事務所の奥、1枚扉を通ったその先には近代的な研究施設のような装置が並んでいる。
最新式のバトルフィールド、それも複数、どれだけ金をかけたんだ? ここ。
三歩先で若頭とスーツ姿のトレーダーが話し合っている。一見仲睦まじげだが、目が笑っていない。
「約束は守る、この紅蓮組若頭、
「ええ、もちろん、負けた際には、私にできうる限りを、ただ勝敗がついてない今、それがあるかどうかも、確証は致せませんね」
トレーダーがバトルフィールドの向かいに立ち、装置を操作する。ついで起動したスクリーンに青い光が灯り、展開していく。
「お相手はアクトさんがしていただけるので?」
「おう! もちろんよ! ……と言いたいところだがな、今回はコイツだ」
トレーダーの問いかけに若頭が答え、オレの肩を掴む。
紹介に応じ、サングラスを外して黒服を脱ぎ、シャツ姿でトレーダーの対面に立った。
「おや、アクト様はバトルを好まれるように記憶しておりましたが」
「オレもできることならそうしたいんだが、手の内がバレてるし、デッキを変えようにもあいにくオレの共鳴は
「
赤髪にクシを通し髪型を整えながら、眼前の
若頭曰く、底の読めねえヤツだそうだが……見た限り覇気も精霊も感じねぇ、大会や組へのカチコミで蹴散らせる雑魚って感じ。
「こちらのカードショップで店主を務めております、私のことはなんなりと、お好きな名前でお呼びください」
本当にコイツが例の都市伝説か? オレには生け好かねぇただのメガネにしか見えねぇよ。
「ドレッドはオヤジに拾われたガキでなぁ、大会で何回も獲ってる、つええぞ、コイツは」
「それはそれは、非才の身には恐ろしい限りで」
「んじゃぁ、バトルの部外者は隅で見てらぁ、ドレッド、頑張れよ」
「うす」
いけしゃあしゃあと世辞を並べるトレーダー。言葉が軽いんだよ、オレはコイツが嫌いだ。
若頭がオレに言葉を投げて、壁際に向かう途中、不意にオレの肩を引き寄せ、耳打ちする。
「どう思う?」
「どうもこうもねぇっす、楽勝っすよ」
「だといいがな、まぁ、気をつけろよ」
若頭が離れる。
─────────さぁ、
左手を振ってボードを展開
デッキホルダーから取り出したメインデッキをボードのデッキカセットにセットし、ライフデッキホルダーからの取り出したライフデッキをもう一つのデッキカセットにセット。
低い唸り声とボードのラインに沿って脈動するように青白い線が走る。
「初心者かよ」
呟き、少し後、やっとデッキセットが終わったヤツと視線を交わす。
「スタンバイは完了していますか?」
「おう、あんたより前にな」
「申し訳ない、ボードはあまり使わないもので、手間取りました、では始めますか」
「いいぜ、どうせ勝つのはオレだ」
「私も勝てるように頑張りますねっと」
トレーダーがバトルフィールドの液晶を操作すると、オレとヤツの間にあるデカい画面から移り変わり、文字を表示する。
『LIFEBATTLE』
『Ready……』
『Fight!!』
ポーン。バトルボードが勝負の先駆けを告げる。
オレは後攻か、まぁいい。
「この勝負、5ターン以内に殺してやるよ」
「先行をいただきます、さて、先行はドローはしないんでしたよね」
ノロノロと手札を揃える敵を前に手札を見る。悪くない、あとは敵の動き次第。
「ライフデッキから引いた土地カードをセット、では1コストクリーチャー、<血色の墓堀り>を召喚します」
「……へぇ」
相手の場に赤黒い色に汚れた布を纏うゾンビのような顔色の男が召喚される。その男はそのまま手にしたスコップを
「召喚時効果を発動します、自身に1点ダメージを与え、さらに自身のメインデッキトップ1枚を墓地に送ります」
言葉と共にライフデッキから1枚がセットされ、デッキから1枚が墓地へ、墓地へ行ったのは<血色の墓堀り>、同カード。
自傷することによるコスト加速と墓地肥やしをする上、パワータフネスはコスト相応の1/1。
「いいカードじゃねえか」
「ですね、運がいい日のようです、ではターンエンドで」
「らしいな、オレのターン、ドロー、土地をセット……」
いいカードだ、ランプとしては理想的、だから、そう、オレもそうするわ。
「<血色の墓堀り>を召喚」
「おや……」
1点自傷、セットされた土地は2枚になり、デッキトップから1枚墓地へ、<
「どうやら運がいいのはオレの方もらしい」
「ふふ、そのようで」
