「アクトのアニぃ……すんません」
「なんだ、まだ気にしてんのかドレッド、ラーメンでも食うか?」
繁華街を歩く2人、周囲の人間は避けて通る。それもガタイがよく、顔に傷をつけた男が先頭とあれば自明だろう。
鼻歌を歌い、妙に機嫌が良さそうにも思えるその男の後を、俯きがちに部下らしき男が通る。誰がどう見てもその筋の人物、下手に関わりたくはない。
「それでっ……その」
「ん? なんだ」
「聞いていいかわかんないんすけど……」
「オレ……が、負けた時の条件ってなんなんすか?」
「あー、あれな、まぁ、飯でも食いながら話しようや」
前の男、紅蓮組若頭、紅蓮悪斗が中華料理屋に入るのに続き、朱智ドレッドも暖簾をくぐる。店内に人は少ない。
「ラーメン二つ、なんか追加するか?」
「あっ、いえ、オレは……」
「遠慮すんなよ! 店長、餃子と……あとチャーハン追加で」
カウンター奥からの「あいよ」という返事を聞きつつ席につく。セルフのお冷を注ぎ入れ、渡されたそれに口をつけたアクトは何気なく口を開く。
「俺たちが負けた際の条件、それは調査だった」
「調査?」
「ああ、それこそヤツの使ったソレ、あるいはソレに似た、誰も知らないモノを、使ってるヤツがいないかどうかの調査だ」
ぼかされているが、ドレッドにはわかる。つまりヤツ、トレーダーが使っていた未知のカード達のことを指している。
伝説のカード、レガシー、この世には、様々に語り継がれる強力のカードがありながら、それはどれとも違う。
未知、あるいはより勝負の前提が変わった、未来のような───
「しかし、それでなんでその、なんていうか、アニキは機嫌が良さそうなんです?」
「ああ? わかるか? まずいな、気を引き締めねえと……」
アニキは両頬を叩き、気持ちを切り替えながら、顎に手を当てる。その姿は先日のトレーダーにダブる。アニキはよく相手のクセを真似るクセがある。そうすることで相手の気持ちになるのだというが、オレにはよくわからない。
「なぁに、つまり調べさせるってことは、他に存在するかもしれないってこと。トレーダーの入手経路によるものか? それともなにか掴んだのか? それとも奪われたか? なによりなにかを懸念してる、それは確か」
「なるほどっす……」
「まて、メモにはとるな、他に知られたくない」
「う、うっす!」
アニキの声がオレに対する返答から段々と自問に変わる。こういうときにあまり邪魔をしてはいけない、メモをとってはいけないそうだ、頑張って覚えよう。
「…………」
「ともかく、他にあるならそれをぶん取れるかもしれないっすね!」
「……まぁ、そうだ、トレーダーには発見したら即報告を言われているが、場合によってはブッチする。発見次第、俺たち紅蓮組は全力で未知のカードを獲りに行く」
「おお!」
しばらくの沈黙を破り、出した結論を支持して声を上げた。これは大仕事になる、そんな気がする。タイミングよく来た料理に割り箸を手に取りながら、胸に期待感を抱き手を合わせた。
「これからは人手も要るしお前にも存分に働いてもらうからな、落ち込んでる暇はねぇぞ、飯を食って力溜めとけ」
「うっす! いただきやす!!」
勢いよく啜り上げ、火傷をしながら麺をかきこむ。熱くて美味い。昨日の短くも熱い戦いを思い出す。全てを誘導する力場を放つ機械が、一息で消せそうな命で何度も踊る吸血姫の歌が頭をよぎる。
「つぎは絶対勝ってやる……! んぐっ!? ん゛ん゛!?」
「オイぃ、ドレッド、飯食えとはいったが急いでかきこむと詰まるぞってあ~あ~」
昨日の敗戦を散らすように、日々は流れていく。
さて、あのあとのことを説明しよう。
自身の鉄砲玉のドレッドさんが負けたにしては、アクトさんは妙に晴れやかな表情で、負けた際の条件を約束し、帰っていった。
