猫のあしあと   作:のーばでぃ

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天禍血清

猫弈(みょうえき)の書原文

甲辰年季夏辛未月壬辰日

 

 

 天禍(てんか)とその変異体について、ちょっとガチで考察してみる。

まずはうろ覚えの情報も含めて並べてみよう。

 

天禍(てんか)について

1. ウィルス性の病

2. 感染すると体に腫瘍ができ、そして死に至る

3. 死亡するとその死体には白い花が咲き、道果と言う果実を実らせる

4. 死亡率100%

5. 感染ルートは判明していない

6. 扶桑(ふそう)の研究の過程で発生

 

変異体について

A. 天禍(てんか)血清と言う変異を促す薬剤によって発現

B. 水の汚染により天人エリアで蔓延したことから、感染性も認める

C. 投与されると8割は死に、2割が変異する(数字はうろ覚え)

D. 変異すると爪や突起、巨大な腫瘍と言った外観の著しい変化が起き、意識が無くなり、生物に対して襲い掛かる

F. 破壊してもすぐ再生し、事実上の不老不死となる

G. 天禍(てんか)()の研究の過程で発生

H. 解析自体は可能らしく、夸伏(こほ)の変異体破壊王で殺害できる

 

 1のウィルス性についてなんだけど、ずっと違和感を持っていた。

これ、実は誤訳による勘違いとかじゃないか? 少なくともウィルスでは無いと思う。

人に寄生し、死んだ場所に花を咲かせ果実を成す。この現象は明らかに寄生系植物のそれだ。

冬虫夏草のようなカビ・細菌によるものと言われた方が納得できる。

 

 扶桑(ふそう)を研究して偶然生み出された。

しかしその性質は寄生系植物……となれば、天禍(てんか)扶桑(ふそう)に寄生していた微生物が変化した物と言う線は考えられないだろうか。

そして寄生先を太陽人にも求めた。

結構つじつまが合う気がする。

 

 感染ルートが不明と言うのも実はヒントになっている気がする。

空気感染、飛沫感染、接触感染、考えられるルートは全部洗ったのだろう。

隔離だって試しただろう。

しかしそれでもルートを断定する事が出来ず、隔離にも失敗した。

 

 ゆえに、ピンと来たものがある。

天禍(てんか)扶桑(ふそう)に寄生していた物が由来であるならば、その感染ルートは扶桑(ふそう)の元能エネルギーなんじゃないか?

 

 太陽人は古来より扶桑(ふそう)に支えられながら生きてきた。そしてそれは現代に置いても例外じゃない。彼らは扶桑(ふそう)が無ければ生きていけないのだ。

故にこそ、隔離しても扶桑(ふそう)のエネルギーは使っていた筈だ。

 

 確か、扶桑(ふそう)の汁だか果実だかを使って火を起こすとかエネルギーを得るみたいな話があった気がする。

元能エネルギーをどう運搬しているかにも掛かっているが、あるいはそれが電気的な輸送手段であったとして、天禍(てんか)は導線の先に自分自身を作れるような特異な能力を持っているのかもしれない。

扶桑(ふそう)に寄生して生息範囲を広げていたのならなおさらに。

 

 もしこれらの推測が当たっていた場合、寄生体から見て太陽人は同じく扶桑(ふそう)のエネルギーを使う兄弟のようなもの。

親和性は随分高かったと思われる。太陽人特攻と言う意味で。

死体に花を咲かせるのがせいぜいだった天禍(てんか)が、変異体として太陽人を操るまでに至っている状況も、この考えに拍車をかけている気がする。

 

 ならば対策についてどうアプローチするべきか。

 

 可能性があるとしたら、変異元である寄生体の天敵や性質を探る事。

そこから特効薬を作れるかもしれない。

 

 あるいは、扶桑(ふそう)のエネルギーを直接取り込めるような何かを考える。まあこちらは無理くさいような気もするが、寄生体が求めるのが扶桑(ふそう)のエネルギーであるなら、そのアプローチで共生する方向に倒せるかもしれない。