「同テーマ対決なら負ける気はしねえ、覚悟しろよトレーダー、ターンエンド」
トレーダーがメインデッキとライフデッキから1枚ずつ手札に加える、手札をちらりと目線をなぞり、こちらに向けた。
「さて、どうでしょうね」
トレーダーが土地カードを1枚セット、未だとくにこれといって特徴は無い、これで合計3コスト、動きがあるならここらだが……
手札から1枚のカードをこちらに向ける。
「手札から3コスト、通常魔法<デッド・オア・ライブ>を発動」
……! 知らないカードだ、だがオレもそこまでカードを熟知しているわけじゃない。
後方の若頭を横目で見ると、口元に手を当て、食い入るようにカードを拡大された画面を見つめている。
「この魔法は二つの効果から一つを選べます、私は②を発動し、ライフデッキから3枚まで選んで墓地に送る。今回は3枚。そして墓地に送ったカードと同数をライフデッキからレディ状態でセットできます」
流れるように効果が発動され、トレーダーのライフが大きく削れる。
なるほど、ライフを削ったコスト加速、それも<血色の墓堀り>より強烈な。
これ1枚で墓地に送った3点とセットした3点、合計6ダメージを負う代わりに、土地カードを増やす、しかもレディ状態ということは、置いた土地はそのまま使える。実質的に<デッド・オア・ライブ>は0コスト。
強い、が、あまりにもピーキー、わかっているのか?
初期の2ドロー、<血色の墓堀り>で1点、2ターン目の1ドロー、そして今の6点。全て合わせてすでにお前のライフは10点、2ターン目にして半分になっている。
こりゃ5ターンもかからねぇかもなぁ?
「ずいぶん生き急ぐんだなァ、アンタ」
「ええ、まぁ、商売人は何事も鮮度が大事と申します。さて、増えた3コストを消費して────
────3コスト、通常魔法<デッド・オア・ライブ>を発動、再び②の効果を使用します」
「何?」
バカかコイツ、すでにライフが10点でこれ以上減らせばどうなるかわかったもんじゃ
「ライフデッキから3枚墓地へ、同数の3枚をセット」
「……正気か?」
トレーダーライフ、残り4点。あまりにか細い残りのライフで男は手札を手繰る。
「さらに増えたコストを使います、2コスト、クリーチャー<
「……オレのターン、ドロー、土地カードをセット」
相手の場に増えた1/3のクリーチャーを前にしながら、考える。
さて、どうする、どう見ても異様だ、何か考えがあるのか? 整理しよう。
相手のライフは残り4点、ターン開始時のドローもあるので実質3点と言ってもいい。このターンで3点削れば勝ち。
相手にターンは返したくない、次のターン、トレーダーの総コストは10だ、勝負を決めに来るだろう。
気がかりなのは相手が残した1コストだが、何の妨害をしてくるのかはわかる。
トレーダーがセットしている魔石<石壁>、これは1コストを支払うことで効果ダメージを1度無効化できる。
その他の妨害は、考えづらい、相手の手札がそもそも少ないのだ。
「オレは手札から<
2コストで赤や黄色でスプレーアート模様に装飾が施された戦艦が空に浮かぶ。0/4のそのクリーチャーは艦載機を撃ち出し始める。
「召喚時効果でオレは手札から更にライフカードをセットできる、オレは魔石<スタンピード>をセット、セットした<スタンピード>を起動!」
「効果により<スタンピード>を墓地に送り、さらに残りの1コストを支払いフィールドのクリーチャー全てに+3/0修正を与える。」
これで<血色の墓堀り>は4/1になる、リーサル打点には届いた。
「さらに<
飛行は飛行を持つクリーチャーにしかブロックされない、これで相手クリーチャーは無問題。
トレーダーの<石壁>は効果ダメージにしか適用されず、戦闘ダメージには対応できない。
「いくぜ……!」
「どうぞ」
「<血色の墓堀り>でアタックをする……が」
「…………」
「…………おい、通るのか?」
「…………? ああ、そういうの、いやぁ、バトルに慣れてないのでどうにも申し訳ない、対応はありませんよ、どうぞ」
いやに調子が狂う、だが対応が無いのであれば勝敗は決したな。
「チッ、結局なんでもない雑魚だったな、<血色の墓堀り>でダイレクトアタック、オレの勝ちだ」
『Booooooo!!』
「は?」
『ダイレクトアタックできません、攻撃対象を変更してください』
ライブに来なきゃ殺しちゃうよ~?なんてね!またね!待ってるよ!
デッド・オア・ライブ