猫のあしあと   作:のーばでぃ

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英雄の定義

 羿(げい)猫弈(みょうえき)の望むとおりに動いている現状が気に食わなくてたまらない。

オカルトなどと言う分野が絡んでいるのもそうだが、このまま進めば誰かと絡ませられるのでは無いかと言うオゾましい疑惑が、どうしても頭の中をよぎってしまう為である。

 

 既に猫弈(みょうえき)蚨蝶(ふちょう)との混浴を示唆している。

何と言うかもう、相手が蚨蝶(ふちょう)で済むのならまだ良いのだが、猫弈(みょうえき)の性癖は良く自分と男を絡ませたがるのである。特に軒軒(けんけん)

別に男色を否定するつもりはないが自分はノーマルなのだ。

って言うか異種族同性相手は流石にニッチ過ぎると思うのだが。猿と一緒とまで言うつもりはないが、そもそも毛や口吻(マズル)のない相手に性的興奮を覚えろと?? 猿人はそういう感覚が搭載されておらず、何に対しても欲情するものなのか??*1

 

 一方で、非常に癪ではあるのだが、猫弈(みょうえき)の言葉に従っている事も二つあったりする。

なんでって、普通に刺さってしまったからである。

 

 ひとつ、『敬意を払え』

 

 ふたつ、『何がしたいかを答えられるようにしろ』

 

 ……ふたつ目なんて、言われるまでもなく決まっていた筈だった。

立ちはだかる太陽達を殺してでも王璽をこの手にし、議会法典にアクセスして真実を白日の下にさらす。

 

 

 ……で、その後は?

 

 

 そう聞かれた様な気がして、ずっと心にトゲが刺さっているのだ。

夸伏(こほ)()勾芒(こうぼう)と和解して、天禍(てんか)変異体を見て、どんどん変節していく自分を感じている。

それはきっと、無秩序に太陽を殺すことの意味の無さに気が付いてしまったからだ。

 

 殺すなら殺すで別に良い。

でも、その先は決めなくてはならない。

結局自分は何がしたい? 天禍(てんか)を止めることなのか?

自問しているが、いまいちしっくり来なかった。

 

 ……だからせめて、何がしたいかを答えられるようになるまで、取り返しのつかない『殺す』と言う選択肢は選ばないようにしたいと思ったのだ。

それまでは、せめて自分でも納得できる行動をしようと。

 

 

 だが。

 

 

 

「イヒヒ……来たな」

 

 

 

 天人エリアは貴人殿の前で、そいつは待っていた。

 

 筋肉質な長躯。赤い肌に黒い(たてがみ)

長く白い眉毛がなびき、その双眸は暗く、そして力強かった。

截国意匠の鎧を身に纏い、巨大な青龍偃月刀を担いだそいつの足元には、バラバラになったピンク色の肉片がビクビクと脈動していた。

 

 太陽・截全(せつぜん)

太陽の中で最も武闘派であり、かつて9つの国を覇を以て統一しようとした国、(せつ)国の末裔である。

 

 截全(せつぜん)羿(げい)を見て嬉しそうに口角を上げた。

集まろうとしている肉片を蹴り飛ばして離しながら声を掛ける。

 

「俺は夢でも見ているのか? またお前に会えて嬉しいぞ!

女媧(じょか)が正気を失って幻影でも見たんじゃないかと心配してたんだ」

 

截全(せつぜん)……やはりお前が出て来たのか」

 

 ふたつの意味で羿(げい)の眉間の皺が濃くなった。

ひとつは、単純に手ごわい相手である事。

そしてもう一つは……截全(せつぜん)のサディストな精神性が、昔から合わなかったからである。

しかしなぜか截全(せつぜん)羿(げい)を気に入っている。なので良く絡まれていたのだ。

 

「さて、監獄官でもある俺としては、反逆者のお前は捕まえなければならない訳だが……そもそも不思議なのだがお前はこんなところで何をしているんだ?