 

 あるいは全員で生涯引きこもる覚悟で魂境へ引っ込み、AIに維持と研究を任せる方針もアリなのではと思う。

 

 ()天禍(てんか)の影響を受けなかった点も着目したい。

感染自体していないのか、単に発症してないのかは気になるところだ。

寿命が意味をなさない……例えば癌細胞のように無限に細胞分裂する体質だとしたら、これは扶桑(ふそう)のそれを思わせる。

もしかしたら共生の方向に倒れているのかも。

変異体と言う形になった理由もそこに見出せるかもしれない。

 

 色々書いたが、易公(えきこう)はきっと私よりも何倍も頭が良いのだから、こんな考えとっくに至っているように思う。結局私のは外部から見た考察止まりだもの。

至っているからこそ絶望して、変異体に希望を求めたのかもしれない。

 

 ところでこれ、ウィルス性では無いのだとしたら。

実は神農(しんのう)パワーで何とかなったりしないか?

道果食わせたらワンチャンあるかも。毒判定になるかどうかは微妙だけど。

 

 そうなるとなんだ? みんなして神農(しんのう)を取り合いする事になるのか?

太陽人老若男女問わず、こぞって神農(しんのう)の口に含んだ液体を求める訳か。

 

 これは、(ヘキ)からだいぶんズレてはいるのだけど、何と言うか、何と言うかこう……

 

 ……おもしろいかもしれない。

 

 

 


 

 

 

 ()が訳文を見て口を開いた。

 

「……思ったのだけれど。猫弈(みょうえき)の書は時間の関係からコピーされていない物もあるのだろう? 一度すべてコピーして、翻訳に掛けた方が良いのではないだろうか。

今の段階でこれが新しく出てくるのは辛いと思うよ。例えばこれは、易公(えきこう)に渡してあげたい内容だ」

 

「元能エネルギー感染……!? 確かに盲点だった!!

盲点だったが……あり得るのか? いや、例えばワープ技術に類する力を天禍(てんか)が持っていたとするなら……必要な元能エネルギーは導線内にある訳だから……」

 

 猫弈(みょうえき)の書が猫弈(みょうえき)している所はだんだんスルー出来るスキルが着々と付いて行っている四季閣(しきかく)一行である。

そして例によって訳文を見るのが許されていない軒軒(けんけん)が、ほっぺ膨らませてぷっぷすしている。

 

《翻訳法もそれなりに煮詰まって来ました。しかし甲辰年*1以前の書は口語や専門名詞が多く、文法もラディカルなものに富んでいるため、翻訳に苦慮している部分があります。新たにサンプルを頂けるのなら助かります。

羿(げい)様がコピーされたものは、どうやら甲辰年以前のものが多いようですので》

 

「これをラディカルで括るのか……いや、俺たちは訳文を読んでる訳だから、本物はもっとアレなのか?」

 

《極力原文に沿うように訳そうとしているのですが、適切な表現が浮かばず。その表現であっているのかも怪しい部分が数多あります。力及ばず申し訳ありません》

 

「いや、算盤は良くやってくれてる。……そうだな、書の回収を相棒に相談してみるべきかもな」

 

 

 ―― その時。

四季閣(しきかく)に配置されている古木樹ノードから、ずるりと羿(げい)が這い出てきた。

その体勢そのままにビタンと倒れ込む羿(げい)を見て、軒軒(けんけん)は悲鳴を上げながら駆け寄って行く。

 

「どうした!? 大丈夫か!?」

 

 あまりの様相に駆け寄った面々の視線を受け、軒軒(けんけん)に助け起こされた羿(げい)は呆然としながら呟いた。

 

「……死んだ」

 

「え?」

 

 羿(げい)はどこか現実感がなさそうな目で周りを見渡す。

 

