ヒロアカロス半端ないって
「まだやってるのか?」
「ん?イレイザーか、どうした?」
B組が使用している施設にA組生徒たちを引き連れて相澤がやってくる。
「ウチのクラス、全員揃って今日の放課後は施設使ってトレーニングに勤しむらしくてな。」
「ほう、熱心なことだ。」
「だったらもう教室戻らずに、こっちでSHRをやってしまおうと思ってな。それで緑谷を呼びにきたんだが、」
相澤の視線の先には、互いにA.Tを履いて向き合う出久と物間がいた。
「お、緑谷の奴A.T履いてるじゃんか、熱いな!」
「相手は物間くんなんや。」
「先生、見てっても良いっスか?」
A組の生徒たちも、体育祭では見られなかった二人の直接対決に興味があるのか観戦を希望してきた。
「ブラド、構わないか?」
「無論だ。なんなら爆豪くん辺りに解説をお願いしたいぐらいだ。A.Tのことは専門外でな。」
了承を得たことで、A組生徒たちもB組生徒たちが集まっている場所に移動していく。
「おう、鉄哲!どうだった緑谷との模擬戦は!?」
「切島か。A.Tなしで瞬殺、気絶させられたよ。」
「ああ〜。まあ基本皆んなそうだよな。近距離戦闘のみに限ったら、A.Tありの緑谷の相手が出来んの、A組だって爆豪と麗日だけだしよ。」
「そうなのか?」
「A.T履かれると、そもそも初撃が避けられねぇし、開始位置によっては個性の発動すら間に合わねぇ。」
切島と鉄哲の会話に砂藤や尾白が加わり、
「この前、とうとう尾白が緑谷のA.Tの初撃を防いだんだがよ、ガードごと吹っ飛ばされてたよな。」
「ああ。だが、A.T込みとはいえ、スピード重視の一撃だったからな、反応できれば防ぐことはできたよ。その後、ボコボコにされたが。」
「A組も緑谷の相手に頑張ってんだな。」
先ほどまで、内心で凹んでいた鉄哲は自身に気合いを入れ直す。
「よっしゃ!凹でいる前に物間と緑谷の試合を見て、学ぶもの学んで自分の力にしてやる!」
「その意気だぜ鉄哲!」
熱血同士が盛り上がっていると、
「オイ、始まるぞ。切島、テメェもA.Tを本気で会得する気があんなら集中して見ておけ。」
勝己の言葉を聞き、切島だけでなくその場にいる全員が出久と物間に意識を集中させた。そして、
シャ。
物間の初撃である、高速の接近からの高速の蹴りを出久が上半身を逸らす事で回避する。
ゴン!
出久の反撃である拳を物間は両腕でガード、物間が後方に下がる。
一連の流れが、凄まじい速度で行われた。
ーーーーー
時は少し遡り、
「緑谷くん、なぜ僕との模擬戦を希望したんだい?」
「いや、高機動戦闘って慣れが大事ではなあるんだけど、同じ相手とばっかやってると、その相手のリズムに慣れ過ぎちゃう弊害があるだよね。」
「なるほど、爆豪くんに飽きてしまったから、僕を暇つぶしの相手にするというわけだね。」
「悪意あるよ、その言い方!」
「ははは。いや、正直に言えば高揚しているんだ。模擬戦とはいえ、君と真正面から競い合えるこの状況にね。」
実際、今の物間は満面の笑みであり、憧れの対象と競い合う瞬間を今か今かと待ち望んでいる状態である。
そんな会話をしていると、相澤やA組の生徒たちも施設にやって来る。周囲が盛り上がっているのを他所に、
「それじゃあ、先手はどうぞ。」
「では、遠慮なく。」
シャッ。
高速で接近した物間の上段蹴りが出久の顔面を襲う。しかし、出久は物間の動きを目で追い、上半身を逸らす事で回避する。
出久が反撃を行うが、物間のガードが間に合う。
ゴン!
鈍い音を響かせる拳が直撃し、物間の表情が曇り、体は宙に浮き、後方に戻される。
「グッ!(なんて拳だ。鉄哲に思いっきり殴られた時と感触がそっくりだ。それなのに、鉄の拳と同等のものが、段違いの速さで繰り出される。これが緑谷出久、凄い!)」
痛みはあるが問題、と腕の調子を一瞬で確認し、再度攻めようと前を見た物間の視界には、出久の足が迫っていた。
「やっっ、ば!」
ギリギリの所で回避に成功した物間は次に備える、
「(この後の、)」
出久は右脚を振り抜いた勢いのまま、
「(左が一番怖い!!)」
左後ろ蹴りを繰り出す!
ゴウ!!