まぁこちらとしても、ヤクザ屋さん相手に、あまり圧倒的に勝ちたくないから、自傷系のデッキでライフ差自体はかなり接戦を演出できたつもりだ。満足してくれなきゃ困る。
「いやー、それは甘い考えだと思いますけどねー? てーんちょー」
「私にできることはやったつもりだけどね」
アクトさんが座っていた来客用のソファに座る、ミレイさんに事の仔細を伝えると、そう言いながら欠伸を一つ噛み砕いた。
来客の無い時間だからといって座るなよ、まぁいいけど。
彼女はこの店のスタッフだ、まぁ普通のショップ店員と同じくして、カードの展示を手伝ったり、仕入れをしたりする他、この世界での常識なり、この世界基準での知識の仕入れ先だったりする。名うての元裏カードファイター(自称)、らしい。
裏カードファイターがなんなのかは知らない、なんなら表カードファイターがなんなのかも正直わからん。なんか店の立ち上げ前にバトルして勝った条件にバイトで雇った。その時はまだやっていたそうだが。
「結局4ターンでノされたわけでしょー? その子、カワイソー、ほぼ何もさせてもらってないじゃん」
「それでも結構動きはよかったし、私も何回か倒されそうにはなったよ」
「それよそれ! 何回か倒せるチャンスはありそーなのに結局何も出来てない。あげくラストターンに目一杯の妨害を貫通されて、自分で宣言した5ターン未満で決着って、タハー! アタシなら恥ずかしくて死んじゃいそー!」
「君もそう大差ないでしょ」
「んもー! てんちょーデリカシー無さすぎ! ってか見る目ないよねー! ほーんと、こぉーんなに精霊に愛されてる女中々いないのにさー、はーああ、いーもん! 掃除してきまーす!」
「ぜひそうしてください」
結局精霊やら共鳴率やらもよくわかってないし……まぁ、いいや、自分には関係のない話。俺は俺の身を守ることだけを第一に考えよう。
今日も朝のカードチェックに欠けはなし、昨日一応で紅蓮組が来るから対応準備をお願いした警察の方々に賄賂とカードを少々流して、事後処理完了、委細問題なし。
「それで? てんちょーはそのヤクザ屋さん達に何をお願いしたんですか?」
「ミレイさん、掃除は?」
「いーまやりながら聞いてるんですよぉ!」
「できれば私語なしで業務に集中してほしいけどね」
「集中するほど広くないでしょウチはさぁー」
ご尤も、まぁそれでも俺の守るべき城なわけだから、怠ってほしくはないわけだけれども。
「まぁ、ちょっとした探し物ですよ」
「探し物ってなんですかぁ?」
「君もヤクザのイザコザに首突っ込みたくないでしょ、やめときな」
「てんちょーちょくちょくアタシのこと舐めてますよねぇ、アタシ昔はチャイニーズマフィアに雇われたことだってあるんですからねぇ!!」
ほんと謎だな、なんなんだ裏カードファイターって。まぁ、ホビーアニメによくありがちなヤツだったりするんだろうか、そこら辺は見てないからよくわからない、前の世界の俺にとってはたまに遊べる商材でしかなかったし。
「私にはそんなスーパーガールもカードショップに通う少女も見分けがつかないもので、申し訳ない」
「それはてんちょーの力の物差しが大きすぎるからでぇ、なんとかなんないかなぁ! この節穴ぁー……」
「物差しなんて大層なものはありませんよ、私ただのトレーダーですので」
「うそつきー……」
背後からジト目の視線を受けながら、懐から取り出した1枚のカードを、ハンカチで丁寧に磨く。
前の世界との縁は、自分を除けばコレだけしかない。くれぐれも大切に。いつか元の世界に戻る手段が見つかればよいが。それが見つかるまで、この日常が続くことを祈ろう。
果たして、俺の
買いあげるだけの金額を、その手に持ち続けられることを願って。
ご覧いただきありがとうございました。
続きは気が向いたら作るかも。