なぜ出久とお茶子たちが知り合いなのか、が書いてあります。
ヘドロヴィラン事件から数週間が過ぎ、ゴールデンウィーク直前。
出久の級友たちも連休に思いを馳せているのか、
教室にはどこか浮ついた空気が広がっていた。
出久自身も、
日々トレーニングと学業――時々オタ活――に明け暮れている。
とはいえ、せっかくの連休をどう使うべきかについては、
少しばかり悩んでいた。
そこで勝己に、
トレーニングと勉強以外で何をするのか尋ねてみたところ、
「俺は登山だ。」
と、至極まっとうな趣味が返ってきた。
「あ? 一緒に行ってみようかな、だと? 初心者がいきなり慣れてる奴のハイレベル登山に参加すんのはリスクが高ぇ。装備もねぇだろ。やってみてぇなら夏だ。人混みさえ気にしねぇなら、それこそ整備が整ってる分、富士山なんかは初心者でも登りやすい。それに向けたトレーニングをすんなら――」
「カッちゃん、めっちゃ喋ってたなぁ……。」
勝己との登山は、ひとまず諦めた。
そうして連休の予定を決めかねていた出久のもとに、
一本の電話が入る。
着信画面には――『お茶子さん』の表示。
ーーーーー
『もしもし、デクくん?』
「あ、お茶子さん! 久しぶり。いつもはメッセージだけど、電話なんて珍しいね。何かあった?」
『えっとな、今度のゴールデンウィークに、デクくんたちが住んでる地域の近くでA.Tのイベントがあるんよ。お父ちゃんたちが会場設営でそっちに行くことになってな。』
「へぇ、知らなかった。近くでA.Tのイベントやるんだ。」
『うん。初心者・子ども向けのイベントなんやけど、経験者が一人でも多く参加してくれるだけで助かるって、お父ちゃんが言ってて。私と明ちゃんも、運営スタッフの補助として一緒に行くんよ。だから、デクくんたちも来られへんかなって思って。』
「わかった。ぜひ参加させて。詳しい集合場所とか時間が決まってたら教えて。あ、でもカッちゃんは登山に行くって言ってたから、来られるか分からないや。」
『うん、資料送るね。爆豪くんには、この後うちから連絡してみるわ。私ら、会場準備日も入れて三日間はそっちにいるから、よろしくね。』
「ありがとう。楽しみにしてる。それじゃあ。」
通話が終わり、出久は毎度のように思う。
「……通話だと、女子の声が耳に近い」
相変わらずのクソナードである。
ーーーーー
イベント準備日。
「こんにちは。今日はよろしくお願いします。」
「やあ出久くん、久しぶりやな。今回はほんま助かったわ。イベント当日だけやなく、準備まで手伝ってくれるなんて。」
「あ、お茶子さんのお父さん。お久しぶりで――。」
「お義父さんか。バッチこいや! 君ならお茶子を任せられ――」
ズガッ!
「ぐふっ。」
「良い蹴りが!?」
「デクくん、直接会うんは久しぶりやね。今日は来てくれてほんまありがとう。」
「あ、いや、お茶子さん。お父さん大丈夫?」
笑顔から繰り出されたお茶子の蹴りを受けた麗日父は、
そのまま地面に沈んでいた。
それでもなお、血文字で何かを書こうとする。
『孫は三人くらいが――』
ズガッ!
『…………』
完全に沈黙した。
「ん? 何かあったん?」
「何にもありません!」
笑顔のお茶子さんが一番怖い。
触らぬ神になんとやら、である。
「さ、さっそくだけど、今日僕は何をすれば――」
「はい! 出久さんには、私が作ったこの会場ベイビーの強度や難度が安全基準を満たしているか確認するため、お茶子ちゃんと一緒にテスト走行をしていただきます!」
「うわっ!?」
出久の脇からぬっと現れたのは、自他ともに認める天災中学生、発目明である。
「びっくりした……明さん、久しぶり」
「はい、お久しぶりです! 早速ですがテスト走行をお願いします。A.Tのメンテは欠かしていませんね? いませんか、分かりました。でも念のため、テスト走行後にチェックして、もう一度テスト走行して、メンテ前後でA.Tの調子を確認しましょう。そうしましょう。それではテスト行きましょう。お茶子ちゃん、出久さん、ゴー!」
ズガッ!