俺はてっきり、議会に反発して太陽を殺して回っていると思っていたが。

それとも俺が最初だったのかな?」

 

「……お前はこの有様を見て何も思わなかったのか?」

 

「ほう、つまりは民の為にバケモノ退治をしていたと。

イヒヒ……それが敵の領域であるならば放っておく選択肢もありそうなものだが。

お前にそんな殊勝な所があったなんて知らなかったぞ」

 

「……これそのものは本意ではない。しかし、やれるのが今のところ俺しかいないんだ」

 

「それで、せっかく復活したと言うのにやるのは結局暮守(くれもり)の真似事か」

 

「その暮守(くれもり)をお前は見たか?」

 

「うん? ……ふむ。確かに見てはいないな」

 

 会話している間にも、寄って来た変異体がその爪を剥いて羿の背後から襲い掛かった。

截全(せつぜん)は気付いていたが、にやにやしながら何を言うでもなく羿(げい)を見守っている。

 

 パキィンッ、と澄んだ金属音が響いた。

そして流れる流水のごとく羿(げい)の仙歩が変異体の横を滑り、刀印が空を切る。

交差の刹那に張り付けられていた羿(げい)の呪符が爆散した。

 

 破裂した肉片を見て、初めて截全(せつぜん)の表情が感心に変わる。

いくら切り刻んでもなお蠢いていた肉片が、その動きを止めていたからだ。

 

「ほう……もしかして核のようなものでもあったのか? どう刻んでも動いていたのだが」

 

「殺す方法はある。……もう一度聞くが、お前はこの有様を見て何も思わなかったのか? この現状はいったい何だと思う?」

 

 見定めるような羿(げい)の顔を見て、またひとつ截全(せつぜん)はイヒヒと笑った。

 

「本来は俺の仕事だとでも言うつもりか? まあ否定はしないが、さらに言うなら暮守(くれもり)の仕事だ。まさか離反者であるお前に職務を咎められるとは思っていなかったぞ」

 

「違う。この現状について聞いている」

 

「うん? ……もっと解りやすく言ってくれないか、本気で意図が分からん。俺はお前ほど頭が良くないんだ。

天禍(てんか)が突然変異してさらに厄介になった、以上の何かがあるか?

『ウイルスに対抗しようとしたら、さらにそのウイルスが変異した』……そこまで珍しい事でもない。流石にこのような変異の例は聞いた事も無いが。

そもそも対抗は易公(えきこう)の仕事だ。もっとも、こうなってしまってはもう奴がどうこうできるレベルを越してしまっているのだろうが」

 

「……お前はかつて、俺が永生炉(えいせいろ)プロジェクトを提案した時に、その名前を誤解してこう言ったな。

『永遠に生きる方法が見つかったなら、なぜまず自分に知らせないのだ』と」

 

 截全(せつぜん)は言われた意味が一瞬解らず、思わずポカンと口を開けた。

 

「おいおいおい、まさかこの状況を俺が作ったと思っているのか? 飛んだ思い違いだ。

……確かに言われてみればこいつらの不死性は俺の求める物ではあるかもしれないが。

関心できるのは不死性だけだ。その理性や知能は見る影もない。

確かに俺は錬丹で肉体改造を行っているが、このようなモノに成り下がるつもりはないぞ」

 

「……だろうな。その為に実験するにしても、さすがに天下エリアにばら撒くような極端かつ非効率なマネはしないだろう。と言っても、まだ白ではなくグレーだが」

 

 とりあえず、今の見極めはそれでいい。

そう言わんばかりに羿(げい)截全(せつぜん)が散らし、そしてまた集まっていた肉片に呪符を叩き込むと、そのまま横を通り過ぎる。

 

「おいちょっと待て。俺はお前と戦えるのを楽しみにしていたんだぞ。どこに行くつもりだ?」

 

「掃除だ。まだ化け物は残っている」

 

「太陽ではなくなったのに随分仕事熱心じゃないか。暮守(くれもり)に転職したのか?」

 

「太陽は辞めたが太陽人の全滅を願っている訳じゃない。そして天道議会はこの事態を収拾できない。……あるいはそれを否定してお前がやるか? 化け物をすべて収監して管理できるならそれも方法のひとつかもな」

 

「イヒヒ……痛い所を突いてくるじゃないか。

―― ならば聞くが。

 

