遅くなりました。
雄英高校ヒーロー科1年A組教室
「よう皆んな、一週間ぶり!」
登校した切島が職場体験前よりも一層気合いの入った声でクラスメイトたちに挨拶する。
「おう、切島。どうだったよ職場体験は?」
「んー、地味ではあった。けど、なんつーか日々のパトロールとかボランティア活動、それに事務的な仕事とか、頭じゃ分かってたヒーローの泥臭い部分を体験できて、スゲェ勉強になった気がするわ。」
「それな!スッゲェ分かる。パトロールもシフトとか近場のヒーローとの連携とか細かく決まっててよ。」
「ヒーローは職業なんだ、って改めて実感させられたわ。」
瀬呂や上鳴が切島の意見に同意する。
職場体験に雄英高校側か求めたこと、ヒーローとは華やかなだけではない、仕事として、大人として、全うしなければならない役割、業務があることを知らしめること。
それを、ヒーロー科生徒たちは1週間というわずかな時間ではあったが直に学んだのである。加えて、
「俺は人混みの中でパトロールを行う経験を得られただけで、索敵や観察の難しさを改めて実感することができたな。」
「ウチも。街中で音とか聞こうとしても訓練と全然違ったよね。あ、でも口田は活躍してたよね。」
「あれ?耳郎と口田、事務所違ったよね?」
「管轄が近くてパトロール中に見かけてさ。迷子のペット探させたら口田は最強だね。」
「(テレテレ)」
今の自分に不足していること、今の自分にできることを、実際の現場でプロヒーローの側で実感できるのも職場体験の利点である。
「ヤオモモはCM撮影したって本当?」
「あ、あれが職場体験中の活動として相応しいかは分かりません。ただ、そういった活動がある中、パトロールや事件事故の対応は抜かりないのは流石プロヒーローでしたわ。」
「ケロッ、お茶子ちゃんもネットで話題になってたわね。リューキュウ事務所に新たな美人サイドキックが加入か?って。」
「あ、あれはリューキュウや先輩が美人だからで。」
「えー、麗日もじゃん。ネット上がったてA.T使いながら街の空を駆ける麗日すっごい綺麗だよ、ほら。」
「み、見せんでええて〜。」
芦戸にSNSの写真を見せられ、赤面するお茶子。
ある意味でメディア対応も重要である。
「実際、事件事故の解決にガッツリ関わった、ってヤツどれくらいいるよ?」
瀬呂がクラスを見回すと、
「喧嘩がヒートアップして個性使って暴れてた人たちを止めた、は事件になるのか?」
と尾白。
「スリを捕まえはしたな。」
と障子。
「ケロッ、私は密航者を捕まえたわね。」
「「「「「梅雨ちゃんスゲェ!」」」」」
「まあ職場体験だ。普通はそんなもんだよな、コイツら以外は。」
切島が教室のある場所に視線を向けると、他の生徒たちも同じく視線を向けた。
視線の先では出久、勝己、焦凍、そして天哉が集まって話をしていた。
「有名になるヒーローは学生の内から逸話を残す、てよく聞くけどよ。飯田、お前もそっち側だったのかよ。」
峰田が集まっている四人の強者オーラに慄いていると、
「だけどよ、ヒーロー殺しに、例の脳無と遭遇、とか緑谷あたりがまた無茶してそうだけどよ、大怪我とかは無かったてことで良いんだよな?」
見たところ四人とも大怪我を負った様子がないことに安堵の表情を見せる砂藤。
出久の腹に穴が空いたことを伝えたら収拾がつかなくなりそうだな、と感じた四人は口を紡ぎ、お茶子は鋭いとも言える笑顔を出久に向けていた。
「しかも爆豪なんて東京の中心から保須市までかっ飛んでったんだろ?相変わらずヤベェな。」
上鳴も続く。
「・・・なんで知ってんだよ。」
「いや、あんだけ爆発連発しながら東京のど真ん中から端まで飛んだら話題になるに決まってんじゃん。」
耳郎の指摘に、確かに、と納得する勝己。
そもそもニュースになっていないのは、ベストジーニストとエンデヴァー、加えて雄英が手を回したからである。
しかし、SNSまでは手が回らず、世間には知れ渡っていたりする。
「いや、カッちゃんの行動は僕に原因があって。」
出久がフォローを入れようとするが、
「そう、それ!」
瀬呂が出久を指差す。
「爆豪がかっ飛んでいって、そこに緑谷がいた。つまり緑谷が呼んだってことだろ?」
「え!?あ、うん。そうだけど。」
USJでは対オールマイト用の怪人を抑え、実質撃退した出久と勝己のコンビ。
個人の戦力に関しても出久は雄英体育祭の覇者である。そんな出久が勝己を、救援を呼んだのである。
「現場にはエンデヴァーや轟たちもいたのに、あの緑谷が援軍を呼ぶとか、お前らどんな化け物と戦ったんだ?」
