ヴィラン連合アジト
「死柄木さん。連れてきましたよ、期待の新人。」
自信あり気にそう告げるのは、裏社会の大物ブローカーである義爛。死柄木たちのアジトにヴィラン連合に加わるのにに相応しい人財を紹介しに来たとのことだが、
「やっほー。弔くん、スピナーくん、お久しぶりです。」
一人目はセーラ服を着た少女であった。
「なんだ、トガか。」
「まあ、実力のある新人、って触れ込みに間違いがないのは確かだ。義爛、アンタのブローカーとしての目が確かなのは理解したよ。」
知った顔の登場にスピナーは呆れるが、死柄木はトガのように見た目では分からない実力者を連れてきた義爛を信用に値すると認めた。
「おや、知り合いだったのかい。コイツは失礼した。」
予想外の反応に驚いた義爛。
「すみません義爛さん、黙っていて。」
その様子に申し訳ないことをしたか、と謝罪するトガだったが、そこは義爛が大人の対応を見せる。
「いやいや。そういった情報を把握しておくのもブローカーの仕事さ、仕方がない。」
「死柄木弔、どういった知り合いで?」
把握していない死柄木の交友関係だったのか黒霧が確認を入れると、死柄木はなんてことない、といった様子で、
「以前ゴロツキどもをぶっ潰してる最中に、絡まれてるコイツに遭遇してな。まあ、色々あってA.Tとキーについて話したら自分も使いたい、って言うもんだから、」
「使わせた、と?」
「俺への相談は無し、でな。」
ハァー、と死柄木の保護者コンビが同時にため息を吐く。
「なんだよ。スピナーだって、その後コイツのA.Tの調達に協力したんだから同罪だろ。」
「その節はありがとうございました、スピナーくん。」
ペコリと頭を下げるトガ。
「まあ、例のキーってのを使ってんなら、実力は十分だろ。他は?」
ここまで黙っていた荼毘が、他の人材の紹介を促した。
「おう、俺の名はトゥワイス!よろしくな!」『テメェらと仲良くする気はないけどな!』
現れたのは全身タイツの男。見た目もそうだが、言動も珍妙なことになっている男に若干荼毘がイラついてしまう。
「あぁ?」
「ああ、すまん。コイツ、個性とトラウマの影響で解離性同一症、二重人格みたいなもんを発症させていてな。実力は保証するし、良いやつだから、よろしく頼むよ。」
両手を合わせながら、そんなことを言う義爛。スピナーと荼毘が胡散臭そうな顔になっていき、
「凄腕のブローカー、って話だったけど、本当に大丈夫か?実力はあるけどヤバいやつ連発してんだけど。」
「義爛、あんたの伝手ならもっとちゃんとした奴を連れてこれただろ。なんでそんな変化球みたいのばっか連れてくんだよ。」
そう、不満を漏らすが、
「あれ?実力は必要だが、癖が強い方が死柄木さんに合うだろう、って黒霧さんから言われてたんで、苦労して集めた面々なんですが、」
その場にいる全員が一斉に黒霧を見る。黒霧は、
「相性良さそうですよ、皆さん。」
自信を持って、そう告げてくる。
「「「(悔しいが、否定できねぇ。)」」」
「仲良くやれそう、楽しみです。」
「確かに楽しそうだな。」『まじつまんね。』
「あの〜。」
そろー、と手を上げる仮面を付けた人物がトガとトゥワイスの後ろから現れ、
「そろそろ俺も自己紹介しても良い?俺は、」
「「「何やってんだよミスタ?コソ泥は引退したのか。」」」
「ちくしょう、やっぱ来るんじゃなかった!もう帰る!」
死柄木、スピナー、荼毘の3人から同時にツッコミを入れられた人物、ミスタことMr.コンプレスはあんまりな対応に耐えきれず、回れ右で帰ろうとする。
「ウソウソ、冗談だよミスタ。」
「そうだぜ。一緒に悪徳企業から金巻き上げた仲じゃねぇか。」
死柄木と荼毘が両側から肩を組み、逃亡を阻む。
「あの人もお知り合いですか?」
「この組織、金がないわけはないはずなんだが、俺らが自由にできる分が少なくてな。後ろ暗い連中から巻き上げようと乗り込んだら、ミスタがいたんだ。」
