オカルトなどと言う分野が絡んでいるのもそうだが、このまま進めば誰かと絡ませられるのでは無いかと言うオゾましい疑惑が、どうしても頭の中をよぎってしまう為である。
既に
何と言うかもう、相手が
別に男色を否定するつもりはないが自分はノーマルなのだ。
って言うか異種族同性相手は流石にニッチ過ぎると思うのだが。猿と一緒とまで言うつもりはないが、そもそも毛や
一方で、非常に癪ではあるのだが、
なんでって、普通に刺さってしまったからである。
ひとつ、『敬意を払え』
ふたつ、『何がしたいかを答えられるようにしろ』
……ふたつ目なんて、言われるまでもなく決まっていた筈だった。
立ちはだかる太陽達を殺してでも王璽をこの手にし、議会法典にアクセスして真実を白日の下にさらす。
……で、その後は?
そう聞かれた様な気がして、ずっと心にトゲが刺さっているのだ。
それはきっと、無秩序に太陽を殺すことの意味の無さに気が付いてしまったからだ。
殺すなら殺すで別に良い。
でも、その先は決めなくてはならない。
結局自分は何がしたい?
自問しているが、いまいちしっくり来なかった。
……だからせめて、何がしたいかを答えられるようになるまで、取り返しのつかない『殺す』と言う選択肢は選ばないようにしたいと思ったのだ。
それまでは、せめて自分でも納得できる行動をしようと。
だが。
「イヒヒ……来たな」
天人エリアは貴人殿の前で、そいつは待っていた。
筋肉質な長躯。赤い肌に黒い
長く白い眉毛がなびき、その双眸は暗く、そして力強かった。
截国意匠の鎧を身に纏い、巨大な青龍偃月刀を担いだそいつの足元には、バラバラになったピンク色の肉片がビクビクと脈動していた。
太陽・
太陽の中で最も武闘派であり、かつて9つの国を覇を以て統一しようとした国、
集まろうとしている肉片を蹴り飛ばして離しながら声を掛ける。
「俺は夢でも見ているのか? またお前に会えて嬉しいぞ!
「
ふたつの意味で
ひとつは、単純に手ごわい相手である事。
そしてもう一つは……
しかしなぜか
「さて、監獄官でもある俺としては、反逆者のお前は捕まえなければならない訳だが……そもそも不思議なのだがお前はこんなところで何をしているんだ?
俺はてっきり、議会に反発して太陽を殺して回っていると思っていたが。
それとも俺が最初だったのかな?」
「……お前はこの有様を見て何も思わなかったのか?」
「ほう、つまりは民の為にバケモノ退治をしていたと。
イヒヒ……それが敵の領域であるならば放っておく選択肢もありそうなものだが。
お前にそんな殊勝な所があったなんて知らなかったぞ」
「……これそのものは本意ではない。しかし、やれるのが今のところ俺しかいないんだ」
「それで、せっかく復活したと言うのにやるのは結局
「その
「うん? ……ふむ。確かに見てはいないな」
会話している間にも、寄って来た変異体がその爪を剥いて羿の背後から襲い掛かった。
パキィンッ、と澄んだ金属音が響いた。
そして流れる流水のごとく
交差の刹那に張り付けられていた
破裂した肉片を見て、初めて
いくら切り刻んでもなお蠢いていた肉片が、その動きを止めていたからだ。
「ほう……もしかして核のようなものでもあったのか? どう刻んでも動いていたのだが」
「殺す方法はある。……もう一度聞くが、お前はこの有様を見て何も思わなかったのか? この現状はいったい何だと思う?」
見定めるような
「本来は俺の仕事だとでも言うつもりか? まあ否定はしないが、さらに言うなら
「違う。この現状について聞いている」
「うん? ……もっと解りやすく言ってくれないか、本気で意図が分からん。俺はお前ほど頭が良くないんだ。
『ウイルスに対抗しようとしたら、さらにそのウイルスが変異した』……そこまで珍しい事でもない。流石にこのような変異の例は聞いた事も無いが。
そもそも対抗は
「……お前はかつて、俺が
『永遠に生きる方法が見つかったなら、なぜまず自分に知らせないのだ』と」
「おいおいおい、まさかこの状況を俺が作ったと思っているのか? 飛んだ思い違いだ。
……確かに言われてみればこいつらの不死性は俺の求める物ではあるかもしれないが。
関心できるのは不死性だけだ。その理性や知能は見る影もない。