「死んだ……ハズだ。

床を埋め尽くす腫瘍と棘の群れ、強固な上級防衛システム、何度殺してもなお襲い掛かってくる変異体……なんとか突破しても結局行き先は閉ざされてて。

それでもまだこんな所では死ねないと足掻いてみたが、結局引き裂かれて終わった……ハズだ。

俺は……俺は生きているのか? ここは、現実なのか……?」

 

 軒軒(けんけん)の腕の中で、ぼんやりと顔を見上げた。

感触を確かめようとペタペタ軒軒(けんけん)の顔を触って撫でてみる。

普段とは違った無防備な羿(げい)の姿に、図らず軒軒(けんけん)の頬が赤く染まった。

 

「……何か、動揺している……?」

 

「あの、あのっ、大哥(にいさん)、あのね? 僕はその……大哥(にいさん)に対して()()()()()()になった事はなくてっ!」

 

 ―― 一瞬で、夢遊病の患者のように開いていた瞳孔が返ってきた。

そしてその勢いのままドカリと床に拳を一発。

 

「……クソッ!! 目覚ましに汚水を飲まされたような気分だ!! 名前を聞かなくとも猫弈(アイツ)を連想させられるなどと……! 間違いなくこれは現実か……ッ!!!」

 

 軒軒(けんけん)の腕の中から跳ね起きた羿(げい)は、数秒前の自分の様をかき消すように地団太を踏む。気付けにしてはオゾまし過ぎた。

軒軒(けんけん)の目は、居心地がとても悪そうに泳いでいた。

きっとここに猫弈(みょうえき)がいたなら、この光景を見てとても良い笑顔を浮かべるだろう。「ありがとうございます!」の叫びと共に。

 

「それより相棒。ちょっと聞き捨てならない事を口走っていたぞ……? 何があったんだ」

 

 夸伏(こほ)の問いに、羿(げい)は少しの沈黙と問いを返した。

 

「……俺はいったい、どうやってここに戻ってきた? 誰かが助けてくれたのか?」

 

「いや……古木樹ノードから出て来たんだ。いきなり」

 

 古木樹ノードに視線を向ける。

羿(げい)の表情は得体のしれない物を見るように硬かった。

 

大哥(にいさん)……」

 

「……今のまま天道研究センターを進むのは無理だ。不死身の化け物と変異体の腫瘍や触手でとても進める物じゃない。何らかの手立てを考えなくては」

 

大哥(にいさん)っ!!」

 

 咎めるような軒軒(けんけん)の声に、気まずそうに視線を逸らす。

 

「……俺の事に口を挟むな」

 

「い! や! だっ!!!」

 

 少し前の羿(げい)を思わせる突き放し方だったが、そこは天下無敵の軒軒(けんけん)だった。

幾らなんでも弱い所を見られ過ぎたと両目を覆う。

 

「……もう大丈夫だ。少し、動揺していただけだ」

 

大哥(にいさん)は、死ぬのが怖くないの?」

 

「死ぬのは初めてじゃない」

 

 目を覆っていた手を、そのまま胸に持って行った。

羿(げい)の胸には緑色に光る金属性の輪が取り付けられている。

これは服の装飾などではない。

古木樹安定器と呼ぶ、羿(げい)の心臓に埋め込まれた特殊な装置だ。*2

 

 羿(げい)の心臓には、扶桑の根が絡みついている。

これを安定させるために、かつて易公(えきこう)の手によって取りつけられた生命維持装置だった。

 

「今回で3回目か……玄蝶(げんちょう)の実験を行った時も、易公(せんせい)に敗れて崖下に落ちた時も。

特に……ああ、そうだ。俺は自分の脳髄液が零れ落ちる感覚を覚えている。

最初は易公(せんせい)が助けてくれたとして、あの時のは流石に死んでいなきゃおかしい。死んでいた筈なんだ」

 

 胸に手を当て感覚を探ると、ずくんずくんと心臓の鼓動に合わせて扶桑(ふそう)の根が脈動しているのが分かる気がする。

 

()神農(しんのう)も大概だとは思うが、俺もほどほどに化け物だ。

また死んだら生き返るかもしれない。

……いや、違うな。あそこで朽ちた俺の体を扶桑(ふそう)が助けてくれたとでも言うのか? わざわざ古木樹ノードの中までその根を這わせて回収してくれたと?