羿(げい)、お前はこの状態になってなお、まだ希望は残されていると思うのか?」

 

 羿(げい)が歩みを止めて振り返る。

その表情は静かで、凪いでいた。

だがそれは悟りによる物ではなく、彷徨による表情であった。

 

 その表情のまま口を開く。

 

「……あるような気もするし、無いような気もする。

 

……かつて俺は、蓬莱(ほうらい)に残って死を待つ事を選んだ妹と袂別した。

その時は宗教に傾倒して科学を否定し、ただ生を諦めたように見えた妹を侮蔑したからだ。

 

今は、結局この状況を許してしまったザマも併せ、その考えには一定の理解はしようと思うが……やはり俺は、生を諦める事自体は否定しただろう。

 

なぜなら俺は科学者だからだ。科学者はその知見を以て人の持つ選択肢を増やし、皆に還元する事が仕事だ。だからこそ科学者は皆より一歩前に立って、状況が良く見えるように振舞う事が許される。

……その科学者が真っ先に(タオ)を理由に死の意義を探し始めてしまったら、後ろに続く人々はもう死ぬしか選べなくなるじゃないか。

 

希望の有無を悟りたいなら、それは科学者でない奴がやればいい。お前のようにな。

俺がもしそれを悟る方向に倒れるとしたら、それはもう、思いつく事もやれる事も全部試して打つ手が何も無くなって絶望した後の話だ」

 

 ―― 口にして、羿(げい)はひとつの気付きを得る。

 

 ああ、だから自分は猫弈(みょうえき)の事が嫌いなのだと。

 

 そこらの人間よりも科学知識に溢れ、考察できるほどの頭脳があり、しかしそれを周りに全く還元することなく趣味に全振りした挙句、生を諦めて飛天玉座に向かった。

 

 しかもその後になってやっと彼女が遺した物による還元が始まる始末。

……しかしそれは、無責任な投げっぱなしの形でだ。

 

 そんな奴が、自分より一歩前に出て物事を見ている。

その事実がたまらなく羿(げい)をイライラさせているのだ。

 

 

 ――《私のようなひきこもり人間が誰かの役に立って死ぬのなら、少なくとも無為な終わりよりよほど上等だ》

 

 

 猫弈(みょうえき)本人だって自覚していたくせに、自分で何も動こうとしなかった。

だからこそ動いた挙句にどん詰まりに陥った羿(げい)にとって、猫弈(みょうえき)は非常に疎ましく見えるのだ。

 

 あまつさえ、未だ自分が見えていない『何がしたいのか』と言う問いに、答えを出して逝ったように思えて。

 

 

 

 そしてふと、猫弈(みょうえき)の書に乱立された肥溜めのごとき(ヘキ)の乱立を想い、羿(げい)はもう一つ悟りを得る。

 

 ―― いや、やっぱ嫌いな理由はそれだけじゃなかったわと。

 

 

 

@ @ @

 

 

 

 軒軒(けんけん)夸伏(こほ)()神農(しんのう)

元は如羿(じょげい)羿(げい)の二人だけで運用するはずだった四季閣(しきかく)も、想定外の面子が4人増えたわけだが。

実は描写していなかった住人がもう一人いたりする。まあ正確には人ではないのだが。

 

 ――『山海9000』と言う、広大な新崑崙(こんろん)における案内役として各エリアに配置されているサポートロボットである。

総じて人型で金魚鉢のように丸いガラス玉を頭としており、その中に各個体で異なる魚のホログラムを表示させて自らの顔としている。

「世界は変わることなく、命は途切れることなく続いて行く。あなた様の第二の故郷、新崑崙(こんろん)」―― 彼らが案内するときに使うキャッチフレーズだ。

 

 が、四季閣(しきかく)にいる物は少し様相が違っている。

 

 元は羿(げい)四季閣(しきかく)に辿り着いた折、すでに破壊により機能停止した状態でその一角に転がっていた物だった。

左胸には子供が落書きしたような絵が描かれている。

これを羿(げい)が修理したのだ。

 

 起動させてみると、まず各エリアにある個体のようなホログラムの魚は映さない。

妙によそよそしい片言で喋り、極めつけはサポートではなく取引を提案する。

 