スピナーが過去の情景を思い浮かべながらトガたちに説明していると、
「格好つけて、『悪いね。』とか言いながら逃亡しようとしたもんだからよ、3人がかりで1時間ほど追いかけ回してやったんだ。」
「あの時のミスタは人間の限界に挑戦してたね。」
「当たり前だ!崩壊、蒼炎、斬撃だぞ!?捕まったらアウト、というか一発もらったら即死だったんだぞ!?」
あのオールマイトに、勝てないかもしれない、と言わしめた3人。その3人に1時間も追いかけ回されたMr.コンプレスの恐怖はいかほどのものだったであろうか。
「まあ、その後なぜか何回か一緒に仕事する仲になってな。なかなかに楽しかったぜ。ミスタが立てた作戦で、何度か悪徳企業やヤクザ事務所から金を巻き上げたんだが、なぜかツルむのを一度辞めちまってよ。多分荼毘のせいだな。」
「リーダー、アンタのせいだろ。ミスタ、何度かまた一緒にやろうぜって誘ったことあったろ。なんで改まってブローカー経由で参加しようとしてんだ?」
「ツルむの辞めたのはお前らが全然、俺の言うこと聞かなかったからだよ!なんで潜入作戦考えたのに100%戦闘になんだよ!ブローカー経由なのは・・・。」
一度言葉を濁したMr.コンプレスは顔を逸らしながら、
「一度離れておいてやっぱ入れて、が恥ずかしかったから。」
仮面で見えないが、おそらく口を窄めて言ったであろうセリフに、全員が温かい視線を向けるのであった。
「ミスタさん、オジサンなのにかぁいいですね。」
「良いな、仲間感があって。俺とも仲良くしてくれよ、ミスタ!」『テメェとは絶交だ!』
「やめてお嬢さんに全身タイツ。オジサンなのは自覚あるけど、今その発言はメッチャ心にくる。」
集まって数分でこの空気、凄腕ブローカーの目は確かであったと証明された。類は友を呼ぶ、である。
「ところで義爛。事前の話では他にも連れてくる予定の面々がいたはずですが。」
「とりあえずこの3人は聞いていた死柄木さんたちの雰囲気に合うと確信してたんでね、今日連れてきたんだ。残りの面々は後日紹介しようと思ったら、」
義爛が説明を続けようとしたところで、部屋のモニターが勝手に起動し、音声だけが流れて始めた。
「すまないね弔。残りの面々に関しては僕に譲ってもらえないだろうか?」
オールフォーワンのお願い、というなの命令が飛ぶ。
死柄木は義爛へと視線を向け、
「義爛、アンタの意見を聞きたい。その残りの面々で俺らと上手くやれそうな奴は他にいたか?」
「あ、えっとそうですね。」
義爛がチラチラとモニターを気にしている様子だったためか、死柄木は一度大きなため息を吐いた上で改めて義爛に、先ほどよりも真剣な視線を向け、話しかけた。
「先生を気にする必要はないよ、義爛。アンタの中では情報不足は恥じるとこかもしれない。だがよ、顔見知りってことを知らずに、トガとミスタを連れてきたアンタの見る目を、俺は信用した。トゥワイスも面白そうな奴だしな。」
「お、ありがとよ!」『いらねぇよ、そんな評価!』
「だから義爛、アンタの素直な意見をまず聞かしてくれ。」
死柄木の飾らない言葉を聞き、義爛も裏社会で名の知れたブローカーとしてのプライドが戻ったのか、
「残りの3人は所謂ネームドと呼ばれているヴィランたち。死柄木さんとの相性よりも実力重視で選んでいます。ただ、性格的にも死柄木さんと合うんじゃないか、という者が一人います。」
「なるほどな。先生、その1人と会ってから決めさせて、」
駄目だ
たった一言、しかもモニターから響いた声、それだけでアジト内は死を予感させるような圧に支配された。
「ヒッ、」
「オイ!誰か知らんが怒ってんぞ!」『和やかな声だな。』
「チョ、ヤバイだろ!」
新参の3人はその圧に慌て、取り乱す。
「死柄木弔!謝ざ、」
オイ
こちらも一言。言葉と同時に死柄木本人からモニターに向かって圧が放たれた。同時にアジト内に満ちていた圧が弱まる。