別にそんな事は無くて、再びあの場所に足を運べば、羿(げい)と呼ばれた死体が転がっているかもしれない。

……あるいは俺は、お前が大哥(にいさん)と呼ぶ太陽人ですらないのかもしれないぞ?」

 

 自虐的に述べる羿(げい)の言を、軒軒(けんけん)は冷ややかな目で見つめている。

 

「―― 自認は?」

 

「なんだって?」

 

大哥(にいさん)は、自分を大哥(にいさん)だと思ってる? 大哥(にいさん)の名前は?」

 

 有無を言わさず問いかける軒軒(けんけん)に、羿(げい)は戸惑いながら「……羿(げい)だ」と回答した。

 

「じゃあ、大哥(にいさん)大哥(にいさん)で良いんだよ。

兄さんが自分でそう思っていて、自認としてそうあろうとしてるのなら、大哥(にいさん)大哥(にいさん)で良いんだよ。

例えば沼に溺れた男の人が別にいても、世界が5分前に始まっても、誰かに記憶を植え付けられてても、実は自分が物語のキャラクターであっても、自分で考えて自分で信じるなら大哥(にいさん)大哥(にいさん)で良いの!

なんだっけ……コギ……コギ、エル……? 忘れちゃったけど、こっちの言い方は覚えてる。

『我思う、故に我あり』だ!

だからそれは、大哥(にいさん)が自分を蔑ろにする理由には絶対ならないんだよ!!」

 

「……それも、猫弈(みょうえき)が言ってたのか?」

 

「うん! 素直に納得できたから、僕もその通りだと思ってる」

 

 小説家と言うやつは、いろんな知識を貯め込み、いろんなことを妄想し、いろんなことに針金を通すのが好きなのだそうだ。

妄想だけで、実物見たら覚悟も出来まいに。

しかし軒軒(けんけん)は言い切ってみせた。

 

 羿(げい)としてはもはや溜息しか出てこなかった。

そしてそれに倍して思う。

 

「そんな蘊蓄(うんちく)が言えるのに、なんでそれが猫弈(みょうえき)なんだ……ッ!!」

 

「いや……それはまあ……うん」

 

 さすがにそこを言われると、天下無敵の軒軒(けんけん)も言い淀むしかできないのである。

 

 

 

@ @ @

 

 

 

 新しく訳された猫弈(みょうえき)の書を見て、羿(げい)は眉間にしわを寄せた。

 

「これは確かに、一度書をすべて回収した方が良いのかもしれないな……こんなのに頼りたくないんだが」

 

 誰もが驚いた事があった。

羿(げい)が、軒軒(けんけん)の訳文閲覧を解禁したのである。渡す書は如羿(じょげい)に任せるとしながらもだ。

軒軒(けんけん)は、それはそれは大いに喜んだ。

 

 大いに喜び、手始めに最新のこの書を読み、そして何が書かれているか理解できない所が多く「?」と首を傾げるオチであった。

 

 まあ、今はそんな状態でも、後々ゆっくり理解していくのだろう。

羿(げい)が、後ろめたさから知られたくないと思っていた事柄にも。

 

 とりあえず読み込んでみようと思った軒軒(けんけん)が、プリントされた訳文を見ながら言う。

 

大哥(にいさん)って、猫弈(みょうえき)姉ちゃんの書を極端に嫌ってるよね。なんか、姉ちゃんが姉ちゃんしている所だけじゃないように思うのだけど、何かあるの?」

 