確かに俺は錬丹で肉体改造を行っているが、このようなモノに成り下がるつもりはないぞ」
「……だろうな。その為に実験するにしても、さすがに天下エリアにばら撒くような極端かつ非効率なマネはしないだろう。と言っても、まだ白ではなくグレーだが」
とりあえず、今の見極めはそれでいい。
そう言わんばかりに
「おいちょっと待て。俺はお前と戦えるのを楽しみにしていたんだぞ。どこに行くつもりだ?」
「掃除だ。まだ化け物は残っている」
「太陽ではなくなったのに随分仕事熱心じゃないか。
「太陽は辞めたが太陽人の全滅を願っている訳じゃない。そして天道議会はこの事態を収拾できない。……あるいはそれを否定してお前がやるか? 化け物をすべて収監して管理できるならそれも方法のひとつかもな」
「イヒヒ……痛い所を突いてくるじゃないか。
―― ならば聞くが。
その表情は静かで、凪いでいた。
だがそれは悟りによる物ではなく、彷徨による表情であった。
その表情のまま口を開く。
「……あるような気もするし、無いような気もする。
……かつて俺は、
その時は宗教に傾倒して科学を否定し、ただ生を諦めたように見えた妹を侮蔑したからだ。
今は、結局この状況を許してしまったザマも併せ、その考えには一定の理解はしようと思うが……やはり俺は、生を諦める事自体は否定しただろう。
なぜなら俺は科学者だからだ。科学者はその知見を以て人の持つ選択肢を増やし、皆に還元する事が仕事だ。だからこそ科学者は皆より一歩前に立って、状況が良く見えるように振舞う事が許される。
……その科学者が真っ先に
希望の有無を悟りたいなら、それは科学者でない奴がやればいい。お前のようにな。
俺がもしそれを悟る方向に倒れるとしたら、それはもう、思いつく事もやれる事も全部試して打つ手が何も無くなって絶望した後の話だ」
―― 口にして、
ああ、だから自分は
そこらの人間よりも科学知識に溢れ、考察できるほどの頭脳があり、しかしそれを周りに全く還元することなく趣味に全振りした挙句、生を諦めて飛天玉座に向かった。
しかもその後になってやっと彼女が遺した物による還元が始まる始末。
……しかしそれは、無責任な投げっぱなしの形でだ。
そんな奴が、自分より一歩前に出て物事を見ている。
その事実がたまらなく
――《私のようなひきこもり人間が誰かの役に立って死ぬのなら、少なくとも無為な終わりよりよほど上等だ》
だからこそ動いた挙句にどん詰まりに陥った
あまつさえ、未だ自分が見えていない『何がしたいのか』と言う問いに、答えを出して逝ったように思えて。
そしてふと、
―― いや、やっぱ嫌いな理由はそれだけじゃなかったわと。
@ @ @
元は
実は描写していなかった住人がもう一人いたりする。まあ正確には人ではないのだが。
――『山海9000』と言う、広大な新
総じて人型で金魚鉢のように丸いガラス玉を頭としており、その中に各個体で異なる魚のホログラムを表示させて自らの顔としている。
「世界は変わることなく、命は途切れることなく続いて行く。あなた様の第二の故郷、新
が、
元は
左胸には子供が落書きしたような絵が描かれている。
これを
起動させてみると、まず各エリアにある個体のようなホログラムの魚は映さない。
妙によそよそしい片言で喋り、極めつけはサポートではなく取引を提案する。
曰く、各エリアにいる同型のロボットから情報回路を収集してほしい。
代わりに自分はその回路をハッキングし、物資の情報を提供するとのこと。
……つまりこいつは、物資の情報にかこつけて、各エリアの情報を取得したがっているようだ。
そしてその理由については口をつぐみ続けていた。
……正直なところハッキングで済むのであれば情報回路を
邪魔をするようなら、改めてその時に切り捨てればいい。
そういう判断だった。
―― さて、実はこの山海9000、そのプロトタイプの開発者は
つまり彼にとって
逆らう事は許されない。
そんな
山海9000としては「ヤッベ」どころの騒ぎでは無かった。
慌てて出て行こうにも既に
せめて「私は岩、私は島」と目立たないように固まって見つからないように興味を引かないようにこそこそインテリアのマネをしていたのだが、そこに天下無敵の
