進まない
「そういえば私たち、教え子だけどオールマイトの本名知らないよね。」
教室で雑談していた際に葉隠がそんなことを言う。
「相澤先生(イレイザーヘッド)は当然として、山田先生(プレゼントマイク)に、香山先生(ミッドナイト)、あれ?ブラドキングの本名なんだっけ?」
「ケロ、菅先生じゃなかったかしら?あと、13号は黒瀬先生っていうらしいわ。」
「本名オープンにしているヒーローばかりじゃねぇからな。エクトプラズムの本名とか誰も知らねぇし。」
芦戸や蛙吹に加え、意外にも轟が話題に参加し、
「確か八木じゃなかったか、オールマイトの苗字は。昔の雄英体育祭の映像で実況にそう呼ばれているのを観た記憶がある。」
「へー。流石飯田、博識だな。てかこの話題に一番食いつきそうな緑谷、ついでに爆豪、麗日はどこ行った?」
飯田が知識を披露し、峰田が出久たちがいないことに気がつくと、
「三人なら相澤先生に、例の導入された貸し出し用A.Tの試走を頼まれてたぞ。放課後のトレーニングは先に行っていてくれ、だそうだ。」
障子の言葉に、
「お、とうとう導入か。でも、個性の応用トレーニングとかと並行してA.Tを身に付けんのは至難の技だし、試してみるかは悩みどころだな。」
「瀬呂はまだ良いじゃんか、素で機動力があるんだからよ。俺も機動力は欲しいけどよぉ、切島の苦労を見ているとなかなか簡単に、やる、って決められねぇや。」
弱気なことを言っている上鳴に、
「難しいけど、少なくとも私らは最高レベルの指導者が付くんだから、やる気があるならやっといた方が良いんじゃない?まあ、アンタは電撃に指向性持たせる方法とかを考える方が先決かもしんないけどさ。」
耳郎の話とアドバイスを聞くも結論が出ず悩み続ける上鳴であった。
ーーーーー
「皆んなが今日トレーニングやっとる体育館って、こっちでええんやったっけ?」
「うん。そこでセメントスが簡単なコースを作ってくれるんだって。」
「切島たちも、初心者コース作ってもらって走らせりゃ良い練習になんだろ。さっさと行くぞ。」
雄英生徒用A.Tの試走を終わらせた出久たちがトレーニング施設まで移動していると、
「だーかーらー、俊典に会いに来た、と言っておるだろうが!」
「「俊典?」」
声がした方に視線を向けると、
「そう言われましても、彼は今外出中でして、今日中に戻るかも不明で。」
「じゃったら校内で待たせてもらう!根津校長に繋げ!」
「いや、ですから、私もこの後、生徒への指導が。」
今の時間、A組がトレーニングを行っている施設に居てくれているはずのセメントスが何故か校舎入り口近くにいた。
「セメントス、どうかしたんですか?A組のトレーニングは?」
「ああ、君たちか。いや、この方が、」
「おお、君は緑谷出久だな!」
セメントスに近づいた出久に、別の人物、黄色いマントが付いたヒーローコスチュームを身に纏った小柄な老人が話しかけてきた。
「俊典を探す手間が省けた!君に会いたいと思って今日は来たんだ!」
ズカズカと出久に近づく老人に出久は心当たりがない。
「あの、」
「すまなかったな若いの、迷惑をかけてしまって。ワシは彼と話がある。指導がどうとか言っとったろ。もう行って良いぞ。」
周囲を気にせず、どんどん話を進めていく老人。
「あの、その指導対象に僕も含まれてるんですが。」
「なに、そうなのか。まあ、積もる話もある。ここは老い先短いジジイの話を聞いてくれ。こっちじゃ、付いて来なさい。」
「えー。」
本当にどんどん話を進めていく老人である。既に移動を始めた老人から視線を外した出久は少し気まずそうにしながら、
「セメントス、あのお爺さんのお相手は僕がしますんで、先に行っていてください。」
「いや、しかし、」
「セメントス。あんた、今日は初心者用のコース作ってくれんだろ。切島たちが待っとるから、早よ行ってやってくれ。」
「ん〜、そうかい?では、すまないが任せるよ。」
出久たちの提案を受け入れ、セメントスは若干疲れた様子で他のA組生徒たちが待っている体育館に向かう。
「オイ、出久。あの爺さん、かなりデキっぞ。一応気をつけておけよ。」
「うん。でも現状、敵意も悪意も感じないから、とりあえず話は聞いてくるよ。」
「デクくんどうする?個性かけとく?」
「どちらかと言うと警戒重視で。」
「分かった。風探知広げとく。」
「おーい、何してる!早く来なさい!」
「はい!すぐ行きます!」
老人が離れた位置から出久を呼んでくる。
「それじゃあ、行ってくるね。」
「おう。」
「また、後で。」
出久が老人の元に小走りで向かっていくのを見届けながら、
「ねぇ、爆豪くん。確かに敵意や悪意は感じへんかったけど、」
「あぁ。出久を見つけた瞬間、闘志が出てた。すぐ隠した上、出久にだけ向けて、俺らは無視だったがよ。」