「……俺はこれでも学はそれなりに修めて来たし、書にもある程度は通じてるつもりだ。

書とは本来、もっと洗練されている物なんだ。整然と並び、厳格に整っている分野なんだ。

それに比べて猫弈(みょうえき)のこれは、内容はもとより書き方も下品すぎる。書にそこまで思い入れのない俺が、思わず眉を顰めるほどに」

 

 軒軒(けんけん)が笑った。

 

「アハ、さては大哥(にいさん)、姉ちゃん文字で書かれた奴しか見てないでしょ。ちゃんとした文字で書かれた奴はもうちょっと整ってるもやつあるよ! そこまでカチカチじゃないけどね」

 

「……そんな物、猫弈(みょうえき)に書けるのか?」

 

「僕に色んな書き方教えてくれたの猫弈(みょうえき)姉ちゃんだよ?」

 

 羿(げい)の眉間のしわがより一層深くなった。

 

「……つまり俺は、ずっと肥溜めの中身を選んで読まされていたのか……」

 

 羿(げい)のあまりにあんまりな表現に、軒軒(けんけん)としては苦笑を返す事しか出来ない。

しかもその肥溜めの中に結構な割合で宝石をぼちょぼちょ落としやがるものだから、結局手を出さずには居られないのである。

 

 ―― その宝石のひとつが、これだ。

 

「変異体破壊王、か……適当に予言を散りばめられるのはもう良いが、会った事のない奴にこちらの微妙ネーミングセンスを的確に置かれると気持ち悪さが半端ないな」

 

「なんだ相棒。解り易くて簡潔で強そうな名前じゃないか。これ以上望むものあるか?」

 

「現物」

 

「そこは……まあ、うん」

 

 初手でそれを言ったらおしまいである。

 

「解析できるなんて書いちゃあいるが、さすがに相応のサンプルは不可欠だ。

……しかし、下手に変異体の一部を切り取って回収とかして、汚染をばら撒くような羽目になったら目も当てられねえ」

 

「思ったのだけれど。わたくしの体組織が使われているのなら、それから解析は出来ないかな?」

 

「取っ掛かりのひとつにはなるとは思うが……多分完全にはならないだろうな。

天禍(てんか)血清なるものが本当にあるなら、それが欲しい所だが」

 

「一番それがありそうな天道研究センターはあの有様だ。あそこから探すのは無茶も良い所だろう」

 

勾芒(こうぼう)様に解析の協力を依頼してみるのは如何でしょうか。あるいは扱いの点で、何かアドバイスが頂けるかもしれません》

 

「……なるほど?」

 

 

 とりあえず、聞くだけ聞いてみる事にした。

 

 

 

@ @ @

 

 

 

 勾芒(こうぼう)は、見るからに嫌そうな顔をして、「断る」と即断した。

ただでさえ天禍(てんか)なんて厄介な物に晒されているのに、これ以上厄介な物を取り扱いたくなんて無いのである。

しかも、厄介な各種メンテがやっとひと心地付いた矢先にだ。

 

 ならばと天禍(てんか)血清や取り扱いについてアドバイスを求めてみると、勾芒(こうぼう)は蔑んだような目で羿(げい)を一瞥し、自分のデスクから適当にガムテープと厚紙と紐、そして植物の栄養剤投与にでも使っていたのか細めの透明なゴムチューブをポイポイと投げて寄こし、「それで何とかしろ」とのたまった。

 

 手元のそれを見下ろして口を開く。

 

「……いや、これでどうしろと。箱作ってガムテープで覆ってそこにサンプル入れろとか言わないだろうな?」

 

「バカか。……ぶんぶんゴマは知っとるじゃろう?」

 

「……??????」

 

「マジか!? おぬしどういう幼少期送ってたんじゃ!?」

 

「……呪術の本が俺の遊び相手だったが、それ以外にも普通に友達はいたんだ」

 

「聞いとらんわ。……仕方のない奴じゃな」

 

 今度はハサミを取り出して、チョキチョキと厚紙を丸く切って行く。

わくわく勾芒(こうぼう)さんの作ってあそぼが始まった。

ハサミの先をうまく使って、厚紙で作った円盤の中心を通る線上に、左右対称になるように穴を二つあけ、その2点にひもを通して結び輪を作る。

 