「ぎゃん!?」
「わっ!?」
「明ちゃん、一回ステイって……」
至近距離で出久にマシンガントークをかましていた明が、お茶子のツッコミによって前のめりに倒れる。
それを咄嗟に支えようとした出久も、勢い余って後ろに倒れ込んだ。
つまり――。
「ああ、出久さん。いつもクッションありがとうございます。ところで、どうしてあの角度で倒れて、出久さんの顔が私の胸の位置に来るんですか?」
ラッキースケベ発動である。
どんどんカオス化していく出久の周囲をよそに、作業員やバイトの皆さんの心は一つだった。
「「「「早くテストしてくんないかなぁ……。」」」」
まったくである。
ーーーーー
「はい、オッケーです。今のコースでラストですね。B・E地点の坂は初心者には難度が高そうなので、傾斜を下げます。H・K地点のカーブは速度の出し過ぎに注意する看板を設置し、常に監視員を配置した方が良さそうですね。安全第一。怪我なくイベントを終えられるようにしましょう。それでは皆さん、作業をお願いします。」
「「「「ウース。」」」」
明の的確な指示のもと、作業員たちはコースの調整へと移っていく。
指示を出し終えた明は、出久たちのもとへ戻ってきた。
「お二人ともお疲れ様でした。テストは問題ありません。色々考えてみましたが、この後に調整して、再テストまでしていたら普通に真夜中になるので、やっぱりやめましょう。」
「あはは……そっちの方が良いね。」
明のあっさりとした手のひら返しにも、お茶子はすっかり慣れたものだった。
苦笑しつつ、タオルで汗を拭いている出久にお茶を渡す。
「デクくんもお疲れ様。到着してすぐテストになってもうて、ごめんね。」
「いやいや。作業を手伝うつもりで来たのに、A.T専用のコースを実質貸し切りで走らせてもらって、逆になんだか申し訳ないよ。こんな機会、滅多にないから、少しはしゃいじゃったし」
「確かに出久さん、『ひゃっほー!』とか叫んでましたね。」
「僕、そんなことしてたの?」
「はい、してました。ただ、素晴らしいデータも取れましたよ。このデータによると、今の出久さんの実力なら、すぐにでもA.T業界のトッププロの仲間入りです。高校を卒業する頃には、数千万円は稼げますね。」
「そんなに稼げるん!?」
お金の話題に、つい食いついてしまうお茶子。
「A.Tも認知度が上がってきとるんやな。超人社会になってから廃れてもうたスポーツより自由度が高い、ってのもあるんやろ。サイズや身につける箇所も割と自由やし、最近はA.Tのイベントも増えて、国際大会なんかも開催されとる。おかげで仕事が増えて大助かりや。ただ、出張が増えて母ちゃんはちょい不満そうやけどな。」
麗日父が苦笑する。
それを見て、出久も小さく笑った。
「A.Tを正しく知ってくれる人が増えるなら、僕も嬉しいです。」
「そうやな。ところで、我が未来の義息子に――」
「お父ちゃん?」
にこり。
「いっ……出久くんに、一つお願いがあるんや。」
「お願いですか?」
「おう。最終日の昼過ぎに、元々はプロのA.Tダンサー――A.T専門のイベントダンサーやな。プロのスケート選手たちと同じように、ショーを本業にしている人にライディングダンスショーをお願いしとったんやけど、怪我をしてしもうたらしくてな。」
麗日父は困ったように頭をかいた。
「ただ、その人がA.Tを世に広めることを生き甲斐にしてるような人で、怪我を押してでも出るって聞かへんのや。こっちで代役を立てる言うても、『自分レベルの人間がそんな簡単に見つかるかー!』ってな。」
「それは……大変ですね。」
