「いやー、スマンかったのう。こちらの勘違いで、手間を取らせてしまったわい。」
戦闘体勢を解き、流石に申し訳なさそうにしながら出久に近づいていく老人ことグラントリノ。しかし、グラントリノは大きな失敗をしていた。
「僕がオールマイトの弟子だと勘違いした。烏滸がましいけど。それは可能性としてあり得る。でもさっき出てきた、後継者、という表現。それにワンフォーオール、力の調整、」
「お、おい。」
思考を重ねていく様子にストップをかけようとするグラントリノであったが、
「継承者。七代目継承者がオールマイトの師匠。なら八代目はオールマイト?ワンフォーオールが個性の名前だとしたら、僕に撃ってこい、って発言はつまり、継承されるのは個性そのもの?継承される個性!?」
出久はある結論に至ってしまう。
ボッウ!
ザッ!
高速で接近してきたグラントリノの攻撃を躱す出久。今度は完全に両者が戦闘体勢を取る。
「悪いな、若ぇの。完全にこっちのミスなのは分かっちゃいるが、その結論を出しちまったからには、少し拘束させてもらうぜ。(今の奇襲を余裕で躱すか。)」
出久は無言で履いていた靴からカバーを外すと、ウィールが現れる。
「(明さんが作ってくれた、A.T専用カバーのお陰で突発的な状況でも対応出来て助かる。)抵抗するのは?」
「元々お前さんの腕試しが目的だったからな、好きにしなさい。学生時代の俊典同様にボコってあげよう。」
「(ボコってたんだ。ん?オールマイトって雄英時代から伝説残すくらい凄かったよな。そのオールマイトをボコってた?ってことは!)」
ボッッウ!!
グラントリノがギアを上げる。先ほどとは質が違う動きによって、速さも力強さも跳ね上がった攻撃が出久を襲う。
「迎え撃つ!」
避けるでは無く迎撃を選択した出久は前進し、前蹴りを繰り出す。
ドッゴン!!
個性ジェットで加速したグラントリノの蹴りとA.Tで加速した出久の蹴りが激突し、空気を揺らす。
この激突を初手とし、次に2人が選んだのは、機動戦。
ーーーーー
「結局始まってもうたね。」
「チッ、しゃあねぇな。一応様子見にいくか。」
「あ、私も行く。皆んなはセメントスが見てくれとるし。」
体育館を出ていく勝己の後を付いていくお茶子。外に出てすぐに風探知を行い、林の方から出久と先ほどの老人の気配を感じ取る2人は、A.Tを使用して出久たちのもと向かうのであった。
ーーーーー
個性を使い、圧縮された空気を足裏から噴射し、縦横無尽に動き回るグラントリノ。
森林内にいるということもあり、炎は一旦使わず、A.Tによる高速移動でグラントリノの動き付いていく出久。
「ハッ!」
「良い動きじゃな!だが、まだ甘いわい!」
すれ違いざまに放たれた出久の右蹴りを、空中で回避したグラントリノ。そのまま鋭角的に軌道を変え、今度はグラントリノが飛び蹴りを放とうとするが、
「エアフォース!」
出久は追撃の風撃を蹴り出し、反撃を潰す。
「そういえば、持っとったのう炎無しの遠距離技!(ワンフォーオールの精度を見るために炎が使いづらい場所に連れてきた訳だが、普通に強いぞこの小僧。)」
出久の追撃も躱したグラントリノは木の枝に立ち一息付く。その息を吐いた瞬間を狙い、相手の背後を取る出久であったが、
「呼吸がカギの個性なんだ、戦闘中だろうが出来るように訓練してある。つまり、誘いじゃよ。」
オールマイトのニューハンプシャー・スマッシュのように、背中を向けたまま突撃してくるグラントリノに対し、出久は風のバリアを張ることで対応する。
「(応用が利き過ぎじゃろ、その風。移動補助に、遠距離、防御、それに探知にもか?)」
「スマッシュ!」
防御を解除した直後に放たれた出久の強烈な蹴りも危なげなく回避するグラントリノではあるが、出久は更に前に出ることで相手に余裕を持たせない動きしていく。
互いに枝を足場にしながら木々の間を飛び回り、パンチとキックの応酬を繰り広げていく。
「(本当にワンフォーオール無しでこの実力なら、十分に後継者候補じゃな。まだ、選んでる最中ってんなら、)」
グラントリノの眼付きが、気配が変わる。
「(変わった、来る!)」
瞬時に、今の風の防御だけでは防ぎ切れないと判断した出久は、両足のウィールをぶつけ合うことで火種を作り、風を操作することで空中で炎を解放する。
「(これに耐えれたなら、後継者に推薦でもするか。)」
ボッッッウ!!!
グラントリノは足裏から一気に空気を噴射し、超高速で出久に迫り、渾身の両足蹴りを繰り出す。
「(防御じゃダメだ、抜かれる。迎撃!!)ウィング・スマッシュ、フレイムソール!!」
ゴッッウ!!