 終了。

作ってあそぼは30秒で終わった。

 

 はたから見ていて、羿(げい)勾芒(こうぼう)が何を作ったのか未だにわからない。

 

 そして勾芒(こうぼう)は円盤を紐の中心に移動させると、紐の両端を持ってくるくると紐に縒りをかけ、両端を引っ張り円盤を勢い良く回転させた。

リズミカルに紐を引っ張って緩めてを繰り返すと、円盤は遠心力で紐に縒りをかけ、もう一度引っ張ればまた回る。

 

 羿(げい)は目を剥いた。

 

「こんなコマがあるのか……!」

 

「お前ちょっと感動しすぎじゃないか」

 

 渡してやると、最初の数回は要領が分からずに失敗していたが、すぐにコツを抑えてブンブンと回し続ける事に成功する。

少しの間気に入ったようにブンブンしていたが、やがて今回使わなかったチューブを見て、これを何に使うかを察した。

 

「……まさか、変異体の体液をこれで遠心分離に掛けるのか!? こんな原始的なやり方で!?」

 

「15分ほどブンブンやっとれば普通に分離できるぞ。それなら持ち歩きも出来るし嵩張りもせんじゃろう? 別途注射器が必要かとは思うがそちらは自分で用意せい。

……天禍(てんか)血清なるものが言葉通りの物であれば、それで作れる筈じゃ。そうでなかったとしても、分離した血清の方だけを回収すれば危険性も幾分下がろう」

 

 瞠目しながらなおもブンブンしている羿(げい)である。

しげしげと高速回転する円盤を見つめている。

 

「カルチャーショックだ……継続的かつ安定した高速回転が必要だからこそ高価な機材を用いる必要がある遠心分離が、こんな簡単かつ原始的なもので……

羽民(うみん)の人間はこういう物を良く知っているのか?」ブンブンブンブン

 

「貴様が高等な技術に傾倒しとるだけじゃたわけ。

我々農民はもとより倹約な物じゃ。使える物はすべて使う。それがロートルな技術であっても変わらぬ。

物事はコストや技術を注ぎ込めば良いと言う物では無いのじゃ」

 

「『木にタイヤをぶら下げれば結局、顧客の要件は満たせていた』……わかっていた事ではあるが、改めて発想と言う物は大事なんだと痛感する。最近は学ぶ事ばかりだ」ブンブンブンブン

 

「ぶんぶんゴマひとつに大げさな。納得いったら()く出てゆくが良い」

 

「ああ……感謝する」ブンブンブンブン

 

いい加減そのブンブンを辞めろたわけ!!

 

 勾芒(こうぼう)は、最近弟弟子の軟化によって調子が狂って仕方なかった。

 

 なお、ぶんぶんゴマ自体は軒軒(けんけん)へのお土産として渡される事にもなった。

この際夸伏(こほ)のカルチャーショックもまた凄まじかったと追記する。

 

 

 ―― かくして解析は成功し、夸伏(こほ)の手によって『変異体破壊王』は作成された。

不老不死の化け物を屠る手段が手に入った。

 

そのまま天道研究センターを攻略しても良かったが、羿(げい)はその前に天人エリアの掃除を選択し、再び上層に向かって古木樹を渡る。

 

 

 

 だから羿(げい)はまだ、知らない。見ていない。

天道研究センターの一画に、こんな所ではまだ死ねぬと足掻き果てた、朽ちた羿(げい)の死体とそこに咲く天禍(てんか)の花がある事を。

 

 

 

*1
猫弈が選定された年

*2
ルート・スタビライザー。

ゲームのクリアデータを確認したが見当たらず、英語のNineSolsWikiでしか確認できなかったので隠し設定と言うやつかもしれない。

これのおかげで羿は防御化力により気を蓄えて用いる事が出来るそうな

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