天哉と焦凍は少し気まずそうな顔になり、
「すまない。俺はその場にはいなかったんだ。だがあの尋常ならざる圧、あれは普通ではなかった。」
「(飯田くんの一人称が、俺、で落ち着いとる。)」
「俺は後ろから少し見た程度だ。なんならエンデヴァーに庇われて、足引っ張っただけだったし。それに、」
「いやいや、そんなことないよ焦凍くん。えっと、ごめん瀬呂くん。今回の件、守秘義務があって詳細は話せないんだ。」
個性を奪い、与える個性が表沙汰になれば社会がどれほど混乱するか分からない。そのため、箝口令が敷かれたのである。
「まぁ。世の中にはまだまだ強ぇ奴らがいる、って認識をしっかりもっとけ。」
勝己が話を閉めた所でチャイムが鳴り、HRが始まった。
ーーーーー
その日のヒーロー基礎学では、救助レースが実施された。
出久、勝己、お茶子がブッチギリの結果を出したことは当然として、意外だったのは、
「お、飯田が瀬呂に勝った。」
「工場地帯だと瀬呂の個性がうってつけだと思ったけど、飯田が予想以上に柔軟に対応したな。」
「職場体験中に街中を爆走し続けたからね、より細かい走法ができるようになったんだ。それが最高速度を維持しながら走るの技術に活かせているんだ。」
「くー、悔しいぜ!」
「あと芦戸も。とうとうA.T解禁したんだな。」
「まだ訓練中だけだけどねー。一応、全身に酸性を下げた膜を張れるようになったから最悪落ちても大丈夫。」
「自分で防御できることが必須なのか。なんか走ってるって感じより、ステップ踏んでるみたいだったもんな。結局、尾白にも負けてビリだったわけだけど。」
上鳴から順位を指摘され、
「むきーー!私よりも中間の結果下のくせに!」
「今学力関係なくない!?」
「耳郎ちゃんも授業じゃA.Tデビューだよね。」
葉隠が同じくA.Tの訓練を積んでいる耳郎の足元を確認しながら話を振る。
「うん、この後のレースでね。ただ、私の場合、二人ほど自前の防御に自信がないから、高い場所とか走る時は注意しないと危ないけどね。」
「確かに、芦戸さんと切島さんのお二人は、自身の個性で防御出来ますものね。」
「私もA.Tと個性を掛け合わせて、緊急用の対策ができそうなんだけど。まぁ、今後のお楽しみかな。」
そんな会話の後、全員がスクリーンに視線を向けると、
「んで切島だが。・・・アイツはダンプカーか?」
『おりゃぁー!根性!!』
『切島少年!破壊は最小限、って言ったでしょ!』
画面には工場地帯の障害物を吹き飛ばしながら前進する切島が映っていた。
「あいつジャンプがまだ下手でねー。また訓練付き合ってやるかな。」
楽しそうに語る芦戸。
「貴様ら、もう付き合ってんだろ。」
周囲に聞こえない声で呪力が込められたような声を出す峰田であった。
ついでに、まだ付き合ってはいません。
「でもよう、機動力不足だった二人がタイムだけみれば、普通に良い結果出してんのな。」
上鳴の指摘は正しく、機動力に自信がある生徒たちを除けば、芦戸と切島は割と上位の位置に付いている。
「夏休みにA.Tを練習できる環境整えてくれるらしいから、気になる人はとりあえずレンタルでやってみれば?」
「ん~、やってみっかな。」
A組の生徒たちの中から新たなA.Tライダーが生まれるのも近いかもしれない。
ーーーーー
放課後、
「すまないね、呼び出してしまって。」
「いえ。僕らとしても詳しいお話が聞けるのであれば、聞きたいと思っていたので。」
「あのクソ金玉頭、アイツのことで分かっていることがあれば洗いざらい教えてくれや、オールマイト。」
「爆豪少年、丁寧に話す努力はしてくれ。」
応接室にて、オールマイトと出久、勝己が向き合って座っている。
するとオールマイトは感慨深い表情となり、
「一年前、あのヘドロヴィランを退治した二人の少年と今、こうして向き合うとはね。あの時、いつか君らのような若者にワンフォーオールを引き継げれば、と、」
「それだ。」
ビシッ、とオールマイトに人差し指突きつける勝己。
「カッちゃん、マナー悪いよ。」
「うるせぇよ。個性を引き継がせるワンフォーオールと個性を複数持ち、与え、奪うあの金玉頭、なんか関係あんだろ。」
指を戻し、早よ話せ、とズイッと体を前に出し、話を促す勝己。
「うむ。まず、奴のヴィラン名はオールフォーワンという。」
「オールフォーワン、皆んなは一人のために。」
「やっぱその名が出てくんのか。出久、あいつらは、」
「うん。改めて考えると、なんでA.Tだったのかよく分かる。個性に頼らない、もしくは奪われても戦えることが大事だったんだ。」