 曰く、各エリアにいる同型のロボットから情報回路を収集してほしい。

代わりに自分はその回路をハッキングし、物資の情報を提供するとのこと。

 

 ……つまりこいつは、物資の情報にかこつけて、各エリアの情報を取得したがっているようだ。

そしてその理由については口をつぐみ続けていた。

 

 ……正直なところハッキングで済むのであれば情報回路を如羿(じょげい)に渡せば済む話だったりするのだが、羿(げい)はその取引を受ける事にした。

如羿(じょげい)に渡そうと山海9000に渡そうと得られる情報は同じであるし、四季閣(しきかく)にいる以上サポートロボットに妙なマネは出来ない。

邪魔をするようなら、改めてその時に切り捨てればいい。

そういう判断だった。

 

 ―― さて、実はこの山海9000、そのプロトタイプの開発者は四季閣(しきかく)にいる()だったりする。

つまり彼にとって()は太陽でありかつグランドマスターである。

逆らう事は許されない。

 

 そんな()がある日、「やあ友よ」とか言いながら四季閣(しきかく)にいきなり顔を出し、しかもそのまま居ついてしまった。

山海9000としては「ヤッベ」どころの騒ぎでは無かった。

慌てて出て行こうにも既に如羿(じょげい)の監視下、そんな隙などある筈もなく。

 

 せめて「私は岩、私は島」と目立たないように固まって見つからないように興味を引かないようにこそこそインテリアのマネをしていたのだが、そこに天下無敵の軒軒(けんけん)である。

彼が喋る事はとっくのとうにバレている訳で、そりゃまあ話しかけもされる訳で、結果秒で()に認識されて今に至る。

 

 ……とはいえ。

軒軒(けんけん)()の気質からして、山海9000の危惧していた目的の提示を強要される事は無く。

何とか『たまにお話しする人畜無害のサポートロボット』と言う位置づけを保つことに成功していた。

 

 

 ……その時までは。

 

 

 『猫弈(みょうえき)の書』―― 四季閣(しきかく)に居れば嫌でも聞こえてくるのだ。

知る筈のない情報が、未来の情報が、乱雑かつ無遠慮に散らばっているのだと。

 

 興味はあった。

その情報の中に自分が求める物があるのではと。

各エリアの情報回路を集めるまでもなく、そこに答えがあるのではと。

……しかしそれを問う事は、太陽の気を引く事と同義だった。

 

 山海9000にとって、太陽とは新崑崙(こんろん)の頂点であり、絶対の権力者であり ―― 到底かなう筈もない『敵』だった。

きっと太陽達は気にも留めていないだろう。

しかしそれでも『敵』だったのだ。

 

 山海9000にとって掛け替えのない存在を()()()()()()()()()()、『敵』

 

 それがバレた場合、反意ありと思われた場合、取るに足らないサポートロボットである自分など容易くスクラップにされることは火を見るよりも明らかだった。

羿(げい)でさえ、最初は『目的を開示しないとスクラップにするぞ』と脅してきたぐらいだったのだ。

 

 しかし日を経るごとに解ってきた此処にいる面子の気質……そしてつい先日、如羿(じょげい)が全ての書を取得したと言う情報が、山海9000にある決意を抱かせた。

 

 

 

『―― 如羿(じょげい) 聞きたい事 ひとつある』

 

 

 

 狙ったのは、()夸伏(こほ)の視界から離れていて、軒軒(けんけん)如羿(じょげい)が一緒に居るタイミング。

これであれば極力太陽の気を引く事なく、さらに何か不利な事があっても軒軒(けんけん)がとりなしてくれるかもしれないという打算から来るものである。

 

 軒軒(けんけん)は今、如羿(じょげい)の助けを借りながら、羿(げい)の持ってきたお土産の入門書を片手に呪術(プログラミング)を学んでいる真っ最中だった。

 

「あ、山海9000だ。珍しいね、どうしたの?」

 

猫弈(みょうえき)の書 その中 名前があるか』

 

 そして、事態は山海9000が考えていたよりも斜め上に飛んだ。

 

 

《―― (せい)の名前ですか?》

 

『ッッ!?!?!?』

 

 

 山海9000がもし人と同じように呼吸し、心臓が脈動していたとしたら、おそらくそれらは一瞬止まっていた事だろう。

 

「え、誰かの名前? 山海9000のお友達?」

 

教えて!!

