ポカンとしながら
「……節穴か貴様?
なのに
「故意ではなく、事故だったのだろうなと考えている。だからこそその責任を負うために、必死になって天禍の治療法を探している……そう考えると辻褄が合うが、裏取りがまだ途中だ。
だが、そこにさらなる無視できない情報が追加された。
……
天人エリアに蔓延っている化け物だ。不老不死にして、理性を持たずに彷徨う太陽人の成れの果て。斬っても呪符で破壊してもやがて再生し、再び襲い掛かってくる。
そんな化け物の不死性を指して、これこそが太陽人の進化の形だと……
……ありうるかもしれない、と心のどこかで微かに思ってしまった部分がある。
500余年前。
だからこそ新
繊細な農業には、繊細な判断が必要である。それはあらゆる状況に対応できるエキスパートだ。
それをAIが担う前提でシステムを構築していたのに、今更そこらの非技術者に管理を任せるなどと。
だからこそ起き抜けに起こっていたあれやこれやについては、きっと蒙昧な
例えば。高度なAIを乗せる事で、ログの中に不審な点を残す事を恐れたとしたら。
例えば。高度なAIを乗せる事で、対応しきれない事柄に対応されることを嫌ったとしたら。
……小さく首を振る。
「……それも、未確定情報か。情報源は?」
「悪いが話せない」
「……ふざけておるのか貴様」
「ふざけていない。話した場合、お前がどういう行動に出るかある程度の予想がつくからだ。
そして俺としては、出来るならそれは可能な限り引き伸ばしたい」
「なんじゃと……?」
やはり、
以前の
「―― 何より、結局不確定情報だ。確認した情報であれば極力提供しよう。
俺としてはそれで納得してくれとしか言えないし、それで通るとも思っている」
「なぜ?」
「お前は
「チッ……的を射ておるのが忌々しい。手伝わせるつもりであったが、体よく逃げおるか。
……いや待て、おぬし
「任期を終えた
―― 太陽は、嘘をついていたのだと」
「
拡充のために
ゆえに、彼らを権力の方面からどうこうできるとしたら、それは太陽以外にあり得ないのだ。
「では、確定情報としてシロと解っているのは?」
「
そして今、そのシロにお前も入れた。そう判断して良いと思ってる」
「……フン。本当に、忌々しい……!」
思考を回した。とりあえず今の発言は信用してやるとしてだ。
残る太陽は
となれば、残ったのは結局 ――
……舌打ちをしながら顔を上げる。
「―― クソッ。
「いや、俺は……」
「いいや逃がさん。無効化されているオートメーション機能を復活させる。
整備ロボットの用意とまでは言わん。しかし、無効化した設定を復活させるぐらいは手伝って貰うぞ。このままではライフラインが緩やかに止まってしまう。
―― その後は、どこへなりとも好きにするが良い」
決まりだ、とばかりに
(
なんだったら、たった今それが倍したとすら言っても良い。
食糧庫や水・酸素生成施設。浄化槽に大農場。
どれもこれも、メンテナンスには高度な技術が必要な物ばかりだ。
だからこそ、休眠前には
―― そして、結局連絡は付かなかったのである。ただの一人も。
(そんな筈、あろうものか……!)
なぜなら彼らは、覚えは悪く、才能は無く、理解するまでに時を要したが。
―― 素直で、
@ @ @
特異体質の極みを語るなら、疑心暗鬼の
あらゆる毒を取り込んで、その臓腑を以て薬酒に醸し、そして吐き出せる特殊体質。
こんな突然変異が生まれてたまるか。少なくとも、神農の体質と生物学を僅かにでも知っている人間から見れば、そんな感想しか出てこない。
そもそも、定期的に毒物を摂取しないといけない病ってどういう事だ。
少なくともコイツが今飲んでる
満足そうにゲップしながら言ってのける。
「中々刺激的な味だ。ピリピリとした後味が心地よい……
しかしなんだ、あそこにはこんな便利な水が大量に流れていたのか。
これならあいつに助けて貰う必要なんか無かったな……不覚を取った」
「控えめに言ってドン引きだよ君」
「ちょっと近くでゲップしないで貰えるか。息吸っただけで死ぬ気がするんだ。
いや差別だの隔意だの別にしてガチな意味で」
そんな二人を見て、いつもの事だと言わんばかりに
「フン。化け物が化け物呼ばわりしやがるか」
彼我の認識の差は激しかった。
「……わたくしも数世紀どころでは無い年月を生きてきた中で、結構そう言われた事はあったけれど。流石に君以上は見た事がないよ。
君は
「
「好き勝手言いやがる。俺だってな、お前らみたいに顔まで毛むくじゃらの人間なんて初めて見たんだ。つまり、お前たちが物を知らないだけだ」
「いやそれ単純に種族が違うだけ……」
彼に理解と自覚を促すには、もうしばし時間が掛かるようである。
ほぼ