「先生よぉ、どうした。アンタは常に余裕を持った、この世界の黒幕だろ?それが、教え子から教材を取り上げたり、プレッシャーかけたりと。らしくないぜ?」
荼毘とスピナーは様子見の姿勢を崩していないが、いつでも臨戦態勢をとる準備を整えている。特に荼毘は黒霧から目を離しておらず、不審な行動をすれば瞬時に焼く気である。
黒霧自身も疑われることを理解しているのか、荼毘の対応を甘んじて受け入れている。
「・・・確かに。すまないね弔、少し大人気がなかった。ではどうだろうか?代わりにそちらのトゥワイスくんを貸して、」
「やっぱボケが来たのかい先生?さっきまでの会話、聞いてたんなら分かるだろ。俺はトゥワイスを仲間にすると決めた。その仲間を、この状況でアンタに貸す?ありえねぇだろ。」
不遜な態度と決して譲る気はないという強い意思のもと、死柄木弔はオールフォーワンを拒絶する。
一触即発の空気が流れるが、
「弔。」
「なんだよ、先生。」
「義爛への紹介料の支払い、誰持ちか知っているかい?」
「よし義爛。会ってもいない奴は諦める、先生に紹介するのは何人だ?」
「え?あ、あぁ、3人だ。」
「よし、じゃあ丁度、3人ずつだな。先生もそれで良いか?」
「ああ、それで問題ないよ。急に割り込んですまなかったね弔、それに新たに加わったメンバーも含めたヴィラン連合の諸君。では黒霧、義爛くんとの打ち合わせ、よろしく頼むよ。じゃあね。」
モニターの電源が落ちると同時に死柄木が近くのソファに座り込む。
「な、なんか殺伐としてたけどよ、最後はギャグで閉めた、ってことで良いのかな?」
「結局金か?」『金は大事だな!』
「弔くん?」
圧が消え、楽になったからか3人が一斉に喋り始めるが、死柄木は何かを考え込んでいるのか反応を返さない。
「義爛、すみませんでした。内輪揉めに巻き込んでしまって。」
「ハハハ。そちらの先生の噂は聞いていましたが、声だけであのプレッシャーとは、いやはや恐れ入りました。」
黒霧がフラついている義爛を支え椅子に座らせる。しかし、荼毘は黒霧に対する警戒を緩めておらず、スピナーも臨戦態勢のままである。
「死柄木、どうする?」
「スピナー、悪いが周囲の警戒を目視でも頼む。」
「襲撃の可能性が?」
「万が一に備えて、程度だ。風探知も展開してあるが、これは先生も把握している力だ。抜け道くらい見つけている可能性がある。」
「了解。その万が一、があった場合は例の場所だな?」
「ああ。3人とも、悪いが本当に襲撃があった場合は各々で動いてくれ。」
死柄木の指示を了承したスピナーがアジトを出ていく。
「弔くん、私も風探知できますが、お手伝いしますか?」
「いや、トガは万が一の時の自衛に備えておけ。トゥワイス、襲撃があるとすれば狙いはアンタの可能性が高い。個性を聞いておいても、」
「リーダー、その前に確認だ。」
荼毘は黒霧から視線を外さないまま、死柄木の指示を遮る。死柄木も荼毘の言いたいことを察したのか、真剣な顔で頷く。
「そっちも感じたことだと思うが、先生からの圧の質が変わった。」
「ああ、俺も同意見だ。以前までも並の気配じゃなかったが、リーダーが言うように、質が変わった。まるで今まで感じていた圧が中身がスカスカで今は、」
「中身が入った。」
死柄木が先ほど放たれたオールフォーワンの圧と自分の圧が衝突した瞬間を思い出す。
「そんな感じだった。」
たかだかモニターから放たれた圧と、自分の圧が拮抗した瞬間を。
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どこかの病院の地下
「さぁて、忙しくなるぞ。」
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次の戦いが迫っている。
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ついでに、この後は特になにも事件はありませんでした。