「何か気になることでも?」
「こっちの話だ。でもよ、オールフォーワンとワンフォーオール、関係がないって方が変な話だよな。」
「その通り。」
そしてオールマイトから語られる、ワンフォーオール、オールフォーワンの真実。
話を聞き終わった勝己と出久は得心が言ったという表情で頷いていた。
「個性が発生し始めた時代に、個性を奪い、与える個性たぁ、裏社会支配すんのに随分と都合が良かっただろうな。」
「それに無個性だと思われていた弟。僕が同一視されてたのってまさか、」
「十中八九、初代だろうね。」
「はっ、上等じゃねぇか。超人社会から生まれたバケモン、オールフォーワン。そいつが俺らを狙ってくんなら返り討ちにしてやんよ。」
「相手の手札は把握しきれませんが、相手の呼吸なんかは覚えました。次、再戦する時はもうあんなヘマはしません。」
穴を空けられた箇所を摩りながら、出久も勝己に続く。
「ハッハッハッハ、あの自称魔王も君たちの前では霞んでしまうな。実に頼もしい。ああ、やってやろうとも。」
ーーーーー
「ところで君ら、夏休み空いてる?I・エキスポとか興味ない?私の方でチケット数枚は手に入るから、今回の事件のお詫びに一緒にどうだい?麗日少女と発目少女も連れて。」
「I・エキスポですか。ご一緒したいできるのは光栄なんですが、チケットは僕ら自前のがありまして。」
「おい、俺を入れんな。」
「体育祭優勝の景品でI・エキスポへの特別チケットをペアで頂きまして、」
「おい、出久。」
「あと、明ちゃんもシレッと行われていたサポート科のコンペで、当然のごとく一位とりまして。同じくI・エキスポへの特別チケットを獲得したんで、4人で行くことになってるんです。」
「だから、俺は参加しねぇって、」
「保護者の許可も取ってます。どうしましょう、現地で合流したりしますか?」
「だから、」
ガシ、
「カッちゃん、I・エキスポだよ?技術の祭典だよ?そこに明ちゃんを放つんだよ?絶対にトラブル起きるんだよ?そこに僕とお茶子さんだけで行かせるの?カッちゃん、いつからそんな無責任になったのさ?僕ら仲間だよね、そうだよね?それに、I・エキスポだよ?技術の祭典だよ?A.T関連の技術も絶対あるよ?そんな所に明ちゃんが行くんだよ?本当だったら知り合いの協力してくれる人、全員連れていきたいくらいだよ、それでも足りる?足りないよね?そんな場所にお茶子さんと僕だけで行かせてみなよ、カッちゃん絶対に後悔するよ?一緒に行っていた方が、まだ対応すべきトラブルを小さく収めてれたって。良いのそれで?良いのカッちゃん?」
「分かった、行く!行くから、その呪詛みていな、脅迫なのか懇願なのか分かんねぇトークやめろや!」
「あ、じゃぁ私専用機出してもらうから、それに乗ってく?」
「「専用機!?」」
ーーーーー
「お前ら、実技も大事だが筆記試験の対策もちゃんとやっておけよ。」
と相澤が実技の訓練ばかりに意識がいっている生徒たちに注意を促す。
「期末試験が迫ってきた!!」
「ぜんぜん勉強してねぇ!」
近づく試験に慄いている上鳴(中間テスト20位)、瀬呂(中間テスト17位)。
ちょっと余裕そうな芦戸(中間テスト19位)、切島(中間テスト15位)。
「なんでお前さんたち、そんな余裕そうなの?」
「いや、余裕があるわけじゃねぇけどよ。」
「A.Tの練習のせいで勉強に遅れが出たらいけないって、緑谷(中間テスト4位)、と爆豪(中間テスト3位)が合間を見て勉強教えてくれてさ、前ほど苦戦はしないかなー、って。」
「はぁ!?そんな特典まで付いてんのかよA.T練習、至れり尽くせりじゃん!」
「え?やりたい?緑谷の延々と行われる基礎練習と爆豪の鬼キツ応用練習を繰り返した後に待つ勉強会。巻き込んでやろうか?」
「本当にありがたいんだけどよ、内容が鬼すぎんだよな。」
「なんなら、その基礎練習と応用練習を私ら以上にやりながら、模擬戦までやってる緑谷、爆豪、ついでに麗日の3人が化け物過ぎんのよ。」
A.T訓練を続けている、芦戸、切島、耳郎の3人は日々の訓練を思い出しながら、死にかけの目をしていた。
「ま、まぁ、その甲斐あってA.Tを使っての戦闘もだいぶ様になってきたし、良いんじゃない?」
「おう!期末の実技が楽しみだぜ!」
「でも、学習面はまだまだ不安だから、」
キョロキョロ、と目当てのクラスメイトを探しだし芦戸が飛びつく。
「ヤオモモ〜!勉強教えて〜!」
「キャッ!」
勉強会開催決定。
ーーーーー
期末試験、そして夏休みが迫っている。