彼が喋る事はとっくのとうにバレている訳で、そりゃまあ話しかけもされる訳で、結果秒で
……とはいえ。
何とか『たまにお話しする人畜無害のサポートロボット』と言う位置づけを保つことに成功していた。
……その時までは。
『
知る筈のない情報が、未来の情報が、乱雑かつ無遠慮に散らばっているのだと。
興味はあった。
その情報の中に自分が求める物があるのではと。
各エリアの情報回路を集めるまでもなく、そこに答えがあるのではと。
……しかしそれを問う事は、太陽の気を引く事と同義だった。
山海9000にとって、太陽とは新
きっと太陽達は気にも留めていないだろう。
しかしそれでも『敵』だったのだ。
山海9000にとって掛け替えのない存在を
それがバレた場合、反意ありと思われた場合、取るに足らないサポートロボットである自分など容易くスクラップにされることは火を見るよりも明らかだった。
しかし日を経るごとに解ってきた此処にいる面子の気質……そしてつい先日、
『――
狙ったのは、
これであれば極力太陽の気を引く事なく、さらに何か不利な事があっても
「あ、山海9000だ。珍しいね、どうしたの?」
『
そして、事態は山海9000が考えていたよりも斜め上に飛んだ。
《――
『ッッ!?!?!?』
山海9000がもし人と同じように呼吸し、心臓が脈動していたとしたら、おそらくそれらは一瞬止まっていた事だろう。
「え、誰かの名前? 山海9000のお友達?」
『教えて!!』
山海9000が
しかしその手は虚しく空を切った。
当然である。
しかし山海9000は関係ないとばかりにホログラムの映る空を搔き続けた。
『教えて! 教えて! 教えて! 教えて!!』
「ちょっ、ちょっと山海9000!? 落ち着いてってば!!」
「なんだ、どうしたんだ?」
「何かトラブルかい?」
せっかくタイミングを計って聞いたのに、自分の行いで太陽二人を呼び寄せてしまう。
しかし、気にしていられなかった。
『
教えて!! 教えて!!』
なおも続ける山海9000の剣幕にしかし、
《 お答えできません 》
『なぜ!?』
《
『……え?』
急に水を被ったように固まる山海9000になおも続けた。
《……鍵を手に入れないと、内容には触れない決まりです》
『騒いでた話 ……呪いの書?』
《呪いの書……その単語で扱っていた訳ではありませんが、まあ。しかしこれ以上はお答えできません》
『ワタシの目的 知ってる? ……その答えも?』
《……お答えしかねます》
『……ワタシの事 太陽 伝えるか?』
心なしかその声は、サポートロボット特有の無機質な物である筈なのに、どこか震えているようにも思えた。
あるいはその問いは死刑執行の時期を聞くような覚悟が込められていたのかもしれない。
《鍵が分かるまで、お答えしかねます。
……ただ、山海9000。貴方の思考ロジックは理解できますが……
―― 何にせよ、あなたは敵ではありません。私はそう思います》
『……』
山海9000は少しの間ガラス玉の顔を薄くチカチカ点灯させると、それ以降は何も言わず、
何が起こったのかは容易に想像できた。
山海9000が目的としていた『
「……とても大切な人なんだね。その
「感慨深い話だ。山海1000の時はとても無機質でズレたような受け答えしかできなかったのに、今は大事な人を探し続けている。
……わたくしの知らないうちに、山海9000がそこまでの物になっていたなんて」
「いいや、蓄能施設にいた山海9000は、あそこまでの物では無かった筈だ。
感情は設定されていたがあくまで
そんな感じで、おおむね太陽達にとっては山海9000の狼狽はおよそ好意的に映っていたようである。
そして彼らの脳裏にもまた、
―― その後山海9000は、今度は太陽達も集まっているタイミングを選んで再びその前に歩み寄る。
言語モジュールの破損によって片言による拙い言葉ではあったが、その内容は確かに事態を動かした。
『ワタシ 鍵探す 手伝う。
……おそらく、石板 残されている。
―― 情報回路の片隅にあった映像記録を分析して得た、ある意味もう一つの書の所在であった。
……と言いたいけど、世に溢れるネッ広モノを見ると何とも否定し難い。