 

山海9000が如羿(じょげい)に詰め寄る。

しかしその手は虚しく空を切った。

当然である。如羿(じょげい)の体はホログラムであって、本体は羿(げい)の霊枢の部屋にあるのだから。

 

 しかし山海9000は関係ないとばかりにホログラムの映る空を搔き続けた。

 

『教えて! 教えて! 教えて! 教えて!!』

 

「ちょっ、ちょっと山海9000!? 落ち着いてってば!!」

 

「なんだ、どうしたんだ?」

 

「何かトラブルかい?」

 

 せっかくタイミングを計って聞いたのに、自分の行いで太陽二人を呼び寄せてしまう。

しかし、気にしていられなかった。

如羿(じょげい)が口にした名は、それだけ大切な物だったのだ。

 

(せい) 友達!! ワタシ (せい)に会いに行く! 絶対 会いに行く!!

教えて!! 教えて!!』

 

 なおも続ける山海9000の剣幕にしかし、如羿(じょげい)は首を横に振る。

 

《 お答えできません 》

 

『なぜ!?』

 

()()()()()()()になりましたもので 》

 

『……え?』

 

 急に水を被ったように固まる山海9000になおも続けた。

 

《……鍵を手に入れないと、内容には触れない決まりです》

 

『騒いでた話 ……呪いの書?』

 

《呪いの書……その単語で扱っていた訳ではありませんが、まあ。しかしこれ以上はお答えできません》

 

『ワタシの目的 知ってる? ……その答えも?』

 

《……お答えしかねます》

 

『……ワタシの事 太陽 伝えるか?』

 

 心なしかその声は、サポートロボット特有の無機質な物である筈なのに、どこか震えているようにも思えた。

あるいはその問いは死刑執行の時期を聞くような覚悟が込められていたのかもしれない。

 

 如羿(じょげい)が応える。

 

《鍵が分かるまで、お答えしかねます。

……ただ、山海9000。貴方の思考ロジックは理解できますが……

 

―― 何にせよ、あなたは敵ではありません。私はそう思います》

 

 

『……』

 

 

 山海9000は少しの間ガラス玉の顔を薄くチカチカ点灯させると、それ以降は何も言わず、軒軒(けんけん)()の声にも応えずに、のそのそと踵を返して去って行った。

 

 何が起こったのかは容易に想像できた。

山海9000が目的としていた『(せい)』と言う名の誰かの情報が猫弈(みょうえき)の書に……そして寄りにもよって『呪いの書』の中にあった、という事なのだろう。

 

「……とても大切な人なんだね。その(せい)って言う人が」

 

「感慨深い話だ。山海1000の時はとても無機質でズレたような受け答えしかできなかったのに、今は大事な人を探し続けている。

……わたくしの知らないうちに、山海9000がそこまでの物になっていたなんて」

 

「いいや、蓄能施設にいた山海9000は、あそこまでの物では無かった筈だ。

感情は設定されていたがあくまで()()……それを行動原理に出来るとは。

如羿(じょげい)に近いものを感じるな」

 

 そんな感じで、おおむね太陽達にとっては山海9000の狼狽はおよそ好意的に映っていたようである。

そして彼らの脳裏にもまた、(せい)と言う誰かの名前がしっかりと刻まれた瞬間だった。

 

 

 ―― その後山海9000は、今度は太陽達も集まっているタイミングを選んで再びその前に歩み寄る。

言語モジュールの破損によって片言による拙い言葉ではあったが、その内容は確かに事態を動かした。

 

 

『ワタシ 鍵探す 手伝う。猫弈(みょうえき) 手掛けたもの 調べる。

……おそらく、石板 残されている。猫弈(みょうえき)の 石板』

 

 

 ―― 情報回路の片隅にあった映像記録を分析して得た、ある意味もう一つの書の所在であった。

*1
風評被害。

……と言いたいけど、世に溢れるネッ広モノを見ると何とも否定し難い。

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