「で、つい出久くんの話をしてもうてな。一部のA.Tライダーから都市伝説扱いされとる出久くんが代役を引き受けてくれるなら任せます、って言われたんやけど……どうする?」
「しょ、ショーですか……」
いきなりの話に、出久は明らかに腰が引けていた。
「もー、お父ちゃん。無理言ったらあかんて。どうしようもなかったら、私が代わりに出るって言うたやん。」
「そうですよ、パパさん。出久さんは勝己さん曰く『クソナード』で、ある種メンタルがミジンコなので、人前でのショーはハードルが高すぎます。」
「否定できないけど、言い方がひどい……」
お茶子と明の、擁護なのかディスりなのか今ひとつ分からないフォローを受け、出久は少しだけ安心する。
これでやらずに済むかもしれない。
そう思った、その時だった。
「せやけど、前に出久くんが走って技を出しとるのを見たことあるけど、炎とか出てめっちゃ派手やん。」
「それは……」
ちらっ。
「そうですね。」
ちらっ。
「二人も、出久くんがショーでカッコよく走る姿、見てみたくあらへんか?」
「それも……」
ちらっ。
「そうやね。」
ちらっ。
風向きが変わってしまった。
出久はそう感じた。
そして――。
ーーーーー
二日後。
「ご来場の皆さん、二日間にわたるA.Tイベントはお楽しみいただけましたでしょうか? 本日最後のプログラムでは、プロA.Tダンサー・鳥久拡女さんによるライディングダンスショーを予定しておりましたが、ご本人の怪我により、急遽演者が変更となりました。」
「えー、鳥久さんじゃないのー?」
「せっかく観に来たのに残念。」
「金返せー!」
「本イベントは入場無料です。」
「すんません。」
観客の野次に対し、司会は冷静に対応していく。
「今回登場してくれるのは、鳥久さんが『彼らならば!』と代役に推薦した凄腕A.Tライダーたちです。素晴らしい演技を、どうぞお楽しみください。」
司会の言葉に続き、舞台袖からリンクへ出てきたのは、二人のA.Tライダー。
炎の仮面を被った少年。
そして、風をイメージした仮面を被った少女。
音楽は流れない。
静寂の中、炎の仮面の少年がゆっくりとリンクを回り始める。
やがて、A.Tのウィールが淡く発光した。
光は徐々に強くなり、熱を帯び、最後には炎へと変わる。
「わぁ、すごい……。」
「あれって、ネットで噂になってるやつじゃん。」
「都市伝説じゃなかったのか?」
「でも、目の前で実際に燃えてるし……」
「「「「炎の道!!!」」」」
観客の反応をよそに、いつの間にか風の少女が炎の少年の隣を駆けていた。
炎の少年のA.Tから炎が噴き出す。
その傍らで、風の少女の足元からは、炎を運ぶ優しい風が舞い上がる。
「「「わぁ……!」」」
イベントで初心者体験を受けていた子どもたちが、思わず感嘆の声を漏らした。
優しい風に運ばれた炎は、まるで光り輝くカーテンのように煌めき、観客の頭上を照らしていく。
「ゼロ・グラビティ!」
「ウイング・スマッシュ!!」
炎の少年が、先ほどまでの演出とは比べ物にならないほど力強い炎を放つ。
それは、まるで巨大な翼。
炎の翼が風を生み、少女の体を宙へと運んだ。
風の少女は、本物の妖精のように――重力から解き放たれたかのように空を舞う。
いや。
本当に解き放たれているのだが。
「解除。」
「フェザー・スマッシュ!」
次に炎の少年が、移動しながら鋭く蹴りを繰り出す。
その蹴撃から、羽一枚分の炎が連続で射出された。
炎の羽は最初こそ勢いよく飛んでいったものの、やがて速度を落とし、ちょうど風の少女の足元へと届く。
ステップ。
ステップ。
ステップ。
風の少女は炎の羽を足場に、リンクの上空をゆっくりと跳ねる。
踊るように。
歩くように。
空中を舞台にして、軽やかに舞い続ける。