「クゥッ!!(カスっただけなのに、脇腹が抉られたかと思った。)」
ーーーーー
「やっぱりやるな物間の奴。出久のあの連撃をギリギリで躱しきりやがった。」
「そういや爆豪が体育祭の決勝戦の最後に喰らったのもあれの亜種か。」
「そういうテメェも、見事に喰らっとったな。」
「あぁ、加減されていたにも関わらず、走馬灯が見える威力だったよ。」
「こんど本気の一撃喰らってみろ。臨死体験ができっぞ。」
「遠慮しとく。」
ーーーーー
「(まだだ!せっかく機会をもらったんだ、攻めろ攻めろ!!)」
痛む脇腹を無視し、物間が攻勢に出ようとする。ブラドに頼み込み、相澤に頼み込むことで入手した出久の屋内演習(流石にUSJでのヴィラン襲撃時の動画は許可が降りなかった)や体育祭での動画を研究し、真似、さらに自分のオリジナルへと落とし込むためのトレーニングを続けた成果を見せるため、蹴り技を連続で繰り出していく。
そして、物間の蹴りは、出久の腕や脚による防御、または迎撃によって阻まれるのだが、
「いや、おかしいしいだろ!いくら緑谷が化け物じみているとはいえ、A.Tで加速させた蹴りを、脚ならまだしも腕でなんで防げてるんだよ!?」
観戦していた鉄晢の叫びは、実際に戦闘をしている物間を除いたB組全員が抱いていた疑問だった。
「加速できてねぇからだよ。」
勝己の言葉にB組の生徒たちが視線を勝己に向けようとするが、
「あの二人から目ぇ逸らすな。集中して見てろ。」
すぐに戻す。
「出久のあの防御は、攻めの防御だ。」
「攻めの防御。」
個性に格闘技を掛け合わせて戦うスタイルである拳藤は物間の強烈な攻めを防ぎ続ける出久の動きを見逃さないよう、集中しつつ、勝己の言葉にも耳を傾ける。
「出久は相手の動き出しのタイミングを潰してくる。コッチの攻撃は、伸び切る前、加速し切る前に、防御を差し込まれ、本来の威力の数分の一まで落とされる。やってること自体はシンプルなんだが、それを自分へのダメージなしでやれるアイツの技量がバケモンなんだよ。」
勝己の解説中も、出久と物間の戦闘は続いている。気がついたら攻守が入れ替わっており、物間が防戦一方になっていた。
「(さっきの防御、それにこの攻め。なるほど、模擬戦になっていないわけか。)」
ギリッ。
物間が激しく歯軋りしたかと思えば、防御方法が変わっていく。相手の攻撃のタイミングに合わせて防御を差し込む、先ほどまで出久が行っていた攻めの防御を、今度は物間が実践していく。
「物間も負けてねぇ!もう緑谷の動きをコピーしやがった!」
「頑張れ、物間!」
B組の生徒たちが物間に声援を送る。出久の攻撃を防ぐことに成功しているにも関わらず、物間の表情は徐々に険しくなっていく。
「ブラドキング、出久になんか指示出したりしたんスか?」
「ん?ああ、授業の前に少しB組生徒に向けて挑発的なことをしてみてくれ、と。もしかしてあの攻め方は挑発なのか?」
「まあ、半分は指導みたいなモンだとは思うっスけど。(明らかに、次はコレ、次はコレ、出来ないの?ならコレで。みたいな感じで攻撃してんだよな出久の奴。)」
出久の要求に意地でも応えようとする物間ではあるが、限界が近づき、
「ッ!?ハァッ!」
出久の蹴りが迫る中、今までの攻めの防御では防ぎ切れないと感じたの物間は渾身の蹴りによる迎撃を選択した。
「(競り負けるだろうが、一旦距離が取れる瞬間を、)」
スカ、
「(って、え?)」
迎撃は空を切り、一瞬体勢が崩れる物間。そして目の前には背を向けている出久。
「(あの、構えは。)」
「シッ!」
出久の左後ろ蹴りが物間に突き刺さり、物間は腹部が消し飛ぶ自身を幻視し、意識を失うのであった。
ーーーーー
「僕の腹!?」
バッ、と起き上がった物間は先ず自分の腹部が存在しているかの確認を行った。
「(ある。良かった。)」
「おぉ!?起きたか物間。」
「ブラド先生。あれ、他の皆んなは?」
「せっかくだからな。A組のトレーニングに混ぜてもらっている。」
ブラドの視線を追うと、そこにはA組とB組の生徒がトレーニングごとで集まり、共に汗を流していた。
「・・・意外に仲良さげですね。」
「まあ、悪くなる理由はないからな。多くの者が緑谷や爆豪に追いつこうと必死なんだ。競い合うのも大事だが、手を取り合うことも、同様に大切だな。」
そんな会話をしていると、出久と勝己が近づいてきた。
「あ、物間くん!目が覚めたんだね。ゴメン、最後の一撃加減し切れなかった!」
「ほんとだわ。一瞬、物間に風穴が空いたかと思ったわ。」
「そんな大袈裟な。」
「(いや、消し飛んだかと思いました。)」
物間が内心で呟いていると、
「それで、どうだ物間?出久のあの動き、身に付けられそうか?」
「やっぱ指導だったんだ。さっきの模擬戦。」
「ん~、指導と挑発の半々かな。最初の左が避けられて、ちょっとムキになっちゃったのは否定できないけど。」
「ちょっとか?お前、かなり本気で攻めの防御やってただろ。前に尾白がようやっとお前の連撃躱した時、直後にあの防御で完封されて、ガチで凹んでたぞ。」
「あははは。反省します。」
申し訳なさそうな表情を見せる出久の様子に、物間はため息を吐き、
「まだまだ、壁は高いね。」
体育祭で良い試合が出来た、少しは自信が付いた。そう思ったその直後、準決勝、決勝の試合を観て、自信なんてものは完全に砕け散ったのであった。それでも、越えることを諦めたりはしない。なんとしても喰らい付いて、いつか追いつき、追い越してやる、と内心で思いながら、
「緑谷くん、爆豪くん。今後は定期的に一緒にトレーニングしても良いかい?」
言葉とは裏腹に挑戦的な表情をした物間に対して、
「もちろん!今後もよろしく、物間くん。」
「てか、もっと早く言えや。切島たちが使いもんになるまで、まだ時間がかかるからよ。A.Tで競い合える奴が必要なんだわ。出久や麗日だけじゃ飽きるからよ。」
「それ、緑谷くんも言ってたよ。」
「アァン?テメェも偉くなったもんだなぁ、出久。」
「たった今、自分が言ったセリフ思い出しなよ!?」
わー、わー、ぎゃー、ぎゃー、と言い争い始める二人を眺めながら、
「(いつか必ず、その高み。)」
物間寧人は決意を新たにするのであった。