そういう取引だ。
―― 彼は、
「……お前たちは飲まないのか?」
「「いや、遠慮しておく」」
即答されるその言葉に少し違和感を覚えたものの、酒の回った脳みそでは「まあいいか」と言う答えしか出せず、
労働の後の酒は、いつの時代も格別であると相場が決まっているのである。
@ @ @
太陽・
農業工学、生物学、遺伝子工学と言う分野では太陽随一と言って良いだろう。
さらに機械工学の分野においても一定の知見を見せる。
彼女は羽民と言う王国の出身だ。
この国は土地が貧相で険しく、気温も比較的低い。そしてそれ故に遺伝子工学が突出しているという特異な国であった。
険しい土地の行き来を楽にするために鳥の遺伝子を植え付け、痩せた土地で食べていくために遺伝子組み換え農品で生産性を上げる。そんな事が常態化している国である。
ちょっとした整形感覚で遺伝子改造を行ったりする……は、さすがに言い過ぎかもしれないが。そこまで珍しい事でもないらしかった。
そこから
学んだ知識をフルに使って、安全で効率的な農産物の飛躍的な増産と質の向上、さらに目玉蓮根をはじめとする新種の創生に成功したのだ。
……この事から、
しかしそうなっていない。
考えられる理由は二つ。
あるいは
―― 彼女は既に、
となれば……
(……状況を集めて行くと、だんだん
……気に入らないな)
内心舌打ちをしながらも、
(と言っても元より危ない生物や設備はあるが)
目的は、農業施設より隣接する天道研究センターだった。
@ @ @
「人の体は細胞で出来ておる。細胞の中にはDNAと呼ばれる細胞の設計図が入っており、細胞は分裂するときにその設計図を分裂先にもコピーする。
このDNAはいうなれば、人体の全ての設計が記された分厚い本じゃ。
細胞はその中の1ページの役割を与えられ、そのページにある設計図の通りに自ら分裂を行う。基本的に分裂先……もう子でよいな。基本的に子も親と全く同じ役割を担いながらその一生を終える。
ならば受け渡す設計図は分厚い本ではなく、一生を担うページの分だけで良さそうに思えるであろうが ――」
「―― 状況によって、他のページを代行する事がある」
「その通りじゃ。もっとも、皮膚に使われる細胞が内臓の役割を与えられてもうまく行かぬように、細胞によって代行できる得手不得手はあるがな。
理屈的には細胞ひとつのDNAさえあれば、細胞に分裂を促して全身を再生する事は可能なのじゃ。
その得手不得手と細胞に出す指令の部分を技術的にどうするか、と言う課題はあるがな」
「……なにが言いたい? 太陽人の健康体クローンを作り、脳を移植する事で天禍を克服すると言う話か? 確かお前はその課題をクリアしていた筈だ……実用はされていないが。
確か論文では、蒼砂*2と組み合わせ発展させた技術だった筈……」
「なんじゃ知っておったのか。……まあ、そのプランも考えてはおった。脳移植の段階で天禍も運ばれる可能性が高く、徒労に終わる可能性が強かった故ボツになったがの。
あるいは電気的なアプローチで脳のコピーを取り
―― 話がそれた。
天禍変異体じゃが、大規模な破壊を受けてなおあの速度で再生するところを見るに、全身が万能細胞で作られている可能性がある。
皮膚にいた細胞が内臓の役割を兼任できる、先の課題を独自に超越した細胞という事じゃな。世が世なら夢の細胞と騒がれておったろう。
……それでも説明がつかぬ部分はあるが、今更じゃな」
「全身が万能細胞だと、どうなる?」
「わからんか?
体からいきなり骨や手が生えるかもしれぬ。背中に目が出来るかもしれぬ。皮膚から消化液を出すかもしれぬ。逆に、ただの太陽人にしか見えぬ様相でいるかもしれぬ。
どういう性質を持っているか、まったくもって未知数になるんじゃ」
「……あの化け物が、あり得ない事をして来る事がありうる、という訳だな」
「そして、それゆえに。あくまで細胞のみに視点を向けるのであれば……太陽人の進化の形と言えるほどのポテンシャルは確かにあると言うのがわらわの見解じゃ」
「……理性を保ったまま変異体の細胞に挿げ替える事が出来れば、天禍も死も克服できる……?」
「
解釈は好きにするが良い。だが……最終的にどうしたいかだけは決めておけ。
言っておくが、わらわはもう、今のこのシステム以外に動く気はないぞ。相当な理由が無ければな」
「……感謝する」
「貴様……やはり貴様、気持ち悪いぞ。実はもう天禍が脳に回っておらんか?」
「お前、人が一生懸命努力しようとしてるって言うのに、お前……!?」
@ @ @
――
そもそも
果たして
それとも起死回生の一手として、変異体にわずかな光明を見たのか。
それはこれからわかる。
しかし不安もあった。
「どうしたいのかは決めておけ」――