高度が少しずつ下がっていく。
あと少しで地上に着く――そう思った、その直後。
「フェニクス・スマッシュ――トルネード!!!」
風の少女のもとへ戻った炎の少年が、今日一番の火力を発生させる。
炎の渦が二人を包み込んだ。
次の瞬間。
炎は一瞬で消え去り、リンク上にいたはずの少年少女の姿も消えていた。
「……す、すげええええええ!!」
「何今の、最初から最後まで美しすぎる〜〜〜!」
「風と炎の共演、尊すぎる!」
「金は、金はどこに支払えばいいんだ!?」
「本イベントは入場無料です。」
「課金させろよ、この野郎!」
A.Tイベントは、最高の盛り上がりと共に幕を閉じた。
ーーーーー
「芸能プロダクションの者です! あの二人のステージを、ぜひ世界に届けましょう!」
「ヒーロー新聞社です! あの演者二人にインタビューさせてください! 必ず一面丸々確保してみせます!」
「次の公演はどこでやる予定ですか!? ぜひ、ぜひうちのステージでも公演を!」
騒ぎが収束するまで、三時間以上かかったとか。
ーーーーー
「「めっっっちゃ、緊張したぁー!」」
先ほどまで演技を披露していた二人は、汗だくになりながら仮面を外し、そのまま床に座り込んでいた。
「お二人ともお疲れ様です。はい、スポドリです。タオルです。他に必要なものはありますか?」
明が二人に必要なものを手渡し、労わっていく。
「ありがとう明ちゃん……ああ〜、生き返るわぁ〜。」
「明さん、タオルありがとう。」
慣れないことをしたからか、実際に動いた時間以上の疲労を感じていた。
それでも二人の顔には、疲労以上の達成感が浮かんでいる。
「簡単な演技の指示だけで、よくあれほど素晴らしい演技を披露できましたね。練習時間も、あってないようなものでしたし。」
明は素直に称賛した。
だが、当の二人は首を横に振る。
「いや、本当にすごいのは鳥久さんだよ。」
「ほんまそれ。私らができることを聞いただけで、すぐ演技内容を考えてくれよったし。」
誇ることもしない二人に対し、明は内心でため息をつく。
A.T業界で都市伝説扱いされている炎の道の使い手と、本物の風の道の使い手が、自分の指示通りに演技してくれる。
鳥久からすれば、涎が出るほどの展開だったに違いない。
そりゃあ気合いも入る。
本当に凄いのは、その要望すべてに応えきったこの二人なのに。
そんなヤレヤレとした心情は表に出さず、明は二人に休憩を促した。
「会場の片付けはこちらでやっておきますから、お二人は休んでいてください。」
「「はーい。」」
間延びした返事を返した二人は、部屋に置かれた大きめのソファーの両端に座り、そのまま体を投げ出した。
「あかーん……このまま寝てまう〜。」
「疲れたけど、得難い体験だったねぇ……。」
疲労困憊。
強烈な睡魔に襲われている二人は、寝ぼけながらも会話を続ける。
「この三日間、久しぶりに……デクくんと走れて……ほんとに、たのし……かったわぁ……。」
「うん……ぼくも……お茶子さんの、風を……感じながら……走れた……。」
お茶子は薄ぼんやりとした意識の中で思う。
私もやけど、デクくん、本当に寝ちゃいそうやな。
その時だった。
「今日の……お茶子さんは……いつも、かわいいけど……。」
「……ん?」
「きれい……だった……すぴー。」
緑谷出久、中学三年生。
自宅から会場まで電車で移動したため、本日の起床時刻は午前五時半。
さらに昨晩はショーに向け、ギリギリまで自身の動きをシミュレーションしていたため、就寝時刻は午前二時。
睡眠時間は三時間半。
完全な睡眠不足である。
一方、麗日お茶子、中学三年生。
好きな相手と二人きりの状態で「綺麗だった」発言を受け、嬉し恥ずかしの完全キャパオーバーである。