炎の翼を両足から生やし、
「真っ向か、その意気良しじゃ!」
「スマッシュ!!」
ドッッッゴン!!!
両者本気の激突は、初手とは比べ物にならない衝撃を周囲に広げるのであった。
ーーーーー
「決着かな?」
邪魔にならない距離から出久とグラントリノの戦いを見守っていたお茶子は、隣で同様に観戦していた勝己に質問を投げかける。
「分からん。だが、あの爺さん結局本気は出してねぇし、ここらへんで切りにすんじゃっ!?」
「ッ!?あっち、何か来る!」
「なんか知らねぇが、(クソ速ぇ!)」
広げていた風探知に何かが引っかかったか、と思えば尋常ではない速さで、その何かは接近してきた。
普通にやっては間に合わないと感じた2人は阿吽の呼吸で準備を整える。お茶子がゼログラビティを即座に勝己に付与、勝己はクラスター・ターボを発動し、出久とグラントリノが戦闘を繰り広げている場所の上空へ一瞬で移動する。
勝己は急接近してくる何かを迎撃しようと構えるが、
「(この速さ、見てからじゃ間に合わねぇ。合わせるしかねぇ!)止まれや!!」
「え?」
「は?」
ボッッンーー!!
「ん?」
「へ?」
「わー。」
戦闘中だった出久とグラントリノは真上で発生した急な爆発を警戒し、互いに距離を取り、戦闘を中断する。
お茶子も、まさか勝己が接近してきた相手を問答無用で爆破するとは思わなかったのか、驚きと呆れが混ざった表情で上空を見上げた。
そして、戦闘を中断し距離を取っていた出久とグラントリノの間に勝己ともう1人が落下してくるのであった。
「わっ!カッちゃん、大丈夫?」
「爆豪くん、怪我あらへん?」
落下の最中に体勢を整え無事着地した勝己だったが、珍しくその顔色が悪い。出久は念のためグラントリノに注意を払いつつ、お茶子も勝己に付与したゼログラビティを解除しつつ、勝己に近寄っていく。
「本当に大丈夫、カッちゃん?」
「爆豪くん?」
「オールマイトだった。」
「「?」」
「今、俺が撃ち落としたの、オールマイトだった。」
「「・・・良し、逃げよう。」」
先ほどまでの戦闘を一切気にせず、逃亡を選択した出久、そしてお茶子であったが、
ガシ!
勝己が2人を逃すまい、と手を全力で掴む。
「離してカッちゃん!流石にオールマイトを撃墜とか停学通り越して退学すらあり得るよ!?」
「喧しい!お前が考え無しに戦闘してるとこに、何かが高速接近してきたら警戒すんに決まってんだろうが!」
「普通確認とかすんじゃん!」
「クソ速かったんだよ!!」
勝己の手を引き剥がそうと踠く出久だが、勝己は渾身の力で出久の手を握り、決して離そうとしない。
「わ、私は知らへんよ!爆豪くんが勝手に爆破しただけやし、私は悪くないし!」
「諦めやがれ、麗日!テメェも俺にゼログラビティをかけて援護してんだ、同罪だ同罪!」
「問答無用で爆破するなんて誰も思わへんやん!」
「だからクソ速かったんだよ、チクショウが!!」
焦ったお茶子が再度ゼログラビティを付与し、勝己ごと逃亡しようと試みるが、勝己がA.Tを逆走、絶妙な力加減でその場に止まるという、高等技術を無駄に発揮していた。
ワーワー、ギャーギャーと騒がしい若者たちの様子を、どうしたもんか、と眺めていたグラントリノの前に、
「グ、グラントリノ!一旦、落ち着いてください!か、彼、緑谷少年はワンフォーオールの継承者では、まだありません!有力な候補ではありますが、まだ結論を出せておらずって、あ。」
ブカブカのコスチュームを纏った、目の周りが窪み、まるで骸骨ような外見の男が現れた。グラントリノはため息を吐きながら、
「あー、とりあえず落ち着け俊典。ほれ、教え子たちが目をまん丸にしながらコッチ見とるぞ。」
「あ。」
「「「誰?」」」
ーーーーー
もう説明するしかない、ということでオールマイトから簡単にワンフォーオールという継承される個性について語られていく。その過程で、
「あ、グラントリノとおっしゃるんですね。」
「ヒーロー名すら知らんでバトってたんかい!?」
出久の天然に勝己のツッコミが入る。
「オールマイト、ダイエットのコツとか教えてもろても良いですが?」
「ダイエットの結果なわけねぇだろうが!マジでテメェら普段そうでもねぇくせに、こういう時ばっか天然かましてんじゃねぇ!!」
勝己のツッコミが連打される中、
「んじゃ、俊典よ。ワシとしては、この緑谷出久はワンフォーオール9代目継承者にしても良い、と思うが、お前さんはどう考えとる?」
「ん゛!やはり、グラントリノから見ても彼が有力でしょうか?」
「見どころは十分にあるじゃろ。実力は申し分ない、それどころかお前さんが雄英を卒業して、アメリカに向かったタイミングと比較しても劣っとらんぞ。」