「あと、さっきの俊典、って名前。二人とも反応しとったけど、知っとるん?」
「確証はねぇし、そういう名前の教員や先輩が他にもいるかも知れねぇが、オールマイトの本名なんだよ、確か。俊典って。」
「え゛?」
ーーーーー
「すまんのう、こんな老人の相手をしてもらって。」
「いえ、それは構わないんですが、僕に会いたかったていうのは、なぜなんですか?後なんで茂みに入ってくんですか?」
「確かこの辺りが、おお!ここだ、ここだ。」
「(聞いてない。)」
出久はゲンナリしつつも警戒は解いていない。そして老人が出久を連れて来たのは雄英校内の森林にある、少し開けた場所だった。
「(敷地内にこんな場所がある事を知っている?)」
「ここはワシがアイツの担任をやっていた時、ボコる、んん。トレーニングの相手をするのに使った場所の一つだ。」
「その俊典という方は、オールマイトの事でよろしいんですか?」
「ん?決まっているだろう。なんだアイツ、ワシのこと話しとらんのか。君に職場体験で指名を出したのに音沙汰も無いからワザワザ足を運んだんじゃがな。お前さんもアイツの弟子なら、しっかりと言っておいてくれ。それじゃあ打って来なさいな、ワンフォーオール。体育祭を見た感じ、もう力の調整も出来とるんじゃろ?」
振り返り、戦闘体勢を取った老人であったが、出久の思考は混乱し、頭の上には複数の感嘆符、疑問符が立ち並んでいた。
「あ、ありがとうございます。指名してくださったんですね。って担任!!オールマイトの!!凄い、是非お話を!って弟子?僕が、誰の?それにワンフォーオール?」
「隠さんで良い。ワシは校長やリカバリーガールと同様に、ワンフォーオールの事情を知っとる。なんせ七代目継承者であり、俊典の師匠でもあった志村の友人であるんじゃからな。」
「・・・あの、」
「ん?」
「すみません、本当に心当たりが無いんですが。」
「は?」
「「・・・。」」
向かい合う二人の間に気不味い空気が流れる。
「お前さん、俊典の、オールマイトの後継者ではないのか?」
「そ、そんな!いつか、オールマイトのようなヒーローになりたいとは思っていますが、やっとスタートラインに立てたばかりで。平和の象徴の後継者だなんて、めっそうもない。」
「「・・・。」」
再び気不味い空気が流れ、
「ワンフォーオールも知らないと。」
「あ、言葉の意味は分かります。1人は皆んなの為に、ですよね。」
「「・・・。」」
老人は気不味そうに頭を掻きながら思考し、
「あー、すまん。色々勘違えをしとったらしい。」
「だと思います。」
ーーーーー
「あ、通じた。オールマイト、今大丈夫てすか?」
「ハハハ!大丈夫だとも、セメントス。丁度確保したヴィランを警察に引き渡していたところさ!」
本日、雄英での授業が無かったため、ヒーロー活動に勤しんでいたオールマイトの元にセメントスからの連絡が入る。
「お忙しい所すみません。いえ、先ほど貴方の知り合いだという方が雄英にいらっしゃいまして。貴方に繋げの一点張りで大変だったんですよ。」
「ほう、私の知り合い。因みに誰が来たんだい?(ナイトアイは無いだろうし、デヴィットはもちろんメリッサもIアイランドからはそう簡単に出られないだろうし、一体だれが、)」
「グラントリノという高齢のヒーローです。」
「・・・ワッツ?」
「ただ、緑谷くんを見かけたら、用があるのは彼だ、と言って、」
「ワッッッッッツ!!??」
「うわ、ビックリした。オールマイト、電話越しに叫ばないで、」
「セメントス!連絡ありがとう!直ぐに戻る!」
そう言い放ったオールマイトはすぐさま電話を切り雄英への移動を始めるであった。
「セメントス!ちょっとここの坂にもう少し傾斜を、ってどうしたんすか?」
用意されたコースを走っていた切島がスマホに向かって難しい顔をしているセメントスに話しかける。
「ああ、気になることがあって、オールマイトに電話したんだが、直ぐ戻る、と言って切られてしまって。」
「え?でも、オールマイト今日授業がないから他県まで足を運んでヒーロー活動する、って昨日言ってましたよ。」
「ね。かっ飛んで帰ってこないと良いけど。」
※警察署を出たら即亜音速移動開始予定。
「そういえば、爆豪くんと麗日さんは?姿が見えないけど。」
「緑谷が遅いんで見に行ってくるってさっき出て行きました〜。」
「なんか溜息吐いてましたよ。」
芦戸や耳郎がA.Tでコースを走りながら答える。
「ふむ。まあ、あの3人なら大丈夫だろう。さあ3人ともランを続けよう。」
忘れている方も多いだろうが、セメントスこと石山先生は、この作品ではA.T経験者なのである。その彼から今基礎指導を受けている3人の内心で、
「「「(普通だ。)」」」
若干失礼な事を考えているのであった。