お茶子は投げ出していた体を起こし、両手で顔を覆った。
「……ワーーーーーーー!!」
心の中で叫ぶ。
眠気は一瞬で燃え尽きた。
「良かったですね、お茶子ちゃん。」
「え!? なっ!? あっ……!」
大声を上げかけたお茶子だったが、出久を起こしてはいけないと思い直し、慌てて声を抑える。
いつの間にか戻ってきていた明と、小声で話し始めた。
「明ちゃん、なんで戻ってきたん? 片付けは?」
「会場が片付けどころではなさそうだったので、戻ってきました。」
ーーーーー
会場は大混乱。
芸能・メディア勢等 VS お茶子パパ&作業員の大激突が勃発していた。
最終的には鳥久さんが、
「未来ある若者たちをウンタラカンタラ」
「A.Tの未来のためにも穏便にスンタラカンタラ」
と場を落ち着かせ、ことなきを得たのであった。
ーーーーー
「さてと。」
明がソファーの中央に座る。
そして眠っている出久の体をそっと引き寄せ、自分の膝の上に頭を乗せた。
いわゆる膝枕である。
「ちょっ……。」
「なんですか、きれいなお茶子ちゃん?」
「うー……。」
お茶子は明の行動に驚いて声をかけようとしたが、先ほどの件を持ち出され、一瞬で勢いを削がれてしまう。
「私も会場設営から初心者用A.Tの準備、お二人のA.Tを演技用にするためのメンテ、身バレ防止の外装偽装などなど、頑張って疲れたんです。これくらいのご褒美があっても良いと思うのです。」
「うー……そら、そうやけど……。」
「はい。ですから、お茶子ちゃんはこっちです。」
明が自分の肩を指差す。
「えー、明ちゃんも疲れとるんやし、流石に――。」
「パパさんとママさんに、さっきの件を報告しますよ?」
「失礼しまーす。」
ポスッ。
お茶子の頭が、明の肩に乗った。
明は出久の頭を撫でながら、静かに言う。
「私は皆さんのように、A.Tを自在に扱って速く走ることも、空を舞うこともできません。でも、皆さんが自由に走るための救けにはなれていると思うんです。」
少しだけ、声が柔らかくなる。
「だから、今回みたいにいっぱい頑張った時は、ご褒美をもらいたくなったりもするんですよね?」
そう言って、明はお茶子の方へ少し体重を預けた。
「これがご褒美なん?」
「はい! ご褒美です!」
膝に、肩に。
大好きな人たちの重みを感じながら、発目明は優しい笑みを浮かべるのであった。
出久たちの休日が、ゆっくりと終わっていく。
ーーーーー
追記。
「……一体、この状況は。」
明に膝枕され、すぐ隣ではお茶子も眠っている。
二人とも穏やかな寝息を立てており、出久は自身の状況に猛烈な恥ずかしさを覚えて飛び起きかけた。
しかし、気持ちよさそうに寝ている二人を起こすのは忍びない。
結果、動くに動けなくなった。
何もできないまま、麗日パパが様子を見に来るまで、出久は少女二人の寝息を聞き続けることになったのである。
ーーーーー
追記の追記。
Q. 二徹、三徹が当たり前の明ちゃんが、どうしてあれくらいの作業でご褒美を欲しがったの?
A. ご褒美というより、ただ甘えたかっただけです。しいて言うなら、コース作りよりもA.Tそのものを弄っている方が楽しいのですが、初心者用A.Tは弄るところが少なくてつまらなかったので、不貞腐れていたのかもしれません。
Q. 結局、爆豪勝己くんはイベントに来なかったの?
A. 初日の初心者教室には参加してくれました。意外と面倒見が良いので、やんちゃキッズに大人気でした。最終日は家族で出かける予定が事前に入っていたため、不参加でした。
ーーーーー
Question
明ちゃんは、どうしてお茶子ちゃんたちと一緒にいたの?