「正直、私もそう思います。しかし、」
チラッと勝己、そしてお茶子の方に視線向けると、
「今、緑谷少年たちは互いを認め合い、高め合うことができる環境にあります。そしてワンフォーオールの力は知っての通り絶大です。絶大過ぎると言っても良い。ならば、継承を急ぐのではなく、彼らの成長を待ってから、」
「あのー。」
恐る恐るといった様子で、出久が小さく挙手しながら、
「評価していただけるのは嬉しいですし、オールマイトやグラントリノに認めていただいているのは光栄なんですが、」
「「ん?」」
「僕、というか、僕らとしては、その、引き継ぐ的なものは、実はもうお腹一杯でして。」
出久の発言を聞き、勝己とお茶子も腕を組みながらウンウンと頷く。
「僕は、A.Tと今の僕の力で最高のヒーローを目指したいと思っています。」
「ウチも。自分の個性を信じてやっていきたいと思います。」
「てか、その継承ってのをやっちまったら、アンタ自身はどうなんだよ?そのワンフォーオールって個性は残るんか?」
「継承してから暫くは大丈夫だろう。お師匠も残り火という形で力を使えていた。だが、どれくらい持つかは正確には分からないかな。」
「んじゃ論外だな。」
勝己はオールマイト、そしてグラントリノを睨みながら、
「年寄りの爺さんには申し訳ねぇんだがよ。俺らはオールマイトを超える、最強最高のヒーローになる。だから、俺らがアンタを超えるそん日まで、現役でいてもらわんと困んだよ。」
不遜としか言いようがない言葉ではあるが、勝己、そして出久とお茶子も真剣な表情でオールマイトたちを見つめる。
「どうか、これからの3年間、私らをを見守ってもらえへんでしょうか?」
「オールマイトたちを安心させられるようなヒーロになってみせます。」
「君たち。」
出久たちの言葉を聞き、オールマイトはグラントリノに対して正座の姿勢をとり話しかける。
「グラントリノ、私は彼らの言う通りにしようと思います。」
「俊典、お前さんも分かってんだろ。ここ最近、裏が騒がしい。この流れ、奴が生きていて、活動を再開した可能性がある。」
「それは重々承知しています。ですが、実はエンデヴァーにも言われたのですが、我々のやり残しを、次の世代に背負わせるべきではない、と。」
決意が込められたオールマイトの言葉を聞き
「・・・お前さんがそこまで覚悟を決めてんのなら、これ以上ワシがどうこう言うことはないわい。」
ヨッ、と立ち上がったグラントリノは、
「お前さんたちの実力も大体分かったから良かったが、今回は迷惑をかけてしまって、すまんかったのう。特に緑谷、今後は定期的に雄英に顔出させてもらおうと思っとるから、たまに相手してやるわい。」
「そん時は、俺の相手も頼んます。アンタの動きは勉強になる。」
「さて、それじゃあ時間も時間だ。3人は下校の準備をしに教室に戻りなさい。面倒なことは私の方でやっておくからね。職場体験も近いんだ、無理は禁物だからね。」
ーーーーー
教室に戻っていく(切島たちには連絡済)出久たちを見送りながらグラントリノは自身の考えを教え子に伝える。
「お前が悩むのも分かるわい。あの爆豪って奴も異常に優秀じゃしの。じゃが、継承してから丁寧に導いてやるのも大切じゃぞ。理想的な状況で継承できるとは限らんからの。」
かつて7代目継承者であり、友人であった志村から聞いた6代目からワンフォーオールを引き継いだ状況。そして、その志村との別れを思い出す。オールマイトも同じことを思い出していたのか、
「承知しております。」
険しい表情をしながら、返事をするのであった。
ーーーーー
職場体験初日
「結局、飯田くんはお兄さんの事務所ではない所にしたんだね。」
「ああ。兄に職場体験先を相談したんだが、インターンならまだしも、職場体験は身内以外の事務所に行くべきだ、と言われてね。そしたらノーマルヒーローマニュアルを薦められたよ。」
「確かに、現代ヒーローの基本を学ぶならベストなチョイスかもしれない。」
「俺、身内の事務所だ。」
「と、轟さんの場合はある意味仕方ないのでは。」
「麗日も凄いよ、あのリューキュウ事務所から指名があったんだからさ。」
「うん!せっかくビルドチャート上位から指名が入ったんや、学べるもんを全力で学んでくる!」
「常闇もナンバースリーヒーロー、ホークスの事務所だろう。正直羨ましいな。」
「(ウンウンウン。)」
「皆に学んだことを共有できるよう、励んでくる。」
出発前に盛り上がっているA組生徒たち。
「それじゃあ全員、失礼のないようにな。」
相澤の号令の下、生徒たちは改札に入り、それぞれの目的地行きの電車に乗り込んでいく。
「俺らも行くか。」
「うん。いざエンデヴァー事務所へ!」