Answer
中学二年生の夏。
私の家族はA.T開発に大きく関わっていたため、ある特別なA.Tアイテムの在り処を知っているのではないかと、ヴィラン組織に襲撃されました。
その時、父と母が亡くなり、私は祖父と共に誘拐されました。
個性がA.T開発に役立つから、という理由で同じく誘拐されていたのが、お茶子ちゃんです。
祖父の救けもあり、なんとか私とお茶子ちゃんは逃亡に成功しました。
その時、私は祖父から謎のアイテム――『キー』を預けられました。
逃亡中に出会ったのが、A.Tの練習に励んでいた出久さんと、その出久さんにちょっかいを出していた勝己さんです。
その直後、ヴィランたちに追いつかれ、絶体絶命になってしまいました。
ヴィランの一人は組織の幹部だったのですが、話の流れで、祖父から託されたキーが全てのA.Tを繋げるネットワークへのアクセスキーであることを教えてくれました。
寡黙そうなのに、よく喋る方でした。
出久さんのA.Tにそのキーを差し込んだところ、かつて存在した高レベルA.Tライダーの記憶が、出久さんの脳に流れ込みました。
最初、出久さんはあまりの情報量に気絶してしまいました。
しかし脳内でかつてのライダーさんと対話を行い、力を手に入れた出久さんは、もう一度立ち上がってくれました。
出久さんは炎と風に高い適性を示し、ヴィランたちを撃退してくれました。
私は勢いのまま、出久さんに祖父の救出を依頼しました。
その時、出久さんが命を燃やしながら戦っているとも知らずに。
救出作戦は、出久さん、お茶子ちゃん、私、そしてヴィラン相手にリベンジする気満々の勝己さんの四人で実行しました。
敵のアジト、その研究室では、戦闘特化型A.Tが製造されていました。
そして、その戦闘特化型A.Tのオリジナルこそが、奴らの求めているものでした。
ちなみにそのオリジナルは、数年前に私が家で見つけ、興味本位で分解し、発明のためのお小遣い稼ぎにジャンクショップへ売り払っていたため、もう存在していませんでした。
その説明をアジトのトップっぽい人にしたところ、祖父は大爆笑。
アジトのトップっぽい人は大激怒でした。
その後、祖父の救出に成功して逃亡しようとしたところ、幹部らしき人が戻ってきてピンチになりました。
勝己さんが突っ込みましたが、手も足も出ずに完封され、捕らえられてしまいました。
ついでに私も。
その後、お茶子ちゃんと出久さんが祖父と共に、今度は私たちを救けるため、A.Tの修行までして、アメリカまで助けに来てくれました。
しかし、せっかく救けに来てくれた出久さんたちの前に、勝己さんは敵対者として立ちはだかったそうです。
私ですか?
私は敵の施設で、記憶に残っていたオリジナルの戦闘特化型A.Tを再開発していました。
勝己さんは敵組織が開発した戦闘特化型A.Tと、技術のみが手に入る改良版のキーを使用し、出久さんを追い詰めていったそうです。
ピンチになった出久さんを救ったのは、彼のA.Tでした。
実は出久さんのA.T――市販品とジャンクパーツで構成されたカスタム品――には、私が売り払ったオリジナルの戦闘特化型A.T、その心臓部であるウィールが使用されていたのです。
だから、どこかで見たことがある気がしていたんですね。
オリジナルの戦闘特化型A.Tのウィールが作動し、装備の性能が互角になった二人の戦いは、さらに規模を増していきました。
最終的に出久さんが勝利し、勝己さんは気絶。
私も救出され、アメリカのアジトを脱出しました。
出久さんと勝己さんは脱出後、何度か喧嘩していたようですが、その喧嘩の中で、出久さんが自分の体や命を燃やして戦っていることが発覚しました。
すると、勝己さんを敗北させた敵の幹部が襲来し、戦闘になりました。
出久さんが応戦していると、勝己さんが、
「テメェにできて、俺にできねぇはずがねぇ!」
と叫びながら、例のキーを使用しました。
風の道に強い適性を示したそうなのですが、
「俺の道は俺が決める!」
とか叫んだかと思えば、爆破の個性と風の道を複合させた新たな戦い方を生み出し、幹部さんをスピードで上回って撃退に成功しました。
その後、私たちはアメリカで逃亡生活を送ることになりました。
敵組織には政府高官が所属していたらしく、アメリカのヒーローたちまでもが私たちを襲撃してくるようになったのです。
そんな襲撃が続く日々の中、金髪マッチョな女性に助けてもらってからは、ヒーローによる攻撃はなくなりました。
キャスリーンさん、元気でしょうか。
さらに、出久さんたちが出会ったアメリカで活動中の日本人ヒーローさんと、その恋人さんのおかげで、なんとか日本に帰る段取りがつきました。
恋人さん曰く、自分は愛人で、本妻は別におられるらしいです。
ただ、アメリカ脱出目前で、とうとう敵に捕まってしまいました。
敵の本拠地に着くと、敵のボスが登場しました。
その人は、
「AFOを倒すためには、個性に頼らない最強の軍隊が必要なのだ」
と、謎の力説をしていました。
AFO、誰?
敵組織が量産した戦闘特化型A.Tパワードスーツを着用した集団が街を襲い、ヒーローたちを蹴散らす光景を見せられました。
しかし、隙を突いて拘束を逃れた出久さんと勝己さんが、A.Tなしで大立ち回りを始めました。
それでも、例の敵幹部が戦闘特化型A.Tパワードスーツを着て現れ、二人を一蹴してしまいます。
最大のピンチ。
そう思った瞬間、捕まっていなかった祖父とお茶子ちゃんが、敵本拠地に突撃をかましました。
お茶子ちゃんも例のキーを使用し、純粋な風の王――いえ、女王?――として覚醒したようで、全てを吹き飛ばしながら登場したお茶子ちゃんは、本当に格好良かったです。
あと、日本人ヒーローさんもマジで強かったです。
最終的に、私が攫われていた時から開発を進め、逃亡中も設計やパーツ作りを行い、最後は組み立てを残すだけだった新型戦闘特化型A.Tを、祖父が完成させて持ってきてくれました。
私が完成させるはずだったのに、ズルい。
それを履いた出久さんが敵のボスと、勝己さんが幹部さんと、それぞれ激突しました。
ボスさんの姿が変わったり、幹部さんがギリギリまで個性を使っていなかったりで、激戦に次ぐ激戦となりました。
ですが最後には、お二人が大勝利を収め、私たちの夏の大冒険は幕を閉じました。
余談ですが、日本に帰る前、空港でキャスリーンさんと再会しました。
なぜか出久さんと勝己さんを連れて行ってしまいました。
フライトまで時間があったので問題はありませんでしたが、二時間後、二人がボロ雑巾のようになって帰ってきた時は驚きました。
「マスター以外で、個性を全力で使っている私に良いのを入れられる奴がいるとは思わなかった。それも二人も」
そう言って笑いながら去っていったキャスリーンさんを、お茶子ちゃんと二人で首を傾げながら見送りました。
日本へ帰国してから、父と母の葬儀を行いました。
出久さん、お茶子ちゃん、勝己さんも、それぞれのご家族と一緒に参加してくれました。
さすがに二ヶ月に及ぶ逃亡生活が体にきたのか、祖父は入院することになりました。
その後、私がどう生活していくかを親戚たちが話し合っていたのですが、私の奇行と性格を知っているあの人たちは、私を押し付け合い始めました。
その時、お茶子ちゃんのパパさんとママさんが言ってくれたんです。
「親を失った子どもの前で何をしとるんや! あんたらに、あんな良い子を任せられるか!」
「うちらが、その子の家族になります!」
気づけば、出久さんと勝己さんが私を庇うように前に立っていて、お茶子ちゃんがずっと私の手を握っていてくれました。
そんな状況になって、私は初めて、ちゃんと父と母の遺影に目を向けられた気がしたんです。
私は一人じゃない。
そう強く実感できたことで、ようやく父と母の死を受け入れられた気がしました。
思いっきり泣きました。
お茶子ちゃんと出久さんに縋りつきながら、思いっきり泣きました。
勝己さんも、黙って側に立っていてくれました。
泣いたら少しだけすっきりして、父と母をしっかり見送ってから、お茶子ちゃんのパパさんとママさんにお願いして、私を受け入れてもらいました。
養子には入っていないので、今でも私は発目明です。
お茶子ちゃんは「お姉ちゃん」と呼んでほしそうでしたが、誕生日的には私の方がお姉ちゃんです。
そんなこんなで、私はお茶子ちゃんたちと一緒にいます。
ーーーーー
「劇場版も真っ青な大冒険!?」
「そりゃ緑谷と爆豪、実戦慣れしてるわ。」
「明ちゃん、私たちも一緒にいるよー!」
「不謹慎かもしれなくて申し訳ないけど、クイーンお茶子、見てみたい。」
「おい緑谷! お前アメリカにいたなら金髪ボインを見てるな!? 感想、感想を教え――ぎゃあ!」
「キャスリーンって……え? スター?」
A組のみんなから、明ちゃんへの質問タイムのひとときであった。